突然の解雇通知に「納得できない」と感じた場合、どのように対応すれば良いのでしょうか。

この記事では、不当解雇の疑いがある場合に相談できる窓口や、取るべき手続きについて、最新の情報を基に解説します。

  1. 解雇に納得できない!その時どうすればいい?
    1. 解雇の正当性を理解するための基本原則
    2. 解雇通知を受けたらすぐに確認すべきこと
    3. 不当解雇を主張するために必要な証拠の集め方
  2. 解雇トラブル解決の糸口:相談窓口の活用
    1. 公的機関の役割と利用のポイント
    2. 労働組合を活用した交渉術
    3. 弁護士への相談が最善となるケース
  3. 解雇撤回・取り消しへ向かうための具体的なステップ
    1. 会社への意思表示と初期交渉の進め方
    2. 労働審判制度の活用とメリット・デメリット
    3. 訴訟への移行:最後の手段としての選択肢
  4. 解雇訴訟のリスクと損害賠償の相場について
    1. 労働訴訟がもたらすリスクと準備すべきこと
    2. 不当解雇における解決金・損害賠償の相場
    3. 過去の判例から学ぶ解雇の有効性判断のポイント
  5. 専門家への相談が鍵:労働基準監督署とハローワークの役割
    1. 労働基準監督署の活用と限界点
    2. ハローワークが提供するサポートと注意点
    3. 複数の窓口を賢く使い分けるための戦略
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 解雇に納得できない場合、まず何をすべきですか?
    2. Q: 解雇トラブルで相談できる窓口はありますか?
    3. Q: 解雇を撤回してもらうためにできることはありますか?
    4. Q: 解雇訴訟を起こした場合、どのようなリスクがありますか?
    5. Q: 解雇による損害賠償の相場はどのくらいですか?

解雇に納得できない!その時どうすればいい?

解雇の正当性を理解するための基本原則

会社が従業員を解雇するには、法律で定められた手続きと正当な理由が求められます。まず、解雇が法的に有効であるとされるためには、主に以下の3つの原則が重要視されます。

一つ目は「客観的に合理的な理由」があることです。これは、能力不足、勤務態度不良、経営難といった理由が、誰から見ても納得できるものでなければならない、という考え方です。例えば、単に成績が悪いというだけでは不十分で、会社が改善のための具体的な指導を行い、それにもかかわらず改善が見られなかった場合などが該当します。また、経営難を理由とする場合は、解雇回避努力の有無や人選の合理性も問われます。

二つ目は「社会通念上相当な手続き」を踏んでいることです。これは、会社の就業規則や労働契約、さらには法令に基づいた適切な手順が守られているかを指します。懲戒解雇の場合であれば、事前に弁明の機会が与えられているか、事前に就業規則にその旨が明記されているか、といった点も確認されます。

そして三つ目は「解雇予告」です。原則として、会社は解雇日の30日前までに予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。これを怠った場合、労働基準法違反となり、場合によっては刑事罰の対象となる可能性もあります。ただし、天災事変によって事業の継続が不可能になった場合や、労働者の重大な責めに帰すべき事由がある場合など、例外的に解雇予告が不要となるケースも存在します。

解雇通知を受けたらすぐに確認すべきこと

突然の解雇通知に動揺するのは当然ですが、その場で安易に同意したり、内容を十分に確認せずに書類にサインしたりすることは避けてください。まずは冷静になり、以下の点をすぐに確認することが重要です。

まず、会社に対して「解雇通知書」や「解雇理由証明書」の発行を請求しましょう。これは、なぜ自分が解雇されたのか、その具体的な理由を明確にするための非常に重要な証拠となります。口頭での解雇通知であっても、書面での発行を請求する権利がありますので、必ず請求してください。これらの書類には、解雇の根拠となる就業規則の条項や具体的な事実が記載されているはずです。

次に、自身の会社の「就業規則」を確認してください。就業規則には、解雇に関する具体的な規定が記載されており、会社がその規定に沿った手続きを踏んでいるかどうかの判断材料となります。もし会社が就業規則の内容に反する形で解雇を進めているのであれば、不当解雇を主張する強力な根拠となります。

さらに、会社から解雇を告げられた際には、安易に解雇を受け入れる姿勢を見せず、「引き続き働きたい」という「就労意思」を書面で示すことも重要です。これは、解雇が会社の一方的な都合によるものであり、労働者側には働く意思があったことを明確にするためのものです。この意思表示は、後々不当解雇を争う際の重要な証拠となり得ます。

