概要: 本記事では、人事評価の書き方とその例文を職種別に解説します。新人、事務職、看護師、保育士、公務員など、それぞれの状況に合わせた具体的なコメント例も紹介。評価者(上司)が理解しやすく、被評価者(部下)の成長を促すためのポイントを網羅します。
【例文あり】人事評価の書き方とコメント例|新人・事務職・看護師・保育士・公務員
人事評価は、従業員の成長を促し、モチベーションを高め、ひいては組織全体の活性化に繋がる非常に重要なプロセスです。
しかし、「どのように書けば、相手にきちんと伝わり、行動変容を促せるのか?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
この記事では、人事評価の基本的な考え方から、職種別のコメント例文、上司が唸る効果的な書き方のコツ、そしてよくある疑問まで、人事評価に関するあらゆる情報をご紹介します。
具体的な例文とともに解説していきますので、ぜひ最後までお読みいただき、今日から実践できる人事評価の書き方を見つけてください。
人事評価の書き方基本のキ!押さえるべきポイント
人事評価の目的と評価軸の理解
人事評価を効果的に行うためには、まずその目的と評価軸を深く理解することが不可欠です。
人事評価の主な目的は、単に個人の業績を測るだけでなく、従業員の納得感を醸成し、今後の成長を支援することにあります。具体的には、個人の能力や貢献度を客観的に評価して昇給や昇進などの処遇に反映させる「公平な評価の実現」、評価結果やフィードバックを通じて従業員の強みや課題を明確にする「人材育成の促進」が挙げられます。
さらに、企業が求める人物像や行動指針を明確にし、組織全体のベクトルを合わせる「会社の方向性の共有」、そして頑張りが正当に評価されることで従業員のモチベーションを高め、離職率の低下につなげる「モチベーション向上と定着率改善」も重要な目的となります。
評価軸は、一般的に「成果評価」「能力評価」「情意評価」の3つに分けられます。
- 成果評価: 設定目標への達成度や具体的な業務成果を評価します。営業職の売上目標達成率や、事務職の業務処理件数などが該当します。
- 能力評価: 業務遂行に必要な知識、スキル、経験などを評価します。PCスキルやコミュニケーション能力、専門知識などが評価対象です。
- 情意評価: 業務への意欲、勤務態度、責任感、協調性、チームワークなどを評価します。積極性や連携姿勢などが含まれます。
これらの目的と評価軸を念頭に置くことで、より建設的で納得感のある評価に繋げることができます。
具体的なコメントの重要性
人事評価において、単なる点数やランク付けだけでは、従業員の心に響くフィードバックとはなりません。
評価の納得感を高め、今後の行動改善を促す上で不可欠なのが、具体的で示唆に富んだコメントです。抽象的な表現、「頑張ってほしい」や「もう少し努力が必要」といったコメントでは、従業員は何をどう改善すれば良いのか分かりません。例えば、営業職の成果評価で「売上が足りない」とだけコメントされても、具体的にどの点を見直すべきか、どのような行動を取るべきかが見えてきません。
しかし、「〇〇プロジェクトにおける目標達成率が80%だったのは、新規顧客へのアプローチ件数が前四半期比で20%減少したことが主な要因であると考えられます。特に、〇〇製品の特性を活かした提案資料の改善と、週に3件以上の新規アポイント獲得を期待します」といった具体的なコメントであれば、従業員は自身の課題を明確に認識し、具体的な改善策を立てることができます。
看護師の場合であれば、「患者様への丁寧な声かけは素晴らしいですが、ヒヤリハット報告数が目標を下回っています。多忙な中でも、小さな気づきを積極的に共有することで、チーム全体の安全意識向上に貢献してください」といったコメントは、良い点と改善点を具体的に示し、成長への期待を伝えることができます。
このように、具体的なコメントは、評価が客観的であるという信頼感を与え、従業員が自身の行動を振り返り、自律的に成長するための重要なきっかけとなるのです。
評価コメント作成の基本ルール
効果的な人事評価コメントを作成するためには、いくつかの基本的なルールがあります。これらを意識することで、評価の質を飛躍的に向上させることができます。
- 具体性: 抽象的な表現は避け、具体的な行動や事例を挙げて記述します。「業務を頑張った」ではなく、「〇〇プロジェクトにおいて、困難な課題だった△△の解決に向けて、自ら積極的に〇〇部門と連携し、最終的に目標を2週間前倒しで達成した」といったように、いつ、どこで、何を、どのように行ったかを明確に示しましょう。
