概要: 退職金が0円になるケースや、受け取る金額によって税金がどのように変わるのかを解説します。100万円から1000万円までの具体的な税金シミュレーションや、退職所得控除の活用法も紹介し、賢く退職金と向き合うための情報を提供します。
退職金はいくら?税金との関係を100万円~1000万円まで徹底解説
長年勤め上げた会社を退職する際に受け取る「退職金」。老後の生活設計を左右する大切な資金ですが、「税金でいくら引かれるんだろう…」「どう計算されるのか分からない」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
退職金にかかる税金は、勤続年数や受け取る金額によって計算方法が異なりますが、実は他の所得に比べて税制上の優遇措置が手厚く、賢く理解すれば手取り額を最大化することも可能です。
この記事では、退職金の税金について、100万円から1000万円まで具体的なシミュレーションを交えながら徹底的に解説します。あなたの退職金の手取り額をイメージできるよう、分かりやすくご紹介していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
退職金0円の可能性も?知っておきたい基礎知識
退職金制度の現状とあなたの会社は?
「退職金はあって当たり前」と思われがちですが、実は退職金制度の導入は企業にとって法的な義務ではありません。厚生労働省の調査によると、退職金制度を導入している企業は全体の約70~80%程度と言われており、中小企業では導入していないケースも少なくありません。
退職金制度の種類も様々です。一般的に多く見られるのは、退職時に一括で支払われる「退職一時金」と、年金形式で受け取る「企業年金」(確定給付企業年金や確定拠出年金など)です。企業年金の場合、運用状況によって将来の受取額が変動するリスクもあります。
まずはご自身の会社の就業規則や退職金規定を確認し、どのような制度が導入されているのか、いくら受け取れそうなのかをしっかりと把握することが重要です。もし制度がない場合は、iDeCo(個人型確定拠出年金)などを活用して、ご自身で老後資金を準備していく必要があります。
退職金にかかる税金が優遇される理由
退職金にかかる税金は、一般的に「退職所得」として扱われ、給与所得など他の所得とは分離して課税されるという大きな特徴があります。さらに、税負担が軽くなるよう特別な優遇措置が設けられています。
なぜ退職金が優遇されるのでしょうか?その理由は主に二つあります。一つは、退職金が長年の勤労に対する功労報償としての性格を持つためです。もう一つは、退職後の生活を支えるための重要な資金であり、老後の生活保障という側面が強いためです。もし退職金に給与と同じような税金がかかってしまえば、老後の生活資金として手元に残る金額が大幅に減ってしまい、生活が成り立たなくなる可能性もあります。
このような背景から、退職金には「退職所得控除」という大きな控除が適用され、さらに控除後の金額に「1/2課税」という仕組みが適用されることで、税負担が大幅に軽減されるようになっています。
退職所得控除の基本を知ろう
退職金にかかる税金を計算する上で、最も重要なのが「退職所得控除」です。この控除額は、あなたの勤続年数によって決まります。
勤続年数1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げて計算されます。例えば、勤続10年1ヶ月の場合は11年とみなされます。
具体的な計算式は以下の通りです。
- 勤続20年以下の場合: 40万円 × 勤続年数 (ただし最低80万円)
- 勤続20年超の場合: 70万円 × (勤続年数 – 20年) + 800万円
この計算式を見ると、勤続20年を超えると控除額が大きく増えることが分かりますね。例えば、勤続10年なら400万円、勤続20年なら800万円、勤続25年なら「70万円 × 5年 + 800万円 = 1,150万円」が控除額となります。退職金がこの控除額を下回る場合は、なんと全額非課税になるため、税金を支払う必要がありません。まずはご自身の勤続年数で、退職所得控除額がいくらになるかを確認してみましょう。
退職金100万円、150万円は税金でいくら減る?
退職金が控除額を下回る場合は非課税!