不当解雇を主張するために必要な証拠の集め方

不当解雇を訴える上で、最も重要となるのが客観的な証拠です。証拠がなければ、あなたの主張は単なる「言い分」として扱われてしまい、説得力が著しく低下してしまいます。解雇に納得できないと感じたら、できるだけ早急に証拠収集に取り掛かりましょう。

具体的な証拠としては、まず会社から交付された「解雇通知書」や「解雇理由証明書」は必須です。これらがなければ、そもそも何が解雇理由とされているのかを特定できません。口頭で伝えられた場合は、その内容を詳細にメモしておき、書面での交付を強く求めましょう。

次に、解雇に至る経緯や会社の対応を示すあらゆる記録が有効です。例えば、上司や人事担当者との解雇に関する会話の「録音」(ただし、録音する場合は相手に無断で行っても問題ないとされていますが、状況によってはトラブルの原因となることもあります)、会社とのメールやチャットのやり取り、業務に関する指示書や評価記録などが挙げられます。

また、ご自身の労働条件通知書、雇用契約書、給与明細、勤怠記録なども保管しておきましょう。これらは、労働条件や実際の勤務状況を証明し、会社側の主張との矛盾点を突く上で役立ちます。もし、ご自身が会社から不当な扱いを受けていた証拠(パワハラやセクハラの記録など)があれば、それも不当解雇の背景として重要な証拠となり得ます。集めた証拠は、時系列で整理し、いつ何があったのかを明確に記録しておくことが大切です。

解雇トラブル解決の糸口:相談窓口の活用

公的機関の役割と利用のポイント

解雇が不当だと感じた際、一人で悩まずに公的な相談窓口を活用することは、問題解決への第一歩となります。主な公的機関としては、労働基準監督署総合労働相談センターがあります。

労働基準監督署(総合労働相談コーナー)は、労働基準法などの労働法令が会社で適切に守られているかを監督・指導する機関です。もし会社が解雇予告手当を支払っていない、残業代が未払いであるなど、労働基準法上の違反がある場合には、会社に対して指導を行ってくれます。しかし、解雇自体の有効性や、その判断が法的に妥当かといった点については、踏み込んだ判断や強制力のある介入は期待できないという限界があります。あくまで法令違反の有無を監督するのが主な役割です。全国各地に設置されており、電話での相談も可能ですので、まずは自身の状況が労働基準法に抵触していないか確認する際に利用すると良いでしょう。

一方、総合労働相談センター(各都道府県労働局)は、あらゆる労働問題について相談を受け付けています。ここでは、労働基準法違反だけでなく、解雇の有効性やパワハラ・セクハラなどの問題も含め、幅広い相談に対応しています。特に注目すべきは「あっせん制度」です。これは、紛争当事者である会社と労働者の間に第三者(あっせん員)が入り、話し合いによる解決を支援する制度です。費用はかからず、比較的短期間での解決を目指せる点がメリットですが、あっせんに会社側が応じる義務はなく、合意が成立しなければ解決には至らない可能性があります。

これらの公的機関を利用する際は、自身の状況と集めた証拠を明確に説明できるよう準備しておくことが重要です。まずは、自身がどのような解決を望んでいるのかを整理し、それに合わせて適切な窓口を選ぶことが、円滑な相談のポイントとなります。

労働組合を活用した交渉術

解雇トラブルにおいて、個人では難しい会社との交渉を有利に進める手段の一つとして、労働組合の活用が挙げられます。労働組合は、労働者の権利を守るために会社と交渉する権限(団体交渉権)を持つ団体です。

もし会社にすでに労働組合が設置されている場合は、組合員として加入し、組合を通じて会社に解雇撤回や復職、あるいは解決金の支払いを求める団体交渉を申し入れることができます。労働組合は、個々の労働者では難しい会社との直接交渉を代行し、組織的な力であなたの要求を会社に伝えることが可能です。

しかし、中小企業など、会社に労働組合がないケースも少なくありません。その場合でも諦める必要はありません。新たに労働組合を結成するという選択肢もありますが、これは時間や労力がかかるため、より現実的な方法として「地域の合同労働組合(合同労組)」に加入することを検討できます。合同労組は、特定の企業に所属しない労働者が、業種や地域を超えて加入できる労働組合で、不当解雇などの個別労働紛争の解決にも積極的に取り組んでいます。

