10人未満の会社に就業規則は義務?法律上の位置づけ

法律上の義務と実態

「常時10人以上の労働者を使用する事業場」では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が法律で義務付けられています。これは正社員だけでなく、パートやアルバイトを含む事業所全体の労働者数で判断されます。
しかし、あなたの会社が10人未満の場合、法律上の就業規則作成義務はありません。
このため、作成しなくても法的に罰則を受けることはありませんが、実は作成するメリットは非常に大きいのです。

「常時10人以上」の判断基準

「常時10人以上」とは、一時的な人数の増減ではなく、通常の状態として10人以上の労働者がいるかどうかで判断されます。
ここでいう「労働者」には、正社員はもちろん、パートタイマー、アルバイトなど、雇用形態に関わらずすべての従業員が含まれます。
例えば、正社員が5人でパートタイマーが5人の場合、合計で10人となるため、就業規則の作成義務が生じます。

労働基準法との関係性

就業規則がなくても、労働基準法はすべての労働者に適用されます。つまり、労働時間、休憩、休日、賃金、有給休暇などの基本的な労働条件は、就業規則があろうとなかろうと法律の範囲内で守られなければなりません。
就業規則は、これらの法律で定められた最低基準を、会社の状況に合わせて具体的に定めた社内ルールブックとしての役割を果たします。
法律は抽象的なので、具体的な運用ルールを明確にすることが、円滑な会社運営には不可欠です。

就業規則がないとどうなる?リスクと違法性

労働トラブル発生のリスク

就業規則がないと、労働時間や賃金、休日、休暇、服務規律など、日々の業務における基本的なルールが不明確なままになります。
これにより、従業員との間で「言った、言わない」の水掛け論が頻発し、トラブルに発展するリスクが高まります。
特に、解雇や懲戒処分、ハラスメントといったデリケートな問題が発生した場合、会社としての明確な基準がないと、問題解決が困難になり、最悪の場合、労働審判や訴訟に発展する可能性も否定できません。

社員のモチベーション低下と不信感

ルールが曖昧な職場では、従業員は「自分だけ損をしているのではないか」「評価が公平ではない」といった不信感を抱きやすくなります。
例えば、残業代の計算方法や有給休暇の取得ルールが明確でないと、従業員は安心して働くことができません。
このような状況は、従業員のモチベーションを著しく低下させ、離職率の増加や生産性の低下につながる可能性があります。

法的な罰則と行政指導

10人未満の会社が就業規則を作成していないこと自体に、法的な罰則はありません。しかし、将来的に従業員が10人以上になったにもかかわらず、作成・届出を怠った場合は、労働基準法違反となり、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、就業規則がないことで労働基準法に抵触する運用がなされている場合、労働基準監督署から行政指導を受けることも考えられます。
指導に従わないと、企業のイメージダウンにも繋がりかねません。

10人未満の会社で就業規則を作るメリットとポイント

社内ルールの明確化と公平性の確保

就業規則を作成する最大のメリットは、社内ルールを明確にし、すべての従業員に公平な労働環境を提供できる点です。
例えば、給与規定、評価基準、休暇制度などが明文化されることで、従業員は安心して働くことができます。
これにより、経営者も従業員も「どのような場合にどうなるのか」を事前に把握できるため、無用な誤解やトラブルを未然に防ぎ、スムーズな会社運営につながります。

優秀な人材の確保と定着

採用活動において、明確な就業規則が存在することは、企業の信頼性と透明性を示す重要な要素となります。
求職者は、入社後の労働条件や働き方について具体的に知ることで、安心して応募しやすくなります。
また、福利厚生や教育制度なども規則に盛り込むことで、従業員は「この会社で長く働きたい」と感じやすくなり、優秀な人材の定着にも貢献します。

将来の事業拡大を見据えた準備

たとえ今は10人未満でも、将来的に事業を拡大し、従業員が増える可能性は十分にあります。
あらかじめ就業規則を作成しておくことで、従業員が10人を超えた際に慌てて作成する手間を省くことができます。
会社の成長に合わせて、規則を適宜見直し、柔軟に対応していくことで、スムーズな組織運営を継続することが可能です。
これは、企業の成長戦略においても非常に重要なステップとなります。

パート・アルバイト、役員など、就業規則の適用範囲

パート・アルバイトへの適用

パートやアルバイトといった非正規雇用の労働者も、法律上は「労働者」に該当するため、就業規則の適用対象となります
たとえ正社員向けの就業規則であっても、特に定めがない限り、パート・アルバイトにも適用されると解釈されます。
ただし、所定労働時間や有給休暇の比例付与など、正社員とは異なる労働条件がある場合は、パートタイマー専用の就業規則を別途作成するか、正社員用の就業規則にパートタイマー向けの特則を設けることが一般的です。

役員への適用と「使用人兼務役員」

一般的に、取締役などの役員は「使用者(経営者)」の立場であるため、労働基準法の適用を受けず、就業規則の対象外とされます。
しかし、役員でありながら、実態として従業員と同じように働き、給与以外の報酬も受けている「使用人兼務役員」の場合、労働基準法上の労働者とみなされ、就業規則が適用されることがあります。
役員に関する個別のルールは、一般的に「役員規程」として別途定めることで、労働者との区別を明確にすることが望ましいです。

有給休暇の取り扱い

年次有給休暇は、正社員、パート、アルバイトなど、雇用形態に関わらず、一定の条件を満たしたすべての労働者に付与される権利です。
主な要件は、以下の2点です。

  • 雇入れから6ヶ月以上継続して勤務していること
  • 所定労働日の8割以上出勤していること

パートやアルバイトの場合、週の所定労働日数や時間に応じて、付与される有給休暇の日数が比例的に変わる「比例付与」が一般的です。
また、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対しては、年5日以上の取得を会社が義務付けることも法律で定められています。

就業規則の作成・届出・変更・周知の方法と注意点

就業規則の作成プロセス

就業規則を作成する際は、自社の実情に合わせて、以下の基本的な項目を具体的に定めます。
これらは法律で定められた絶対的記載事項です。

  • 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換に関する事項
  • 賃金の決定、計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払い時期、昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

その他、服務規律、災害補償、表彰・懲戒など、会社の実情に応じて必要な事項を定めます。
専門的な知識が必要となるため、社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めることを強くお勧めします。

届出・変更の手続きと留意点

常時10人以上の事業場では、就業規則を作成または変更した場合、管轄の労働基準監督署長への届出が義務付けられています。
この際、労働者の過半数を代表する者の「意見書」を添付する必要があります。
10人未満の会社には届出義務はありませんが、任意で届け出ることも可能です。
残業(時間外労働)や休日労働をさせる場合は、労働者の過半数を代表する者との間で「36協定(サブロク協定)」を締結し、届出が必要です。
この36協定の届出には、就業規則に時間外労働に関する根拠規定が定められていることが前提となります。

従業員への周知と保管

就業規則は、作成して終わりではありません。作成または変更した規則は、すべての従業員に周知する義務があります。
具体的には、社内の見やすい場所に掲示する、書面で交付する、社内ネットワークの共有フォルダに保存するなど、従業員がいつでも内容を確認できる状態にしておく必要があります。
周知が不十分な場合、就業規則の効力が認められない可能性もあります。
適切に保管し、内容を定期的に見直すことで、常に会社の状況と法律に合致した有効なルールとして機能させましょう。