概要: 「出張」という言葉の定義や意味、期間、公務員の場合などを解説します。また、派遣との違いや労働基準法との関連性についても触れ、出張に関する疑問を解消します。
出張の基本的な定義と意味
出張の根本的な定義と由来
「出張」とは、企業や組織の従業員が、通常の勤務地から離れた場所へ業務を遂行するために一時的に出向く行為を指します。これは単なる外出とは異なり、交通費や宿泊費、場合によっては日当(出張手当)が発生する業務上の移動を意味します。
この「出張」という言葉には、実は興味深い由来があります。元々は日本の武士社会で使われていた「戦陣用語」であり、戦いのために陣地を一時的に移すことを意味していました。
明治時代以降、国の近代化に伴ってビジネスシーンで広く使われるようになり、現在では企業活動において不可欠な概念となっています。遠方の顧客との商談、支社での会議、展示会への参加など、その目的は多岐にわたります。出張は、企業のビジネスを広げ、新たな機会を創出するための重要な手段なのです。
「社用外出」との明確な違い
出張と似た言葉に「社用外出」がありますが、これらは明確に区別されます。一般的に、1日以上職場を離れる場合を「出張」と呼び、数時間程度の外出は「社用外出」として扱われることが多いです。社用外出の場合、交通費は支給されても、宿泊費や日当が支給されることは稀です。
しかし、この区別は企業によって異なります。たとえば、日帰りであっても、新幹線や飛行機を利用するような長距離移動を伴う場合や、業務内容の重要性によっては「出張」とみなされることもあります。重要なのは、各企業が定める旅費規程や出張規程に則って判断されるという点です。
出張と社用外出の区別は、経費精算や手当の支給、さらには労働時間の管理にも影響を与えるため、従業員と企業双方にとって正確な理解が求められます。この区別を曖昧にしていると、不要なトラブルの原因となる可能性もあるため、社内規程の確認が不可欠です。
出張手当と経費の基礎知識
出張に伴う費用は大きく分けて「出張手当(日当)」と「出張経費」の2種類があります。
- 出張手当(日当): 従業員が普段と異なる場所や環境で業務を行うことによる疲労や、食費などの雑費を補填する目的で支給される手当です。これは法律で義務付けられているものではなく、企業の福利厚生として任意で支給されます。企業によっては、役職や出張先によって金額が変動することもあります。労務行政研究所の2018年の調査では、一般社員で1日あたり平均1,944円、部長クラスで2,702円が相場でした。
- 出張経費: 交通費、宿泊費、駐車場代、施設利用費など、出張中に業務遂行のために直接発生した費用を指します。これらの費用は原則として実費精算となり、領収書の提出が求められます。交通費は合理的な経路や手段であることが条件となり、宿泊費には出張地の物価を反映した限度額が定められていることが一般的です。
これらを適切に処理することで、従業員は安心して業務に集中でき、企業側も経費管理を効率化することができます。また、出張手当は一定の要件を満たせば、法人税や消費税、社会保険料の節減につながるという企業側のメリットもあります。
出張の期間と日帰り出張について
出張期間の多様性とその基準
出張の期間は、その目的や業務内容によって非常に多様です。数時間で終わる「日帰り出張」から、数日間を要する通常の出張、さらには数週間、数ヶ月にわたる「長期出張」まで、幅広いケースが存在します。例えば、遠方の支店での会議や研修参加であれば数日程度、海外での大規模プロジェクトであれば数ヶ月に及ぶこともあります。
何日以上を「長期出張」とするかについては、労働基準法などで統一された定義はなく、各企業が就業規則や旅費規程で独自に定めています。例えば、「連続して7日以上」「30日以上」といった基準が設けられていることが多いです。長期出張の場合、手当の支給方法や宿泊場所の確保、生活費の補助など、通常の出張とは異なる規定が適用されることがあります。
企業の規模や業種、出張先の地域特性によっても、期間の基準や運用は大きく異なります。従業員は自身の出張がどの期間区分に該当するかを事前に確認し、必要な手続きや準備を進めることが重要です。
日帰り出張の定義と判断基準
日帰り出張とは、その名の通り、宿泊を伴わずに業務のために遠隔地へ移動し、その日のうちに帰社する出張形態を指します。前述の通り、「1日以上職場を離れる場合を『出張』と呼ぶ」という一般的な定義がありますが、日帰りであっても、移動距離や交通手段によっては「出張」とみなされることがあります。
