OJTが機能しない?現場任せの限界と解決策

OJT(On-the-Job Training)は、新入社員の即戦力化やベテラン社員のスキルアップに不可欠な、実践的な知識やスキルを習得させる有効な教育手法です。

しかし、多くの企業で「OJTが機能していない」「現場任せになってしまっている」という声が聞かれます。果たして本当にOJTが「ない」のでしょうか、それとも別の問題が潜んでいるのでしょうか。

本記事では、OJTが機能しない原因を深掘りし、政府機関や公的機関が提示する解決策も踏まえながら、OJTの質を高める具体的な方法を解説します。

  1. OJTが「ない」とは限らない?見えない問題点
    1. 形式的なOJTが引き起こす「ない」と誤解される状況
    2. 指導者の負担増大と「時間がない」の実態
    3. 指導対象者のモチベーション低下と「やりたくない」の根源
  2. 「現場任せ」OJTの限界:属人化と質の低下
    1. 指導の「質」が個人に依存するリスク
    2. 経験不足の指導者とスキルアップの機会不足
    3. 体系的な育成計画の欠如が招く成果のばらつき
  3. OJTが「ゴミ」「雑用」になる理由
    1. 目的が曖昧なOJTが業務の邪魔になる瞬間
    2. 一方的な指導とコミュニケーション不足の悪循環
    3. 評価制度の欠如がOJTの価値を低下させる
  4. OJTが「できていない」と感じる時の対処法
    1. 自社のOJT課題を客観的に診断する
    2. 公的支援制度の積極的な活用
    3. デジタルツールとOff-JTの組み合わせで効果を高める
  5. OJTの質を高めるための具体的なステップ
    1. 体系的な育成計画と評価基準の策定
    2. 指導者の育成と負担軽減策の導入
    3. OJTを「企業戦略」と位置づける意識改革
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: OJTがない会社だと、新人はどうやって成長すればいいですか?
    2. Q: OJTが現場任せになってしまうのはなぜですか?
    3. Q: OJTが雑用ばかりになってしまうのは、どうしたら防げますか?
    4. Q: OJTが属人化してしまうと、どのような問題がありますか?
    5. Q: OJTが合わないと感じる場合、他の育成方法はありますか?

OJTが「ない」とは限らない?見えない問題点

形式的なOJTが引き起こす「ない」と誤解される状況

OJTが「ない」と感じる時、それは本当に何も教えていないわけではないかもしれません。多くの場合、「形式的で効果的ではない」OJTが行われている可能性があります。

例えば、新しい業務を始める際、マニュアルを渡すだけで「読んでおいて」と済ませたり、一度ざっと説明しただけで「もうできるよね」と放置したり。このようなアプローチでは、指導対象者は実践的なスキルを身につける機会を失い、OJT自体が存在しないかのように感じてしまいます。

参考情報では、OJTの計画や実施体制が整備されておらず、現場任せになっているケースが多いと指摘されています。体系的な教育プログラムがなく、場当たり的な指導では、指導対象者は何を学び、どう成長すれば良いのか見失いがちです。結果として、「OJTがない」という不満に繋がってしまうのです。

指導者の負担増大と「時間がない」の実態

OJTが機能しないもう一つの大きな理由は、指導担当者の「時間がない」という実情です。経験豊富なベテラン社員ほど業務量が多く、OJTに十分な時間を割けない状況が多々見られます。

彼らは自身の業務をこなしながら、OJT対象者の質問に答え、進捗を確認し、時には業務を手伝わなければなりません。

指導担当者は、自身の業務負荷の増加や指導に対する自信の欠如、精神的なプレッシャーも抱えています(参考情報より)。このような状況では、指導の質を維持することは困難であり、OJTは「単なる業務の片手間」になってしまいがちです。結果として、指導対象者は「放置されている」と感じ、OJTの恩恵を受けられない状況が生まれてしまいます。

指導対象者のモチベーション低下と「やりたくない」の根源

OJTが機能しないのは、指導対象者側のモチベーションが低いことも一因です。指導の意図が伝わっていなかったり、自身のキャリアプランと結びついている実感がない場合、指導対象者は指導を素直に聞き入れなかったり、モチベーションを維持できなかったりすることがあります(参考情報より)。

例えば、なぜこの業務を学ぶ必要があるのか、それが自分の将来にどう役立つのかが不明確なままでは、学ぶ意欲は湧きにくいでしょう。OJTが単なる「作業の押し付け」のように感じられると、「やりたくない」という感情が芽生え、結果的に成長の機会を逃してしまいます。