- 客観性: 事実に基づき、数値やデータを用いることで、客観的で公平な評価を目指します。「処理が速い」ではなく、「〇〇業務において、処理時間を従来の20%短縮し、部署全体の効率化に貢献した」のように、具体的な数字で成果を裏付けます。
- バランス: 成果だけでなく、努力やプロセス、そして課題点にも触れ、プラス面とマイナス面の両方をバランス良く記載します。ポジティブな点を先に伝え、改善点を建設的に述べる「サンドイッチ方式」も有効です。
- 改善提案: 課題点を指摘する際には、必ず具体的な改善策や今後の期待を添えることで、従業員の成長を促します。「コミュニケーション能力が不足している」で終わらせず、「今後は、会議での発言回数を増やす、または〇〇研修に参加し、自身の意見を明確に伝える練習を積むことを期待します」と具体的に示します。
- ポジティブな表現: 相手を否定するような表現や人格を否定するコメントは絶対に避けましょう。常に前向きな姿勢でフィードバックを行い、従業員のやる気を引き出す言葉を選びます。「〇〇ができていない」ではなく、「〇〇ができるようになるために、△△を期待しています」のように、未来志向で伝えます。
これらのルールを意識してコメントを作成することで、従業員は評価を前向きに受け止め、自身の成長へと繋げることができるでしょう。
【職種別】人事評価コメント例文集:新人・事務職・看護師・保育士・公務員
新人と事務職のコメント例
職種によって求められる能力や成果は異なるため、人事評価のコメントも職種特性に合わせて記述することが重要です。まずは、新人と事務職のコメント例を見ていきましょう。
新人
新人の評価では、基礎的な業務の習得度合いや、積極性、成長意欲に焦点を当てます。
- 評価者コメント例: 「入社後3ヶ月で基本業務の習得が早く、指示された業務は常に正確にこなしており、期待以上のパフォーマンスを発揮しています。特に、〇〇業務におけるマニュアル作成では、積極的に先輩社員に質問し、短期間で完成させた点は高く評価できます。今後は、既存業務の改善点を見つけ、より主体的に業務に取り組む姿勢を期待します。」
- 自己評価コメント例: 「配属後、新しい環境と業務に戸惑うこともありましたが、一つひとつの指示内容を確実に実行することを意識しました。その結果、与えられた業務は期日内に正確に完了できたと認識しています。来期は、単に指示を待つだけでなく、業務の改善点を見つけ、自ら提案できるよう、積極的に学びの機会を増やしていきたいです。また、先輩方とのコミュニケーションを密に取り、チームへの貢献度を高める努力をします。」
新人の場合は、具体的な成長の兆しや努力を認めつつ、次なるステップへの期待を具体的に示すことが重要です。
事務職
事務職は、正確性、効率性、そして周囲との連携が特に重視されます。具体的な数値や事例を盛り込みましょう。
- 成果評価コメント例: 「期日内に正確に業務を処理するだけでなく、常に効率化を意識した業務遂行により、部署全体の生産性向上に大きく貢献しました。特に、〇〇業務のデータ入力プロセスにおいて、VBAを活用した自動化を提案・導入したことで、処理時間を従来の20%削減できました。これにより、他メンバーの負担軽減にも繋がり、部署全体の残業時間削減にも寄与しています。」
- 能力評価コメント例: 「高いPCスキル(特にExcel、Access)を活かして複雑なデータ管理を効率化し、他部署との情報共有を円滑に進めました。また、〇〇に関する問い合わせ対応においては、専門知識を活かして迅速かつ的確な回答を提供し、顧客満足度向上にも貢献しています。さらに、マニュアル作成能力も高く、新人教育にも大いに役立っています。」
- 情意評価コメント例: 「常に前向きな姿勢で業務に取り組み、細やかな気配りで部下や同僚をサポートし、チーム全体のモチベーション向上に大きく寄与しました。突発的な業務にも柔軟に対応し、周囲と協力しながら円滑な業務運営を支えています。改善提案も積極的に行い、部署の働きやすい環境づくりにも貢献する模範的な存在です。」
- 自己評価コメント例: 「前年度と比べて書類不備が20%減少し、業務の正確性が向上しました。この目標達成のために、書類のダブルチェックを欠かさず行い、ミスの発生源を特定して対策を講じました。また、新規採用者に向けて業務マニュアルを体系的に作成し、引き継ぎ業務の効率化と早期戦力化に貢献できたと感じています。来期は、さらにRPA導入による定型業務の自動化を提案し、部署全体の生産性向上を目指します。」
