解雇予告期間と解雇予告手当:14日・30日・60日・3ヶ月分の給料について

突然の解雇通告は、誰にとっても大きな不安を伴うものです。そんな時、「いつまでに次の仕事を見つければいいのか?」「生活費はどうなる?」といった心配が頭をよぎるでしょう。

日本の労働基準法では、労働者の生活を守るため、解雇に関するルールが厳格に定められています。その中でも特に重要なのが、「解雇予告期間」と「解雇予告手当」です。

今回は、解雇予告に関する基本的なルールから、よくある誤解までを詳しく解説します。あなたの権利を守るために、ぜひ参考にしてください。

解雇予告期間とは?基本ルールを理解しよう

解雇予告の義務と目的

日本の労働基準法第20条では、雇用主が労働者を解雇する際、原則として解雇日の少なくとも30日前までにその旨を予告する義務を課しています。

これは、労働者が突然職を失うことによって生じる経済的・精神的負担を軽減し、次の仕事を見つけるための準備期間を確保することを目的とした非常に重要な制度です。

もし、この30日前の予告期間を満たさずに労働者を解雇する場合、雇用主は「解雇予告手当」を支払う義務が生じます。この手当は、予告期間の不足日数分の賃金を補償するものです。

30日前予告の原則と例外

解雇予告の原則は「解雇日の30日前まで」というルールですが、すべてのケースでこの原則が適用されるわけではありません。

例えば、日雇い労働者や2ヶ月以内の有期雇用契約の労働者、雇入れ後14日以内の試用期間中の労働者など、特定の労働者については解雇予告期間の義務が適用されない場合があります。

しかし、これらの労働者も、一定期間を超えて継続雇用された場合は、通常の解雇予告義務の対象となるため注意が必要です。例えば、日雇い労働者でも1ヶ月を超えて継続雇用された場合は、解雇予告の対象となります。

解雇予告除外認定について

非常に例外的なケースとして、雇用主が労働基準監督署の認定を受けた場合、解雇予告や解雇予告手当なしで即時解雇が認められることがあります。

これは「解雇予告除外認定」と呼ばれ、以下のような極めて限定的な状況でしか適用されません。

  • 災害などのやむを得ない事情: 事業の継続が物理的に不可能になった場合(例: 工場の火災や自然災害による倒壊など)。
  • 労働者の重大な規約違反: 窃盗、横領、暴行といった刑事事件に該当する行為や、2週間以上の無断欠勤など、雇用関係を継続することが著しく困難な重大な違反があった場合。

しかし、この認定は非常に厳格な審査を経て行われるため、雇用主が安易に利用できるものではありません。労働者側としては、不当な即時解雇ではないか疑わしい場合は、労働基準監督署や弁護士に相談することが重要です。

「14日以内」「1ヶ月前」「30日前」の解雇予告期間と注意点

特定の労働者と解雇予告期間

前述の通り、一部の労働者には解雇予告期間の義務が適用されません。具体的には、以下のケースが挙げられます。

  • 日雇い労働者: ただし、1ヶ月を超えて継続雇用された場合は対象となります。
  • 契約期間が2ヶ月以内の有期雇用契約の労働者: ただし、契約期間を超えて継続雇用された場合は対象となります。
  • 季節的業務で契約期間が4ヶ月以内の労働者: ただし、契約期間を超えて継続雇用された場合は対象となります。
  • 雇入れ後14日以内の試用期間中の労働者: 試用期間が14日を超えた場合は対象となります。

これらの規定は、短期間の雇用関係において、一般的な解雇予告義務を適用することの困難さを考慮したものですが、期間が延びれば通常の労働者と同様の保護が受けられる点に注意が必要です。

即時解雇が認められるケース

原則として、雇用主が労働者を即時解雇できるのは、「解雇予告除外認定」を受けた場合、または「特定の労働者」の例外規定に該当する場合のみです。

これらの条件を満たさずに即時解雇を行うと、雇用主は30日分の解雇予告手当を支払う義務が発生します。もし手当の支払いもなければ、労働基準法違反となり、法的措置の対象となる可能性もあります。

