概要: 退職金にかかる税金は、勤続年数に応じた退職金控除を適用することで、大幅に軽減できます。本記事では、退職金控除の基本から、転職やiDeCoとの関係、税金・住民税の計算方法、そして効果的な税金対策までを詳しく解説します。
退職金控除とは?基本を理解しよう
退職所得とは?なぜ優遇されるのか
長年の勤労への報奨として、企業から支給される退職金。この退職金は、一般的な給与所得とは異なり、「退職所得」として他の所得と分離して課税されるという大きな特徴があります。なぜ分離課税という優遇措置が取られているのでしょうか?
それは、退職金が従業員の長年の貢献に対する対価であり、老後の生活を支える大切な資金源であると位置づけられているためです。一時に多額の収入を得ることで高額な税金がかかるのを避けるため、税負担が軽減されるよう独自の計算方法が適用されます。
具体的には、退職金から一定額を控除できる「退職所得控除」が適用され、さらに残りの金額には「1/2課税」という優遇措置が設けられています。これにより、一般的な所得に比べて税負担が大幅に軽減されるのです。
ほとんどの場合、退職金にかかる所得税と住民税は、退職時に勤務先が源泉徴収してくれます。そのため、原則として個人で確定申告をする必要はありません。ただし、この優遇措置を受けるためには、退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出することが必須となります。この申告書を提出しない場合は、20.42%の源泉徴収がされた上で、ご自身で確定申告をして正しい税額を計算し直す必要がありますので、必ず提出するようにしましょう。
退職所得控除の仕組みと勤続年数の考え方
退職金にかかる税金を計算する上で、最も重要なのが「退職所得控除」です。これは、退職金から差し引かれる非課税枠のことで、勤続年数が長ければ長いほど控除額が大きくなる仕組みになっています。この控除額が大きければ大きいほど、課税対象となる退職所得が減り、結果として納める税金も少なくなります。
具体的な計算方法は以下の通りです。
- 勤続年数20年以下の場合:
40万円 × 勤続年数
(ただし、この計算で80万円に満たない場合は、一律80万円が控除されます。) - 勤続年数20年超の場合:
800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)
勤続年数の計算においては、1年未満の端数がある場合でも、その日数が1日でもあれば1年として切り上げて計算されます。例えば、勤続19年と1日であれば20年として計算され、勤続20年と1日であれば21年として計算されるため、控除額が大きく変わる可能性があります。
この計算式を見るとわかるように、勤続20年を境に控除額の増え方が大きく変わります。勤続20年までは年間40万円ずつ増えるのに対し、20年を超えると年間70万円ずつ増えるため、長期で勤務することの税制上のメリットは非常に大きいと言えるでしょう。
退職金控除の対象となる支払いと注意点
退職所得控除の対象となるのは、一般的に「退職金」という名目で支給される金銭だけではありません。その性質上、退職所得として扱われる様々な手当や一時金も控除の対象となります。例えば、会社都合による解雇の場合に支払われる「解雇予告手当」や、経営悪化などにより従業員に支給される「早期退職優遇制度による割増退職金」なども退職所得として扱われ、退職所得控除が適用されます。また、病気や怪我で心身に障害を負い、それが原因で退職せざるを得なくなった場合に受け取る退職金は、通常の控除額に100万円が上乗せされるという特例もあります。
しかし、近年では税制改正により注意すべき点も増えています。特に、勤続年数が5年以下の役員等への退職金については、2022年1月1日以降、「2分の1課税」の適用が一部なくなりました。これまでは退職所得から退職所得控除を差し引いた金額の1/2が課税対象となっていましたが、勤続5年以下の役員等については、控除額を差し引いた残額のうち300万円を超える部分が全額課税対象となります。これにより、実質的な税負担が増加する可能性があります。
さらに、勤続年数5年以下の一般社員への退職金(短期退職手当等)についても、2022年1月1日以降、同様の税制改正が適用されています。退職所得控除額を差し引いた残額のうち300万円を超える部分について、「2分の1課税」が適用されなくなりました。これらの改正は、短期で退職金を複数回受け取るケースや、役員として短期間で多額の退職金を受け取るケースへの課税を強化する目的があります。ご自身の退職金の受給形態と勤続年数に応じて、正確な情報を確認することが重要です。
退職金にかかる税金(所得税・住民税)の計算方法と控除額
課税退職所得金額の算出ステップ
退職金にかかる所得税と住民税を計算するためには、まず「課税退職所得金額」を算出する必要があります。これは、退職金のうち実際に税金がかかる部分の金額を指します。計算は以下のステップで行われます。
