概要: 昇給すると手取りが増える一方で、税金も増えることがあります。この記事では、昇給による所得税・住民税への影響、増税・減税の計算方法、そして関連する税制優遇について詳しく解説します。
昇給は税金にどう影響?増税・減税の仕組みを徹底解説
昇給は誰もが喜ぶ出来事ですが、同時に「手取りが思ったより増えない」「むしろ減った気がする」と感じる方も少なくありません。
これは、昇給が所得税や住民税、さらには社会保険料に大きな影響を与えるためです。
この記事では、昇給が税金にどう影響するのか、増税・減税の仕組みを最新の情報に基づいて徹底解説します。
賢く手取りを最大化するための知識を身につけましょう。
昇給による税金への影響:所得税と住民税の基本
昇給と手取り:なぜ収入が増えても手取りが減るのか?
昇給によって年収が増えることは喜ばしいことですが、同時に「手取りが減った」と感じることがあります。
これは、日本の税金制度が「累進課税制度」を採用しているためです。所得が増えるほど適用される税率も高くなるため、昇給によって課税所得金額が増加すると、それまでよりも高い税率が適用され、税負担が重くなる可能性があります。
また、所得税だけでなく、住民税や社会保険料も昇給に伴って増加します。これらの控除額が増えることで、額面上の給与が増えても、結果的に手元に残る手取り額が思ったより増えない、あるいは減ってしまうといった現象が起こり得るのです。
特に、税率が上がる所得区分の境目にいる方は、昇給額によっては手取り額への影響が大きくなることがあります。自分の所得がどの税率区分に属するのかを把握しておくことが重要です。
所得税の仕組み:累進課税と計算ステップ
所得税は、個人の所得に対してかかる国税で、先述の通り累進課税が適用されます。その計算は以下のステップで進められます。
まず、年間の収入から「給与所得控除」や「必要経費」を差し引いて「所得」を計算します。次に、その所得から「基礎控除」「配偶者控除」「扶養控除」などの各種「所得控除」を差し引いたものが「課税所得金額」となります。
この課税所得金額に、所得に応じた税率を掛けて所得税額を算出します。例えば、課税される所得金額が195万円を超えると税率が10%に、330万円を超えると20%になるなど、段階的に税率が上昇します。
最後に、算出した所得税額から「住宅ローン控除」などの「税額控除」を差し引き、さらに「復興特別所得税」(2037年12月31日まで、基準所得税額の2.1%)が加算されて、最終的な納付税額が決定されます。
所得税の計算ステップをまとめると以下の通りです。
- 所得の計算: 年間の収入から給与所得控除や必要経費などを差し引く。
- 課税所得金額の計算: ①の所得金額から各種所得控除を差し引く。
- 所得税額の計算: ②の課税所得金額に税率を掛ける。
- 税額控除の適用: ③の所得税額から税額控除を差し引く。
- 復興特別所得税の加算: 基準所得税額の2.1%を加算する。
住民税の仕組み:所得割と均等割、その計算方法
住民税は、都道府県や市区町村に納める地方税で、「所得割」と「均等割」の二つの要素で構成されています。
まず「所得割」は、前年の所得金額に応じて課税される部分です。年間の収入から経費や給与所得控除を差し引いて「総所得金額」を計算し、そこから各種「所得控除」を差し引いて「課税所得金額」を算出します。
この課税所得金額に標準税率(多くの場合、道府県民税4% + 市町村民税6%で合計10%)を掛けて所得割額が計算され、そこからさらに税額控除が差し引かれます。
一方、「均等割」は、所得金額にかかわらず、一定の所得がある場合に定額で負担する税金です。2024年度からは、東日本大震災の復興財源に充てられていた臨時的措置が終了し、新たに「森林環境税1,000円」が加わり、合計5,000円(道府県民税1,000円 + 市町村民税3,000円 + 森林環境税1,000円)となります。
住民税の合計額は、この所得割額(税額控除後)と均等割額を合計したものです。
昇給で税金が増える?増税・減税の計算方法と注意点
所得税の増税シミュレーション:税率の変化を理解する