事務職の評価では、業務改善への貢献や、データに基づいた成果を具体的に示すことが説得力を持たせるポイントです。
看護師と保育士のコメント例
医療・福祉現場では、数値目標だけでは測れない「人」に寄り添う力が求められます。情意評価や患者・保護者への対応を具体的に記述しましょう。
看護師
看護師の評価では、安全確保、患者対応、チーム連携、専門知識が主な評価ポイントです。定性的な評価が特に重要になります。
- 評価者コメント例: 「日々の業務を効率的かつ安全確保を最優先に遂行しており、その責任感の高さは高く評価できます。人員不足の中、他のスタッフと積極的に連携し、緊急時にも冷静に対応する姿は模範的です。患者様だけでなくご家族への声かけも常に丁寧で、きめ細やかなサポートにより、安心感を与えています。ただし、ヒヤリハット報告数が目標値を下回っていたため、今後は小さなリスクも積極的に報告し、チーム全体の安全管理体制強化に貢献することを期待します。」
- 自己評価コメント例: 「患者様だけでなく、そのご家族にも常に優しい声がけができるように意識し、相談しやすい雰囲気づくりに努めています。入院中の患者様が安心して治療に専念できるよう、傾聴と共感を大切にしたケアを実践しました。また、朝礼で物品の在庫状況や使用頻度を共有することで、品切れを未然に防ぎ、スムーズな医療提供に貢献しました。今期は院外研修にも2回参加し、糖尿病看護に関する最新知識を習得するなど、看護知識のレベルアップに努めました。来期は、特定行為研修の受講も視野に入れ、より専門性の高いケアを提供できるよう精進します。」
- 情意評価コメント例: 「医療現場では、単なる数値や売上では評価できない部分が多く存在します。そのため、定性的かつ多角的な視点が求められます。24時間体制の業務や緊急対応といった特性もあるため、突発的な状況への柔軟性、チームメンバーとの協調性、そして患者様の命を預かる重い責任感といった情意面の評価が特に重視されます。常に冷静で的確な判断力、そして何よりも患者様とそのご家族に寄り添うホスピタリティ精神が、看護師の評価において欠かせない要素です。」
看護師の場合、命に関わる責任感や、患者・家族への寄り添い方が重要な評価ポイントとなります。
保育士
保育士の評価は、子どもたちへの接し方、保護者との連携、安全管理、チームワークなどが重要です。個々の成長に合わせた具体的な関わり方を記述しましょう。
- 評価者コメント例: 「常に明るく精力的に業務へ携わる姿が非常に好印象であり、子どもたち一人ひとりの個性を尊重した関わり方で、子どもと保護者双方から高い評価を得ています。特に保護者サポートに対する熱意が高く、子育て支援が必要な家庭へのきめ細やかな対応は、安心感を与え、園への信頼を高めています。この素晴らしい姿勢は、今後も継続してほしいです。今後は、チームとしての連携にもさらに目を向け、同僚や新人保育士への積極的な情報共有やアドバイスを通じて、園全体の保育の質向上に貢献することを期待しています。」
- 自己評価コメント例: 「常に子どもたちの目線に合わせ、話を聞くことを意識し、信頼関係を築くことに注力しました。特に、言葉での表現が難しい園児には、ジェスチャーや絵カードを用いるなど工夫し、気持ちを汲み取る努力をしました。また、先輩保育士の保育の様子から、子どもを惹きつける手遊びや絵本の読み聞かせの技術をたくさん覚えることができました。これを実践することで、子どもたちがより楽しんで保育に参加する姿を見ることができ、自身の成長を感じています。来期は、季節の行事計画にも積極的に関わり、子どもたちの豊かな感性を育む活動を企画していきたいです。」
- 目標設定例: 「連絡帳を活用し、園生活以外での子どもの状況(家庭での様子や体調変化など)にも細やかに目を向け、保護者との密な連携を強化する。また、積極的に新人保育士の指導や相談にかかわり、自身の経験や知識を伝えることで、園全体のチーム力向上に貢献する。」
保育士の評価では、子どもたちへの深い理解と愛情、保護者への丁寧な対応、そしてチームとして園を支える姿勢が評価の鍵となります。
公務員のコメント例
公務員の評価は、法令遵守、住民サービスへの貢献、業務改善、正確性、そして協調性が重視されます。公益性と効率性を両立させる視点が重要です。