- 退職所得控除額を差し引く
まず、支給された退職金の総額から、勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引きます。
(退職金支給額 - 退職所得控除額)
この計算結果がマイナスになる場合は、課税退職所得金額は0円となり、税金はかかりません。 - 1/2課税を適用する(一部例外あり)
上記で算出した金額に、さらに1/2を乗じます。これが「1/2課税」と呼ばれる優遇措置です。
(退職金支給額 - 退職所得控除額) × 1/2
【具体例】
勤続30年で退職金2,000万円を受け取った場合
- 退職所得控除額の計算:
勤続20年超なので、800万円 + 70万円 × (30年 - 20年) = 800万円 + 700万円 = 1,500万円 - 課税退職所得金額の計算:
(2,000万円 - 1,500万円) × 1/2 = 500万円 × 1/2 = 250万円
この250万円が、所得税と住民税の計算の基礎となる「課税退職所得金額」となります。
【重要な例外】
前述の通り、勤続年数が5年以下の役員等への退職金、および勤続年数5年以下の一般社員への退職金(短期退職手当等)のうち、退職所得控除額を差し引いた残額が300万円を超える部分については、1/2課税が適用されません。この場合、300万円を超える部分については全額が課税対象となりますので、注意が必要です。
所得税・復興特別所得税の計算と源泉徴収
課税退職所得金額が算出できたら、次はその金額に対して所得税を計算します。退職所得にかかる所得税は、他の所得とは合算せずに単独で計算されるため、税率が比較的に低く抑えられます。
所得税額は、課税退職所得金額に対して「所得税の速算表」に定められた税率を乗じて計算されます。この速算表は、累進課税制度に基づいており、課税所得が高いほど税率も高くなります。
所得税額 = (課税退職所得金額 × 所得税率 - 控除額)
さらに、2013年1月1日から2037年12月31日までの期間は、東日本大震災の復興財源に充てるため「復興特別所得税」が課税されます。これは、算出した所得税額の2.1%に相当する金額が追加されるものです。
最終的な所得税額 = (算出した所得税額) × 1.021
ほとんどの場合、退職金にかかる所得税は、退職時に勤務先が「源泉徴収」として天引きしてくれます。これにより、個人が税務署に申告する手間が省けます。ただし、この源泉徴収が行われるのは、退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合に限ります。この申告書を提出しなかった場合は、一律20.42%の税率で源泉徴収されるため、納めすぎている可能性が高く、ご自身で確定申告をして正しい税額に調整する必要があります。
住民税(都道府県民税・市区町村民税)の計算
退職金には所得税だけでなく、住民税も課税されます。住民税も所得税と同様に、課税退職所得金額を基に計算されますが、その計算方法はシンプルです。
住民税は、都道府県民税と市区町村民税の2つで構成されており、合計で一律10%の税率が適用されます。内訳は、都道府県民税が4%、市区町村民税が6%です。
住民税額 = 課税退職所得金額 × 10%
【具体例】
先ほどの例で算出した課税退職所得金額250万円の場合
住民税額 = 250万円 × 10% = 25万円
(内訳:都道府県民税 10万円、市区町村民税 15万円)
住民税も所得税と同様に、退職時に勤務先が源泉徴収を行います。そのため、個人で別途住民税を納める手続きは基本的に不要です。退職金にかかる住民税は、他の所得にかかる住民税とは異なり、退職所得が発生した年の翌年に課税されるのではなく、退職所得が支払われた年に一括で課税・徴収されるという特徴があります。これにより、退職後に住民税の負担で困るということが避けられます。
退職金は、このように所得税・住民税ともに分離課税の対象となり、計算方法も優遇されているため、計画的な老後資金形成において非常に重要な役割を果たします。
退職金控除は2回目でも適用される?転職・再就職時の注意点
複数回退職金の受け取りと控除の適用
人生において転職は一般的になりつつあり、複数回退職金をF受け取るケースも珍しくありません。このような場合、「退職所得控除は2回目以降も適用されるのか?」という疑問が生じることでしょう。結論から言うと、退職所得控除は2回目以降も適用されます。これは、退職金がその時点での勤労に対する報奨であるという考え方に基づいているためです。
しかし、注意が必要なのは、過去に退職金を受け取っている場合、その履歴が今回の退職所得控除の計算に影響を与えるという点です。単純に各勤続期間の合計ではなく、重複期間の有無や期間によって控除額が調整されるルールがあります。
