概要: 2019年から義務化された年5日の有給休暇取得は、労働者の健康維持とワークライフバランス向上に貢献する重要な制度です。しかし、途中入社や年度途中退職の場合、この義務がどのように適用されるのか、また付与日数の按分計算は必要なのかといった疑問を持つ方も多いでしょう。本記事では、複雑に感じられがちな有給休暇のルールについて、具体的なケースを交えながらわかりやすく解説します。
有給休暇5日取得義務の基本をおさらい
5日取得義務の背景と目的
2019年4月1日から施行された年次有給休暇(有給休暇)の年5日取得義務化は、労働者の心身のリフレッシュ促進、自己啓発の機会提供、そしてワークライフバランスの向上を目的としています。これは、長時間労働の是正や、誰もが働きやすい環境を整備するための労働基準法改正の重要な柱の一つです。企業は、労働者の健康と生活の充実を支援する社会的責任として、この義務を確実に履行することが求められており、違反した場合には法的な罰則が科される可能性があります。
対象者と義務の内容
企業は、年10日以上の有給休暇が付与されるすべての労働者に対し、付与日(基準日)から1年以内に少なくとも5日間の有給休暇を取得させる義務があります。この「年10日以上の有給休暇が付与される労働者」には、正社員だけでなく、所定労働日数に応じて比例付与され、結果として10日以上の有給休暇が付与されるパートタイム労働者やアルバイト労働者も含まれます。労働者が自ら5日間の有給休暇を取得しない場合、企業側が時季を指定して取得させなければならず、この義務に違反すると30万円以下の罰金が科される可能性があるため、企業の適切な管理が不可欠です。
企業が果たすべき役割と時季指定権
労働者による自主的な有給休暇の取得が難しい場合、企業は労働者の意見を聴取し、その希望を尊重しつつ、具体的な取得時季を指定して有給休暇を取得させる必要があります。これが「時季指定権」です。企業は一方的に時季を指定するのではなく、まずは労働者との対話を重視し、業務に支障がない範囲で希望に沿うように調整する努力が求められます。計画的な有給休暇の取得を促すことは、労働者のワークライフバランス向上に貢献するだけでなく、企業の法令遵守体制を強化し、職場の活性化にも繋がります。
途中入社(中途入社)の場合、5日取得義務はどうなる?
法定の有給休暇付与基準と取得義務の開始
途中入社者(中途入社者)の場合でも、年5日の有給休暇取得義務は適用されます。労働基準法では、入社日から6ヶ月間継続勤務し、その期間の全労働日の8割以上出勤した場合に、最初の有給休暇(通常10日)が付与されると定められています。この有給休暇が付与された日(基準日)から1年以内に、企業はその労働者に5日以上の有給休暇を取得させる義務が生じます。例えば、10月1日に入社した場合、翌年の4月1日に有給休暇が付与され、その4月1日から1年間が5日取得義務の対象期間となります。
企業独自の付与基準と義務の開始日
企業によっては、法定の基準日よりも早く有給休暇を付与する場合があります。例えば、「入社日に1年目の有給休暇10日をすべて付与する」といった制度を設けているケースです。このような場合、入社日がその労働者の有給休暇付与の基準日となり、入社日から1年以内に5日間の有給休暇を取得させる義務が発生します。企業は、自社の有給休暇付与制度が法定基準とどのように異なるかを明確にし、それに伴う5日取得義務の開始日と対象期間を正確に把握・管理することが重要です。
途中入社者における取得計画の重要性
途中入社者に対しては、有給休暇の付与タイミングと5日取得義務の発生時期を明確に伝え、計画的な取得を促すことが極めて重要です。新しい環境に慣れるまでは有給休暇の取得をためらいがちになる労働者も少なくありません。企業側は、付与日以降、短期間で5日間の有給休暇を取得させるための具体的な計画を立て、積極的に取得を促すためのコミュニケーションを図るべきです。これにより、新入社員のエンゲージメント向上やストレス軽減に繋がり、早期の定着を支援することができます。
有給休暇の付与日数と按分計算の考え方
法定の有給休暇付与日数の基本ルール
労働基準法では、労働者の継続勤務期間に応じて有給休暇の付与日数が明確に定められています。原則として、入社日から6ヶ月間継続勤務し、その期間の全労働日の8割以上出勤した労働者には10日が付与されます。その後、1年半、2年半と勤続年数を重ねるごとに付与日数が増加し、最大で20日まで付与されます。この法定付与日数は労働者の基本的な権利であり、企業はこの基準を下回る日数を付与することはできません。労働者の健康維持と生活の質の向上のためにも、正確な日数管理が求められます。
パート・アルバイトへの比例付与と義務
パートタイム労働者やアルバイト労働者も、その所定労働日数や週所定労働時間に応じて有給休暇が比例付与されます。具体的には、週の所定労働日数が4日以下または週の所定労働時間が30時間未満の労働者が対象です。比例付与された結果、年10日以上の有給休暇が付与される場合は、正社員と同様に年5日取得義務の対象となります。例えば、週4日勤務の労働者が勤続3年半で10日の有給休暇が付与される場合、この10日の中から5日を取得させる義務が生じます。企業は、パート・アルバイトに対しても適切な有給休暇の付与と取得管理を行う必要があります。
勤続年数に応じた付与日数の具体例
法定の有給休暇付与日数は、以下の表のように定められています。この表は、週5日以上勤務または週30時間以上勤務の一般的な労働者のケースです。
継続勤務期間 | 付与日数 |
---|---|
6ヶ月 | 10日 |
1年6ヶ月 | 11日 |
2年6ヶ月 | 12日 |
3年6ヶ月 | 14日 |
4年6ヶ月 | 16日 |
5年6ヶ月 | 18日 |
6年6ヶ月以上 | 20日 |
この基準に基づき、労働者一人ひとりの付与日数を正確に管理し、適切なタイミングで付与することが、企業の法令遵守において不可欠です。
年度途中退職の場合、5日取得義務は適用される?