- 評価者コメント例: 「担当業務に関する課題に対し、常に高い問題意識を持ち、先頭に立って改善策を提案していた姿勢を高く評価します。特に、〇〇手続きにおける非効率性を指摘し、その解決のためにマニュアル作成や研修会の準備・運営を主導しました。これにより、部署全体の業務効率化及び職員のスキルアップに大きく貢献し、住民サービスの質の向上にも繋がりました。来期も、既存の枠にとらわれず、新たな仕組みづくりや政策提言に積極的に取り組むことを期待しています。そのリーダーシップを活かし、チーム全体のパフォーマンス向上にも寄与してください。」
- 自己評価コメント例: 「部署内にて書類の不備や業務のミスが多いことが長年の課題であったため、この現状を改善するため、率先して具体的な改善策の提示と実行を行いました。具体的には、既存業務フローの見直しを提案し、共通マニュアルの作成や、定期的な研修会の実施を通じて、部署全体のスキルアップと意識改革を促しました。その結果、既存の業務に関しては、ヒューマンエラーによるミスを30%削減することができました。しかし、依然として紙媒体での業務が多く、ペーパーレス化やデジタル化といった新たな課題も見えてきました。来期は、住民サービスの正確性を保ちながら、DX推進による業務の効率化をさらに進めるべく、新たな仕組み作りに注力したいと考えています。他部署との連携も強化し、より広範囲な業務改善を目指します。」
公務員の評価では、住民に対する責任感、法令順守意識、そして組織全体の効率化やサービス向上にどれだけ貢献したかが重要なポイントです。具体的な業務改善の事例や、その成果を数値で示すことで、説得力が増します。
上司が唸る!効果的な人事評価コメントの書き方
具体性と客観性を高める秘訣
上司が「なるほど」と唸るようなコメントを作成するためには、具体性と客観性を徹底することが不可欠です。
「頑張りが足りない」「もっと努力が必要」といった抽象的な表現では、被評価者は何を改善すれば良いのか理解できず、不満や反発を招きかねません。これでは、せっかくの人事評価が、成長の機会ではなく単なる通知表になってしまいます。
具体性を高めるためには、「いつ、どこで、何を、どのように行い、どのような結果になったか」を明確に記述することが重要です。例えば、「コミュニケーション能力が高い」という評価も、「〇〇プロジェクトの定例会議において、異なる意見を持つ部署間での調整役を担い、双方の意見を丁寧にヒアリングし、建設的な解決策を導き出した。その結果、プロジェクトの進行が2週間早まった」と記述すれば、具体的な行動と成果が伝わります。
また、客観性を担保するためには、数値やデータを積極的に活用しましょう。事務職の例で「業務処理件数が向上した」よりも、「毎日の〇〇処理件数が前月比15%増加し、ミス率も0.5%に抑えられた」と具体的な数字で示すことで、評価の根拠が明確になり、公平性が増します。営業職であれば「売上目標達成率110%」のように、目標に対する達成度を数値で示します。これらのデータは、日頃の業務日報やプロジェクトの記録から収集することが可能です。
客観的な事実に基づいた具体的なコメントは、被評価者が自身の評価を納得し、次の行動に繋げるための強力な指針となります。主観や感情を排し、事実とデータで語る姿勢が、評価コメントの説得力を高める秘訣です。
バランスの取れたフィードバック術
効果的な人事評価コメントは、ポジティブな面と改善すべき面の双方をバランス良く伝えることで、被評価者のモチベーションを維持しつつ成長を促します。
良い点ばかりを羅列すると、被評価者は「自分は完璧だ」と誤解し、成長の機会を逃してしまう可能性があります。一方で、悪い点ばかりを指摘すると、やる気を失わせ、反発を招くことにもなりかねません。ここで活用したいのが「サンドイッチ方式」と呼ばれるフィードバック手法です。
サンドイッチ方式では、まず良い点を具体的に伝えて被評価者の受け入れ態勢を整え、次に改善すべき点を建設的に指摘し、最後に再び良い点や今後の期待を伝えて締めくくります。これにより、被評価者は自身の課題を前向きに受け止めやすくなります。
例えば、「〇〇さんの提案力は非常に高く、〇〇プロジェクトでは斬新なアイデアでチームを牽引してくれました(良い点)。しかし、その一方で、意見が通らないと少し感情的になる傾向が見受けられます。今後は、チームメンバーの意見にも耳を傾け、調整を図ることで、より良い結果に繋がるはずです(改善点)。〇〇さんの発想力と行動力はチームに不可欠であり、今後さらなるリーダーシップを発揮してくれることを期待しています(期待)。」といった形です。