労働組合を通じた交渉のメリットは、会社との直接対決を避けられること、そして復職や解決金の交渉を専門的に行ってもらえる点です。また、組合の支援を受けることで精神的な負担も軽減されるでしょう。ただし、組合によっては加入費や組合費が必要となる場合があるため、事前に確認が必要です。労働組合は、法的な手続きではなく、あくまで交渉による解決を目指すものであるため、交渉が不調に終わった場合は、次のステップを検討する必要があります。

弁護士への相談が最善となるケース

解雇問題が複雑化している場合や、会社との交渉が難航している、あるいは法的な手続きに進むことを検討している場合には、弁護士への相談が最も有効な選択肢となります。弁護士は、不当解雇に関する法的な有効性の判断や、会社との直接交渉、さらには労働審判や労働訴訟といった法的手続きの代理人として活動することができます。

弁護士に依頼する最大のメリットは、法的な専門知識に基づいた的確なアドバイスと戦略的なサポートを受けられる点です。会社側の主張の法的な根拠を分析し、あなたの権利を最大限に守るための交渉術や訴訟戦略を立ててくれます。また、会社との煩雑な直接のやり取りを弁護士に一任できるため、精神的な負担を大きく軽減できるでしょう。

特に、以下のようなケースでは弁護士への相談が強く推奨されます。

  • 解雇の有効性自体に法的な疑義がある場合
  • 会社が解雇理由を明確にせず、話し合いに応じない場合
  • 復職ではなく、高額な解決金を求めたい場合
  • 労働審判や労働訴訟などの法的手続きを検討している場合
  • 精神的な苦痛に対する慰謝料請求も視野に入れている場合

多くの弁護士事務所では、初回無料相談を実施しているため、まずは自身の状況を説明し、今後の見通しや費用について相談してみることをお勧めします。その際、労働問題に注力している弁護士を選ぶことが、より専門的なサポートを受ける上で重要です。経済的な理由で弁護士費用が心配な場合は、法テラス(日本司法支援センター)に相談することで、無料の法律相談や弁護士費用の立替制度を利用できる可能性があります。

解雇撤回・取り消しへ向かうための具体的なステップ

会社への意思表示と初期交渉の進め方

不当解雇の通知を受けたら、まず最初に行うべきは、解雇を受け入れないという明確な意思を会社に伝えることです。この意思表示は、後の紛争解決において非常に重要な意味を持ちます。口頭だけでなく、必ず書面(内容証明郵便など)で「解雇は不当であり、引き続き就労する意思がある」旨を通知しましょう。これにより、あなたが解雇を承認していないことを客観的に証明できます。

書面での意思表示と並行して、会社との初期交渉の場を持つことも重要です。可能であれば、解雇理由の再確認、解雇撤回や復職の希望、あるいは解決金の提案など、あなたの具体的な要望を会社に伝えます。この話し合いの場では、冷静に、かつ論理的に自身の主張を展開することが求められます。

交渉の際には、相手の発言を録音することを検討してください。これは、後々のトラブルを防ぐための重要な証拠となります。また、交渉の内容を詳細にメモし、可能であれば第三者(例えば、同僚や労働組合の担当者など)に同席してもらうことも有効です。会社が話し合いに応じない場合や、一方的な主張を繰り返す場合は、無理に交渉を続けるのではなく、次のステップとして専門機関への相談を検討すべきです。

初期交渉で解決に至らない場合でも、あなたの「就労意思」を明確に示し、会社との対話を試みたという事実は、後の労働審判や訴訟において、あなたの誠実な対応として評価される可能性があります。この段階での適切な対応が、解雇撤回や望む解決を得るための土台となるのです。

労働審判制度の活用とメリット・デメリット

会社との直接交渉で解決が得られない場合、次に検討すべき具体的なステップの一つが労働審判制度です。労働審判は、個別労働紛争を迅速かつ柔軟に解決するために設けられた制度で、地方裁判所で行われます。

手続きの流れは、まず労働者側が地方裁判所に労働審判の申立てを行い、その後、原則として3回以内の期日で審理が行われます。審判手続では、裁判官1名と労働問題に関する専門知識を持つ労働審判員2名(労使双方から各1名)で構成される労働審判委員会が、当事者双方の主張や証拠を聴取し、調停による解決を試みます。調停が成立すれば紛争は解決となりますが、調停が成立しない場合は、労働審判委員会が「審判」を下します。

