概要: 休職中に収入が途絶えてしまう不安を解消!傷病手当金がいくらもらえるのか、受給条件や申請方法、さらには休職中の税金についても詳しく解説します。うつ病や適応障害などで休職する際の参考にしてください。
休職は、心身の健康を取り戻すために必要な期間ですが、その間の収入の心配は尽きないものです。特に、給与が途絶えることで生活への不安を感じる方も少なくありません。しかし、ご安心ください。健康保険制度には、病気や怪我で働けなくなった際に生活を支える大切な保障があります。それが、今回詳しく解説する「傷病手当金」です。
この記事では、休職中のあなたが安心して療養に専念できるよう、傷病手当金の支給条件から具体的な金額の計算方法、そして申請手順や注意点まで、徹底的に解説していきます。
休職を検討している方、すでに休職中の方、または将来に備えたい方も、ぜひ最後までお読みいただき、不安を少しでも和らげる一助としてください。
休職中、給与はどうなる?傷病手当金とは?
休職中の収入源の基本
休職することになった場合、まず気になるのが「休職中の給与はどうなるのか」という点でしょう。会社の就業規則にもよりますが、多くの企業では休職期間中の給与支払いは停止されるか、大幅に減額されることが一般的です。
一部の大企業では、休職初期に給与の一部が支払われる制度がある場合もありますが、それは稀なケースと言えるでしょう。有給休暇を使い切った後や、そもそも有給休暇が不足している場合は、収入が全くなくなるという事態も考えられます。
このような状況では、家賃や食費、医療費など、日々の生活費の確保が大きな課題となります。収入が途絶える不安は、療養に専念する上で大きな精神的負担となりかねません。
そのため、病気や怪我で働けなくなった際の生活を経済的にサポートするための公的制度の存在は非常に重要です。そこで活用したいのが、健康保険制度の一部である「傷病手当金」なのです。これは、給与が支払われない期間の生活を保障し、安心して治療に専念できる環境を整えることを目的としています。
傷病手当金の役割と目的
傷病手当金とは、健康保険の被保険者が、業務外の事由による病気や怪我の療養のために休業し、給与が支払われない場合に支給される手当金です。その最大の役割は、休職期間中の被保険者とその家族の生活を経済的に支えることにあります。
これにより、収入の心配をすることなく、治療や回復に専念できる環境を提供します。あくまでも「業務外」の病気や怪我による休業が対象となるため、仕事中の事故や業務が原因の病気の場合は、労災保険の「休業補償給付」の対象となりますので、混同しないように注意が必要です。
この制度は、健康保険に加入している全ての会社員や公務員が対象となり、病気や怪我の種類は問いません。風邪やインフルエンザなどの短期的なものから、うつ病などの精神疾患、癌などの重い病気、あるいは交通事故による怪我など、幅広いケースで適用される可能性があります。
安定した生活基盤を維持し、安心して社会復帰を目指せるよう、傷病手当金は重要なセーフティネットとしての役割を担っているのです。
対象となる人・ならない人
傷病手当金の対象となるのは、原則として健康保険の被保険者です。会社員や公務員として企業や官公庁に勤務し、健康保険に加入している方がこれに該当します。正社員だけでなく、パートやアルバイトの方でも、会社の健康保険に加入していれば条件を満たすことで支給対象となり得ます。
一方で、対象とならない主なケースとしては、国民健康保険に加入している自営業者やフリーランスの方が挙げられます。国民健康保険には傷病手当金のような制度は原則としてありません。
ただし、一部の自治体では独自の傷病手当金制度を設けている場合もあるため、お住まいの自治体の窓口に確認してみるのも良いでしょう。また、後期高齢者医療制度の被保険者も原則として対象外です。
健康保険の扶養家族も、被保険者本人ではないため、傷病手当金は受け取れません。このように、ご自身の健康保険の種類によって、制度の利用可否が大きく変わるため、まずはご自身の加入している健康保険を確認することが大切です。
傷病手当金をもらえる条件とは?