また、成果だけでなく、目標達成に向けた「努力のプロセス」や、チームへの「貢献姿勢」といった情意面にも言及することで、評価の深みが増します。たとえ目標達成に至らなくても、その過程でどのような工夫をし、何を学び、どのように周囲と協力したのかを評価することで、被評価者は自分の頑張りが正当に認められたと感じ、次への意欲に繋がるでしょう。バランスの取れたフィードバックは、信頼関係を築き、持続的な成長を支援するための重要なスキルです。
成長を促す改善提案とポジティブ表現
人事評価コメントは、単に過去の行動を評価するだけでなく、未来の成長を促すための具体的な指針となるべきです。
そのためには、課題点を指摘する際に、必ず具体的な改善策や今後の期待を添えることが重要になります。単に「〇〇が足りない」と指摘するだけでは、被評価者は途方に暮れてしまいます。例えば、「プレゼンテーション能力に課題がある」と伝えるのではなく、「〇〇プロジェクトでのプレゼンでは、データに基づいた説明が不足していたため、聞き手の理解が得られにくい場面がありました。今後は、プレゼンテーションスキル向上のための外部研修への参加や、チーム内での模擬プレゼンを通じた練習を提案します。〇〇さんの持つ専門知識を効果的に伝えることで、より大きな成果が出せるはずです」のように、次に何をすべきかを具体的に示しましょう。
さらに、コメント全体を通してポジティブな表現を意識することも非常に大切です。ネガティブな言葉や人格を否定するような表現は、被評価者のモチベーションを著しく低下させ、評価への納得感も得られにくくなります。「〇〇ができていない」ではなく、「〇〇ができるようになるために、△△を期待しています」といった未来志向の言葉を選ぶように心がけましょう。
また、改善点を指摘する際にも、「残念ながら」「しかし」といった言葉よりも、「一方で」「加えて」などの接続詞を使い、評価全体が前向きなトーンになるよう工夫します。被評価者の強みを再確認させ、その上で改善点に言及することで、弱みを克服する意欲を引き出しやすくなります。
具体的な改善提案とポジティブな言葉の選択は、被評価者が評価を「自分を成長させるためのアドバイス」として受け止め、主体的に行動変容を起こすための鍵となります。これらの工夫を凝らすことで、上司が「ここまで考えてくれているのか」と唸る、質の高い評価コメントを作成することができるでしょう。
人事評価をスムーズに進めるための注意点
評価割合(数値)の考え方
人事評価において、点数やランク付けを行う際に、どのように割合(配分)を決定するかは非常に重要なポイントです。
主な評価方法として、「絶対評価」と「相対評価」の2種類があります。
-
絶対評価:
設定された基準を満たしているかを個別に評価する方法です。他者との比較は行いません。
例えば、「売上目標達成率110%以上の社員全員に最高評価の5をつける」といったケースがこれにあたります。
メリットは、個人の努力や成長が直接評価に結びつき、モチベーションを保ちやすい点です。
デメリットは、評価者によって基準にばらつきが生じる可能性や、組織全体の評価分布が偏る可能性がある点です。 -
相対評価:
社内の他の従業員と比較して評価する方法です。あらかじめ評価ランクごとに人数を割り当てます。
例えば、5段階評価の場合、最高評価(5)を全社員の10%に、次の評価(4)を20%に、といったように配分を設定します。
具体的な配分例としては、正規分布に基づき、S評価(最上位)を5~10%、A評価を20~25%、B評価を50%程度、C評価を15~20%、D評価(最低位)を5~10%とする方法があります。
メリットは、組織全体の評価バランスを保ちやすく、人件費管理がしやすい点です。
デメリットは、成果を出していても枠の関係で高評価が得られない場合があり、不公平感やモチベーション低下に繋がりやすい点です。
どちらの方法にも一長一短があるため、企業やチームの業績、文化、そして評価の目的に合わせて調整することが重要です。
多くの場合、絶対評価で個々の成果や能力を評価しつつ、最終的な昇給・昇進の判断には相対評価の要素を一部取り入れるなど、両者を組み合わせた運用がされています。評価の公平性と納得感を高めるために、評価方法とその基準を従業員に明確に開示することも大切です。
評価システム導入のメリット
人事評価をよりスムーズかつ効率的に進めるためには、人事評価システムの導入が非常に有効な手段となります。