例えば、新幹線や飛行機を利用しての移動、片道2時間以上の移動時間を要するような遠方への外出は、日帰りであっても出張として扱われるのが一般的です。これは、通常の通勤では発生しない交通費や移動に伴う疲労、業務の特殊性を考慮するためです。一方、近隣の取引先への訪問などは、交通費が支給されても「社用外出」として扱われることが多いでしょう。
日帰り出張の場合でも、通常の出張と同様に交通費が精算され、企業によっては日帰り出張手当が支給されることもあります。従業員としては、日帰りであっても出張として扱われるケースがあることを理解し、適切な経費精算を行うことが求められます。
長期出張における手当や規程の特長
長期出張は、通常の短期間の出張とは異なる特有の規程や手当が適用されることが多くあります。これは、長期滞在に伴う生活環境の変化や、発生し得る費用の種類が多岐にわたるためです。
一つの特徴として、出張手当(日当)が日数が長くなるにつれて減額されるケースがあります。これは、長期滞在になれば食費などが現地で安定して賄えるようになるため、一時的な雑費補填の必要性が薄れるという考え方に基づいています。例えば、「最初の1週間は通常額、それ以降は半額」といった規定が見られます。
また、宿泊費についても、通常のビジネスホテル宿泊ではなく、マンスリーマンションやレオパレスなどの長期滞在に適した宿泊施設の手配が検討されることがあります。この場合、1日あたりの宿泊費の上限額が短期出張よりも高く設定されるか、実費精算の範囲が広がる場合があります。
さらに、長期出張者に対しては、単身赴任手当に準ずるような生活補助費が別途支給されたり、一時帰省のための交通費が支給されたりするなど、企業独自の配慮がなされることも珍しくありません。これらの規程は、従業員が長期にわたる出張でも安心して業務に集中できるよう、生活面をサポートすることを目的としています。
公務員における出張とその特徴
国家公務員の出張定義と法的根拠
国家公務員における「出張」は、民間企業の場合と同様に、業務のために通常の勤務地から離れて旅行することを指しますが、その定義と運用は「国家公務員等の旅費に関する法律」という明確な法的根拠に基づいています。この法律は、公務のために一時その在勤官署(勤務先)を離れて旅行する場合を「出張」と定義し、旅費の種類や支給基準を詳細に定めています。
旅費は、単に交通費や宿泊費にとどまらず、以下のような多岐にわたる項目が含まれます。
- 鉄道賃:列車等による移動費用。
- 船賃:船舶による移動費用。
- 航空賃:航空機による移動費用。
- 車賃:自動車等による移動費用。
- 日当:出張中の食費や雑費等の補填。
- 宿泊料:宿泊施設利用にかかる費用。
- 食卓料:特に海外出張などで食事にかかる費用を別途定める場合。
- 移転料:転勤等に伴う引っ越し費用。
- 着後手当:着任後の準備費用。
- 扶養親族移転料:扶養家族の引っ越し費用。
- 旅行雑費:上記以外の細かな費用。
これらの旅費は、公務遂行に必要不可欠な費用として、国民の税金から支出されるため、その支給には厳格なルールが適用されます。
旅費制度の現状と支給される費用
公務員の旅費制度は、国民の税金が原資であるという特性上、極めて透明性と公平性が重視されます。支給される旅費は、前述の旅費法の範囲内で、職務の級や出張先の地域、移動距離などに応じて細かく定められています。民間企業の出張手当が福利厚生の色合いが強いのに対し、公務員の場合は「職務遂行上必要な実費の補填」という側面がより強調されます。
例えば、交通費は最も合理的な経路・手段が原則とされ、グリーン車やビジネスクラスの利用には特別な理由が必要となる場合があります。宿泊費も、地域ごとの上限額が定められており、その範囲内での宿泊が求められます。日当(2025年4月からは「宿泊手当」として再構成)も、役職や地域によって基準額が設定されており、過度な支出は認められません。
近年では、経費削減や効率化の観点から、旅費規程の見直しや合理化が進められています。公務員の出張は、単に個人の移動ではなく、公共の利益に資する活動であるため、常に厳正な管理と運用の対象となっています。
旅費精算のDX化と法改正の影響
近年、公務員の旅費精算においても、民間企業と同様にデジタルトランスフォーメーション(DX)化が進められています。これは、手作業による煩雑な精算業務を効率化し、ミスを削減することを目的としています。オンラインでの申請・承認システムの導入や、キャッシュレス決済への対応などがその具体的な取り組みとして挙げられます。
