「有給休暇を取りたいのに、なかなか取れない…」「上司に申請したら、嫌な顔をされた…」
もしかしたら、あなたもそんな経験があるかもしれません。
有給休暇は、すべての労働者に与えられた大切な権利です。しかし、日本の職場では「有給が取りにくい」という声が今も多く聞かれます。

この記事では、有給休暇の基本的なルールから、なぜ取れない状況が生まれるのか、そして実際に取れない場合の対処法までを詳しく解説します。
あなたの権利を守り、心身ともに健康で働くために、ぜひ参考にしてください。

「有給休暇」の基本を知る:取得条件と会社の義務

有給休暇の取得条件と対象者

「有給休暇」と聞くと、正社員だけが取得できると思われがちですが、実はそうではありません。労働基準法によって、雇用形態に関わらず、以下の2つの条件を満たすすべての労働者に年次有給休暇(有給休暇)が付与されることが義務付けられています。

  1. 雇い入れの日から6ヶ月以上継続して勤務していること
  2. 全労働日の8割以上出勤していること

この条件を満たせば、正社員はもちろん、契約社員、パートタイマー、アルバイトであっても有給休暇を取得する権利があります。例えば、週に3日勤務のパートタイマーでも、上記の条件を満たせば勤続年数に応じて有給休暇が付与されます。これを「比例付与」といい、所定労働日数や週の労働時間が少ない労働者にも公平に有給休暇が与えられる仕組みです。
有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュを図り、生活と仕事の調和を保つために非常に重要な制度です。自分の勤務状況を確認し、条件を満たしているかを知ることが、権利を行使する第一歩となります。

年5日取得義務化の背景と概要

日本の有給休暇取得率は、長らく国際的に見ても低い水準にとどまっていました。この状況を改善し、労働者の健康維持やワークライフバランスの向上を目的として、2019年4月1日より「働き方改革関連法」の一環として、年次有給休暇の取得が企業に義務付けられました。

この義務化のポイントは以下の通りです。

  • 対象者:年10日以上の有給休暇が付与されるすべての労働者(正社員、契約社員、パート・アルバイトなど)
  • 内容:企業は、対象となる労働者に対し、毎年5日間の有給休暇を確実に取得させなければならない

これは単に有給休暇を付与すれば良いという「付与義務」に加えて、実際に労働者に取得させる「取得義務」が企業に課されたことを意味します。企業側は、労働者が有給休暇を申請しやすい環境を整えるだけでなく、場合によっては取得時季の指定を行うなど、積極的に取得を促す責任を負うことになりました。この制度によって、これまで「取りたくても取れない」と悩んでいた多くの労働者が、安心して休暇を取得できるようになることが期待されています。

会社が守るべきルールと罰則

年5日の有給休暇取得義務を果たすために、企業にはいくつかの対応方法が認められています。主な方法は以下の3つです。

  1. 労働者の希望する時季に取得させる:これが原則であり、最も基本的な方法です。労働者が希望する日に有給休暇を申請し、会社がこれを承認します。
  2. 時季を指定して取得させる:労働者の希望を聞いた上で、業務の正常な運営を妨げる場合は、会社が取得時季を変更する「時季変更権」を行使できます。ただし、会社の一方的な指定は原則として認められず、就業規則への明確な記載が必要です。
  3. 計画的付与制度(計画年休)の導入:労使協定(会社と労働者の代表が結ぶ協定)に基づき、あらかじめ有給休暇の取得日を指定しておく制度です。これにより、会社全体や部署単位で計画的に休暇を取得できます。

もし企業がこの年5日の有給休暇取得義務を怠った場合、どうなるのでしょうか。労働基準法では、違反した企業に対し、労働者1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。これは、会社が労働者の権利を侵害した場合、決して軽視できない罰則が適用されることを意味します。労働者から正当な有給休暇の申請があったにもかかわらず、会社が理由なく拒否したり、取得を妨害したりした場合も、同様に罰則の対象となり得ます。

「有給休暇が取れない」「取りにくい」はなぜ起こる?