手作業での評価シート作成、管理、集計は、評価者・被評価者双方にとって大きな負担となりがちです。特に、従業員数が多い企業や、多角的な評価(360度評価など)を取り入れている組織では、その手間は計り知れません。
人事評価システムを導入することで、以下のような多岐にわたるメリットが期待できます。
- 評価シートの作成・管理の効率化:
システム上で評価項目やテンプレートを一元管理できるため、評価シートの作成時間を大幅に短縮できます。また、過去の評価履歴も簡単に参照できるため、長期的な視点での人材育成に役立ちます。 - コメントやフィードバックの記録・共有:
評価コメントを直接システムに入力できるため、手書きの煩雑さや紛失のリスクがなくなります。評価者間での情報共有も容易になり、公平な評価に繋がりやすくなります。 - 集計・分析の自動化:
評価結果の集計や分析をシステムが自動で行うため、評価者の負担を軽減し、人為的なミスを防ぎます。評価データをグラフやレポート形式で可視化できるため、組織全体の傾向分析や課題発見にも役立ちます。 - 公平性と客観性の向上:
評価基準やプロセスをシステムに組み込むことで、評価者ごとのばらつきを抑え、より公平で客観的な評価を実現しやすくなります。匿名性を保った360度評価なども容易に実施でき、多角的な視点からのフィードバックを促します。 - フィードバックの質の向上:
過去の評価や目標に対する進捗状況をいつでも確認できるため、評価者はより具体的で的確なフィードバックを提供できるようになります。被評価者も自身の成長を客観的に把握しやすくなります。
システム導入には初期費用や運用コストがかかりますが、長期的に見れば評価業務の効率化、評価の質の向上、そして従業員エンゲージメントの向上に大きく貢献する投資となるでしょう。
避けたいNGコメントと行動
人事評価コメントは、従業員の成長を促すための重要なツールであると同時に、扱い方を誤ると、モチベーション低下や人間関係の悪化、ひいては組織全体の生産性低下を招く可能性もあります。
評価者が避けるべきNGコメントと行動を理解し、適切に運用することが大切です。
避けるべきNGコメント
-
主観的・感情的な表現:
「私はそう思う」「個人的には好きではない」といった主観や感情に基づいたコメントは、客観性を欠き、被評価者に不公平感を与えます。
NG例: 「どうもやる気が感じられない」「私とは合わない」
OK例: 「〇〇業務において、期日遅延が3回発生しており、改善が見られなかった。優先順位付けと進捗報告の習慣化を期待する。」 -
抽象的すぎる評価:
具体性に欠けるコメントは、被評価者が何を改善すべきか理解できません。
NG例: 「もっと頑張ってほしい」「努力が足りない」
OK例: 「チームミーティングでの発言回数が目標の半分にとどまっており、主体的な意見表明を期待する。〇〇に関する専門知識を活かし、積極的に議論に参加してほしい。」 -
人格を否定するようなコメント:
個人の性格や人格そのものを否定するようなコメントは、絶対に避けるべきです。
NG例: 「根性が足りない」「協調性がない」
OK例: 「〇〇プロジェクトにおいて、チームメンバーとの情報共有が不足し、〇〇の遅延に繋がった。今後は、定期的な進捗報告と、周囲への配慮を意識した連携を期待する。」 -
他者との不適切な比較:
安易に他の従業員と比較するコメントは、被評価者の劣等感を煽り、チーム内の対立を生む可能性があります。相対評価を行う場合でも、コメントでは個人の行動と成果に焦点を当てましょう。
NG例: 「〇〇さんはもっとできているのに」「同期の△△さんと比べて劣っている」
OK例: 「〇〇目標の達成には至らなかったが、〇〇という改善策を自ら立案し実行したことは評価する。この経験を活かし、次期では目標達成に向けて〇〇に取り組んでほしい。」
避けるべきNG行動
- 評価基準の不明確さ:
評価基準が曖昧だと、公平な評価はできません。事前に評価項目と基準を明確にし、従業員に周知しましょう。 - 一方的なフィードバック:
評価は対話の場です。評価を伝えるだけでなく、被評価者の意見や認識も丁寧にヒアリングし、対話を通じて相互理解を深める姿勢が重要です。 - フィードバックの遅延:
評価結果は、できるだけ迅速に伝えることが大切です。時間が経つと、評価の根拠となった具体的な事例が曖昧になり、被評価者の納得感が薄れてしまいます。
これらのNGコメントと行動を避けることで、人事評価は従業員の成長を最大限に引き出す、建設的な機会となるでしょう。
よくある質問(Q&A)で人事評価の疑問を解決!
