休職の割合と事例から学ぶ!連鎖休職を防ぐための知識

近年、多くの企業で社員のメンタルヘルス不調による休職が増加傾向にあり、企業と個人の双方にとって重要な課題となっています。特に、一人の休職が職場全体に波及し、次々と休職者や離職者が増えてしまう「連鎖休職」は、組織運営に深刻な影響を及ぼしかねません。

この記事では、休職の現状から具体的な事例、休職を考える上で知っておきたい基本情報、休職中の手続きや注意点、そして連鎖休職を防ぐために企業と個人ができることについて、詳しく解説します。社員が安心して働ける職場環境を構築し、健康な組織を維持するための知識を深めていきましょう。


休職の現状:社員の休職割合とその背景

メンタルヘルス不調による休職の増加

厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、企業におけるメンタルヘルス不調による休職は、近年特に注目すべき増加傾向を示しています。2023年調査では、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者がいた事業所の割合が10.4%に上りました。これは、2022年調査の10.6%とほぼ同水準であり、依然として高い割合で推移していることを示しています。

さらに、メンタルヘルス不調により退職した労働者がいた事業所の割合も増加傾向にあり、2022年の5.9%から2023年には6.4%へと上昇しました。休業と退職を合わせると、メンタルヘルス不調を理由とした労働者の離脱は、2023年調査で事業所の13.5%が経験しているという深刻な状況です。業種別では、情報通信業、医療・福祉、製造業などで休職者の割合が高い傾向が見られ、それぞれの業種が抱える特性や業務内容が影響していると考えられます。

これらのデータは、現代社会における労働環境が抱えるストレスの大きさを浮き彫りにしており、企業にとっては従業員の健康管理と職場環境改善が喫緊の課題であることを示唆しています。

「連鎖休職」とは何か

「連鎖休職」とは、文字通り一人の従業員が休職したことが引き金となり、その影響が職場全体に波及し、次々と他の従業員も休職や離職に至ってしまう現象を指します。これは、単なる個人の問題に留まらず、組織全体の士気低下や生産性悪化につながる深刻な事態です。

特に、人員が限られている中小企業や、特定の業務を少数のメンバーで担っているチームでは、一人の休職が他の従業員への業務負担の急増を招きやすいため、連鎖休職のリスクがより高まります。具体的には、休職者の業務を引き継ぐことによる残業時間の増加や、精神的なプレッシャー、さらには休職者への不公平感や職場の雰囲気が悪化するといった要因が複雑に絡み合い、負の連鎖を生み出してしまうのです。

連鎖休職は、企業イメージの低下や人材流出を招くだけでなく、最終的には組織の崩壊や倒産にまでつながる可能性も秘めており、その予防と対策は企業経営において極めて重要であると言えるでしょう。

休職に至る主な背景にある社会情勢

社員が休職に至る背景には、個人の要因だけでなく、現代社会が抱える複雑な社会情勢が大きく影響しています。現代社会は情報過多、スピード社会と言われ、常に新しい知識の習得や変化への適応が求められるため、知らず知らずのうちにストレスが蓄積されやすい環境にあります。

また、リモートワークの普及により働き方が多様化する一方で、オフィスでの偶発的なコミュニケーションが減少し、孤立感を感じやすくなる従業員も少なくありません。人間関係の希薄化は、悩みを打ち明けにくい環境を生み出し、メンタルヘルス不調の早期発見を難しくする要因の一つです。

さらに、人手不足が常態化している企業では、一人ひとりの業務量が増加し、過重労働につながりやすい状況があります。ハラスメント問題や不透明な評価制度、キャリアパスへの不安なども、従業員の精神的な負担を増大させ、休職へと追い込むトリガーとなり得ます。社会全体としてメンタルヘルスへの意識は高まりつつあるものの、これらの複合的な要因が、多くの社員を休職に追い込んでいる現状があるのです。


休職の具体例:どんな場合に休職する?