さらに注目すべきは、2025年4月からの改正旅費法の施行です。この改正により、従来の出張手当(日当)は「宿泊手当」として再構成されます。大きな変更点の一つは、宿泊手当の支給額を超える食費等が発生した場合、その差額は自己負担となる点です。これは、日当が食費などの雑費を幅広くカバーするという曖昧な性質から、より宿泊に特化した手当へと変更されることを意味します。
この法改正は、旅費の透明性をさらに高め、不必要な支出を抑制することで、国民からの信頼を得ることを目指しています。公務員は、この新しい制度を理解し、より効率的かつ適切な旅費精算を行うことが求められます。DX化と法改正は、公務員の出張制度が時代に合わせて進化している証拠と言えるでしょう。
出張と派遣の違いを明確に
「出張」の定義と本質
「出張」とは、従業員が所属する企業や組織の指揮命令の下、その業務を遂行するために一時的に通常の勤務地から離れる行為です。最も重要な点は、従業員の所属や雇用形態、籍が一切変わらないということです。あくまで、現在の雇用主との関係を維持したまま、業務の必要に応じて場所を移動するに過ぎません。
出張中は、移動時間や滞在先での活動すべてが、原則として所属企業の業務命令に基づいています。そのため、交通費、宿泊費、そして出張手当(日当)といった費用は、所属企業が負担します。これは、従業員が通常の勤務環境から離れて業務を行うことによる追加的な負担を補償するためです。
例えば、東京本社勤務の営業担当者が、大阪の顧客と商談するために日帰りで新幹線を利用する、あるいは数日間滞在して複数の商談を行うといったケースが典型的な出張に該当します。この間、その営業担当者は依然として東京本社の従業員であり、給与も東京本社から支給され続けます。
「出向」との決定的な違い
出張と混同されやすい言葉に「出向」があります。しかし、この二つには決定的な違いがあります。出向とは、従業員が元の会社に籍を残したまま、一定期間、別の会社(通常はグループ会社や関連会社)に異動して勤務することを指します。
出向期間中、従業員は出向先の会社の指揮命令の下で業務を行い、給与も出向元と出向先のどちらか、あるいは両方から支給されるケースがあります。雇用契約自体は元の会社と継続していることが多いですが、実質的な勤務場所、指揮命令系統、業務内容、さらには労働条件の一部が出向先のものに変わる点が大きな特徴です。
例を挙げると、親会社から子会社へ、新事業立ち上げのために数年間赴任する、といったケースが出向に該当します。この場合、単なる一時的な移動ではなく、勤務場所が恒常的に変わり、業務の責任者や同僚も出向先の人々になります。出張が「一時的な場所の移動」であるのに対し、出向は「一時的な所属先の変更を伴う配置転換」と捉えることができます。
「派遣」との根本的な相違点
さらに「派遣」という働き方も、出張と大きく異なります。派遣とは、従業員が「派遣元企業」と雇用契約を結びながら、「派遣先企業」の指揮命令の下で業務を行う形態です。つまり、雇用主と実際に働く場所・指揮命令者が異なるのが特徴です。
派遣社員は、派遣先の企業に業務を提供しますが、給与は雇用契約を結んでいる派遣元企業から支払われます。また、社会保険なども派遣元企業で加入します。出張が自社の業務のために場所を移動する行為であるのに対し、派遣は、派遣元企業が派遣先企業から業務の依頼を受け、それに人材を提供するサービスという側面が強いです。
出張 | 出向 | 派遣 | |
---|---|---|---|
雇用契約 | 所属企業 | 所属企業 (元の会社) | 派遣元企業 |
勤務場所 | 一時的に所属企業以外 | 出向先企業 (長期的) | 派遣先企業 (長期的) |
指揮命令者 | 所属企業 | 出向先企業 | 派遣先企業 |
給与支払い | 所属企業 | 出向元または出向先 | 派遣元企業 |
目的 | 自社業務の遂行 | グループ会社などへの配置転換 | 他社への労働力提供 |
このように、出張、出向、派遣は、それぞれ雇用関係、勤務形態、指揮命令系統が根本的に異なるため、その違いを正確に理解しておくことが、労働者にとっても企業にとっても重要です。
出張の際の労働基準法との関わり
出張中の労働時間の考え方
出張中の労働時間は、通常のオフィス勤務とは異なる特別な扱いがされることがあります。特に、労働基準法における「事業場外労働みなし労働時間制」が適用されるケースが多いです。これは、出張先など事業場の外で業務に従事した場合、労働時間の算定が困難であるため、あらかじめ定めた時間(所定労働時間、またはそれ以上の時間)を労働したものとみなす制度です。