先ほど解説した退職所得控除の計算式を理解していれば、退職金が少額の場合に税金がかからないケースがあることが分かります。特に、勤続年数が短い方や、元々退職金制度があっても少額である会社にお勤めの方にとっては、この「非課税枠」が非常に重要です。
退職所得控除額は最低でも80万円(勤続2年以下の場合)が保証されています。つまり、勤続年数が2年で退職金が80万円以下であれば、税金は一切かからないということになります。勤続年数が長くなるほど控除額も増えていくため、例えば勤続3年であれば控除額は120万円(40万円×3年)となり、120万円以下の退職金であれば非課税となります。
このように、退職金総額がご自身の退職所得控除額を下回る場合は、税金の心配をする必要がありません。退職金の手取り額を最大化する上での第一歩は、この非課税ルールをしっかりと把握することです。
具体的なシミュレーション:100万円・150万円
実際に、退職金100万円や150万円を受け取った場合の税金をシミュレーションしてみましょう。ここでは、所得税率を最低税率の5%として計算します。
項目 | 例1:勤続2年、退職金100万円 | 例2:勤続3年、退職金150万円 | 例3:勤続2年、退職金70万円 |
---|---|---|---|
勤続年数 | 2年 | 3年 | 2年 |
退職所得控除額 | 40万円 × 2年 = 80万円 | 40万円 × 3年 = 120万円 | 40万円 × 2年 = 80万円 |
退職金総額 | 100万円 | 150万円 | 70万円 |
課税退職所得金額 | (100万円 – 80万円) × 1/2 = 10万円 | (150万円 – 120万円) × 1/2 = 15万円 | 控除額を下回るため 0円 |
所得税(課税退職所得金額 × 5%) | 10万円 × 5% = 5,000円 | 15万円 × 5% = 7,500円 | 0円 |
復興特別所得税(所得税額 × 2.1%) | 5,000円 × 2.1% = 105円 | 7,500円 × 2.1% = 157円 | 0円 |
住民税(課税退職所得金額 × 10%) | 10万円 × 10% = 10,000円 | 15万円 × 10% = 15,000円 | 0円 |
合計税額 | 約15,105円 | 約22,657円 | 0円 |
手取り額 | 約984,895円 | 約1,477,343円 | 700,000円 |
このシミュレーションから、少額の退職金でも税金がかかる場合があること、そして控除額を下回れば非課税になることがお分かりいただけるでしょう。
手取り額を最大化するためのポイント
退職金が少額の場合、手取り額を最大化するポイントは、「退職所得控除」を最大限に活用することに尽きます。もしあなたの退職金が退職所得控除額を下回る、あるいはわずかに上回る程度であれば、かかる税金は非常に少額か、全くかからないケースがほとんどです。
また、会社で「退職所得の受給に関する申告書」という書類を提出していれば、会社が退職金から所得税・復興特別所得税・住民税を源泉徴収して納税を完了してくれるため、原則として確定申告は不要です。これにより、税務署に出向いたり、複雑な書類を作成したりする手間を省くことができます。
自身の勤続年数で計算される退職所得控除額を把握し、退職金と照らし合わせることで、いくら手元に残るかを事前に正確にシミュレーションすることが、賢く退職金と付き合うための第一歩となるでしょう。
退職金300万円~1000万円の場合の税金シミュレーション
課税退職所得金額の計算ステップ
退職金が退職所得控除額を上回る場合、税金がかかります。この税金を計算するために、まず「課税退職所得金額」を算出する必要があります。
課税退職所得金額は以下の計算式で求められます。
課税退職所得金額 = (退職金総額 – 退職所得控除額) × 1/2
この計算式が、退職金にかかる税金を優遇する制度の最大のポイントです。控除額を差し引いた後の金額が、さらに半分になるため、実際に税金がかかる対象が大幅に少なくなるのです。これにより、一般的な給与所得などと比較して、退職金にかかる税負担が大きく軽減されます。
なお、勤続5年以下の役員等に対する退職金や、勤続5年以下の役員等以外の人で、退職金額から退職所得控除額を差し引いた額のうち300万円を超える部分については、この1/2課税が適用されない場合があります。この点については、ご自身の状況に合わせて税務署や税理士に確認することをおすすめします。
シミュレーション:勤続10年1ヶ月、退職金900万円の場合
具体的な金額でシミュレーションしてみましょう。ここでは、勤続年数の端数処理も考慮します。
【例:勤続10年1ヶ月、退職金900万円の場合】
- 勤続年数の算出: 10年1ヶ月なので、1年未満の端数を切り上げて11年となります。
- 退職所得控除額の算出: 勤続20年以下なので「40万円 × 勤続年数」の式を適用します。
40万円 × 11年 = 440万円 - 課税退職所得金額の算出: 「(退職金総額 – 退職所得控除額) × 1/2」の式を適用します。