「業務外」の病気や怪我であること
傷病手当金を受け取るための最初の重要な条件は、その病気や怪我が「業務外の事由」によるものであることです。これは、仕事中や通勤中に発生したものではないことを意味します。
例えば、プライベートでの交通事故による骨折、自宅での転倒、風邪やインフルエンザ、ストレスによるうつ病など、業務とは直接関係のない事由で療養が必要になった場合がこれに該当します。もし、仕事中に怪我をした、あるいは業務が原因で病気になった場合は、労災保険の対象となり、「休業補償給付」が支給されることになります。
労災保険と傷病手当金は、支給される保険制度が異なるため、申請先もそれぞれ異なります。どちらの制度を利用すべきかは、怪我や病気の原因が業務に起因するか否かで判断されます。
美容整形手術や、病気ではないが病気とみなされない歯の治療(インプラントなど)、健康診断での異常が見つかっただけの状態(療養を伴わない場合)などは、原則として対象外となります。この「業務外」という点が、制度適用を判断する上で非常に重要な基準となることを覚えておきましょう。
「療養のため仕事に就けない」状態の判断
二つ目の条件は、「療養のため仕事に就けないこと」、つまり労務不能であると認められることです。これは単に「体調が悪いから休む」という自己判断だけでは足りません。最も重要な判断基準となるのは、医師の意見や診断です。
医師が、あなたの病状や治療計画を総合的に評価し、「現在の健康状態では、通常従事している業務に就くことが困難である」と判断した場合に、この条件を満たすと認められます。具体的には、申請書に添付する「療養担当者(医師)記入用」の欄に、医師が病名、症状、治療内容、そして「労務不能である期間」を明記することが求められます。
単に「休養が必要」という漠然とした診断ではなく、就労が困難である具体的な理由が記されていることが重要です。また、自身の業務内容(身体的負担が大きいか、精神的な集中力が必要かなど)と症状を照らし合わせて、客観的に就労が難しいと判断される必要があります。
無理をして出勤した場合、申請が却下される可能性もあるため、医師の指示に従い、適切な療養に専念することが大切です。
待期期間と支給対象期間
傷病手当金の支給が始まるには、「待期期間」というルールがあります。これは、連続する3日間休業していることを指し、この3日間は支給の対象とはなりません。
つまり、仕事を休んだ日が連続して3日間あって初めて、4日目以降の休業日が支給対象となります。この「連続する3日間」の待期期間には、土日祝日などの公休日や、有給休暇を取得した日も含まれます。
例えば、月曜日から水曜日まで休んだ場合、この3日間が待期期間となり、木曜日から傷病手当金の支給対象となります。待期期間の考え方は以下の通りです。
- 連続した3日間の休業が必要(この期間は支給対象外)
- 待期期間には、有給休暇、土日祝日も含む
- 待期期間が完成すれば、その後の休みが飛び飛びでも、同一傷病であれば再度の待期期間は不要
傷病手当金の支給期間は、支給開始日から最長1年6ヶ月間です。この期間内に症状が改善し仕事に復帰した場合は、そこで支給は終了します。もし途中で一時的に復職しても、再び同一の傷病で休業した場合は、残りの期間内で再度支給を受けることが可能です。
傷病手当金はいくらもらえる?計算方法を解説
支給額の基本的な計算式
傷病手当金で実際にいくらもらえるのかは、多くの方が最も知りたい情報の一つでしょう。傷病手当金の1日あたりの金額は、以下の計算式で求められます。
(支給開始日以前の継続した12ヶ月間の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日) × 2/3
この計算式に出てくる「標準報酬月額」とは、給与額を区切りの良い幅で区分した金額のことで、社会保険料の計算にも使われています。ざっくり言うと、休業前の月給(手取りではなく総支給額に近い額)を30で割って日額を出し、その約3分の2が支給されると考えると分かりやすいでしょう。
健康保険組合によっては、付加給付としてさらに上乗せして支給される場合もありますが、これは加入している健康保険組合によって異なりますので、ご自身の組合の規約を確認してください。この計算方法により、収入が途絶えることによる生活への打撃を、ある程度軽減できる仕組みとなっています。
具体的な計算例と目安
先ほどの計算式を使って、具体的な支給額の例を見てみましょう。
例えば、支給開始日以前の継続した12ヶ月間の標準報酬月額の平均が「30万円」だった場合、1日あたりの支給額は以下のようになります。
標準報酬月額30万円の場合:
(30万円 ÷ 30日) × 2/3 = 10,000円 × 2/3 = 約6,667円(1日あたり)
これを1ヶ月(30日)に換算すると、約20万円となります。