労働審判の最大のメリットは、通常の訴訟に比べて迅速に解決を目指せる点です。多くの場合、申立てから3ヶ月程度で結論が出ます。また、非公開で行われるため、プライバシーが守られやすいという利点もあります。しかし、デメリットとしては、審判に対して当事者のどちらか一方が異議を申し立てると、審判は効力を失い、自動的に訴訟へと移行する点です。この場合、最初から訴訟手続きを進めることになります。

労働審判は、あくまで話し合いによる解決を重視する制度であり、必ずしも労働者側の主張が全面的に認められるとは限りません。そのため、労働審判を申し立てる際は、事前に弁護士に相談し、法的な見通しや戦略を十分に練っておくことが重要です。弁護士は、申立書の作成から期日での主張まで、一連の手続きをサポートしてくれます。

訴訟への移行:最後の手段としての選択肢

労働審判でも解決に至らなかった場合や、事案の性質上、当初から法的な強制力を持つ解決を目指す必要があると判断される場合、労働訴訟(民事訴訟)への移行が最後の手段として検討されます。

労働訴訟は、地方裁判所に提訴し、裁判官が双方の主張や証拠に基づいて法的な判断を下す手続きです。訴訟のメリットは、裁判所の判決には法的な拘束力があるため、勝訴すれば会社に強制的に解雇の無効や損害賠償の支払いを命じられる点です。また、労働審判よりも徹底した証拠調べや事実認定が行われるため、複雑な事案や争点が多岐にわたるケースに適しています。

一方で、訴訟にはいくつかのデメリットも伴います。最も大きいのは、解決までに長い時間と多大な費用がかかることです。数ヶ月から数年単位で係争が長期化することも珍しくなく、弁護士費用や裁判費用も高額になる傾向があります。また、精神的な負担も大きく、日常生活に影響を及ぼす可能性も考慮しなければなりません。さらに、必ずしも自身の主張が全面的に認められるとは限らず、敗訴するリスクも存在します。

訴訟は、非常に専門的な知識と経験を要する手続きであるため、弁護士なしで進めることは極めて困難です。弁護士は、訴状の作成、証拠の収集・提出、裁判期日での主張・立証など、一連の訴訟活動を代理してくれます。訴訟に踏み切るかどうかは、メリットとデメリットを慎重に比較検討し、弁護士と十分に相談した上で決断することが不可欠です。不当解雇によって生じた未払い賃金や慰謝料、逸失利益なども、訴訟を通じて請求することが可能です。

解雇訴訟のリスクと損害賠償の相場について

労働訴訟がもたらすリスクと準備すべきこと

労働訴訟は、不当解雇の問題を法的に解決する上で最も強力な手段ですが、同時に多大なリスクも伴います。訴訟に踏み切る前に、そのリスクを十分に理解し、万全の準備をすることが不可欠です。

まず、最大の懸念は時間的・金銭的コストです。訴訟は一般的に長期化しやすく、解決までに数年を要することも珍しくありません。その間、弁護士費用、裁判費用、印紙代などの金銭的な負担が継続的に発生します。また、裁判の準備や期日への出廷は、精神的な疲労を伴うことも覚悟しなければなりません。仕事や私生活への影響も考慮する必要があります。

次に、敗訴のリスクです。裁判は、会社側が提示する解雇理由が法的に正当と認められる可能性もゼロではありません。もし敗訴した場合、多額の費用と時間を費やしたにもかかわらず、望む結果が得られないだけでなく、場合によっては相手方の訴訟費用の一部を負担するよう命じられることもあります。さらに、会社との関係が完全に悪化するため、再就職活動においても不利に働く可能性も考慮すべきです。

これらのリスクを最小限に抑えるためには、徹底的な証拠収集と専門家との連携が不可欠です。解雇に至る経緯、会社の対応、ご自身の業務実績など、あらゆる証拠を網羅的に集め、弁護士と密に連携しながら、法的に有効な主張を組み立てる必要があります。訴訟は感情論ではなく、客観的な証拠と法律に基づいて進められるため、感情的にならず冷静な対応を心がけることが重要です。

不当解雇における解決金・損害賠償の相場

不当解雇が認められた場合、労働者が受け取る金銭は、主に「解決金」または「損害賠償」という形で支払われます。これらの金額は、個々の事案の具体的な状況によって大きく変動するため、一概に相場を示すことは難しいですが、一般的な目安は存在します。