Q1. 抽象的な評価にならないためには?
人事評価が抽象的になってしまうのは、評価者が具体的な事例や事実に基づいた記述を意識できていないことが主な原因です。
これを防ぎ、より具体的で説得力のあるコメントを作成するためには、「STARメソッド」のようなフレームワークを活用したり、日頃から従業員の行動を観察し、記録を残したりすることが有効です。
STARメソッドとは:
- S (Situation:状況): どのような状況でしたか?
- T (Task:課題・目標): その状況下で、どのような課題や目標がありましたか?
- A (Action:行動): あなた(または被評価者)は、その課題に対して具体的にどのような行動を取りましたか?
- R (Result:結果): その行動によって、どのような結果が生まれましたか?(数値や具体的な効果)
例えば、「協調性がある」という抽象的な評価を避けるために、STARメソッドで考えてみましょう。
「S: 〇〇プロジェクトの進捗が遅延し、他部署との連携が滞っていました。T: 期日までにプロジェクトを完了させるため、部門間の調整が急務でした。A: 彼は、週に一度の進捗共有会議を自主的に企画し、各部署の担当者から現状と課題をヒアリング。解決策を提案し、合意形成を図りました。R: その結果、滞っていた連携が改善され、プロジェクトは2週間前倒しで完了し、関係部署からの感謝の声も多く寄せられました。」
このように、具体的な状況、課題、行動、そしてその結果を明確に記述することで、誰もが納得できる具体的な評価コメントになります。
日頃から従業員の優れた行動や改善が必要な行動を見つけたら、簡単なメモを残しておく習慣をつけることで、評価時期になって慌てることなく、具体的なコメントを作成できるようになるでしょう。数値やデータで裏付けられるものは積極的に活用し、客観性を高めることも忘れてはいけません。
Q2. マイナス評価を伝える際のポイントは?
マイナス評価(改善点や課題)を伝えることは、評価者にとって最も神経を使う場面の一つです。
しかし、適切に伝えられれば、被評価者の成長を促す貴重な機会となります。重要なのは、「相手の成長を願う」という前向きな姿勢で臨むことです。
以下のポイントを意識して伝えましょう。
-
具体的な事実に基づく:
主観や感情ではなく、客観的な事実やデータに基づいて課題を指摘します。「〇〇の資料作成において、誤字脱字が複数見受けられました」のように、何が問題だったのかを明確に示します。 -
人格を否定しない:
個人の性格や人間性を否定するような言葉は絶対に避けましょう。問題なのは行動や成果であり、その人自身ではありません。「あなたはいつもミスが多い」ではなく、「〇〇の業務におけるミスが、今期〇件発生しています」と、行動に焦点を当てて伝えます。 -
改善策や期待をセットで提示する:
課題を指摘するだけで終わらせず、具体的な改善策や、今後の行動への期待をセットで伝えます。「〇〇のミスが多いので、今後は書類提出前にダブルチェックを行うことを徹底し、次回はゼロを目指しましょう」のように、次に何をすべきかを明確に示唆します。 -
ポジティブな面も忘れずに伝える(サンドイッチ方式):
改善点を伝える前に、その人の良い点や貢献を具体的に伝えます。これにより、被評価者は「自分は認められている」と感じ、建設的な意見として受け止めやすくなります。
例えば、「〇〇さんの迅速な対応力は素晴らしい。しかし、〇〇の点で改善の余地がある。そこをクリアすれば、さらに活躍できると期待している。」といった形です。 -
クローズドな環境で、1対1で対話する:
他の社員がいる場所や、オープンな場所でマイナス評価を伝えるのは避けます。プライベートな空間で、落ち着いて話せる時間と場所を確保し、評価者と被評価者の1対1で対話するようにしましょう。 -
被評価者の意見も聞く:
一方的に伝えるだけでなく、「この点について、どう考えていますか?」と被評価者の意見や認識を丁寧にヒアリングします。これにより、誤解を解消し、納得感を深めることができます。
マイナス評価は、被評価者が自身の課題と向き合い、成長するための第一歩です。誠実で建設的な姿勢で臨むことで、その機会を最大限に活かすことができます。
Q3. 自己評価でアピールするコツは?