また、月収が20万円程度の方の場合(標準報酬月額が約20万円と仮定)、1日あたりの支給額は以下のようになります。
月収20万円程度の場合(標準報酬月額約20万円):
(20万円 ÷ 30日) × 2/3 = 約6,667円 × 2/3 = 約4,440円(1日あたり)
これを1ヶ月(30日)に換算すると、約13.3万円が目安となります。
これらの金額は、あくまで目安であり、過去1年間の給与変動や加入している健康保険組合の規定によって実際の支給額は異なります。正確な金額を知りたい場合は、ご自身の標準報酬月額を確認し、計算してみるか、健康保険組合に問い合わせてみましょう。
給与との調整について
休業期間中に会社から給与が支払われた場合、傷病手当金の支給額が調整されることがあります。原則として、給与が支払われている期間は傷病手当金は支給されません。
しかし、「休業期間中の給与の日額が、傷病手当金の日額より少ない場合」には、その差額が傷病手当金として支給されます。これは、被保険者の生活を保障するという制度の目的によるものです。
例えば、1日あたりの傷病手当金が6,000円であるにもかかわらず、会社から病気休暇手当として1日あたり3,000円が支給された場合、差額の3,000円が傷病手当金として支給されることになります。この調整が行われることで、たとえ会社からの手当があったとしても、傷病手当金で生活水準が大きく下がらないよう配慮されています。
また、有給休暇を取得している期間は、給与が支払われているとみなされるため、傷病手当金は支給されません。そのため、有給休暇を先に消費するか、傷病手当金を申請するかは、ご自身の状況に合わせて判断する必要があります。
一般的には、有給休暇を使い切ってから傷病手当金を申請するケースが多いですが、会社の規定や経済状況を考慮して選択しましょう。
傷病手当金の申請方法と注意点(診断書・いつからいつまで)
申請書の入手から提出までのステップ
傷病手当金の申請は、いくつかのステップを踏む必要があります。まず、長期休業が必要と判断された場合は、速やかに会社の人事または総務担当部署に報告し、休職の意思を伝えることが重要です。
次に、傷病手当金支給申請書を入手します。これは、加入している健康保険組合や協会けんぽのウェブサイトからダウンロードできるほか、会社の担当部署からも提供される場合があります。申請書は大きく分けて3つのパートに分かれています。
- 被保険者記入用: あなた自身が休業期間、傷病名、振込口座などを記入します。
- 事業主(会社)記入用: 会社が休業期間中の給与支払いの有無やその金額などを証明します。
- 療養担当者(医師)記入用: 医師が傷病名、病状、就労不能であることなどを診断し、証明します。
全ての記入が完了したら、加入している健康保険組合または協会けんぽに提出します。提出方法は、直接持参するか、郵送で行うのが一般的です。会社が手続きを代行してくれる場合もあるので、会社の担当部署に確認してみましょう。
診断書(療養担当者記入用)の重要性
傷病手当金の申請において、医師が記入する「療養担当者(医師)記入用」の診断書は、最も重要な書類の一つです。この診断書によって、あなたが本当に「療養のため仕事に就けない(労務不能)」状態であることが客観的に証明されます。
医師は、あなたの傷病名、現在の症状、治療内容、そして具体的な就労不能期間を明確に記載します。もしこの診断書の内容が不十分であったり、就労可能と判断されるような記載があったりすると、傷病手当金が支給されない可能性があります。
そのため、医師には現在の病状や仕事内容を正確に伝え、労務不能と判断される理由を具体的に記載してもらうよう依頼することが大切です。また、傷病手当金は原則として1ヶ月単位で申請する場合が多く、その都度医師の診断書が必要となるため、定期的な受診と診断書の依頼が必要となることも覚えておきましょう。
診断書の発行には費用がかかる場合がありますが、これは通常自己負担となります。
申請期間と退職後の継続給付
傷病手当金には、申請期限が設けられています。それは、休業した日ごとに、その翌日から起算して2年間です。この期限を過ぎてしまうと、時効により傷病手当金を受け取る権利が消滅してしまうため、十分に注意が必要です。
休業が長期にわたる場合でも、まとめて申請するのではなく、定期的に(例えば1ヶ月ごとなど)申請手続きを行うことをお勧めします。また、休職中に退職することになった場合でも、条件を満たせば退職後も傷病手当金の受給を継続できる場合があります。これを「退職後の継続給付」と呼びます。主な条件は以下の通りです。
- 退職日(資格喪失日の前日)までに、1年以上継続して健康保険の被保険者期間があること。
- 退職日に、すでに傷病手当金を受給しているか、受給できる状態(待期期間が完了し、労務不能状態が継続している)であること。
- 資格喪失後も、同じ傷病により引き続き労務不能であること。