解決金とは、労働審判や裁判外での和解によって、復職ではなく金銭での解決を選択した場合に支払われるものです。これは、不当解雇によって被った損害や、今後の生活への補償としての意味合いを持ちます。解決金の相場は、解雇後の逸失利益(本来得られるはずだった賃金)の数ヶ月分から1年分程度が目安となることが多いです。これに、精神的苦痛に対する慰謝料が上乗せされる場合もあります。

一方、損害賠償は、主に訴訟を通じて、不法行為や債務不履行によって生じた損害の賠償として請求されます。これには、解雇がなければ受け取れたであろう未払い賃金相当額(バックペイ)、精神的苦痛に対する慰謝料、そして、解雇によって失われた地位や再就職までの期間に相当する逸失利益などが含まれます。慰謝料の金額は、解雇の悪質性や労働者の精神的負担の程度によって数万円から数百万円と幅があります。

具体的な金額は、労働者の役職、勤続年数、給与水準、解雇理由の悪質性、会社側の対応、そして労働審判や訴訟の結果によって大きく異なります。例えば、経営者の私的理由による不当解雇や、パワハラが伴う解雇など、会社側の行為が悪質な場合は、慰謝料が高額になる傾向があります。これらの金額を見積もる上でも、労働問題に詳しい弁護士の専門知識が不可欠です。

過去の判例から学ぶ解雇の有効性判断のポイント

不当解雇を争う際、過去の裁判例や判例は、自身のケースにおける解雇の有効性を判断する上で非常に重要な参考情報となります。裁判所は、個別の事案ごとに、以下のようなポイントを総合的に考慮して解雇の有効性を判断しています。

まず、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が厳しく問われます。例えば、能力不足を理由とする解雇の場合、単に「仕事ができない」というだけでなく、会社が具体的な指導や教育の機会を十分に与え、それでも改善が見られなかったことを客観的な証拠で示せるかどうかが重要です。過去の判例では、適切な改善指導がなされていない場合や、労働者の努力不足が会社の責任によるものと判断された場合などには、解雇が無効とされています。

また、懲戒解雇においては、就業規則に懲戒事由が明記されていること、その行為が懲戒事由に該当すること、そして懲戒処分がその行為に比して重すぎないか(懲戒権の濫用でないか)が厳しく審査されます。例えば、一度の軽微な過失で即座に懲戒解雇とされたケースでは、解雇が無効と判断されることがあります。

さらに、整理解雇(経営上の理由による解雇)の場合、「人員削減の必要性」「解雇回避努力の有無」「人選の合理性」「労働組合や従業員との協議の有無」という4つの要素(いわゆる整理解雇の4要件)が全て満たされているかどうかが判断のポイントとなります。過去の判例では、これらの要件の一つでも欠けていると判断されれば、解雇が無効とされています。

これらの判例からわかるのは、会社側には解雇の正当性を証明する重い責任があるということです。労働者側は、会社側の主張に反論するための証拠を網羅的に集め、いかに法的な観点から解雇が不当であるかを説得力を持って主張できるかが、勝利への鍵となります。

専門家への相談が鍵:労働基準監督署とハローワークの役割

労働基準監督署の活用と限界点

解雇問題に直面した際、多くの人がまず相談を検討するのが労働基準監督署です。労働基準監督署は、厚生労働省の出先機関として、労働基準法をはじめとする労働関係法令が企業で遵守されているかを監督し、違反があれば指導を行う役割を担っています。

具体的には、解雇予告手当が支払われていない、未払い賃金がある、残業代が正しく計算されていない、といった労働基準法に明確に違反する事案に対しては、会社に是正指導を行い、場合によっては行政処分や刑事告発を行うこともあります。また、職場におけるハラスメント相談なども受け付けており、総合労働相談コーナーを通じて、様々な労働問題に関する情報提供やアドバイスを得ることができます。

しかし、労働基準監督署には限界もあります。最も重要な点は、解雇自体の有効性や、その解雇が不当であるかどうかの法的な判断を下す権限は持っていないということです。つまり、「この解雇は無効である」と会社に命じることはできません。あくまで、法律に定められた手続きが守られているか、あるいは金銭的な未払いがないかといった、労働基準法上の形式的な違反の有無を監督するのが主な役割です。