退職予定者への5日取得義務の原則
年度の途中で退職する労働者に対しても、原則として年5日の有給休暇取得義務は適用されます。具体的には、有給休暇が付与された後、退職日までの期間において、付与された有給休暇のうち5日を取得させる義務が生じます。たとえ退職までの期間が短くても、企業は労働者に対し、この期間内に5日取得するよう促す必要があります。退職する労働者にとっても、残された有給休暇を有効活用し、心身をリフレッシュする機会となるため、企業は積極的に取得を推奨し、支援すべきです。
取得が物理的に困難なケースの対応
ただし、退職までの期間が極端に短く、物理的に5日間の有給休暇を取得することが不可能な場合は、法違反とならないケースもあります。例えば、有給休暇が付与されてから退職日までが3日しかない場合、5日取得は現実的に不可能でしょう。このように、「取得義務日数より勤務可能な日数が少ない」といった合理的な理由がある場合は、企業が取得義務を完全に果たせなかったとしても、直ちに法違反とはなりません。しかし、企業は、たとえ退職予定者であっても、可能な限り労働者に有給休暇を取得させる努力を怠ってはなりません。
退職時の有給休暇消化の注意点
退職を控えた労働者にとって、残りの有給休暇をどのように消化するかは重要な問題です。企業は、退職日までの間に有給休暇を計画的に消化できるよう、労働者と綿密にコミュニケーションを取り、調整を行う必要があります。有給休暇の買い上げは原則として禁止されていますが、退職時に未消化の有給休暇がある場合に限り、例外的に買い上げが認められるケースもあります。ただし、これは企業の義務ではなく、労働基準法の有給休暇取得義務を履行した上で検討されるべき措置です。トラブルを避けるためにも、明確な社内規定を設け、労働者に周知することが大切です。
企業が知っておくべき有給休暇管理の注意点
有給休暇管理簿の作成と保存義務
企業は、労働者ごとに有給休暇の取得状況を記録した「有給休暇管理簿」を作成し、3年間保存する義務があります。この管理簿には、労働者ごとの基準日、付与日数、取得日数、残日数、そして時季指定の有無などを明確に記載する必要があります。適切な管理簿の作成は、労働者の有給休暇取得状況を正確に把握し、5日取得義務の履行状況を確認するために不可欠です。労働基準監督署の指導が入った際にも、この管理簿が重要な証拠となるため、正確かつ網羅的な記録が求められます。
計画的付与制度の活用
年5日取得義務とは別に、企業は労使協定を締結することにより、有給休暇のうち5日を超える部分について、計画的に取得日を定める「計画的付与制度」を活用することができます。この制度を導入することで、企業は労働者の有給休暇取得日を事前に決めることができ、業務の繁忙期を避けるなど、効率的な事業運営と労働者の確実な有給休暇取得を両立させることが可能です。例えば、夏季休暇や年末年始に会社全体で計画的付与日を設ける企業も多く見られ、労働者もあらかじめ休暇が分かっているため予定が立てやすくなるというメリットがあります。
労使間のコミュニケーションと法令遵守
有給休暇の適切な管理と5日取得義務の履行には、企業と労働者間の良好なコミュニケーションが不可欠です。企業は、有給休暇制度の内容や5日取得義務について、労働者への丁寧な説明と周知を徹底する必要があります。また、労働者が希望する時季に有給休暇を取得できるよう、業務調整を行うなどの配慮も求められます。法令を遵守し、労働者の働きがいを高めるためにも、定期的な制度の見直しや、有給休暇取得に関する啓発活動を継続的に実施していくことが、現代の企業に求められる重要な経営課題と言えるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 有給休暇の5日取得義務は、いつから適用されますか?
A: 2019年4月1日から義務化されました。年10日以上の有給休暇が付与される労働者すべてが対象となり、企業は労働者に年5日の有給休暇を確実に取得させなければなりません。
Q: 中途入社の場合、入社年でも5日取得義務はありますか?
A: はい、中途入社の場合でも、基準日(原則として入社日)から1年間の付与日数が10日以上になる見込みがあれば、その期間内に5日取得させる義務が発生します。ただし、付与日数が10日未満の場合は義務の対象外となります。
Q: 有給休暇の付与日数は、年度の途中で入社した場合按分されますか?
A: 法定の有給休暇付与日数自体は、年度の途中入社によって按分されることはありません。入社日から6ヶ月後に初めて付与され、その後は勤続年数に応じて法定通りに付与されます。ただし、企業独自の制度や前職の勤続期間を考慮する場合は、この限りではありません。
Q: 年度途中で退職する場合、5日取得義務は適用されますか?
A: 年度途中で退職する場合でも、退職までの期間が5日取得義務の対象期間(基準日から1年間)に該当し、かつ10日以上の有給休暇が付与されている状態であれば、退職予定日までに5日取得させる義務があります。企業側は残日数を確認し、時季指定を行うなどの対応が必要です。
Q: 4月入社の新卒社員にも、すぐに有給5日取得義務は発生しますか?
A: 4月入社の新卒社員には、通常入社から6ヶ月が経過した10月1日に初めて10日間の有給休暇が付与されます。そのため、5日取得義務は、有給休暇が付与された後の10月1日から次の基準日までの期間に発生します。入社直後の期間には、まだ有給休暇が付与されていないため義務は発生しません。