精神的な負担が大きいケース

精神的な負担が蓄積し、休職に至るケースは最も一般的です。例えば、長時間労働や過度な業務量による過労、上司や同僚からのハラスメント(パワハラ、セクハラ、モラハラ)による精神的苦痛、複雑な人間関係の悩みなどが挙げられます。

これらが原因で、うつ病、適応障害、パニック障害、不安障害などを発症し、日常生活に支障をきたすほど心身が疲弊してしまうことがあります。具体的には、「朝、体が重くて起き上がれない」「食欲不振や不眠が続く」「集中力が著しく低下し、仕事が手につかない」「些細なことでイライラしたり、涙が止まらなくなったりする」といった症状が現れ、最終的に医師から休職が必要との診断を受けるケースが多いです。

企業が実施するストレスチェックで高ストレス者と判定されたり、産業医との面談で休職を勧められたりすることもあります。精神的な健康は目に見えにくいため、本人だけでなく周囲の早期の気づきと適切なサポートが不可欠です。

身体的な不調が引き金となるケース

精神的な負担だけでなく、身体的な病気や怪我が休職の引き金となることも少なくありません。例えば、がんの治療、心臓病、脳卒中、自己免疫疾患などの難病や、交通事故などによる大怪我により、長期的な入院や療養が必要となる場合です。

これらの病気や怪我は、継続的な治療や安静が必要であり、通常の業務を遂行することが困難となります。また、精神的なストレスが身体症状として現れる「心身症」のケースもあります。例えば、胃潰瘍、過敏性腸症候群、めまい、頭痛、慢性的な倦怠感、不眠などが慢性化し、これらの治療のために休職が必要となることもあります。

身体的な不調は、本人にとって大きな苦痛であるだけでなく、回復には時間がかかることが多く、無理をして業務を継続することは症状の悪化や治療の遅れにつながるため、医師の診断に基づいて適切な休職期間を設けることが重要となります。

家族のケアや個人的な事情によるケース

自身の健康問題以外にも、家族のケアや個人的な事情が休職の理由となるケースもあります。代表的なのは育児や介護です。育児・介護休業法に基づく休業制度がある一方で、その期間を超える対応が必要な場合や、企業独自の休職制度を活用して、親の介護や配偶者の重病の看護に専念するために休職する例があります。

また、女性社員にとっては、妊活、不妊治療、出産後の回復期(産前産後休業や育児休業とは別に、体調回復に時間が必要な場合など)も休職の理由となり得ます。企業によっては、社員のスキルアップやキャリア形成を支援するため、留学や自己啓発を目的とした私的な休職制度を設けている場合もあります。

これらの休職は、社員の人生設計やライフイベントに深く関わるものであり、企業が柔軟な休職制度を設けることで、社員の継続的なキャリア形成を支援し、結果として優秀な人材の定着にもつながります。個々の社員の事情に配慮した制度設計が求められます。


休職を考える前に:知っておきたい基本情報(読み方・類語)

「休職」の正しい読み方と定義

「休職」は「きゅうしょく」と読みます。これは、労働者が私傷病などの「正当な理由」により、長期間にわたって労働契約上の労務提供義務を免除され、会社を休むことを指します。重要なのは、労働契約は継続しているという点です。つまり、会社との雇用関係は維持されたまま、一時的に業務から離れる状態を意味します。

「休職」は、労働基準法で直接定められた制度ではなく、企業の就業規則によって規定されるのが一般的です。そのため、休職の期間、取得条件、給与の有無、復職時の手続きなどは、企業ごとに異なります。休職中は、原則として給与は支給されませんが、健康保険の「傷病手当金」などの社会保障制度を利用できる場合があります。

休職を検討する際は、まず自身の会社の就業規則を確認し、どのような制度があるのか、どのような手続きが必要なのかを把握することが第一歩となります。

混同しやすい類語との違い

「休職」という言葉は、他の似たような言葉と混同されがちです。ここでは、特に間違いやすい類語との違いを明確にしておきましょう。

  • 休業(きゅうぎょう):主に労働基準法や育児介護休業法など、法律に基づいて定められた休暇を指します。
    • 産前産後休業育児休業介護休業などがこれにあたります。
    • 業務上の傷病による休業(労災)や、会社の都合による休業(休業手当の支給対象)も含まれます。
  • 欠勤(けっきん):一時的に会社を休むこと。通常、有給休暇を使わず、給与が支払われない場合に用いられます。労働契約は継続していますが、欠勤が長期化すると休職の対象となったり、場合によっては懲戒処分となることもあります。
  • 休暇(きゅうか):労働義務がある日に、その義務を免除されること。有給休暇や慶弔休暇などが代表的です。原則として給与が支払われます。
  • 退職(たいしょく):労働契約の終了。会社を辞めることを意味します。休職とは異なり、雇用関係そのものが消滅します。