具体的には、移動時間は原則として労働時間とはみなされないことが多いです。これは、移動中の従業員が完全に会社の指揮命令下にあるとは言えず、私的な時間と区別しにくいという考え方に基づきます。ただし、移動中に会議の資料作成を命じられたり、顧客への電話連絡を指示されたりするなど、具体的な業務指示があった場合は、その時間帯は労働時間とみなされます。
出張先での業務時間は、基本的には通常の所定労働時間として扱われますが、実際の業務が所定時間を超える場合は、超過分も労働時間として計上されるべきです。企業は、出張中の従業員の労働時間を適切に把握し、必要に応じて残業代の支払い義務を果たす必要があります。労働時間の管理は、従業員の健康と権利を守る上で極めて重要です。
出張手当の法的性質と労働基準法
出張手当(日当)は、従業員が出張することで生じる特別な費用(食費や雑費など)を補填するためのものですが、労働基準法において支給が義務付けられている賃金ではありません。これはあくまで企業が任意で定める福利厚生の一環、または実費補填として支給される性格のものです。
そのため、出張手当を支給しないこと自体が労働基準法違反となるわけではありません。しかし、一度企業が出張手当の支給を規定し、就業規則や旅費規程に明記した場合は、その規程に従って支給する義務が生じます。規程に反して支給しなかったり、不当に減額したりした場合は、トラブルの原因となる可能性があります。
企業側にとって、出張手当にはメリットもあります。一定の要件を満たすことで、法人税、消費税、社会保険料の計算において、課税対象から除外される可能性があるため、節税効果が期待できる場合があります。また、従業員にとっては、経費精算の手間が省け、小口の領収書を保管する煩わしさから解放されるという利点があります。このように、出張手当は法的義務ではないものの、企業と従業員双方にメリットをもたらす制度として広く活用されています。
企業に求められる安全配慮義務
企業は、労働契約法第5条に基づき、従業員が安全かつ健康に業務を遂行できるよう、必要な配慮をする「安全配慮義務」を負っています。これは、オフィス内での業務だけでなく、出張中の従業員に対しても同様に適用されます。
特に、海外出張や危険地域への出張の場合、企業に求められる安全配慮の範囲はより広くなります。具体的には、以下のような措置が挙げられます。
- 情報提供:出張先の治安状況、文化、医療情報、災害リスクなどを事前に従業員に提供する。
- 危機管理体制の構築:緊急時の連絡先、医療機関の手配、避難経路の確認など、有事の際の対応計画を策定する。
- 連絡体制の確保:出張中の従業員との定期的な連絡手段を確立し、安否確認を行う。
- 保険加入:万が一の事故や病気に備え、適切な海外旅行保険や傷害保険に加入する。
- 健康管理:長時間のフライトや時差による体調不良に配慮し、必要に応じて休養を取らせる。
企業が出張中の安全配慮義務を怠り、従業員が事故や健康被害に遭った場合、損害賠償責任を問われる可能性があります。従業員が安心して業務に専念できるよう、企業は出張時のリスクを評価し、適切な安全対策を講じることが不可欠です。
まとめ
よくある質問
Q: 出張とは具体的にどのような行為ですか?
A: 出張とは、業務上の必要性から、所属する事業所や勤務地を一時的に離れて、他の場所へ赴くことを指します。単に移動することだけでなく、その場所で一定の業務を行うことが前提となります。
Q: 出張の期間はどのように決まりますか?
A: 出張の期間は、担当する業務の内容や目的によって異なります。日帰りで行われる場合もあれば、数日間、あるいはそれ以上の期間に及ぶ場合もあります。社内規定や業務指示によって定められます。
Q: 公務員の出張と一般企業の出張に違いはありますか?
A: 公務員の出張は、職務命令に基づいて行われ、旅費規程などが詳細に定められています。一般企業の出張も業務命令ですが、社内規定によって旅費や手当の支給基準などが異なります。
Q: 出張と派遣の違いは何ですか?
A: 出張は、あくまで所属する会社からの命令で一時的に行う業務です。一方、派遣は、派遣元に所属し、派遣先で一定期間就業する形態であり、雇用関係や業務遂行の主体が異なります。
Q: 日帰り出張の場合でも、労働基準法は適用されますか?
A: はい、日帰り出張であっても、移動時間や業務遂行時間も労働時間とみなされる場合があり、労働基準法が適用されます。時間外労働や休憩時間などについても、通常の勤務と同様に考慮されます。