メンタルヘルスの不調から休職を経験し、復職を控えている方の中には、漠然とした不安や憂鬱な気持ちを抱えている方も少なくありません。

しかし、それは決してあなた一人ではありません。多くの人が同じような感情を経験しており、適切な準備とサポートがあれば、乗り越えることは十分に可能です。

復職への「戻りたくない」「無理かも」という気持ちの正体

休職前の経験がもたらす心の影

「復職したくない」「やっぱり無理かも」という感情の背景には、休職に至るまでの辛い経験が影を落としていることがよくあります。

過労、職場の人間関係のトラブル、ハラスメントなど、休職の原因となった出来事を思い出すと、体が拒否反応を示すのは自然なことです。

再び同じような状況に陥りたくないという自己防衛本能が働き、復職への強い抵抗感を生み出しているのかもしれません。休職前の自分と現在の自分とのギャップを感じ、以前のように働けるのかという不安が拭えないことも、この気持ちを増幅させます。

無理をして再度心身のバランスを崩してしまうのではないかという恐れは、あなただけが抱く特別な感情ではありません。

社会からの孤立感と自己評価の低下

休職期間中は、社会から一時的に離れることで、孤立感や疎外感を感じやすくなります。

まるで自分だけが立ち止まってしまい、周囲はどんどん先に進んでいるような感覚に陥ることもあるでしょう。この感覚は、復職を前にして「周囲の目・評価」への懸念や、「仕事への適応能力への自信喪失」へとつながっていきます。

実際に、復職時に最も不安だったこととして「周囲の目・評価」が最多という調査結果が示しているように、多くの人が他者からの見られ方を気にしています。休職した自分への自己評価が下がり、以前のように活躍できないのではないかという不安が、復職への意欲を低下させてしまうのです。

このような感情は、多くの方が経験する一般的なものであり、決してあなたが劣っているわけではありません。

「戻りたくない」は自然な感情

復職への漠然とした不安や「戻りたくない」という気持ちは、決してネガティブなものとして捉える必要はありません。

それは、あなたが自分自身の心身の健康を大切にしようとしている証拠であり、過去の経験から学んだ自己防衛の表れでもあります。調査結果でも、休職を決めた際の感情として「不安」を感じた人は65.3%と報告されており、不安は多くの人が経験する共通の感情であることがわかります。

この感情を無理に押し殺すのではなく、まずは「そう感じているんだな」と自分自身の気持ちを受け止めることが大切です。

正直な気持ちを認め、なぜそう感じるのかを深く掘り下げていくことで、具体的な対処法が見えてくることもあります。自分を責めることなく、まずはありのままの感情と向き合うことから始めてみましょう。

憂鬱、やる気が出ない…復職がめんどくさいと感じる理由

生活リズムの変化と適応への抵抗

休職中は、自分のペースで時間を使い、心身を休ませることに集中できた方が多いでしょう。

しかし、復職となると、規則正しい起床・就寝時間、通勤、業務時間といった決まった生活リズムが求められます。この大きな変化への適応が、「めんどくさい」という感情の大きな要因となりえます。

特に、通勤時間を考慮した早起きや、身支度を整えるといった日常的な行為ですら、心理的な負担に感じることがあります。慣れない生活リズムへの移行は、エネルギーを消耗し、精神的な疲労を伴うため、憂鬱感ややる気の低下を引き起こしやすいのです。

復職への準備として「生活リズムを整える」ことが推奨されるのは、この負担を軽減するためでもあります。

休職理由の再発への恐れ

「めんどくさい」という気持ちの根底には、休職に至った原因が再び起きるのではないかという深い恐れが潜んでいることがあります。

職場の人間関係、業務のプレッシャー、長時間労働など、休職の原因が解決されていないと感じている場合、再び心身の不調に陥るのではないかという不安が、復職への意欲を大きく削いでしまいます。「働きながら心身を回復させるのは難しい」と感じている人が18.8%もいるというデータは、この再発への恐れがいかに根深いかを示唆しています。

この恐れから、無意識のうちに復職を避けようとする心理が働き、憂鬱感ややる気のなさとして表れることがあります。この感情と向き合い、何が一番怖いのかを明確にすることが、次のステップに進むための第一歩となります。