指導する側とされる側の間に認識のズレがあることも、OJTが機能しない大きな要因となるのです。

「現場任せ」OJTの限界:属人化と質の低下

指導の「質」が個人に依存するリスク

多くの企業でOJTは「現場任せ」になりがちですが、これが最大の落とし穴です。現場任せのOJTは、その質が指導担当者の個人的な能力や教え方に依存してしまうという大きなリスクを抱えています(参考情報より)。

ある指導者は非常に丁寧で分かりやすい教え方をする一方で、別の指導者は説明が不十分であったり、指導対象者の理解度を確認しなかったりすることもあります。

このような「属人化」が進むと、育成対象者によって習得度にばらつきが生じ、人材育成が計画的に進まない事態を招きます。結果として、組織全体のスキルレベルが均一に向上せず、特定の業務に精通した人材が限られてしまう問題が発生します。これは、組織全体の生産性や柔軟性を低下させる要因となりかねません。

経験不足の指導者とスキルアップの機会不足

OJTを担当する指導者の中には、十分な指導経験や教育スキルを持たない人も少なくありません。特に、若手社員にOJTを任せる場合、彼ら自身がまだ業務に不慣れであったり、教えることの難しさを理解していなかったりすることがあります。

参考情報でも「指導できる従業員の不足」が指摘されており、経験豊富な従業員が社内に不足している、またはOJTに十分な時間を割けない状況があります。

また、企業が指導担当者向けの教育機会を提供しない場合、彼らは自身の指導スキルを向上させる術がなく、場当たり的なOJTが継続されてしまいます。指導者自身のスキルアップがなければ、OJTの質も向上せず、悪循環に陥ってしまうのです。

体系的な育成計画の欠如が招く成果のばらつき

「現場任せ」OJTの根本的な問題は、企業や組織としてのOJT計画が欠如している点にあります(参考情報より)。明確な育成目標や段階的なスキル習得計画がなければ、指導担当者は何を、どのレベルまで教えれば良いのか判断に迷い、指導対象者も自身の進捗を客観的に把握できません。

計画性がないOJTは、結果として「教えること」と「学ぶこと」が点と点として存在し、線としての繋がりを持たない状態に陥ります。これにより、育成の成果に大きなばらつきが生じ、組織が求める人材像に合致しないスキルセットを持つ従業員が生まれる可能性が高まります。

長期的に見れば、これは企業の人材戦略に大きな影響を及ぼすことになります。

OJTが「ゴミ」「雑用」になる理由

目的が曖昧なOJTが業務の邪魔になる瞬間

OJTが「ゴミ」や「雑用」のように感じられてしまうのは、その目的が指導担当者にも指導対象者にも明確に伝わっていない場合がほとんどです。単に「新しい人に仕事を教えておいて」という指示だけでは、OJTは具体的な成果に繋がらない単なる時間消費と化します。

指導担当者は、自身の通常業務の合間に「よくわからない教え事」を強いられていると感じ、指導対象者は「いつ終わるのか、何のためにやっているのか不明な作業」を押し付けられていると感じるでしょう。

これでは、OJTは生産性の低い業務と認識され、優先順位が低くなりがちです。結果として、十分な時間が割かれず、内容も薄くなることで、本当に「ゴミ」のような価値しか持たないものになってしまうのです。

一方的な指導とコミュニケーション不足の悪循環

OJTは、指導担当者から指導対象者へ一方的に知識を伝える場ではありません。しかし、現場任せのOJTでは、指導担当者が忙しさや指導スキルの不足から、説明ばかりで指導対象者の理解度を確認せず、質問も受け付けないケースがあります。

指導対象者が自身の疑問や困難を声に出せない環境では、学びは深まらず、不満だけが募ります。

参考情報では、指導対象者が指導を素直に聞き入れなかったり、モチベーションを維持できなかったりする原因として、指導の意図が伝わっていないことが挙げられています。十分なコミュニケーションがなければ、指導の意図は伝わらず、指導対象者はOJTを「面倒な作業」として捉え、積極的に関わろうとしなくなってしまいます。

評価制度の欠如がOJTの価値を低下させる

OJTの成果が適切に評価されないことも、「雑用」扱いされる大きな理由です。指導担当者は、OJTに費やした時間や労力が自身の評価に全く反映されないと感じれば、モチベーションを維持するのは難しいでしょう。同様に、指導対象者も、OJTを通じて身につけたスキルや知識が評価されなければ、学習意欲を失ってしまいます。

