概要: 2025年4月施行を控えた労働法改正について、その内容と企業が取るべき対応を詳しく解説します。さらに、2026年以降の改正動向や近年の改正事例も踏まえ、最新の労働法改正情報を網羅します。
2025年から2026年にかけて、日本の労働法は大きな変革期を迎えます。企業が持続的な成長を遂げ、従業員が安心して働ける環境を整備するためには、これらの法改正への的確な対応が不可欠です。
本記事では、今後施行される主要な労働法改正のポイントを徹底解説。企業が今すぐ取り組むべき具体的な対策や、今後の労働環境の展望について、最新情報を交えてご紹介します。
変化の激しい時代を乗り越えるために、ぜひ最後までご覧ください。
【2025年4月施行】注目の労働法改正ポイント
労務手続きのデジタル化と厚生年金「養育特例」の簡素化
2025年1月1日より、労働安全衛生関係の一部手続きにおいて、電子申請が義務化されます。具体的には、労働者死傷病報告、安全管理者等の選任報告、定期健康診断結果報告などが対象です。これにより、企業の労務担当者は書類作成・提出の手間が省け、業務効率の向上が期待されます。デジタル化への準備は早期に着手し、スムーズな移行を目指しましょう。
また、同日には厚生年金関連の「養育特例」手続きも簡素化されます。3歳未満の子を養育する従業員が対象となる厚生年金保険料の免除特例について、これまでは戸籍謄本などの提出が必要でしたが、企業による確認欄の設置のみで申請が可能になります。これは従業員の利便性向上はもちろん、企業側の管理負担軽減にもつながる重要な変更点です。
これらの改正は、デジタル技術の活用を推進しつつ、子育て世代への支援を強化する政府の姿勢を反映しています。
育児・介護休業法改正で広がるサポート範囲
2025年4月1日からは、育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法の一部が改正されます。特に注目すべきは、残業時間免除の対象拡大です。これまでは3歳未満の子を養育する労働者が対象でしたが、改正後は小学校就学前の子を養育する労働者まで拡大されます。これにより、学童保育がない時間帯や急な発熱など、小学校入学後の子育て期における柔軟な働き方が可能になります。
さらに、3歳未満の子を養育する労働者や介護を行う労働者に対し、テレワークを選択できるようにする措置が企業の努力義務となります。これは、場所にとらわれない柔軟な働き方を推進し、育児・介護と仕事の両立を強力に後押しするものです。企業は、テレワーク制度の導入状況を見直し、必要に応じて整備を進める必要があります。
従業員が働きやすい環境を整えることは、優秀な人材の確保と定着にも直結します。
新たな育児支援給付金制度と介護離職防止策の強化
2025年4月1日の育児・介護休業法改正では、新たな給付金制度も創設されます。一つは、両親ともに育児休業を取得した場合に支給される「出生後休業支援給付金」です。これは男性の育児休業取得をさらに促進し、夫婦で育児に取り組む家庭を経済的に支援することを目的としています。
もう一つは、育児期に短時間勤務を行った場合に支給される「育児時短就業給付」です。短時間勤務を選択した際の賃金減少分を一部補填することで、育児と仕事の両立を経済面からサポートします。これにより、短時間勤務が選択肢としてより現実的になり、女性のキャリア継続にも貢献すると期待されます。
また、介護に直面した旨の申出をした労働者に対し、個別周知や意向確認が強化されるなど、介護離職防止に向けた措置も強化されます。これらの制度を適切に運用し、従業員への周知を徹底することが企業には求められます。
2026年以降に予定される労働法改正と今後の展望
労働安全衛生法のさらなる進化と化学物質管理の強化
2026年4月には、労働安全衛生法の改正が予定されており、労働者の健康と安全を守るための対策がさらに強化されます。特に注目すべきは、これまで義務化の対象外だった50人未満の企業においてもストレスチェックの実施が義務化される点です。これにより、中小企業でも従業員のメンタルヘルス対策が法的に求められることになり、組織全体の健康経営への意識向上が期待されます。
さらに、化学物質の管理も強化されます。具体的には、表示・SDS(安全データシート)交付対象の拡大、石綿(アスベスト)障害予防規則の改正、有機溶剤中毒予防規則の見直しなどが含まれます。新規化学物質の電子申請義務化も進められ、労働災害の未然防止に向けた、より厳格な管理体制の構築が企業に求められることになります。
これらの改正は、あらゆる規模の企業において、従業員の心身の健康と安全を確保することの重要性を示しています。
ハラスメント対策と公益通報者保護の強化