(900万円 – 440万円) × 1/2 = 460万円 × 1/2 = 230万円 - 所得税の算出: 課税退職所得金額230万円に対する所得税率は10%、控除額は97,500円です。
(230万円 × 10% – 97,500円) = 230,000円 – 97,500円 = 132,500円 - 復興特別所得税の算出: 所得税額に2.1%を乗じます。
132,500円 × 2.1% = 2,782円(約0.3万円) - 住民税の算出: 課税退職所得金額に10%を乗じます。
230万円 × 10% = 230,000円
合計税額: 132,500円 + 2,782円 + 230,000円 = 約365,282円(約36.5万円)
手取り額: 900万円 – 365,282円 = 約8,634,718円(約863.5万円)
シミュレーション:勤続25年、退職金1000万円の場合(非課税事例)
次に、勤続年数が長く、退職金が1000万円というケースを見てみましょう。ここで注目すべきは、勤続20年を超えた場合の退職所得控除額の大きさが、手取り額にどれほど影響を与えるかです。
【例:勤続25年、退職金1000万円の場合】
- 勤続年数の算出: 25年
- 退職所得控除額の算出: 勤続20年超なので「70万円 × (勤続年数 – 20年) + 800万円」の式を適用します。
70万円 × (25年 – 20年) + 800万円 = 70万円 × 5年 + 800万円 = 350万円 + 800万円 = 1,150万円
このケースでは、退職金総額が1,000万円であるのに対し、退職所得控除額は1,150万円となり、退職金が退職所得控除額を下回ります。
したがって、この場合は全額非課税となり、税金は一切かかりません。
合計税額: 0円
手取り額: 1,000万円
このように、勤続年数が長ければ長いほど退職所得控除額は大きくなり、高額な退職金を受け取っても非課税となるケースがあることが分かります。これは退職金制度の大きな優遇の一つと言えるでしょう。
退職所得控除を最大限に活用する方法
勤続年数の重要性と「勤続20年」の壁
退職所得控除額の計算式をご覧いただくとわかる通り、退職金の手取り額を大きく左右するのが「勤続年数」です。特に、勤続年数が20年を超えるか否かで、控除額の計算方法が大きく変わるため、「勤続20年の壁」と表現されることがあります。
- 勤続20年以下の部分:1年あたり40万円
- 勤続20年を超える部分:1年あたり70万円
この差は非常に大きく、例えば勤続19年の控除額は760万円(40万円×19年)ですが、勤続20年の控除額は800万円(40万円×20年)です。しかし、勤続21年になると「70万円×(21-20年)+800万円=870万円」となり、一気に70万円も増えます。勤続年数が1年違うだけで、控除額が最大30万円(70万円-40万円)も変わる可能性があるため、ご自身の退職時期やキャリアプランを考える上で、この勤続年数と控除額の関係を深く理解しておくことが極めて重要です。
退職時期を考慮した節税対策
勤続年数の重要性を踏まえると、退職時期の調整が節税対策として有効な場合があります。
先述の通り、退職所得控除額の計算において、勤続年数に1年未満の端数がある場合は切り上げて計算されます。例えば、勤続19年1ヶ月で退職した場合、勤続年数は20年とみなされ、控除額は800万円となります。一方で、仮にあと数ヶ月勤務すれば勤続20年1ヶ月となり、勤続年数が21年とみなされる場合、控除額は870万円まで増額されます。
このように、あとわずか数ヶ月勤務を続けることで勤続年数が1年増え、結果として退職所得控除額が最大で70万円も多くなるケースがあります。これにより、課税される退職所得が減少し、手取り額が増える可能性があります。
ただし、退職時期の調整は、ご自身の体調、会社の状況、次のキャリアプランなど、様々な要素を総合的に考慮して慎重に決定する必要があります。あくまで税金面でのメリットとして、選択肢の一つとして検討する価値があるでしょう。
複数退職金の取り扱いと確定申告の有無
人生の中で複数の会社から退職金を受け取ることもあります。その場合、退職所得控除額の計算には注意が必要です。基本的に、過去に退職金を受け取ったことがある場合、その勤続年数と現在の勤続年数を合算して控除額を計算することになります。
また、退職金を受け取る際に会社へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、原則として確定申告は不要です。しかし、以下のような場合には確定申告が必要になったり、確定申告をすることで税金が還付されたりする可能性があります。
- 「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合(この場合、高い税率で源泉徴収されている可能性が高い)
- 同じ年に複数の会社から退職金を受け取った場合
