概要: 退職金は勤続年数によって大きく変動します。この記事では、勤続10年、15年、20年以上といった各期間における退職金の相場を解説。さらに、勤続年数が短い場合の注意点や、退職金制度の理解の重要性もお伝えします。
勤続年数別!退職金相場を知るための基本
退職金とは?その基本的な考え方
退職金とは、長年にわたって企業に貢献した従業員に対し、その功労に報いる意味合いで支給される金銭です。単なる給与の後払いではなく、従業員の老後の生活資金の一部として重要な役割を担うことも少なくありません。一般的には、勤続年数が長ければ長いほど支給される退職金の額も増加する傾向にあります。これは、企業への貢献度や忠誠心が勤続年数に比例すると考えられているためです。
しかし、退職金制度は法律で義務付けられているものではなく、その有無や内容は企業の就業規則や退職金規程によって大きく異なります。そのため、自身の勤める会社にどのような退職金制度があるのか、そして勤続年数によってどのように金額が変動するのかを事前に確認しておくことが非常に重要です。退職金は、セカンドキャリアや老後設計を考える上で欠かせない要素となりますので、その基本的な仕組みを理解しておくことは賢い人生設計の第一歩と言えるでしょう。
勤続年数以外に退職金に影響する要因
退職金の支給額は、勤続年数だけでなく、さまざまな要因によって変動します。主な要因としては、以下のような点が挙げられます。
- 会社の規模:一般的に、大企業の方が中小企業よりも退職金の水準が高い傾向にあります。これは、企業の財務体力や福利厚生制度の充実度に起因すると考えられます。
- 学歴:同じ勤続年数であっても、大卒と高卒では支給額に差を設けている企業が多く見られます。大卒の方が高卒よりも高い退職金が支給される傾向が強いです。
- 役職・等級:役職が上がったり、責任ある立場に就いたりした従業員には、その貢献度に応じて高い退職金が設定されることがあります。
- 退職理由:自己都合退職と会社都合退職では、支給額が大きく異なることが一般的です。会社都合退職の場合、通常の退職金に加えて割増退職金が支給されるケースもあります。
- 退職金制度の種類:後述しますが、退職一時金制度、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金など、採用している制度によって計算方法や最終的な受け取り額が変わります。
これらの要因が複合的に絡み合うことで、個々の退職金の額が決定されます。ご自身の退職金がどの程度の水準になるかを把握するためには、勤続年数だけでなく、これらの要素も考慮に入れる必要があります。
退職金の勤続年数の数え方と注意点
退職金の計算における勤続年数は、原則として入社日から退職日までの期間を指します。しかし、単に在籍期間を数えれば良いというわけではなく、いくつか注意すべき点があります。
- 休職・育児休業期間:一般的に、雇用契約が継続しているため、休職期間や育児休業期間も勤続年数に含まれることが多いです。ただし、退職金の計算対象から除外される場合や、算定期間に上限が設けられている場合もあります。これは企業の就業規則や退職金規程によって異なるため、必ず確認が必要です。
- 出向期間:グループ企業への出向の場合、元の会社での勤続年数を通算することが多いですが、転籍の場合はリセットされることがあります。
- 試用期間:試用期間も通常、勤続年数に含まれます。
- 端数処理:勤続年数に1年未満の端数がある場合、「切り上げ」または「切り捨て」のどちらで処理されるかは企業によって異なります。例えば、勤続9年1ヶ月の場合でも、10年として計算されることもあれば、9年として計算されることもあります。多くの企業では、従業員に有利なように1年に切り上げて計算されるのが一般的ですが、これも規程で確認すべきポイントです。
これらの細かなルールが最終的な退職金額に影響を与える可能性があるため、ご自身の会社の退職金規程を熟読し、不明な点があれば人事部門に確認することが賢明です。
勤続10年・15年の退職金、平均っていくら?