社会全体でハラスメント対策への意識が高まる中、2026年10月ごろには労働施策総合推進法が改正され、企業に対してカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務化される見通しです。顧客からの不当な要求や言動から従業員を守るため、企業は予防策の策定や相談対応体制の整備が必要となります。具体的な対策としては、従業員への研修、相談窓口の設置、対応マニュアルの作成などが考えられます。
また、2026年中には公益通報者保護法(ホイッスルブロワー法)の改正も施行される見通しです。これは、公益通報者への不当解雇や懲戒に対する罰則規定を強化するものです。内部通報制度の実効性を高め、組織内の不正行為を早期に発見・是正するための重要な措置となります。企業は内部通報制度の運用状況を見直し、通報者が安心して通報できる環境整備を一層進める必要があります。
従業員が安心して働ける職場環境を構築することは、コンプライアンス遵守の観点からも極めて重要です。
労働基準法の抜本的な見直しに向けた議論
2026年施行を目指す動きとして、労働基準法の抜本的な見直しに関する議論が進められています。労働者の働き方に大きな影響を与える可能性のある項目が複数挙げられており、企業は今後の動向を注視する必要があります。主な検討項目は以下の通りです。
- 14日を超える連続勤務の禁止: 現在、理論上は最大48日間の連続勤務が可能となるケースがありますが、法改正後は14日を超える連続勤務が禁止される方向で検討されており、労働者の健康確保が図られます。
- 勤務間インターバル制度の義務化: 最低でも11時間のインターバルを設けることが検討されており、労働者の休息時間を確保し、疲労蓄積を防止する目的があります。
- 法定休日の明確な特定義務: どの休日が法定休日であるかを明確にすることで、労働者と企業の双方に混乱が生じないようにする狙いがあります。
- 副業・兼業時の割増賃金計算における労働時間通算ルールの見直し: 働き方の多様化に対応し、適切な割増賃金が支払われるよう、現行制度が見直される可能性があります。
- 法定労働時間週44時間の特例措置の廃止: 特定の業種に認められていた週44時間労働の特例が廃止され、原則的な週40時間労働の徹底が図られる可能性があります。
- 年次有給休暇取得時の賃金算定における通常賃金方式の原則化: 現在選択可能な賃金算定方法のうち、日給・時給制で賃金が大きく減るケースがあるため、通常の賃金で算定する方式の原則化が検討されています。
- 時間外労働の上限規制の見直し: 月45時間・年360時間などの上限規制がありますが、これらに関してさらに議論が進められる可能性があります。
- 管理監督者への健康・福祉確保措置の導入: 管理監督者に対しても、健康・福祉確保措置の導入が検討されており、すべての労働者の健康が守られるようになります。
これらの改正が実現すれば、日本の労働環境は大きく変化することになります。
企業が対応すべき労働法改正のポイントと注意点
義務化される措置への確実な対応
2025年から2026年にかけて施行される労働法改正には、企業に義務付けられる措置が多く含まれます。特に、労働安全衛生関係手続きの電子申請義務化、50人未満企業へのストレスチェック義務化、カスタマーハラスメント対策の義務化などは、怠れば法令違反となる可能性があります。
企業は、これらの義務について詳細を把握し、期限までに確実に準備を完了させることが求められます。具体的には、就業規則や各種規定の見直し、社内体制の整備、担当者への周知徹底などが挙げられます。例えば、電子申請には専用のシステム導入やアカウント登録が必要になるため、早期の情報収集と準備が不可欠です。
法令遵守は企業の信頼性に関わる重要な要素であり、計画的な対応が求められます。
柔軟な働き方の推進と多様な人材の定着
育児・介護休業法の改正は、従業員のライフイベントに合わせた柔軟な働き方を、企業がより積極的に提供すべきであることを示唆しています。残業時間免除の対象拡大やテレワーク導入の努力義務化、新たな給付金制度の創設は、育児や介護と仕事の両立を支援し、多様な人材が長く働き続けられる環境を整えるための後押しとなります。
企業は、これらの改正を単なる義務と捉えるだけでなく、優秀な人材の確保と定着、ひいては企業価値向上の機会と捉えるべきです。柔軟な勤務制度の導入や職場環境の改善は、従業員のエンゲージメントを高め、生産性の向上にも寄与します。
多様な働き方を受け入れることで、より広範な人材が企業の成長に貢献できるようになります。
最新情報の継続的な収集と専門家との連携
労働法改正は、社会情勢の変化や新たな課題に対応するため、今後も継続的に行われる可能性があります。そのため、企業は厚生労働省などの公的機関が発表する最新情報を常にキャッチアップし続ける必要があります。特に、2026年以降に議論される労働基準法の改正項目は、企業の根幹に関わる重要な変更となる可能性があるため、動向を注視することが重要です。