労働者としては、即時解雇を告げられた際には、まずはその理由と、解雇予告手当の有無を確認することが肝心です。不当な解雇と感じたら、労働局の相談窓口などを活用しましょう。

予告期間の数え方と重要性

解雇予告期間を正確に数えることは非常に重要です。労働基準法では、「解雇予告を行った日の翌日から起算する」と定められています。

例えば、1月15日に「2月14日付で解雇する」と通知された場合、予告期間は1月16日から2月14日までとなり、ちょうど30日間の予告期間が確保されたことになります。

もし、1月20日に同じく「2月14日付で解雇する」と通知された場合、予告期間は1月21日から2月14日までとなり、30日を満たしません。この場合、不足する日数分の解雇予告手当が発生することになります。

この数え方を間違えると、雇用主は解雇予告手当の支払い義務を負うことになったり、最悪の場合、不当解雇と判断されたりするリスクがあるため、慎重な対応が求められます。

解雇予告手当とは?30日分・60日分・3ヶ月分の給料がもらえる?

解雇予告手当の基本的な考え方

解雇予告手当は、雇用主が労働者を解雇する際に、法律で義務付けられた30日前の予告期間を満たさなかった場合に、その不足日数に応じて支払われる金銭です。

これは、労働者が解雇によって突然収入を失うことのないよう、そして次の仕事を探すための期間を経済的に支援するための重要な制度と言えます。

あくまで「予告期間が足りなかったことに対する補償」であり、退職金や慰謝料とは性質が異なります。そのため、正しく理解しておくことが重要です。

30日分の平均賃金とは?

解雇予告手当は、原則として「平均賃金」に基づいて計算されます。即日解雇の場合、雇用主は労働者に対して30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。

この「平均賃金」は、以下の計算式で算出されます。

平均賃金 = 直近3ヶ月間に支払われた賃金の総額 ÷ その3ヶ月間の総日数(暦日数)

ここで言う賃金には、基本給、各種手当(通勤手当、住宅手当など)が含まれますが、賞与(ボーナス)や臨時手当、現物給与などは含まれません

例えば、直近3ヶ月(90日間)の賃金総額が90万円だった場合、平均賃金は1日あたり1万円となります。即日解雇の場合は、30万円(1万円 × 30日)が解雇予告手当として支払われることになります。

60日・3ヶ月分の給料はもらえるのか?

「解雇予告手当として、60日分や3ヶ月分の給料がもらえる」という話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、これは一般的には誤解です。

労働基準法で定められている解雇予告手当は、あくまで不足する予告期間に対する補償であり、上限は原則として30日分の平均賃金です。例えば、解雇日の10日前に予告された場合、不足日数は20日(30日 – 10日)となり、20日分の平均賃金が支払われます。

ただし、以下の例外的なケースでは、結果的にそれに近い金額が支払われる可能性もゼロではありません。

  • 雇用主との合意: 会社が円満退職を促すため、自主的に30日分を超える手当を提示する場合があります。
  • 就業規則や労働協約: 会社の就業規則や労働協約に、法定以上の手当が定められている場合があります。
  • 不当解雇による損害賠償: 不当解雇と判断され、裁判で解雇期間中の賃金相当額が支払われるよう命じられた場合、結果的に数ヶ月分の金額になることがあります。

基本的には「不足日数に応じた30日分の平均賃金が上限」という理解が重要です。

解雇予告期間の数え方:14日・30日・60日・3ヶ月前を正確に計算する方法

予告期間の起算日

解雇予告期間を数える上で最も重要なポイントは、「予告を行った日の翌日」が起算日となることです。

例えば、あなたが1月15日に解雇予告を受けたとします。この場合、解雇予告期間は1月16日からスタートします。

もし30日間の予告期間が必要であれば、1月16日から数えて30日後、つまり2月14日以降に解雇日が設定されることになります。

この起算日を誤ると、予告期間が不足し、解雇予告手当の支払い義務が発生したり、最悪の場合、不当解雇とみなされる可能性もありますので、注意が必要です。

具体的な計算例(30日前のケース)