大企業における勤続10年・15年の相場
勤続年数が10年や15年といった、キャリアの中間地点における退職金は、その後のキャリアプランを考える上で重要な要素となります。特に大企業における相場は、以下のようになっています。
勤続年数 | 退職金相場 |
---|---|
10年 | 約230万円 |
15年 | 約430万円 |
これらの数字はあくまで「相場」であり、個々の企業や業種、個人の役職、退職理由(会社都合か自己都合か)によって変動することに注意が必要です。例えば、自己都合退職の場合は、会社都合退職と比較して退職金が減額されることが一般的です。しかし、おおよその目安として、勤続10年で200万円台、15年で400万円台といった水準が、大企業における一般的な支給額として捉えられています。
この段階での退職金は、転職活動の間の生活費や、新たなキャリアをスタートさせるための準備資金として活用されるケースが多く見られます。
中小企業における勤続10年・15年の相場
一方で、中小企業における勤続10年・15年の退職金相場は、大企業と比較すると低い傾向にあります。具体的なデータとしては、定年退職時の相場が示されていることが多いですが、勤続年数が短い場合もその傾向は同様です。
例えば、ある調査によれば、大学卒業後すぐに入社し会社都合で退職した場合のモデル退職金は以下のようになっています。
勤続年数 | 大卒 | 高卒 |
---|---|---|
10年 | 149.8万円 | 122.3万円 |
このデータからもわかるように、大企業における相場(勤続10年で約230万円)と比較すると、中小企業では100万円台後半となることが示唆されています。勤続15年の具体的なデータは少ないものの、勤続10年の傾向から見ても、大企業よりは低くなることが予測されます。
中小企業の場合、退職一時金制度がない代わりに「中小企業退職金共済制度(中退共)」に加入している企業も多く、その場合は中退共からの支給額が退職金となります。ご自身の勤める中小企業がどのような制度を採用しているかを確認することが肝要です。
学歴(大卒・高卒)による違い
退職金の支給額には、勤続年数だけでなく学歴も影響を与えることが一般的です。特に、キャリアの初期段階や中堅社員の段階では、その差が顕著に表れることがあります。
先ほどの中小企業におけるモデル退職金のデータでも見られたように、
- 勤続10年:大卒で149.8万円に対し、高卒では122.3万円
このように、同じ勤続年数であっても、大卒と高卒では退職金額に約20~30万円程度の差が生じています。この差は、企業が採用時の学歴を評価の基準の一つとしていることや、学歴に応じて初期の給与水準や昇進スピードが異なることに起因すると考えられます。
ただし、この学歴による差は、勤続年数が長くなるにつれて縮小していく傾向にあるとも言われています。これは、長年の実務経験や実績が学歴よりも重視されるようになるためです。例えば、定年退職時のデータでは、大卒と高卒の差は勤続10年時よりも小さくなる傾向が見られます。
学歴が退職金に与える影響は企業によって異なるため、ご自身の会社の退職金規程で詳細を確認することが最も確実です。
勤続20年以上の退職金、20年ルールや相場は?
勤続20年以上の退職金相場
勤続20年を超えると、退職金はぐっとその金額を増す傾向にあります。これは、企業への貢献度が非常に高いと評価されるためであり、また後述する「退職所得控除の20年ルール」も影響しています。大企業における勤続20年以上の退職金相場は以下のようになります。
勤続年数 | 退職金相場 |
---|---|
20年 | 約690万円 |
25年 | 約1,000万円 |
30年 | 約1,500万円 |
また、中小企業においても勤続20年を超えると退職金は大きく増加します。モデル退職金のデータ(会社都合、大学卒業後すぐに入社)では、勤続20年で大卒が414.7万円、高卒が328.4万円とされており、企業規模によって相場に開きがあることがわかります。
勤続20年以上の退職金は、住宅ローンの完済やセカンドライフの資金、子どもの教育費など、人生の大きな出費を賄う上で非常に重要な資産となります。そのため、この段階での退職金の水準は、多くの方が最も関心を持つポイントの一つです。
退職所得控除の「20年ルール」とは?
退職金を受け取る際に特に重要なのが、税制上の優遇措置である「退職所得控除」です。この控除額を計算する際に、勤続20年を境に計算式が変わることが、いわゆる「20年ルール」と呼ばれています。
退職所得控除額の計算式は以下の通りです。
- 勤続20年以下の場合:
「40万円 × 勤続年数」(ただし、80万円未満の場合は80万円)例:勤続10年の場合、40万円 × 10年 = 400万円の控除
- 勤続20年超の場合:
「800万円 + 70万円 ×(勤続年数 – 20年)」例:勤続25年の場合、800万円 + 70万円 ×(25年 – 20年)= 800万円 + 350万円 = 1,150万円の控除
この計算式を見ると、勤続20年を超えると控除額が飛躍的に増加することがわかります。特に、20年目までは1年あたり40万円の控除増加ですが、21年目以降は1年あたり70万円と、控除額の増加ペースが上がります。この制度は、長年勤め上げた従業員に対して、より手厚い税制優遇を行う目的があります。
退職所得控除の範囲内であれば、退職金に税金はかかりません。また、控除額を超えた部分の退職所得に対しても「(退職金の額 – 退職所得控除額)× 1/2」として課税されるため、他の所得に比べて税負担が軽くなる特徴があります。
定年退職時の退職金水準
人生で最も長い勤続年数となる定年退職時、退職金の水準は一般的に最も高くなります。多くの企業で、定年退職は最も優遇される退職理由の一つと位置付けられています。中小企業庁の調査に基づくモデル退職金(会社都合、大学卒業後すぐに入社)のデータを見てみましょう。
退職理由 | 大卒 | 高卒 |
---|---|---|
定年退職 | 1,091.8万円 | 994万円 |
このデータは中小企業のモデルですが、大企業であればこれよりもさらに高い水準となることが期待できます。定年退職は、勤続年数が長く、かつ会社都合に近い形での退職となるため、最も手厚い退職金が支給される傾向にあります。
定年退職時に受け取る退職金は、その後の年金生活を支える大切な資金源となります。そのため、定年までのキャリアプランを考える上で、自身の会社の定年退職時の退職金がどの程度の水準になるのかを把握し、老後資金計画に組み込むことが非常に重要です。
勤続年数が短い場合の退職金(5年・7年・10年未満)
短い勤続年数でも退職金はもらえる?