仕事内容や人間関係への懸念

復職後の具体的な仕事内容や、職場の人間関係がどうなっているのかという懸念も、憂鬱感ややる気の低下に直結します。

休職中に業務内容が変更になっていないか、以前のように仕事についていけるのか、ミスをしてしまわないかといった不安は、想像以上に大きなプレッシャーとなります。また、休職する前の人間関係が継続しているのか、あるいは変化しているのかという点も気になるところでしょう。

特に、休職の原因が人間関係にあった場合、復職後の再構築へのエネルギーは計り知れません。これらの具体的な懸念が積み重なることで、「やっぱりめんどくさい」「行きたくない」という気持ちが強まってしまうのです。これらの懸念に対して、事前に情報収集や相談を行うことで、少しでも心の負担を軽減できる可能性があります。

復職への勇気が出ない…不安を克服する具体的なステップ

段階的な生活リズムの再構築

復職への不安を軽減し、心身を慣らすためには、段階的に生活リズムを再構築することが非常に重要です。

まずは、規則正しい生活を心がけ、決まった時間に起き、身支度を整える習慣をつけましょう。休職中に崩れてしまった生活サイクルを、焦らずゆっくりと職場復帰に合わせたものへと調整していきます。

具体的な方法としては、通勤時間を想定して、その時間帯に外出してみる、図書館などで過ごしてみるなどが効果的です。また、十分な睡眠を確保し、リラックスできる時間を作ることも大切です。生活リズムが整うことで、心身の安定につながり、復職への一歩を踏み出す勇気が湧いてくるでしょう。

完璧を目指すのではなく、少しずつできることから取り組んでみてください。

自身の状態の客観的把握と整理

現在の自分の心身の状態を客観的に把握し、仕事に対する自分のスキルや気持ちを整理することは、不安を具体的に特定し、対処法を見つける上で不可欠です。

「何が不安なのか」「どのようなサポートが必要か」を漠然としたままでなく、具体的に紙に書き出してみることをおすすめします。例えば、「人前で話すこと」「新しい業務」「残業」など、具体的な不安要素を明確にすることで、それらに対する対策を考えることができるようになります。

この自己整理は、主治医や信頼できる家族・友人との相談の際にも役立ちます。自分の気持ちを整理し、言語化することで、不安の輪郭がはっきりし、解決策への道筋が見えてくるはずです。

専門家との連携と復職支援の活用

復職への不安は一人で抱え込まず、積極的に相談できる相手や専門機関を頼ることが重要です。

主治医や精神科医に現在の心身の状態を伝え、復職に向けてのアドバイスをもらいましょう。また、復職支援プログラム（リワーク）の活用も大変有効です。リワークプログラムは、精神疾患などで休職している方を対象とした支援プログラムで、生活リズムの調整、就労に必要なスキルの向上、ストレス対処法などを専門家のサポートを受けながら学ぶことができます。

これは、医療機関、地域障害者職業センター、就労移行支援事業所などで実施されており、復職への自信を取り戻すための貴重な機会となります。企業の産業医や産業保健スタッフ、公的な相談窓口も活用し、多角的なサポート体制を整えましょう。

  • 医療機関：主治医や精神科医に相談し、治療を継続しながら復職の準備を進めましょう。
  • 地域障害者職業センター：職業リハビリテーションに関する専門機関で、復職支援プログラム（リワーク）を提供しています。
  • 就労移行支援事業所：障害のある方の就職や復職をサポートする福祉サービスです。専門スタッフが個別の支援計画を作成し、就職活動や職場定着を支援します。

「やっぱり無理」と感じた時のセカンドオプション

無理をしない選択肢を考える

復職への準備を進める中で「やっぱり無理だ」と感じることは、決して珍しいことではありません。

そのような時は、自分を責めるのではなく、心身の健康を最優先にする選択肢を真剣に考えることが大切です。復職はあくまで「ゴール」ではなく「通過点」であり、無理をして復帰することで再休職に至ってしまうリスクもあります。

「休んでも、きちんと回復すればまた働ける」という見通しを持つことが、焦りや不安を軽減し、精神的な余裕を生み出します。自身の心と体からのサインに耳を傾け、立ち止まる勇気や、別の道を探す柔軟な姿勢を持つことも、長期的なキャリアを築く上で重要な要素となります。