そのため、もし解雇の正当性そのものを争いたい場合や、復職を求めたい、高額な解決金を請求したいといった場合は、労働基準監督署の指導だけでは解決に至らない可能性が高いです。このような場合は、後述の労働局のあっせん制度や、弁護士への相談など、次のステップを検討する必要があります。厚生労働省の発表によると、総合労働相談件数は長年にわたり100万件を超えて高止まりしており、労働相談のニーズの高さがうかがえます。令和4年度の個別労働紛争の相談件数における「解雇」に関する相談は、31,872件に上ります。

ハローワークが提供するサポートと注意点

解雇された労働者にとって、再就職支援や生活の安定は喫緊の課題となります。そこで重要な役割を果たすのが、ハローワーク(公共職業安定所)です。ハローワークは、失業者の再就職をサポートするための様々なサービスを提供しています。

主なサービスとしては、求人情報の提供、職業相談、職業訓練の紹介などがあります。専門の相談員が、あなたのスキルや経験に合った求人を紹介したり、履歴書や職務経歴書の書き方、面接対策のアドバイスを行ったりしてくれます。また、新たなスキルの習得を支援するための公共職業訓練の情報を得ることも可能です。

さらに、ハローワークの重要な役割の一つが、失業給付(雇用保険の基本手当)の申請手続きです。雇用保険の受給資格を満たしていれば、離職後に一定期間、生活費の給付を受けることができます。解雇理由によって、失業給付の受給条件や給付期間が異なる場合があるため注意が必要です。

例えば、会社の倒産や解雇など、特定の理由で離職した場合は「特定受給資格者」となり、自己都合退職よりも早く給付が開始されたり、給付期間が長くなったりする可能性があります。しかし、不当解雇を争っている間は、その解雇が無効であるとして「就労意思」を示しているため、失業給付の申請が困難になるケースもあります。この点は、失業給付と不当解雇争いを並行して進める際の注意点として、事前にハローワークや弁護士に相談しておくことが賢明です。

複数の窓口を賢く使い分けるための戦略

解雇という複雑な問題に直面した際、一つの窓口だけに頼るのではなく、複数の専門機関を賢く使い分けることが、納得のいく解決への近道となります。

まず、解雇通知を受け取り、納得できないと感じた初期段階では、労働基準監督署や総合労働相談センター(労働局)に相談することをお勧めします。これらの公的機関では、無料で相談ができ、自身の解雇理由が法的に問題ないか、解雇予告手当の未払いがないかなどの基本的な情報を得ることができます。特に労働局のあっせん制度は、費用をかけずに話し合いによる解決を目指せる有効な手段です。

次に、もし解雇の有効性そのものを争いたい、復職や高額な解決金を求めたいなど、法的な判断や交渉が必要な場合は、迷わず弁護士に相談すべきです。弁護士は、あなたの状況を法的に分析し、会社との交渉や労働審判、訴訟といった法的手続きを代理してくれます。多くの弁護士が初回無料相談を行っているので、まずは現状と今後の見通しについて相談してみましょう。

そして、万が一再就職が必要になった場合には、ハローワークを活用し、再就職支援や失業給付の手続きを進めることが重要です。不当解雇を争っている間でも、再就職活動は並行して行うことができます。

これらの機関は、それぞれ異なる役割と専門性を持っています。例えば、労働基準監督署は法令違反の有無を監督し、労働局はあっせんを通じて解決を支援、弁護士は法的紛争解決のプロ、ハローワークは再就職と生活保障のサポートといった具合です。自身の状況や希望する解決の形に合わせて、適切なタイミングで適切な専門家や機関を選択し、必要に応じて複数の機関と連携しながら進めることが、最も効果的な戦略となるでしょう。

令和2年上半期の労働相談件数では、「労務管理」に関する相談が2,653件あり、そのうち「解雇予告等」に関する相談は253件(労務管理相談の約10%)でした。さらに、「個別労働紛争」における「普通解雇、懲戒解雇、退職勧奨、自己都合退職、雇止め」に係る相談を加えると、「雇用契約の終了に関する相談(退職、解雇等)」は591件と、多くの労働者が解雇や退職に関するトラブルに直面していることがわかります。

納得できない解雇に直面した場合、まずは冷静に状況を整理し、必要な証拠を集めることが大切です。

そして、労働基準監督署、労働局、労働組合、弁護士といった専門機関に相談し、適切な手続きを踏むことで、不当解雇の問題解決を目指しましょう。

一人で抱え込まず、早めに専門家の力を借りることが、納得のいく解決への第一歩となります。