これらの違いを理解することは、自身の状況を正しく認識し、適切な手続きを取る上で非常に重要です。

休職制度の法的根拠と企業側の義務

前述の通り、休職制度そのものは労働基準法に明記された企業の法的義務ではありません。しかし、労働契約法や労働安全衛生法に基づく安全配慮義務の観点から、多くの企業が就業規則に休職に関する規定を設けています。

企業は、社員の心身の健康に配慮し、安全で健康的に働ける環境を提供する義務を負っています。そのため、社員が病気や怪我で業務を遂行できなくなった場合、直ちに解雇するのではなく、一定期間の療養機会を与えるために休職制度を設けることが社会的な要請となっています。また、休職中の社員に対しては、プライバシーに配慮しつつも、復職に向けた情報提供や相談体制を整えるなどの配慮が求められます。

休職期間中の給与支払い義務は原則としてありませんが、社員の生活を支えるため、健康保険からの傷病手当金や労災保険の給付金制度について情報提供を行うことは、企業の重要な役割の一つです。さらに、復職支援プログラムの導入や、リハビリ出勤制度の活用など、休職から復職までのプロセスをサポートすることも、企業の安全配慮義務の一環として重要視されています。


休職中の手続きと注意点(郵送物、有給、出勤率)

休職前に必要な手続きと準備

休職を検討する際、まず最も重要なのは医師の診断書を取得することです。診断書には、病名、休養が必要な期間、業務内容に対する制限などが明記されている必要があります。この診断書を基に、速やかに会社の人事担当者や直属の上司に相談し、休職申請を行いましょう。

会社の就業規則に則り、休職期間や手続きの流れ、休職中の処遇(給与、社会保険料など)を確認し、不明な点は質問しておくことが重要です。また、休職に入る前に、担当していた業務の引き継ぎを丁寧に行う必要があります。同僚や後任者が困らないよう、業務内容、進捗状況、関連資料の場所、取引先の連絡先などを整理し、スムーズな移行を心がけましょう。

さらに、休職中の生活費を補填する健康保険の傷病手当金の申請についても、会社と相談しながら準備を進める必要があります。申請には会社からの証明が必要な場合が多いため、事前に確認しておくと安心です。

休職中の注意点:郵送物と有給休暇

休職中も、会社からは重要な連絡や書類が郵送される可能性があります。例えば、給与明細、社会保険料の案内、年末調整関連書類、傷病手当金の申請に必要な書類などです。これらの郵送物には個人情報が含まれているため、きちんと確認することが大切ですが、療養に専念するためにも、家族に内容を確認してもらうなど、精神的な負担を軽減する工夫も考慮しましょう。

また、休職期間中は原則として有給休暇を消化することはできません。有給休暇は「労働義務がある日に労働を免除される」制度であるため、休職中で労働義務が免除されている期間は、そもそも有給休暇を消化する対象とならないためです。ただし、休職に入る前に残っている有給休暇をまとめて消化することは可能ですので、休職申請時に会社と相談してみましょう。

傷病手当金は、療養のために会社を休んだ日から連続する3日間の待機期間の後、4日目以降の休業日に対して支給されます。有給休暇を消化した場合、その期間は待機期間に算入されますが、傷病手当金は支給されません。

復職を見据えた過ごし方と出勤率

休職中は、何よりも療養に専念することが最も重要です。無理に趣味活動や交流を増やすのではなく、医師の指示に従い、心身の回復に努めましょう。規則正しい生活リズムを保ち、十分な睡眠と栄養を摂ることが基本です。定期的な通院を怠らず、体調の変化は医師に正確に伝えるようにしてください。

復職が視野に入ってきたら、会社と連絡を取り、復職支援プログラム(リハビリ出勤、試し出勤など)の活用を検討しましょう。復職可否の判断において、安定した出勤率は重要な要素となります。リハビリ出勤などを通じて、徐々に生活リズムを仕事モードに戻し、体力や集中力が持続するかを確認することが大切です。完全に体調が回復していなくても、段階的に慣らしていくことで、スムーズな復職につながります。