例えば、A社で20年勤務して退職金を受け取り、その後B社に転職して10年勤務して退職金を受け取る場合、B社の退職金にも退職所得控除は適用されます。ただし、A社で受け取った退職金と、B社で受け取る退職金の間の期間に、控除期間として重複する期間がないかをチェックする必要があります。
この仕組みを正しく理解し、適切な手続きを行うためには、退職時に勤務先に提出する「退職所得の受給に関する申告書」が非常に重要になります。この申告書には、過去の退職金の受給状況(支払者の氏名・名称、支払われた年月日、勤続期間、過去の退職所得の金額など)を正確に記入する欄があります。これを正しく申告することで、税務署側で適切な退職所得控除額が計算され、過不足なく税金が徴収されることになります。虚偽の申告や未申告は、後で追徴課税の対象となる可能性もあるため、十分な注意が必要です。
過去の退職金との重複期間の調整ルール
複数回退職金を受け取る場合、最も複雑で重要なのが「重複期間の調整ルール」です。これは、過去に受け取った退職金(確定拠出年金の一時金なども含む)の勤続期間と、今回受け取る退職金の勤続期間が重なっていないかを確認し、もし重複している場合は、その期間に対応する控除額が減額されるという制度です。
この調整は、主に以下の2つのケースで発生します。
- 前回の退職金の支払いのあった日から今回の退職金の支払いのあった日までの期間が19年以内である場合。
- 前回の退職金の勤続期間と今回の退職金の勤続期間に重複がある場合。
以前は「前14年」でしたが、2022年の税制改正により「前19年」に延長されました。これは、iDeCoなど確定拠出年金の一時金と退職金の同時受け取りによる控除の重複をより厳密に調整する目的があります。
【具体例で解説】
項目 | ケース1:期間の重複なし | ケース2:期間の重複あり |
---|---|---|
A社 | 勤続期間:2000年1月1日~2010年12月31日(11年) 退職金受給日:2010年12月31日 退職所得控除額:440万円(40万×11年) |
勤続期間:2000年1月1日~2010年12月31日(11年) 退職金受給日:2010年12月31日 退職所得控除額:440万円 |
B社 | 勤続期間:2011年1月1日~2021年12月31日(11年) 退職金受給日:2021年12月31日 退職所得控除額:440万円(40万×11年) ※A社とB社の間に期間の重複がないため、それぞれで満額の控除が適用されます。 |
勤続期間:2005年1月1日~2021年12月31日(17年) 退職金受給日:2021年12月31日 ※A社とB社の勤続期間には「2005年1月1日~2010年12月31日」の6年間の重複があります。 この6年間は、B社の退職所得控除を計算する際に勤続年数から除外されるか、あるいはA社で控除に利用した年数としてB社の控除額から差し引かれる調整が行われます。結果として、B社の退職所得控除額は減額されます。 |
このように、過去に受け取った退職金の勤続期間が、今回受け取る退職金の勤続期間と重複していると、後から受け取る退職金の控除額が減ってしまい、結果的に税負担が増える可能性があります。特に、短期間で転職を繰り返す場合や、iDeCoの一時金と会社の退職金を近接して受け取る場合は、この重複期間の調整に注意が必要です。
転職・再就職を検討する際の受給タイミング
転職や再就職を検討する際、退職金の受給タイミングは税金に大きな影響を与えます。特に、退職所得控除の重複期間の調整ルールを理解しておくことで、無用な税負担を避けることが可能です。
もし、一度退職金を受け取った後に短期間で再就職し、再び退職金を近接して受け取る計画がある場合、受け取り時期をずらすことが有効な税金対策となることがあります。例えば、前回の退職金受給日から今回の退職金受給日までが19年を超える期間が空いていれば、原則として重複期間の調整は行われず、それぞれの退職金に対して満額の退職所得控除を適用できる可能性が高まります。
しかし、転職のタイミングや老後資金の計画によっては、必ずしも退職金の受給を大幅に遅らせることが現実的ではない場合もあります。短期での転職を検討している場合は、各社の退職金規定を確認し、それぞれの勤続期間や退職金見込み額を把握した上で、税理士などの専門家に相談し、最適な受給タイミングをシミュレーションしてもらうのが賢明です。
また、退職金とiDeCoの一時金を同時に、あるいは近接して受け取る予定がある場合も同様です。それぞれの受給タイミングを数年ずらすことで、退職所得控除の重複調整を回避し、両方の控除を最大限に活用できる場合があります。
人生設計と税制優遇のバランスを考慮し、計画的に退職金の受給時期を検討することが、手取り額を最大化する鍵となります。漠然と退職するのではなく、税金の影響まで含めて綿密な計画を立てるようにしましょう。
iDeCo(確定拠出年金)との関係性:退職金控除との併用は?