- 退職金以外に所得があり、各種控除の適用を受けることで税金が還付される可能性がある場合
ご自身の状況に合わせて、確定申告が必要か、または有利になるかを税務署や税理士に相談することをおすすめします。特に、税制改正は頻繁に行われるため、最新の情報に注意を払うことが大切です。2024年度の税制改正では、退職所得控除の見直しは行われない方針が示されています。
退職金と賢く付き合うための注意点
「退職所得の受給に関する申告書」は必ず提出する
退職金を受け取る際、会社から渡される「退職所得の受給に関する申告書」は、必ず提出するようにしましょう。この書類を提出することで、会社が退職所得控除額を適用し、適切な税額で源泉徴収(天引き)を行ってくれます。
もし、この申告書を提出しなかった場合、退職金から一律で20.42%の税率で源泉徴収されてしまいます。これは、退職所得控除が適用されないため、本来よりもはるかに高い税金が天引きされることになります。例えば、非課税となるはずの退職金でも、この源泉徴収が行われてしまうのです。
提出しなかった場合でも、確定申告を行えば払いすぎた税金は還付されますが、余計な手間がかかります。会社側も適切な手続きのため提出を求めますので、必ず期日までに提出するように心がけましょう。
iDeCo(イデコ)や企業型DCとの連携
近年普及が進むiDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC(企業型確定拠出年金)の制度も、退職金と密接な関係があります。これらの制度で積み立てた資金を一時金として受け取る場合、その一時金も「退職所得」として扱われます。
もし、会社からの退職金と、iDeCoや企業型DCの一時金を同じ年に受け取る場合は注意が必要です。これらの合計額に対して退職所得控除が適用されるため、会社からの退職金だけで控除枠を使い切ってしまっていると、iDeCoや企業型DCの一時金に対して税金がかかる可能性が高まります。
このような状況を避けるためには、会社からの退職金とiDeCo・企業型DCの一時金の受給時期を年をまたいでずらすなどの工夫が有効な場合があります。ご自身の退職計画に合わせて、これらの受け取り方を事前に検討し、税理士や金融機関の専門家に相談することをおすすめします。
退職後のライフプランと資産運用
退職金は、長年の努力に対する報酬であると同時に、老後の生活を支える大切な資金です。安易に消費してしまうのではなく、退職後のライフプランを見据えた賢い活用を考えることが重要です。
まずは、今後の生活費、住宅ローンの返済、医療費や介護費用の準備など、具体的な用途を明確にしましょう。そして、老後の生活資金として一定額を確保した上で、残りの資金をどのように運用していくかを検討します。
特におすすめなのは、NISA(少額投資非課税制度)やつみたてNISA、iDeCoなどの税制優遇のある制度を活用した資産運用です。これらの制度を上手に活用することで、退職金を効率的に増やし、豊かな老後を送るための準備を進めることができます。
退職金は、人生のセカンドキャリアを豊かにするための大きなチャンスです。専門家であるファイナンシャルプランナー(FP)などに相談し、ご自身のライフプランに合った最適な活用方法を見つけることをお勧めします。
まとめ
よくある質問
Q: 退職金が0円になることはありますか?
A: はい、勤続年数や会社の規定、退職理由によっては退職金が0円になる場合があります。例えば、試用期間中の退職や、就業規則に退職金制度に関する規定がない場合などが考えられます。
Q: 退職金100万円の場合、税金はいくら引かれますか?
A: 退職金100万円の場合、退職所得控除額(勤続20年以下なら40万円)を差し引いた金額に対して税金がかかります。例えば勤続10年であれば、100万円 – 40万円 = 60万円の半分(退職所得は2分の1課税)が課税対象となり、所得税・住民税が計算されます。
Q: 退職金300万円の場合、税金はいくらになりますか?
A: 退職金300万円の場合、勤続年数によって退職所得控除額が変わります。勤続20年以上であれば、1年あたり70万円(最低150万円)が控除されます。例えば勤続30年の場合、150万円が控除され、残りの150万円の半分(75万円)が課税対象となります。
Q: 退職金1000万円を受け取る場合の税金はどのくらいですか?
A: 退職金1000万円の場合、勤続年数が長ければ長いほど退職所得控除額が大きくなります。例えば勤続40年の場合、退職所得控除額は150万円 + (40年 – 20年) × 70万円 = 150万円 + 1400万円 = 1550万円となり、控除額が退職金額を上回るため、税金はかかりません。
Q: 退職所得控除を最大限に活用するコツはありますか?
A: 退職所得控除は勤続年数に応じて増額されます。そのため、可能な限り長く勤続することが控除額を増やすことに繋がります。また、退職金の一時金と年金形式の受け取りでは税制上の扱いが異なる場合があるため、ご自身の状況に合わせてどちらが有利か検討することも重要です。