復職の際には、再度医師の診断書が必要となります。休職中の過ごし方が、その後の社会復帰に大きく影響するため、焦らず、しかし着実に回復への道を歩むことを心がけましょう。


連鎖休職を防ぐために:企業ができること・個人ができること

企業が取り組むべき予防策

連鎖休職を防ぐためには、企業が主体的に予防策を講じることが不可欠です。まず重要なのは、業務負担の適正化です。業務の可視化や標準化を進め、特定の人に業務が集中しないよう分散できる体制を構築しましょう。休職者が出た場合でも、スムーズに業務が引き継げるよう、日頃から多能工化やマニュアル整備に努めることが有効です。

次に、心理的安全性の確保コミュニケーションの活性化が挙げられます。従業員が気軽に相談できる窓口(産業医、カウンセラーなど)を設置したり、上司が部下の話を傾聴し、支援を求めやすい環境を整備したりすることが重要です。定期的な面談やチームミーティングを通じて、従業員同士のコミュニケーションを促進し、孤立する社員を減らす努力も欠かせません。

さらに、早期発見と予防のために、定期的なストレスチェックを実施し、高ストレス者への適切なフォローや、管理職・従業員向けのメンタルヘルス教育研修を行うことで、不調のサインに早期に気づけるようにします。休職者に関する情報は、プライバシーに配慮しつつ、職場内の不安や誤解を防ぐための適切な情報共有も大切です。そして、復職支援プログラムを導入し、段階的な復職と復職後の丁寧なフォローアップを行うことで、再発防止と組織全体の回復力を高めることができます。

個人ができるセルフケアと相談の重要性

連鎖休職を防ぐためには、企業側の対策だけでなく、個人が主体的に自身の心身の健康を守るための行動も重要です。最も基本的なのは、日々のセルフケアを怠らないことです。十分な休息、バランスの取れた食事、適度な運動、趣味やリフレッシュの時間を確保するなど、ストレスマネジメントを意識した生活を送りましょう。規則正しい生活リズムを保ち、質の良い睡眠を確保することは、精神的な安定に直結します。

自分の心身のストレスサインに気づくことも大切です。例えば、「寝つきが悪くなった」「食欲がわかない」「集中力が続かない」「些細なことでイライラする」など、いつもと違う変化を感じたら、それは疲れやストレスの蓄積のサインかもしれません。これらのサインを見過ごさず、一人で抱え込まずに早期に相談することが非常に重要です。

信頼できる同僚、上司、友人、家族、会社の産業医やカウンセラー、社外の相談窓口、心療内科など、相談できる相手は複数あります。専門家の力を借りることで、問題が深刻化する前に適切な対処ができるようになります。仕事とプライベートの境界を明確にし、無理なく働くための自己認識と自己管理能力を高めることも、連鎖休職を防ぐ上で個人の重要な役割と言えるでしょう。

職場全体のコミュニケーション改善とサポート体制

連鎖休職を防ぐ上で、最も効果的なのは職場全体のコミュニケーションの改善と強固なサポート体制の構築です。風通しの良い職場環境は、社員が悩みを抱え込まずに相談できる土壌を育みます。定期的なチームミーティングや1on1面談だけでなく、業務以外の雑談の機会を増やすなど、気軽なコミュニケーションを促す工夫も有効です。

また、相互理解と助け合いの文化を醸成することも重要です。互いの業務内容や抱えている状況を理解し、困っている仲間がいれば自然に手を差し伸べられるようなチームワークを育むことが、業務負担の偏りを防ぎ、社員の孤立を防ぐことにつながります。特に管理職は、部下の心身の変化にいち早く気づき、適切に声をかけ、必要に応じて専門機関への橋渡しができるよう、メンタルヘルスに関する知識や傾聴スキルを向上させるための研修を受けるべきでしょう。

休職者への差別や偏見をなくし、復職者への温かい受け入れ体制を整えることも、再発防止と組織の健康に不可欠です。職場全体でメンタルヘルスへの理解を深め、誰かが不調に陥った際にチーム全体でサポートし合える意識を育むことが、結果として連鎖休職を未然に防ぎ、持続的に成長できる強い組織を作り上げる基盤となるでしょう。