iDeCoの税制優遇と受け取り方法
iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は、老後資金を準備するための私的年金制度で、国が推奨する非常に手厚い税制優遇が魅力です。主な優遇は以下の3つの段階で受けられます。
- 掛金拠出時: 支払った掛金は全額が所得控除の対象となります。これにより、その年の所得税と住民税が軽減されます。例えば、年24万円(月2万円)の掛金を支払っている場合、所得税率20%・住民税10%の方なら、年間7.2万円(24万×30%)の税負担軽減効果があります。
- 運用時: 運用によって得られた利益(利息や配当、売却益など)は、非課税で再投資されます。通常、金融商品の運用益には20.315%の税金がかかるため、この非課税メリットは非常に大きいです。
- 受取時: 積み立てた資産を受け取る際にも、税制優遇が適用されます。受け取り方によって、適用される控除が変わります。
iDeCoの受け取り方法には、主に「一時金として一括で受け取る」か「年金として複数回に分けて受け取る」かの2種類があります。
- 一時金として受け取る場合: 「退職所得控除」の対象となります。会社から支給される退職金と同様に扱われるため、長期で加入していれば大きな控除額が期待できます。
- 年金として受け取る場合: 「公的年金等控除」の対象となります。公的年金(厚生年金や国民年金)と同様に、年齢や収入に応じた控除が適用されます。
どちらの受け取り方が有利かは、個人の他の所得状況、受け取る年金額、年齢などによって異なります。これらの税制優遇を最大限に活用することで、効率的に老後資金を形成することができます。
退職金とiDeCo一時金を受け取る際の注意点
会社から支給される退職金と、iDeCoの資産を一時金として受け取る場合、両方が同じ「退職所得」として扱われるため、退職所得控除の計算において調整が行われます。これが大きな注意点です。
特に重要なのは、iDeCoの一時金を受け取る場合、その加入期間が「前19年」(以前は前14年)の期間内に、過去に他の退職金を受け取った期間と重複していないかという点です。もし重複期間があれば、後に受け取る退職金(またはiDeCo一時金)の退職所得控除額が、その重複期間分だけ減額されてしまいます。
【重複調整のメカニズム】
例えば、会社を勤続30年で退職し、退職金を受け取った数年後にiDeCoを一時金として受け取るケースを考えてみましょう。iDeCoの加入期間が、会社の勤続期間と一部重なっていたとします。この場合、iDeCoの一時金を受け取る際に適用される退職所得控除額は、会社の退職金で利用した勤続期間と重複しないように調整されます。具体的には、重複する期間に対応する退職所得控除額は、後に受け取る方の控除額から差し引かれる形になります。
この調整により、実質的に課税対象となる金額が増え、結果として税負担が想定よりも大きくなる可能性があります。特に、退職金とiDeCoの一時金をほぼ同じタイミングで受け取る計画をしている方は、この重複調整の影響を事前に確認しておくことが不可欠です。
2022年の税制改正で、この重複調整の対象期間が「前14年」から「前19年」に延長されました。これは、iDeCoの加入期間が長期化している現状に対応し、より厳密な重複調整を行うためです。この変更により、以前よりも多くの人が重複調整の対象となる可能性が高まっていますので、自身の加入期間と退職時期を考慮し、慎重な計画が求められます。
iDeCoと退職金のベストな受け取り戦略
退職金とiDeCoの資産を最も税効率よく受け取るためには、戦略的な計画が不可欠です。特に、前述の「重複期間の調整」を避けるための工夫が重要になります。
1. 受け取り時期をずらす
最も効果的な戦略の一つは、退職金とiDeCoの一時金の受け取り時期をずらすことです。具体的には、退職金を受け取ってから19年以上経過した後にiDeCoの一時金を受け取る、あるいはその逆のタイミングで受け取ることで、重複期間による控除額の減額を回避できる可能性が高まります。しかし、19年という長い期間を待つのは現実的でない場合も多いため、何年か間隔を空けるだけでも税負担軽減効果があるか、シミュレーションしてみる価値はあります。