心身の健康こそが、全ての基盤であることを忘れないでください。

復職時期の見直しや働き方の再検討

「やっぱり無理」と感じた場合、まずは主治医や産業医、そして会社の人事担当者と相談し、復職時期の見直しを検討することが第一歩です。

回復には個人差があるため、当初の予定よりも準備期間を長く取ることで、精神的なゆとりが生まれることもあります。また、復職後の働き方を再検討することも有効な手段です。

例えば、時短勤務、業務内容の調整、部署異動、テレワークの導入など、柔軟な働き方を会社と交渉してみる価値はあります。自分の体調や状況に合わせて、無理のない範囲で働ける環境を整えることが、長期的な就労を可能にします。

これらの交渉には、主治医からの意見書などが役立つ場合もありますので、積極的に相談してみましょう。

転職やキャリアチェンジも視野に

現在の職場環境や仕事内容が、自身の心身の健康と根本的に合わないと感じる場合、転職やキャリアチェンジも視野に入れるセカンドオプションとなりえます。

休職期間は、自分自身の価値観や本当にやりたいこと、向いている仕事について深く考える良い機会でもあります。新たな環境に身を置くことで、心機一転、リフレッシュして働くことができる可能性もあります。

転職は大きな決断ですが、ハローワークの専門相談や、就労移行支援事業所など、転職支援サービスを活用することで、適切なサポートを受けながら次のステップに進むことができます。自分の心と体の声に耳を傾け、時には大胆な選択をすることも、新たな自分らしいキャリアを築くための勇気ある一歩となり得ます。

多様な選択肢があることを知り、最適な道を探してみてください。

心身ともに軽やかに復職するためのヒント

心の準備を整えるリラックス法

復職に向けて心身を整えるためには、日々の生活にリラックスできる時間を取り入れることが非常に重要です。

ストレスは心身に大きな影響を与えるため、意識的にストレスを軽減する活動を行いましょう。瞑想、深呼吸、軽いウォーキングなどの運動、アロマセラピーなどは、心を落ち着かせ、リフレッシュ効果をもたらします。また、趣味や好きなことに没頭する時間を作ることも、仕事以外の充実感を得て、精神的なバランスを保つ上で役立ちます。

完璧な状態を目指すのではなく、日々の小さな習慣として取り入れることで、徐々に心の平穏を取り戻し、復職への心の準備を整えることができます。

自分に合ったリラックス法を見つけ、積極的に実践してみてください。

職場とのコミュニケーションの取り方

復職をスムーズに進めるためには、職場との適切なコミュニケーションが不可欠です。

復職前に、上司や信頼できる同僚と軽く接触し、職場の雰囲気や状況を把握しておくことは、復職後のギャップを埋めるのに役立ちます。また、復職後のサポート体制や、困った時の相談先（例：産業医、上司、人事担当者）を事前に確認しておくことで、安心感を持って業務に臨めます。

自分の現在の心身の状態や、無理なく働ける範囲について、伝えられる範囲でオープンに共有することも重要です。もちろん、全てを話す必要はありませんが、自分の状況を理解してもらうことで、職場からの適切な配慮やサポートを受けやすくなります。

積極的にコミュニケーションをとり、復職後の良好な関係構築に努めましょう。

「完璧」を目指さない柔軟な働き方

復職直後から、休職前と同じようなパフォーマンスや「完璧」な働き方を求める必要は全くありません。

復職は、心身の回復と仕事への再適応を両立させるプロセスです。最初のうちは、タスクの量を絞り、休憩を積極的に取る、定時での退社を心がけるなど、自分を労わる働き方を意識しましょう。無理なく段階的に業務に慣れていくことで、再休職のリスクを減らし、安定した働き方を継続できます。

「休んでも、きちんと回復すればまた働ける」という前向きな見通しを持ち、自分自身の回復ペースを尊重することが大切です。柔軟な働き方を取り入れながら、心身ともに軽やかに、そして着実に職場での居場所を再構築していきましょう。

焦らず、自分自身のペースを大切にしてください。