昇給が所得税に与える影響を理解するには、自身の課税所得金額がどの税率区分に該当するのかを知ることが重要です。日本の所得税は以下の速算表に基づき計算されます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
例えば、課税所得が200万円だった人が昇給で350万円になった場合を考えてみましょう。それまで10%だった税率が20%に上がります。
この税率が適用されるのは増えた部分だけでなく、新たな区分の税率が全体に適用されるため、税額の増加幅が大きくなることがあるのです。
昇給額によっては、税率が1段階上がるだけで手取り額が大きく変わるため、事前にシミュレーションしてみることをおすすめします。
住民税への影響:前年所得で決まるメカニズム
住民税は所得税と異なり、前年の所得に基づいて課税されるという特徴があります。そのため、今年昇給して年収が上がったとしても、すぐにその影響が住民税に現れるわけではありません。
昇給が住民税に反映されるのは、原則として翌年度(翌年6月以降)からとなります。
例えば、2024年4月に昇給した場合、2024年1月から12月までの所得に基づいて、2025年度の住民税額が計算されます。そして、この新しい住民税額は2025年6月から2026年5月までの給与から天引きされることになります。
昇給によって住民税が上がることを認識していないと、翌年度に手取り額が急に減ったように感じて戸惑うこともあるかもしれません。昇給した際は、翌年の住民税負担が増えることを想定して家計計画を立てることが賢明です。
社会保険料の変動:標準報酬月額の重要性
昇給によって影響を受けるのは税金だけではありません。健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料といった社会保険料も、昇給に伴って増加する可能性があります。
これらの保険料は、給与や賞与を基に決定される「標準報酬月額」という区分に、それぞれの保険料率を掛けて計算されます。
標準報酬月額は、毎年4月から6月の3ヶ月間の給与の平均額(固定的賃金)によって決定され、原則としてその年の9月から翌年8月まで適用されます。この期間に昇給があった場合、標準報酬月額が改定され、それに伴って社会保険料も上がることになります。
また、固定的賃金に大きな変動があった場合には、「随時改定」(月額変更届)が行われ、標準報酬月額が期中であっても変更されることがあります。この場合、給与が上がった数ヶ月後には社会保険料も上がり、手取りがさらに減少する可能性があるため注意が必要です。
雇用保険料は毎月の給与総額に料率を掛けて計算されるため、昇給があればすぐに増加します。
昇給時の税制優遇はある?知っておきたい控除や特例
各種所得控除の活用:手取りを増やす基本
昇給によって課税所得が増え、税負担が重くなる可能性がある一方で、各種所得控除を賢く活用することで、手取りを増やすことが可能です。
所得控除とは、所得税や住民税の計算において、課税所得を減らす効果があるものです。代表的なものには「基礎控除」(すべての人に適用)、「配偶者控除」、「扶養控除」などがあります。
その他にも、医療費を多く支払った場合に適用される「医療費控除」、生命保険料や地震保険料を支払った場合に適用される「生命保険料控除」「地震保険料控除」、iDeCoやつみたてNISAなどの私的年金制度を活用した場合に適用される「小規模企業共済等掛金控除」など、様々な控除があります。
これらの控除を適切に申告することで、課税所得金額が減少し、結果として所得税や住民税の負担を軽減することができます。年末調整や確定申告の際には、漏れなく適用される控除がないか確認することが大切です。
主な所得控除には以下のようなものがあります。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- iDeCo等の小規模企業共済等掛金控除
税額控除のメリット:直接的な税負担軽減
所得控除が課税所得を減らすのに対し、税額控除は、算出された所得税額から直接差し引かれるため、より大きな節税効果が期待できます。
最も広く知られている税額控除の一つに「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」があります。これは、住宅ローンを利用してマイホームを取得・増改築した場合に、年末時点のローン残高の一部を所得税額から差し引くことができる制度です。