「勤続年数が短いと退職金はもらえないのでは?」と不安に感じる方もいるかもしれません。結論から言えば、企業の退職金制度や勤続年数の規定によりますが、短い勤続年数でも退職金が支給されるケースは存在します。
一般的に、多くの企業では勤続3年以上を退職金支給の最低条件としていることが多いです。しかし、中には勤続5年以上を条件としている企業や、そもそも退職金制度がない企業も存在します。特に、創業間もないベンチャー企業や中小企業では、退職金制度の整備がまだ追いついていないケースも少なくありません。
また、中小企業に勤務している場合、「中小企業退職金共済制度(中退共)」に会社が加入していれば、会社を退職した際に共済から退職金が支給されます。中退共の退職金は、勤続1年未満の場合は支給されませんが、勤続1年以上であれば支給対象となります。このように、ご自身の勤める会社がどのような制度を導入しているかによって、短い勤続年数での退職金受給の可否は大きく変わるため、就業規則や人事部門への確認が不可欠です。
勤続10年未満の退職金相場
勤続10年未満の場合の退職金相場は、勤続10年以上の社員と比較すると大幅に低くなります。大企業における勤続10年の相場が約230万円、中小企業のモデル退職金(大卒)が149.8万円であることを考えると、それ未満の勤続年数ではさらに減少すると考えられます。
具体的な数字としては、
- 勤続5年:数十万円程度から100万円に届かないケースが多い
- 勤続7年:100万円前後が目安となることもある
といった水準が一般的です。これは、勤続年数が短いと企業への貢献度も限定的と見なされ、退職金規程上の算定係数が低く設定されていることが多いためです。
また、退職所得控除の観点からも、勤続年数20年以下の場合は「40万円 × 勤続年数」で計算され、最低80万円の控除があるため、勤続2年で80万円、勤続1年で40万円(最低80万円控除)と、退職金が控除額を下回れば税金はかかりません。しかし、そもそも退職金の絶対額が少ないため、老後資金というよりは、一時的な生活費や次の職を探すための繋ぎ資金として捉えることになるでしょう。
早期退職制度と退職金
勤続年数が短い場合の例外として、早期退職制度を利用したケースが挙げられます。企業が事業再編や人員削減などの目的で早期退職者を募集する場合、通常の自己都合退職とは異なる優遇措置が取られることがあります。
早期退職制度では、通常の退職金に加えて「特別加算金」が上乗せされることが一般的です。これにより、本来の勤続年数で計算される退職金よりもはるかに高額な退職金を受け取ることが可能になります。この特別加算金は、年齢や勤続年数に応じて異なり、退職を促すためのインセンティブとして機能します。
また、早期退職制度を利用した場合、退職理由が「会社都合」として扱われることが多いため、失業給付の受給条件が有利になったり、再就職支援が提供されたりすることもあります。ただし、早期退職は企業の都合で行われるため、必ずしも希望するタイミングで利用できるわけではありません。また、早期退職制度の有無やその内容は企業によって大きく異なるため、詳細は会社の規定を確認し、慎重に検討する必要があります。
退職金制度を理解し、賢く準備しよう
主な退職金制度の種類と特徴
退職金制度にはいくつかの種類があり、ご自身の会社がどの制度を採用しているかによって、受け取れる退職金の額や受け取り方、税金のかかり方が変わってきます。主な退職金制度は以下の通りです。
- 退職一時金制度:
最も一般的な制度で、退職時に会社から一括で退職金が支給されるものです。計算方法は勤続年数、退職理由、退職時の基本給などに基づいて行われ、受け取りは一度限りとなります。 - 確定給付企業年金(DB):
企業が従業員に支払う年金額をあらかじめ約束し、そのために必要な掛金を企業が拠出・運用する制度です。退職時に年金形式で受け取るのが基本ですが、一部または全額を一時金として受け取れる選択肢がある場合もあります。運用リスクは企業が負います。 - 企業型確定拠出年金(DC):
企業が掛金を拠出し、従業員自身が運用商品を選択して運用する制度です。運用の成果によって将来受け取る金額が変動するため、運用リスクは従業員が負います。原則として60歳まで引き出しができないという特徴があります。 - 退職金共済:
主に中小企業で導入されており、企業が中小企業退職金共済事業本部(中退共)などの外部機関に掛金を支払い、従業員の退職時に共済から退職金が支給される制度です。企業が掛金を拠出し、運用は共済が行います。