2. iDeCoを年金形式で受け取る
iDeCoを年金形式で受け取る場合は、「公的年金等控除」の対象となるため、退職所得控除とは関係なく税金が計算されます。したがって、退職金とiDeCoの年金受け取りを併用しても、退職所得控除の重複調整は発生しません。ただし、公的年金等控除にも上限があるため、他の公的年金(厚生年金・国民年金)の受給額との兼ね合いで、年金形式が必ずしも有利とは限らない場合があります。
3. 個人の状況に応じた複合的な検討
最適な受け取り方は、個人の勤続年数、退職金の見込み額、iDeCoの積立額、他の公的年金受給額、退職後の所得見込み、健康状態(一時金受け取り後の運用リスク回避など)によって大きく異なります。
例えば、退職金が退職所得控除額を大きく超える見込みがなく、かつiDeCoの積立額もそれほど多くない場合は、両方を一時金で受け取っても税負担は小さいかもしれません。一方で、高額な退職金とiDeCoを一時金で受け取る場合は、税負担が大きくなる可能性が高まります。
複雑なため、税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、ご自身のライフプランに合わせたシミュレーションを行うことを強くおすすめします。早めに計画を立てることで、将来の手取り額を最大化することができます。
退職金控除を最大限に活用する税金対策とシミュレーション
ケース別シミュレーション:勤続年数と控除額の関係
退職金にかかる税金を理解する上で、勤続年数が退職所得控除額にどれほど影響するかを具体的なシミュレーションで見てみましょう。以下の例は、退職金が支給されるケースにおける退職所得控除額のみを示しています。実際の税額は、退職金総額によってさらに変動します。
勤続年数 | 退職所得控除額の計算 | 退職所得控除額 |
---|---|---|
10年 | 40万円 × 10年 | 400万円 |
20年 | 40万円 × 20年 | 800万円 |
25年 | 800万円 + 70万円 × (25年 - 20年) | 1,150万円 |
30年 | 800万円 + 70万円 × (30年 - 20年) | 1,500万円 |
35年 | 800万円 + 70万円 × (35年 - 20年) | 1,850万円 |
この表からもわかるように、勤続年数が長くなるほど退職所得控除額は飛躍的に増加します。特に、勤続20年を超えると控除額の伸び率が大きくなるため、長期勤続の税制上のメリットは非常に大きいと言えます。
例えば、勤続30年で退職金2,000万円を受け取った場合、1,500万円が非課税となるため、課税対象となるのは500万円。さらに1/2課税が適用され、課税退職所得金額は250万円となり、ここから所得税と住民税が計算されます。
もし勤続10年で退職金1,000万円を受け取った場合、控除額は400万円なので、課税対象は600万円。1/2課税で300万円が課税退職所得金額となります。
このように、同じ退職金額であっても、勤続年数によって課税退職所得金額が大きく変わり、結果として手取り額に大きな差が出ることが理解できるでしょう。そのため、自身の勤続年数と退職金の関係を事前に把握し、可能な範囲で計画的にキャリアプランを考えることが重要です。
最新の税制改正動向と今後の見直し議論
退職金にかかる税制は、社会情勢や労働環境の変化に応じて、度々見直しが議論されています。2024年現在も、いくつかの重要な改正や議論が進んでおり、将来の退職金の受け取り方に影響を与える可能性があります。
【近年の主な改正】
- 短期退職手当等の創設(2022年1月施行):
勤続年数が5年以下の役員等、および一般社員への退職金のうち、退職所得控除後の残額が300万円を超える部分については、1/2課税が適用されなくなりました。これは、短期間での転職や役員退職金への優遇を抑制し、労働市場の流動性に対応するための見直しです。 - iDeCo等の一時金に係る重複期間の調整対象の拡大(2022年1月施行):