職場の文化・雰囲気と心理的ハードル

有給休暇が法的に義務化されてもなお、「取りにくい」と感じる労働者が多い背景には、根深い職場の文化や雰囲気があります。多くの人が抱えるのは、「休むと周りに迷惑がかかる」「自分だけ休むのは申し訳ない」という罪悪感です。

このような心理的ハードルは、具体的に以下のような状況で生じます。

  • 同僚や上司への配慮:周りの誰も有給を取らない、あるいは上司が常に忙しそうにしていると、自分だけ休むことに気が引けてしまう。
  • 評価への懸念:有給休暇を取ると、仕事への意欲が低いと判断され、昇進や賞与に影響するのではないかと心配する。
  • 「休む=悪」という古い価値観:「仕事は休まずするもの」という、日本特有の古い企業文化が依然として残っている職場。

こうした職場の空気は、個人の努力だけでは変えにくいものです。しかし、法律で守られた権利であることを理解し、適切な手順で申請することが重要です。本来、有給休暇は個人の自由な意思で取得できるものであり、周囲に遠慮する必要はありません。

業務体制と慢性的な人手不足の問題

有給休暇が取りにくいもう一つの大きな理由は、会社の業務体制と、それに伴う人手不足の問題です。多くの企業で以下のような状況が見られます。

  • 業務の属人化:特定の業務が特定の人にしかできない状態。担当者が休むと業務が滞るため、休暇を取りにくい。
  • 慢性的な人手不足:業界全体や会社自体が常に人手不足で、一人ひとりの業務量が多い。代替要員の確保が困難なため、誰かが休むと他の社員の負担が増大する。
  • 繁忙期や顧客対応中心の業務:業務が集中する時期や、顧客との直接対応が多い部署では、休暇を取るタイミングが限られ、常に先延ばしになる傾向がある。

例えば、営業職やプロジェクトリーダーなど、特定の顧客や業務を一人で担当している場合、自分が休むことで顧客に迷惑をかけたり、プロジェクトが遅延したりすることを懸念し、有給取得をためらってしまいます。企業側は、こうした業務の属人化を防ぐためのマニュアル化や、多能工化(複数の社員が複数の業務をこなせるようにすること)を進める必要がありますが、その取り組みが十分でない現状が、労働者の休暇取得を阻んでいます。

会社側の積極的な取得促進策の不足

年5日取得義務化が導入されたにもかかわらず、多くの企業でその義務を十分に果たせていないのが実情です。法律があるからといって、全ての会社が積極的に取得を促しているわけではありません。

会社側の取得促進策が不足している状況は、具体的に以下のような形で現れます。

  • 経営層や管理職の意識の低さ:トップ層や中間管理職が率先して有給休暇を取得しない、あるいはその重要性を認識していないため、部下も休暇を取りにくい。
  • 取得状況の管理不足:従業員ごとの有給休暇の付与日数や取得日数を適切に把握・管理できていない。そのため、誰がどれだけ取得できていないのかを会社側が把握せず、取得勧奨も行われない。
  • 労働者への啓蒙活動の欠如:有給休暇が労働者の権利であること、取得のメリットなどを従業員に周知・啓発する活動が十分でないため、労働者自身も自分の権利を十分に理解していない。

本来、企業は単に「有給休暇を与えれば良い」だけでなく、従業員が心身ともに健康で、安心して休暇を取得できるような環境を能動的に作り出す義務があります。しかし、そのための具体的な制度設計や風土改革が追いついていないことが、有給休暇が取りにくい状況を助長しているのです。

「有給休暇がない」会社は存在するのか?違法性とその実態

法的な観点から見た有給休暇の発生条件

もしあなたが会社から「うちは有給休暇がない」と言われたとしたら、それは明確な誤り、あるいは違法行為です。なぜなら、有給休暇は労働基準法第39条で定められた「法定休暇」であり、従業員の雇用形態や会社の規模にかかわらず、一定の条件を満たせば必ず付与されるべき労働者の権利だからです。

先述の通り、有給休暇が付与される条件は次の二つです。

  1. 雇い入れの日から6ヶ月以上継続して勤務していること
  2. 全労働日の8割以上出勤していること

この条件さえ満たせば、会社は労働者に有給休暇を与えなければなりません。たとえ会社の就業規則に有給休暇に関する記載がなくても、あるいは口頭で「有給はない」と伝えられても、労働基準法は会社より優先されます。したがって、「うちの会社には有給休暇制度がない」という主張は、法律上は存在し得ない不当な主張と言えるのです。

「有給休暇がない」と主張する会社の違法性

もし会社が「有給休暇がない」と主張したり、付与すべき労働者に有給休暇を与えなかったりした場合、それは労働基準法違反に当たります。このような会社で働くことは、労働者が自身の正当な権利を奪われている状態であり、心身の健康やワークライフバランスに悪影響を及ぼしかねません。

具体的な違法行為としては、以下のようなケースが考えられます。

  • 正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトにも有給休暇の権利があるにもかかわらず、「パートだから有給はない」と説明する。
  • 条件を満たしているにもかかわらず、有給休暇の取得申請を一切受け付けない。
  • 就業規則に有給休暇に関する規定を意図的に設けない。