これらの条件を満たせば、退職後も引き続き最長1年6ヶ月の期間内で傷病手当金を受け取ることができます。退職を検討している場合は、事前に健康保険組合や会社の担当部署に相談し、詳細な条件を確認しておくことが重要です。
休職中の税金やその他の制度について
社会保険料と税金の取り扱い
休職中に傷病手当金を受給する際に、気になるのが税金や社会保険料の扱いです。まず、傷病手当金は「非課税所得」であり、所得税や住民税の対象にはなりません。
そのため、確定申告をする必要もありませんし、この金額が原因で税金が増えることもありません。これは、傷病手当金が病気や怪我による生活保障を目的とした公的給付であるためです。
しかし、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)については注意が必要です。傷病手当金を受給している間も、健康保険の被保険者である限り、これらの社会保険料の支払い義務は基本的に継続します。
休職中の給与がない、あるいは減額されている状況で、社会保険料の負担は大きく感じられるかもしれません。会社によっては、休職中の社会保険料の一部を会社が負担してくれたり、納付方法について相談に乗ってくれたりするケースもあります。必ず会社の担当部署に確認し、支払い方法や負担額について相談しましょう。
住民税についても、前年の所得に応じて課税されるため、休職中でも支払い義務は継続します。
他の給付金との調整
傷病手当金は、他の公的な給付金と調整される場合があります。これは、同じ理由(病気や怪我による休業)で複数の制度から重複して給付を受けられないようにするためです。
具体的には、出産手当金、障害厚生年金、障害手当金、労災保険の休業補償給付などを受けている場合、傷病手当金の金額が減額されたり、支給そのものが停止されたりすることがあります。
ただし、これらの他の給付金の金額が、傷病手当金として支給されるはずだった金額を下回る場合は、その差額が傷病手当金として支給されます。例えば、労災保険の休業補償給付で傷病手当金の日額より少ない金額が支給されている場合、不足分を傷病手当金で補填してもらえるイメージです。
つまり、完全に二重取りはできませんが、支給額が少ない場合は差額が補填され、生活が極端に困窮しないように配慮されています。ご自身の状況で複数の給付を受ける可能性がある場合は、事前に健康保険組合や各関係機関に相談し、最も有利な制度や調整方法を確認することが賢明です。
休職中の生活を支えるその他の制度
傷病手当金以外にも、休職中の生活を支えるための様々な制度があります。まず、勤めている会社の福利厚生制度を確認しましょう。
企業によっては、傷病手当金とは別に、独自の休職中の給与補償制度や見舞金制度を設けている場合があります。これは、会社の就業規則や労働契約書で確認できますので、必ず担当部署に問い合わせてみましょう。
また、病気や怪我の治療費が高額になる場合は、高額療養費制度の利用を検討してください。これは、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1ヶ月の上限額を超えた場合、その超えた分が支給される制度です。
自己負担限度額は所得によって異なりますが、家計への大きな負担を軽減できます。さらに、一時的に生活費に困窮する場合には、市町村社会福祉協議会が実施している生活福祉資金貸付制度なども選択肢の一つとなります。これらの制度を上手に活用することで、経済的な不安を最小限に抑え、安心して療養に専念できる環境を整えることができます。
まとめ
よくある質問
Q: 休職中に給与は支払われますか?
A: 会社の規定によります。就業規則で休職中の給与の支払いが定められている場合もありますが、一般的には無給となるケースが多いです。そのため、傷病手当金などの公的制度の活用が重要になります。
Q: 傷病手当金を受給するための主な条件は何ですか?
A: 健康保険に加入しており、病気やケガのために療養中で、仕事ができない状態であること、4日以上連続して休業していること、休業中の給与が支払われていないことなどが主な条件です。
Q: 傷病手当金はいくらくらいもらえますか?
A: 標準報酬月額の3分の2が、1日あたりで計算されます。具体的な金額は、ご自身の標準報酬月額によって異なります。
Q: 傷病手当金はいつからもらえますか?また、いつまでもらえるのでしょうか?
A: 休業4日目から支給対象となります。支給期間は、病気やケガが治るまで、または最長で1年6ヶ月までです。うつ病や適応障害などの精神疾患の場合も同様に適用されます。
Q: 傷病手当金を受け取るために必要な診断書は、いつ発行してもらえますか?
A: 休職を開始し、医師の診断を受けた後、所定の期間(通常は休業開始日以降)に発行してもらうことができます。申請書類と合わせて、早めに医師に相談しましょう。