また、法改正の内容は多岐にわたり、その解釈や具体的な対応策について不明な点が生じることも少なくありません。そのような場合は、自社だけで抱え込まず、社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。専門家の知見を活用することで、法改正の見落としや誤った対応によるリスクを回避し、適切なコンプライアンス体制を構築できます。
法令遵守を確実なものとし、安心して事業を継続するためには、継続的な情報収集と外部の専門家との連携が不可欠です。
熱中症対策など、近年の労働法改正動向を振り返る
働き方改革関連法がもたらした変革
近年、日本の労働環境は「働き方改革」という大きな流れの中で大きく変化してきました。2019年から順次施行された働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制が設けられ、長時間労働の是正が進みました。これにより、月45時間・年360時間を原則とし、特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(複数月平均80時間以内)といった厳格な上限が導入され、労働者の健康確保が図られています。
また、同一労働同一賃金の原則が導入され、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止されました。これにより、派遣労働者やパートタイム労働者の待遇改善が進み、多様な働き方を選択する労働者が公平に評価される環境が整備されました。
さらに、年次有給休暇の確実な取得義務化(年5日)も導入され、労働者が休暇を取得しやすい環境が整えられました。これらの改正は、労働者の健康と生活の質の向上、そして企業の生産性向上を両立させることを目指しています。
労働安全衛生分野における継続的な強化
労働者の安全と健康を守るための取り組みは、近年一貫して強化されています。特に顕著なのが熱中症対策です。気候変動による気温上昇に伴い、屋外作業だけでなく屋内作業における熱中症予防が重要視され、企業に対しては作業環境管理や健康管理、作業管理の徹底が強く求められるようになりました。厚生労働省から毎年発表される「熱中症予防対策」は、企業の重要な指針となっています。
さらに、化学物質管理の厳格化も進んでいます。新たな化学物質規制が導入され、リスクアセスメントの実施やばく露防止措置の強化が求められるようになりました。これには、製品に含まれる化学物質情報の開示義務化なども含まれ、労働災害の根本的な原因排除を目指しています。
今回の2026年からのストレスチェック義務化対象拡大も、この労働安全衛生分野の継続的な強化の一環であり、心身両面からの労働者保護を重視する国の姿勢が表れています。
育児・介護と仕事の両立支援の加速
育児や介護と仕事の両立支援も、近年の労働法改正における主要なテーマの一つです。特に男性の育児休業取得率は、長期的に上昇傾向にあります。2023年度の調査では30.1%、2024年度の調査では40.5%と着実に向上しており、これは2022年10月の「産後パパ育休制度(出生時育児休業)」の施行が大きく影響しています。
この制度導入により、男性がより育児休業を取得しやすい環境が整い、育児休業取得者がいた事業所の割合も2024年度調査で41.0%に達しています。女性の育児休業取得率が8割台で推移していることを鑑みると、男性の取得率はまだ低い水準ではあるものの、社会全体で男性の育児参加を促進する動きは加速しています。
今回の育児・介護休業法改正も、育児期間中の残業免除対象拡大やテレワーク導入努力義務化、新たな給付金制度創設など、まさにこの流れを強化するものであり、多様なライフステージにある労働者が働き続けられる社会を目指すものです。
知っておきたい!最新の労働法改正情報まとめ
2025年施行の主要改正点:早めの対応が鍵
2025年に施行される労働法改正は、企業にとって喫緊の課題であり、早めの対応が求められます。特に以下の点が重要です。
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2025年1月1日施行:
労働安全衛生関係の一部手続きの電子申請義務化がスタートします。労働者死傷病報告などが対象で、デジタル化への移行準備が必要です。
厚生年金「養育特例」手続きの簡素化も開始され、企業による確認欄の設置で申請が可能になります。 -
2025年4月1日施行:
育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法が改正されます。- 残業時間免除の対象が小学校就学前の子を養育する労働者まで拡大。
- 育児・介護のためのテレワーク導入が企業の努力義務化。
- 「出生後休業支援給付金」と「育児時短就業給付」の新たな給付金制度が創設。
- 介護離職防止に向けた個別周知・意向確認が強化。
これらの改正は、すでに施行時期が明確に定められているため、企業は迅速な情報収集と社内規定の見直し、システム改修などの準備を進める必要があります。
2026年以降に備えるべき注目改正点
2026年以降にも、労働者の働き方に大きな影響を与える可能性のある重要な法改正が控えています。これらはまだ議論中のものや施行時期が未定のものも含まれますが、今後の動向を注視し、先を見据えた準備が重要です。
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2026年4月施行予定:
労働安全衛生法が改正され、50人未満の企業でもストレスチェック実施が義務化。化学物質管理も一層強化されます。 -
2026年中施行見通し:
公益通報者保護法が改正され、通報者への不当な扱いに対する罰則が強化されます。 -
2026年10月ごろ施行予定:
労働施策総合推進法が改正され、企業にカスタマーハラスメント対策が義務化されます。 -
2026年施行を目指す動き:
労働基準法改正の議論が活発化しており、14日を超える連続勤務の禁止、勤務間インターバル制度の義務化、副業・兼業時の割増賃金計算ルールの見直しなど、広範な項目が検討されています。
これらの改正は、労働者の健康と安全、そして柔軟な働き方をさらに推進する方向性を示しています。
企業が今すぐ取り組むべきアクションプラン
刻々と変化する労働法制に対応し、法令違反のリスクを避け、従業員が働きやすい環境を整備するために、企業は以下のアクションプランを今すぐ実行に移すことをお勧めします。
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最新情報の継続的な収集と社内周知:
厚生労働省などの公的機関からの情報を定期的に確認し、経営層から現場まで、関連部署や従業員に正確な情報を周知徹底しましょう。 -
就業規則や各種規定の見直し・整備:
法改正に則した形で、就業規則、育児介護休業規程、ハラスメント対策規程などを早急に見直し、必要に応じて改定手続きを進めましょう。 -
労務管理システムの更新や電子申請への移行準備:
電子申請義務化に備え、現行の労務管理システムの機能を確認し、必要であれば更新や新たなシステム導入を検討してください。 -
従業員への説明会や研修の実施:
特に育児・介護関連の給付金制度やカスハラ対策、ストレスチェック義務化などは、従業員への説明会や研修を通じて理解を深めることが重要です。 -
専門家(社会保険労務士等)との連携強化:
法改正の内容理解や具体的な対応策について不明な点があれば、積極的に社会保険労務士などの専門家へ相談し、アドバイスを得ることが確実な対応への近道です。
労働法改正は、企業の労務管理において避けて通れないテーマです。 proactiveな姿勢で対応し、より良い職場環境の実現を目指しましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 2025年4月から施行される主な労働法改正は何ですか?
A: 2025年4月からは、例えば「時間外労働の上限規制の更なる適用」や「賃金デジタル払いの解禁」などが予定されています。具体的な内容は変更される可能性もあるため、最新情報をご確認ください。
Q: 2026年以降に予定されている労働法改正の動向は?
A: 2026年以降については、現在議論されている法案や検討が進んでいる事項が複数あります。例えば、育児・介護休業法の一部改正や、働き方改革の進展に伴う追加的な措置などが考えられます。
Q: 企業が労働法改正に対応するために、どのような準備が必要ですか?
A: まずは、施行される改正内容を正確に理解し、自社の就業規則や労働慣行との整合性を確認する必要があります。必要に応じて、就業規則の改定や従業員への周知、研修などを実施することが重要です。
Q: 近年の労働法改正で、特に注目すべきものはありますか?
A: 近年では、特に「熱中症対策」に関する法改正や、働き方改革の一環としての「時間外労働の上限規制」の適用拡大などが注目されています。これらは、労働者の健康と安全を守る上で重要な改正です。
Q: 最新の労働法改正情報はどこで入手できますか?
A: 厚生労働省のウェブサイトや、労働法改正に関する専門機関、弁護士や社会保険労務士などの専門家から発信される情報が信頼できます。定期的にチェックすることをおすすめします。