企業が有給休暇の付与義務を怠ったり、労働者の時季指定権を侵害したりした場合、先ほど述べたように労働者1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。これは、企業が法律を無視して労働者の権利を侵害した場合、厳しい罰則が適用されることを意味します。このような会社は、法律遵守の意識が低い、いわゆる「ブラック企業」である可能性も否定できません。

名ばかり「有給」や取得させない手口

「有給休暇がない」と直接的に言われることは稀かもしれませんが、形式的には制度があるものの、実質的に取得させないという巧妙な手口を使う会社も存在します。これは、より悪質なケースと言えるでしょう。

具体的な手口としては、以下のようなものがあります。

  • 不当な理由での拒否:「今は人手がない」「繁忙期だ」「他の人も我慢している」など、正当な理由なく有給休暇の申請を拒否する。本来、会社の「時季変更権」は業務の「正常な運営を妨げる場合」に限られます。
  • 理由の詮索と圧力:申請時に休暇の理由を細かく聞いたり、取得すること自体を不満そうに示したりして、労働者に心理的な圧力をかける。
  • 不利益な取り扱いを匂わせる:「有給を取ったら評価に響く」「ボーナスが減るかもしれない」といった発言で、取得を思いとどまらせる。これはパワーハラスメントにも該当する可能性があります。
  • 事実上の強制消化:会社都合の休業日に有給休暇を充当させたり、病欠を事後的に有給休暇として扱ったりする。

このような行為は、労働者の権利を侵害するだけでなく、労働者のモチベーション低下や不信感につながります。名ばかりの有給休暇では意味がありません。労働者は、自分の権利が正当に守られているか、会社の対応が法律に則っているかを確認し、必要であれば適切な対処を講じる必要があります。

有給休暇が取れない時の具体的な対処法

まずは社内で解決を目指す

有給休暇が取れない、あるいは取りにくいと感じた場合でも、すぐに外部機関に相談するのではなく、まずは社内での解決を目指すのが一般的です。以下のステップで冷静に対処しましょう。

  1. 就業規則を確認する:まず、会社の就業規則で有給休暇の申請方法、時季変更権の規定、相談窓口などを確認しましょう。自分の権利と会社のルールを理解することが重要です。
  2. 上長へ相談・申請する:就業規則に基づき、上長に有給休暇の取得を申請します。希望日に取得できない場合は、一方的に諦めるのではなく、「では、いつなら取得可能ですか?」と代替日を具体的に提案したり、確認したりしましょう。この際、口頭だけでなく、メールや書面など記録に残る形で申請すると良いでしょう。
  3. 社内相談窓口・労働組合に相談する:上長への申請が拒否されたり、納得できる回答が得られなかったりした場合、会社の人事部や総務部、コンプライアンス窓口、あるいは労働組合があればそこに相談しましょう。社内の公平な立場の部署が解決に向けて動いてくれる可能性があります。

社内で相談する際は、感情的にならず、客観的な事実(申請日時、拒否された理由、具体的な会話内容など)を伝えることが大切です。可能であれば、証拠となる書類(申請書の控え、メールのやり取りなど)も用意しておくと良いでしょう。

社外の公的機関へ相談する

社内での解決が難しい場合や、社内窓口に相談しても状況が改善されない場合は、社外の公的機関に相談することを検討しましょう。労働者の権利を守るための専門機関が力になってくれます。

  1. 労働基準監督署に相談・申告する:最も一般的な相談先は、労働基準監督署です。労働基準監督署は、労働基準法に基づいて企業が適正な労働環境を提供しているかを監督する機関です。有給休暇の取得義務違反は労働基準法違反にあたるため、相談することで監督署が会社に対して指導や勧告を行ってくれる可能性があります。匿名での相談も可能です。
  2. 相談の際の準備:労働基準監督署に相談する際は、以下の情報を用意しておくとスムーズです。
    • 会社の情報(名称、所在地、連絡先)
    • あなたの雇用形態、勤続年数、労働日数
    • 有給休暇の付与日数
    • 有給休暇の申請日時、申請方法、拒否された日時、拒否された具体的な理由
    • 上長や人事部とのやり取りの内容(メールや書面のコピー、メモなど)

労働基準監督署に相談することで、企業側も法律違反の状態を是正せざるを得なくなります。単なる相談だけでなく、「申告」という形で正式な調査を依頼することも可能です。

弁護士への相談と最終手段

労働基準監督署に相談しても解決しない場合や、より法的な解決が必要となる複雑なケースでは、弁護士への相談も視野に入れましょう。特に以下のような状況では、弁護士の専門的なサポートが有効です。