その他にも、「寄付金控除」(ふるさと納税など)や「配当控除」なども税額控除の一種です。例えば、ふるさと納税は、寄付額から2,000円を差し引いた金額が所得税や住民税から控除される仕組みです。
これらの税額控除は、所得税や住民税の負担を直接的に軽減してくれるため、昇給によって税金が増えても、その影響を緩和する有効な手段となります。利用できる控除は積極的に活用し、手取り額を最大化しましょう。
最新の減税制度:定額減税と税制改正の動向
政府は、物価高騰による国民負担を軽減するため、時限的な減税措置を講じることがあります。その一例が、2024年6月から実施されている「定額減税」です。
これは、納税者本人に3万円、同一生計配偶者および扶養親族1人につき3万円が、所得税と住民税からそれぞれ減税されるというものです。これにより、一時的に手取りが増加する効果が期待されます。
また、税制改正は毎年行われており、今後の動向にも注目が必要です。2025年度(令和7年度)税制改正では、給与所得控除の最低額が現在の55万円から65万円に引き上げられる予定です。これは特に年収162.5万円以下の給与所得者にとって直接的な減税となり、基礎控除額も引き上げられることで、所得税・住民税の負担軽減効果が期待されます。
一方で、将来的な法人税の増税や消費税率の引き上げに関する議論も継続されており、税制は常に変化します。最新の情報を常にチェックし、自身の家計にどう影響するかを理解しておくことが重要です。
昇給で住民税はいつから上がる?月変・随時改定の重要性
所得税の源泉徴収:昇給後すぐに影響が出る理由
所得税は「源泉徴収制度」が採用されており、毎月の給与から概算で天引きされています。そのため、昇給によって給与額が上がると、その月から源泉徴収される所得税額も通常は増加します。
これは、会社が給与改定後の新しい給与額を基に、その月の所得税額を計算し直すためです。
特に、給与が大きく上昇して税率の区分が変わるような場合、それまでよりも高い税率が適用される部分が増えるため、所得税の増加幅も大きくなります。年末に「年末調整」が行われ、その年に源泉徴収された所得税の合計額と、本来納めるべき所得税額との差額が調整されますが、昇給による所得税の増加は、基本的には昇給した月から手取りに影響を与えることになります。
住民税の納期と仕組み:翌年課税の原則
住民税が昇給によっていつから上がるのかについては、所得税とは異なるルールがあります。住民税は前年の所得に対して課税される「前年所得課税」の原則が適用されます。そのため、今年の昇給で年収が増えたとしても、その影響が住民税に現れるのは翌年度(翌年6月から翌々年5月まで)からとなります。
具体的には、2024年中に昇給して年収が上がった場合、その2024年分の所得に基づいて2025年度の住民税額が計算されます。そして、この新たな住民税額は、2025年6月以降の給与から天引きされることになります。
この時間差があるため、昇給した年に手取りが大きく減ったと感じなくても、翌年6月以降に突然住民税の負担が増え、手取りが減少したと感じることがあります。昇給が決まったら、翌年の住民税増加分を考慮して家計を計画することが大切です。
社会保険料の随時改定:報酬月額変更届とは
社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)は、原則として毎年4月から6月の給与平均に基づいて決定される「標準報酬月額」によって、その年の9月から翌年8月までの保険料が決まります。
しかし、昇給の時期によっては、この通常の改定時期以外にも保険料が変更されることがあります。これが「随時改定(月額変更届)」です。
随時改定は、固定的賃金(基本給など)の変動があり、かつその変動によって報酬月額が2等級以上上下した場合に実施されます。例えば、基本給の昇給があった月の給与から継続した3ヶ月間の平均給与が、従前の標準報酬月額と比べて2等級以上変動した場合、その4ヶ月目から新しい標準報酬月額が適用され、社会保険料も変更されます。