自己評価は、自身の貢献度や成長をアピールし、今後のキャリアプランを上司と共有する絶好の機会です。
単に「頑張った」と書くのではなく、具体的かつ客観的な事実に基づき、自身の価値を最大限に伝えることが重要です。
以下のコツを参考に、効果的な自己評価を作成しましょう。
-
目標に対する達成度を明確にする:
期初に設定した目標に対し、どの程度達成できたかを具体的に記述します。達成できた場合は、その要因や工夫を、未達成の場合は、その理由と今後の改善策を明記します。
例:「〇〇プロジェクトの目標達成率85%(目標100%)。未達に終わったが、〇〇という予期せぬ課題に対し、△△の代替案を提案し、被害を最小限に食い止めた。次期は、リスクマネジメントを強化し、不測の事態にも対応できる計画を立てる。」 -
具体的な行動と成果を数値で示す:
自身の業務において、どのような行動を取り、どのような成果を出したのかを具体的に、可能であれば数値で示します。
例:「新規顧客開拓において、週に2件のアポイント獲得を目標とし、実際に平均2.5件を達成。これにより、前年度比15%の売上増に貢献した。」
例:「業務マニュアルの作成を主導し、新入社員のオンボーディング期間を20%短縮できた。」 -
課題解決への貢献をアピールする:
自身の役割を超えて、部署や組織全体の課題解決にどのように貢献したかを記述します。
例:「部署内の情報共有不足が課題であったため、週次の情報共有会を自主的に立ち上げ、円滑なコミュニケーションを促進。これにより、プロジェクト間の連携ミスが30%削減された。」 -
自己成長と今後の目標を具体的に記述する:
この1年で自身がどのように成長したか、どのようなスキルを習得したかを具体的に示し、さらに今後のキャリアプランや目標を明確に伝えます。
例:「〇〇研修に参加し、データ分析のスキルを習得。今後は、このスキルを活かし、〇〇業務の効率化に貢献したいと考えている。」
例:「来期は、リーダーシップ研修への参加を通じて、チームマネジメント能力を向上させ、次期リーダー候補としてチームを牽引したい。」 -
反省点と改善策も提示する:
達成できなかった点や反省点も正直に記述し、それに対する具体的な改善策を提示することで、自己分析力と成長意欲をアピールできます。
自己評価は、自身の働きを客観的に振り返り、上司との共通認識を形成するための重要な機会です。これらのポイントを意識して、自信を持って自身をアピールしましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 人事評価のコメントで大切なことは何ですか?
A: 具体性、客観性、成長への期待、そしてポジティブな言葉遣いです。事実に基づき、具体的な行動や成果を評価し、今後の成長につながるようなフィードバックを心がけましょう。
Q: 新人の人事評価コメントはどのように書くべきですか?
A: ポテンシャルや成長の伸びしろに焦点を当て、期待を伝えることが重要です。具体的な行動を褒め、課題点も改善策と共に伝えることで、本人のモチベーション向上につながります。
Q: 事務職の人事評価でよくある評価項目は何ですか?
A: 正確性、迅速性、効率性、コミュニケーション能力、PCスキルなどが挙げられます。担当業務における具体的な成果や貢献度を記述すると良いでしょう。
Q: 看護師の人事評価コメントで注意すべき点はありますか?
A: 患者さんとのコミュニケーション、チームワーク、医療知識・技術の習得度、倫理観などが評価のポイントとなります。患者さんへの貢献やチームへの協力度を具体的に記載することが大切です。
Q: 公務員の人事評価コメントは、民間企業と比べて違いがありますか?
A: 公務員は、法令遵守、公平性、公共性、説明責任などが重視されます。業務遂行能力に加え、組織への貢献度や地域社会との連携といった視点も含まれることがあります。