これらの制度は併用されることもあり、例えば「退職一時金+企業型DC」といった形で運用している企業も存在します。ご自身の会社の制度をしっかりと理解しておくことが、賢い資産形成の第一歩です。
自身の退職金制度を確認する方法
退職金の支給額や制度は企業によって千差万別であるため、ご自身の会社の制度を正確に把握しておくことが何よりも重要です。確認方法はいくつかあります。
- 就業規則・退職金規程の確認:
企業の就業規則や退職金規程には、退職金の支給条件、計算方法、支給時期、休職期間の取り扱いなどが明記されています。まずはこれらの公式文書を確認しましょう。会社内のイントラネットや人事部門で閲覧できることがほとんどです。 - 人事・経理部門への問い合わせ:
規程を読んでも不明な点がある場合や、ご自身の具体的なケースでの試算を知りたい場合は、人事部や経理部に直接問い合わせるのが最も確実です。ただし、退職を検討していることを悟られたくない場合は、問い合わせ方や質問内容に配慮が必要です。 - 定期的な制度説明会への参加:
企業によっては、退職金制度や確定拠出年金に関する説明会を定期的に開催している場合があります。このような機会を積極的に活用し、正しい知識を得るようにしましょう。 - 退職金シミュレーションツールの利用:
企業によっては、社員向けの退職金シミュレーションツールを提供している場合があります。これを利用することで、将来の退職金額の目安を把握できます。
これらの方法で得た情報を元に、ご自身の退職金がどの程度の金額になるかを具体的に試算し、今後のライフプランに役立てることが大切です。
退職金にかかる税金と節税のポイント
退職金は「退職所得」として扱われ、他の所得とは別に計算されるため、税制上の優遇措置が大きいです。しかし、全く税金がかからないわけではありません。賢く準備するためには、退職金にかかる税金とその節税ポイントを理解しておく必要があります。
課税対象となる退職所得金額は、以下の計算式で求められます。
(退職金の額 - 退職所得控除額)× 1/2
重要なのは、退職所得控除額が大きいことです。特に勤続20年を超えると控除額がさらに増える「20年ルール」は先に説明した通りです。この控除額を最大限に活用することが、退職金の税負担を軽減する最大のポイントとなります。
- 退職時期の検討:
勤続年数が20年に満たない場合、あと数ヶ月で20年を超えるのであれば、退職時期を調整することで退職所得控除額が大幅に増える可能性があります。 - iDeCo(個人型確定拠出年金)の活用:
企業型DCだけでなく、個人でiDeCoに加入している場合、その積立金も退職所得として扱われます。これにより、退職所得控除額を効果的に使うことができます。 - 退職金の分割受取:
確定給付企業年金(DB)などで退職金を年金形式で受け取る場合、公的年金等控除の対象となります。一時金で受け取るか、年金で受け取るかによって税金の計算方法が異なるため、ご自身の状況に合わせて検討が必要です。
退職金は一度きりの大きな収入であり、税金対策をしっかり行うことで手元に残る金額を最大化できます。税務に関する専門的な知識が必要となる場合もあるため、必要に応じて税理士などの専門家に相談することも検討しましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 勤続10年の退職金相場はどれくらいですか?
A: 勤続10年の退職金相場は、会社の制度や給与水準によって大きく異なりますが、一般的には数十万円から百万円程度となることが多いです。正確な金額は就業規則をご確認ください。
Q: 勤続15年だと退職金はいくらくらいになりますか?
A: 勤続15年になると、勤続10年よりも金額は増える傾向にあります。こちらも一概には言えませんが、百万円台後半から二百万円前後が目安となる場合もあります。
Q: 退職金は勤続20年以上で大きく変わりますか?
A: はい、勤続20年以上になると、退職金はさらに増加する傾向があります。また、退職金制度によっては、勤続年数が長くなるほど割増率が高くなることもあります。
Q: 勤続年数が5年や7年など短い場合、退職金はもらえますか?
A: 勤続年数が5年や7年といった短い場合でも、退職金制度があれば支給される可能性があります。ただし、勤続年数が短いと支給額が少額になるか、支給されない場合もあります。会社の規定を確認することが重要です。
Q: 「退職金20年ルール」とは何ですか?
A: 「退職金20年ルール」という明確な法律や制度はありませんが、一般的には勤続20年以上で退職金が支払われる、あるいは金額が大きく増えるといった社内規定を指すことが多いです。企業によっては独自のルールを設けています。