  • 退職前の有給消化:退職時に残りの有給休暇を一括で消化したいが、会社が認めない。
  • 不利益な取り扱い:有給休暇を取得したことを理由に、減給、降格、不当な異動、ハラスメントなどの不利益な扱いを受けた。
  • 未消化有給休暇の買い取り交渉:会社に有給休暇の買い取りを求めているが、応じてもらえない。

弁護士は、法律に基づいた的確なアドバイスを提供し、会社との交渉を代行してくれます。場合によっては、労働審判や訴訟といった法的手段に進むことも可能です。弁護士に相談することで、精神的な負担が軽減されるだけでなく、より有利な条件で解決できる可能性が高まります。初回無料相談を実施している弁護士事務所も多いので、まずは気軽に相談してみることをお勧めします。

計画的付与制度や半日・時間単位年休も活用しよう

計画的付与制度で確実に休む

「有給休暇を取りたいけれど、なかなか都合がつかない」「周りの目が気になって申請しづらい」と感じる方にとって、計画的付与制度(計画年休)は非常に有効な選択肢です。この制度は、労使協定(会社と労働者の代表が結ぶ協定)に基づき、あらかじめ有給休暇の取得日を会社が指定できるというものです。

計画的付与制度には、以下のようなメリットがあります。

  • 取得の確実性:あらかじめ取得日が決まっているため、従業員は気兼ねなく休暇を取得できます。会社側も業務計画を立てやすくなります。
  • 業務調整のしやすさ:会社全体や部署単位で一斉に取得するケースが多く、従業員同士で「休みます」という気兼ねが少なくなります。

具体的な例としては、夏季休暇や年末年始に会社の休日と有給休暇を組み合わせて長期休暇にしたり、工場や店舗を閉鎖して全従業員が一斉に休む「一斉付与方式」や、部署やグループごとに交代で取得する「交替制付与方式」などがあります。ただし、労働者が自由に取得できる有給休暇は最低5日残しておく必要があります。
もしあなたの会社がこの制度を導入していない場合でも、労働組合や従業員代表を通じて会社に導入を働きかけることも可能です。確実に休暇を取れる安心感は、働きがいにもつながります。

半日・時間単位年休で柔軟な取得を

従来の有給休暇は1日単位での取得が原則でしたが、「午前中だけ病院に行きたい」「子どもの学校行事があるけれど、午後は出勤したい」といった、短時間だけ休みたいというニーズに応えるために、半日単位年休時間単位年休という制度があります。

  • 半日単位年休:午前または午後のみ有給休暇を取得できる制度です。1日の半分を有効活用できるため、通院や役所での手続きなど、短時間の用事を済ませるのに便利です。
  • 時間単位年休:さらに柔軟に、1時間単位で有給休暇を取得できる制度です。例えば、定時より1時間早く退勤したり、遅れて出勤したりすることが可能です。年間5日分(40時間分を上限)まで取得できます。

これらの制度は、法律で導入が義務付けられているわけではなく、企業の判断に委ねられています。しかし、多くの企業が従業員のワークライフバランス向上や柔軟な働き方を支援するために導入を進めています。もしあなたの会社がこれらの制度を導入しているのであれば、積極的に活用することで、より細やかに自分の時間を管理し、私生活と仕事のバランスを取ることができるでしょう。就業規則で導入状況を確認し、ぜひ利用を検討してみてください。

会社に取得促進策を求める働きかけ

有給休暇が労働者の権利である以上、単に「取れない」と諦めるのではなく、より良い職場環境のために会社に改善を求める働きかけも重要です。労働者一人ひとりの声が、会社の意識改革や制度改善につながる可能性があります。

具体的には、以下のような改善策を会社に求めることができます。

  • 取得しやすい風土づくり:経営層や管理職が率先して有給休暇を取得し、休暇取得の重要性を従業員に伝えるよう働きかける。
  • 業務の属人化を防ぐ:業務のマニュアル化や多能工化を進め、誰かが休んでも業務が滞らない体制を整えるよう提案する。
  • 有給休暇管理簿の作成・運用:会社が従業員ごとの有給休暇の付与日数や取得状況を正確に把握し、取得が遅れている従業員に対して積極的に取得を促すよう求める。
  • 従業員への啓蒙活動:有給休暇の権利や取得のメリットについて、定期的に情報提供を行うよう求める。

もし労働組合があれば、労働組合を通じて団体交渉を行うことも有効です。また、匿名での意見箱や従業員アンケートなどを活用し、多くの従業員が抱える課題として会社に提示することも効果的です。
有給休暇は、従業員の心身の健康だけでなく、企業の生産性向上にも寄与する大切な制度です。自分の権利を正しく理解し、必要に応じて声を上げ、より良い職場環境を共に作っていく意識を持つことが大切です。