iDeCoなどの確定拠出年金を一時金として受け取る場合、過去に退職金を受け取った期間との重複調整対象が「前14年」から「前19年」に延長されました。これにより、iDeCoと退職金を近接して受け取る際の税負担が増加する可能性が高まっています。
【今後の見直し議論】
現在、退職所得控除そのものの見直しに関する議論が活発に行われています。主な論点としては、
- 勤続年数に応じて控除額が変動する仕組みが、転職を抑制し、労働市場の流動性を阻害しているのではないか。
- 20年を超える勤続年数に対する控除額の優遇が手厚すぎるのではないか。
- iDeCoの一時金と退職金の控除重複調整の基準(19年)が、さらに長期化する可能性。
などが挙げられています。特に、勤続年数の区切りを5年から10年に延長し、控除額の増え方を見直すといった提案も一部で指摘されています。
これらの議論がどのように進展し、いつから施行されるかはまだ不透明ですが、将来的に退職金にかかる税負担が増加する可能性も否定できません。常に最新の税制情報を確認し、ご自身の退職金計画に影響がないか注意を払うことが重要です。
専門家への相談と計画的な老後資金設計
退職金控除を最大限に活用し、税負担を最適化するためには、個々人の状況に応じた具体的なアドバイスが不可欠です。税制は複雑であり、ご自身の勤続年数、退職金の見込み額、iDeCoや他の年金制度の加入状況、そしてライフプランによって、最適な選択肢は大きく異なります。
そのため、税理士やファイナンシャルプランナー(FP)などの専門家への相談を強くお勧めします。
専門家は、以下の点について具体的なサポートを提供してくれます。
- ご自身の退職金とiDeCoの一時金受け取りの組み合わせによる税額シミュレーション。
- 退職所得控除の重複調整ルールを考慮した、最適な受け取りタイミングのアドバイス。
- 退職後の所得や資産全体を見据えた、総合的な老後資金計画の立案。
- 最新の税制改正情報に基づいた、将来的な税負担の予測と対策。
退職金は、老後の生活を支える大切な資金源です。安易な選択をすると、思わぬ税負担で手取り額が減ってしまう可能性があります。
退職金控除は、長年の勤労への報奨として非常に手厚い優遇措置ですが、その仕組みは複雑です。漠然と「退職金は税金が安い」と考えるのではなく、ご自身の状況に合わせて計画を立て、税制上のメリットを最大限に享受するための知識を身につけることが重要です。
早めに専門家と相談し、具体的なシミュレーションを行いながら、安心して豊かなセカンドライフを送るための準備を進めていきましょう。
“`
まとめ
よくある質問
Q: 退職金控除とは具体的にどのような制度ですか?
A: 退職金控除とは、退職金にかかる所得税額を計算する際に、勤続年数に応じて一定額を差し引くことができる制度です。これにより、退職金にかかる税金が軽減されます。
Q: 退職金にかかる税金(所得税・住民税)はどのように計算されますか?
A: 退職金にかかる税金は、まず退職金から退職金控除額を差し引いた「課税退職所得金額」を計算します。これに所得税率をかけて所得税額が算出されます。住民税も同様に計算されますが、税率は異なります。
Q: 転職を繰り返した場合、退職金控除は2回目でも適用されますか?
A: 一般的に、退職金控除は退職ごとに適用されます。ただし、過去に退職金を受け取っている場合、その退職金控除の利用状況によっては、2回目の退職金控除の計算方法に影響が出る可能性があります。詳しくは税務署や専門家にご確認ください。
Q: iDeCo(確定拠出年金)と退職金控除は併用できますか?
A: iDeCoの給付金も退職金と同様に税制優遇がありますが、退職金控除とは制度が異なります。iDeCoの受給方法(一時金か年金か)によって税金のかかり方が変わるため、退職金との併用については個別に検討が必要です。
Q: 退職金にかかる税金を減らすための対策はありますか?
A: 退職金控除を最大限に活用することが最も効果的な対策です。また、勤続年数を長くすることで控除額が増えるため、可能な範囲で長く勤めることも検討できます。iDeCoの受給方法なども含めて、専門家への相談も有効です。