具体的な日付を使って、30日前の予告期間を計算してみましょう。

例:2024年3月31日を解雇日としたい場合

  1. 解雇日の前日は2024年3月30日です。
  2. この日から遡って30日分の期間を確保する必要があります。
  3. 逆算すると、2024年3月1日が30日前の予告期間の最終通知日となります。
  4. つまり、2024年3月1日までに解雇予告を通知すれば、3月31日付けでの解雇が可能です。

※2024年3月1日に通知した場合、通知の翌日である3月2日から3月31日までが解雇予告期間(30日間)となります。

このように、正確な日付をカレンダーで確認しながら計算することが、トラブルを避ける上で非常に大切です。

土日祝日を挟む場合の注意点

解雇予告期間は「暦日」で計算されます。つまり、土日祝日や会社の休日もすべて期間に含まれます。

例えば、解雇予告の通知期限が土日や祝日にあたったとしても、その日までに通知を完了する必要があります。

そのため、雇用主側は余裕をもって通知を行うことが望ましいです。また、労働者側も、いつ解雇予告を受けたのか、その日付を正確に記録しておくことが大切です。

解雇予告は書面で行われることが一般的であり、後々の証拠として残るため、通知書の日付や受領日を確認しておきましょう。

解雇予告手当の「6割」とは?計算方法と注意点

平均賃金の算出方法の詳細

解雇予告手当の基準となる「平均賃金」は、正確に計算する必要があります。計算式は以下の通りです。

平均賃金 = 解雇予告日の直前3ヶ月間の賃金総額 ÷ その3ヶ月間の総日数(暦日数)

例えば、2024年4月15日に解雇予告を受けた場合、直前3ヶ月間は1月15日から4月14日までとなります。この期間に支払われた基本給や各種手当(通勤手当、住宅手当、時間外手当など)の合計額を、その期間の暦日数(この場合は90日)で割って算出します。

ただし、ボーナス(賞与)や結婚祝い金のような臨時的な手当、現物支給されたもの(通勤定期券など)は、この賃金総額には含まれませんので注意してください。

最低保障額と適用されるケース

日給・時給・出来高払いの労働者の場合、上記の計算式で算出した平均賃金が、最低保障額を下回る場合は、その最低保障額が平均賃金として適用されます。

労働基準法では、「賃金の計算期間によって賃金額が変動する労働者(日給、時給、出来高払いなど)」について、平均賃金が以下のうち高い方と定められています。

  1. 上記計算式で算出した平均賃金
  2. 直前3ヶ月間の労働日数 × 賃金の60% ÷ 直前3ヶ月間の労働日数

この「60%(6割)」という数字が、平均賃金の最低保障額を計算する際に用いられるため、「解雇予告手当が平均賃金の6割になる」という誤解を生むことがあります。しかし、解雇予告手当自体が6割になるわけではなく、あくまで平均賃金の最低保障額の計算に用いられるものです。

解雇予告手当と税金・付加金

解雇予告手当は、税法上「退職所得」として扱われます。そのため、原則として源泉徴収の対象となります。

しかし、通常は「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで、退職所得控除が適用され、税金がかからないか、ごくわずかな金額で済むことが多いです。会社から申告書の提出を求められた場合は、忘れずに提出しましょう。

また、雇用主が解雇予告手当の支払いを怠った場合、労働者が訴訟を起こすと、裁判所は「付加金」として、解雇予告手当と同額の金額を雇用主に支払うよう命じる可能性があります。これにより、手当の金額が実質的に2倍になることがあります。

さらに、解雇予告や解雇予告手当の支払いを怠った雇用主は、労働基準法違反として、刑事罰の対象となる可能性も指摘されています。雇用主側は、これらのリスクを避けるためにも、法的な義務を確実に履行する必要があります。

もし解雇予告や解雇予告手当に関して疑問や不安がある場合は、一人で抱え込まず、労働基準監督署や弁護士、労働組合などの専門機関に相談することをおすすめします。