昇給のタイミングによっては、昇給後数ヶ月で社会保険料が大きく変動し、結果として手取りが減少する可能性があります。会社の人事・経理担当者と連携し、自身の社会保険料の変動時期を把握しておくことが重要です。
昇給と減税・増税を賢く理解し、手取りを最大化しよう
昇給による負担増を軽減する家計の見直し
昇給は収入アップを意味しますが、同時に所得税、住民税、社会保険料の負担が増加する可能性があることを理解しておく必要があります。手取り額の減少を最小限に抑え、賢く家計を管理するためには、昇給を機に家計全体を見直すことが重要です。
まずは、昇給後の給与明細を詳細に確認し、所得税・住民税・社会保険料がそれぞれどの程度増えたのかを把握しましょう。その上で、無駄な支出がないか、見直せる固定費がないかなどを検討します。
例えば、格安SIMへの切り替え、不要なサブスクリプションの解約、電気・ガス会社のプラン変更など、少しの工夫で手取り減少分を補填できる可能性があります。また、増えた収入の一部を貯蓄や資産運用に回し、将来の備えを厚くすることも賢い選択です。
控除制度の積極的な活用:節税効果を高める
手取りを最大化するためには、利用できる税制優遇制度、特に各種控除制度を最大限に活用することが不可欠です。所得税や住民税には、基礎控除、配偶者控除、扶養控除といった基本的なものから、医療費控除、生命保険料控除、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金控除など、様々な種類があります。
特にiDeCoやつみたてNISAは、将来のための資産形成をしながら税制優遇を受けられる一石二鳥の制度です。iDeCoは掛金が全額所得控除の対象となり、つみたてNISAは運用益が非課税になるため、昇給で所得が増えた際に積極的に活用することで、大きな節税効果と資産形成効果が期待できます。
毎年年末調整の書類や確定申告の準備をする際には、適用できる控除が漏れていないか、改めて確認する習慣をつけましょう。
最新の税制改正情報を常にチェックする重要性
日本の税制は毎年改正が行われ、私たちの暮らしに直接影響を与えます。昇給によって税金や社会保険料の負担が増える可能性があるからこそ、最新の税制改正情報を常にチェックしておくことが非常に重要です。
例えば、2024年に実施された定額減税や、2025年度に予定されている給与所得控除や基礎控除の引き上げなど、減税につながる制度もあります。これらの情報を知っていれば、自身の家計への影響を事前に把握し、適切な対策を講じることができます。
また、将来的な法人税や消費税率の引き上げなど、増税に関する議論も常に存在します。税制に関するニュースや政府の発表、専門家による解説などに目を通し、賢く対応していく姿勢が、手取りを最大化し、安定した家計を築く上で不可欠だと言えるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 昇給すると、税金は必ず増えますか?
A: 一般的には、昇給によって所得が増加するため、所得税や住民税が増える可能性が高いです。ただし、住宅ローン控除などの税制優遇によっては、手取り額の増加が相殺される場合もあります。
Q: 昇給による税金の計算はどのように行われますか?
A: 昇給による税金の増加は、主に給与から源泉徴収される所得税と、前年の所得に基づいて計算される住民税に影響します。所得税は累進課税制度により、所得が増えるほど税率が上がります。
Q: 昇給しても減税になるケースはありますか?
A: 直接的な昇給による減税は稀ですが、扶養控除の対象から外れることで実質的な手取りが減るケースや、特定の控除(例: 住宅ローン控除)の適用期間が終了し、増税となるケースがあります。
Q: 住民税はいつから上がりますか?
A: 住民税は前年の所得に基づいて計算されるため、昇給した年からすぐに上がるわけではありません。通常、昇給した翌年の6月から住民税額が増加します。給与の変動が著しい場合は「月変」や「随時改定」の対象となることがあります。
Q: 昇給と減税・増税について、他に知っておくべきことはありますか?
A: 育児休業からの復帰や、定期的な昇給以外での昇給(随時改定)など、昇給のタイミングや状況によって税金への影響が異なる場合があります。就業規則なども確認し、ご自身の状況を把握することが大切です。