参考情報では、企業・組織としての課題として「指導担当者の育成や評価の仕組みがないこと」が挙げられています。OJTを正当に評価する仕組みがなければ、それは単なる「追加業務」として扱われ、その本来的な価値は組織内で認識されにくくなります。

OJTが組織の人材育成戦略の一部として位置づけられ、成果が評価される仕組みがあって初めて、その価値が認められるのです。

OJTが「できていない」と感じる時の対処法

自社のOJT課題を客観的に診断する

OJTが機能していないと感じたら、まずは自社の現状を客観的に見つめ直すことが重要です。漠然とした不満ではなく、具体的にどこに問題があるのかを特定しましょう。例えば、以下のような問いを自社に投げかけてみてください。

  • 指導担当者はOJTに十分な時間を割けているか?
  • 指導の質にばらつきはないか?
  • 指導対象者はOJTを通じて何を学ぶべきか理解しているか?
  • OJTの成果は適切に評価されているか?

厚生労働省が提供する「職業能力評価基準」や「OJTコミュニケーションシート」を活用することで、指導対象者の能力を客観的に評価し、習得すべきスキルや目標を明確にするのに役立ちます(参考情報より)。これらのツールは、現状把握と課題特定のための強力な手がかりとなります。

公的支援制度の積極的な活用

自社だけでOJTの課題を解決しようとすると、リソース不足に陥りがちです。そこで、政府機関や公的機関が提供する支援制度を積極的に活用しましょう。厚生労働省は、OJTを効果的に実施するためのツールやガイドライン、さらには財政的な支援を提供しています。

特に注目すべきは「人材開発支援助成金」です(参考情報より)。これは、従業員の職業能力開発を支援するための助成金で、Off-JTやOJTの実施にかかる経費や賃金の一部が助成されます。例えば、OJT実施助成金として上限20万円が支給される場合もあります。

これらの助成金を活用することで、指導担当者の研修費用や、OJTに充てる時間分の人件費を賄うことができ、企業の負担を大幅に軽減できます。ただし、助成金制度の利用には一定の要件や手続きが必要なため、最新情報を厚生労働省のウェブサイトで確認することが重要です(参考情報より)。

デジタルツールとOff-JTの組み合わせで効果を高める

従来のOJTの限界を補うために、デジタルツールの導入やOff-JTとの組み合わせを検討しましょう。紙のマニュアルに依存するOJTは、情報が古くなりがちで、視覚的な理解も難しいという課題があります。

参考情報でも推奨されているように、動画マニュアルなどのデジタルツールは、視覚的に分かりやすく、指導内容の属人化を防ぎ、指導担当者の負担軽減にもつながります。また、OJTとOff-JT(教育訓練機関での座学)を組み合わせた「認定実習併用職業訓練」も有効です(参考情報より)。

座学で基本的な知識を習得し、OJTで実践的なスキルを磨くことで、より体系的かつ効率的な人材育成が可能になります。デジタルツールの活用は、特に若年層の学習スタイルにも合致しやすく、学習効果の向上が期待できます。

OJTの質を高めるための具体的なステップ

体系的な育成計画と評価基準の策定

OJTの質を高めるためには、まず「意図的」「計画的」「継続的」な実施が不可欠です(参考情報より)。そのためには、明確な育成目標に基づいた体系的なOJT計画を策定する必要があります。

例えば、新入社員が3ヶ月後、6ヶ月後にどのようなスキルを身につけているべきか、具体的なゴールを設定します。

さらに、その達成度を測るための客観的な評価基準も同時に設けることが重要です。厚生労働省が提供する「職業能力評価シート」や「OJTコミュニケーションシート」は、目標設定から評価までを一貫してサポートする優れたツールです(参考情報より)。これらのツールを活用し、定期的に指導担当者と指導対象者が面談を行い、進捗確認とフィードバックを行うことで、OJTの透明性と実効性を高めることができます。

指導者の育成と負担軽減策の導入

OJTの質は、指導担当者の能力に大きく左右されます。そのため、指導者自身の育成に投資することが非常に重要です。具体的には、指導スキル向上研修の実施、OJTに関する社内認定制度の導入などが考えられます。

また、指導者がOJTに十分な時間を割けるよう、業務負荷の軽減策も同時に講じる必要があります。

例えば、指導担当者にOJT専任時間を設けたり、OJT手当を支給したりすることで、彼らのモチベーション維持と負担軽減を図ることができます。参考情報でも、指導担当者の業務負荷の増加がOJTの円滑な進行を妨げる原因として挙げられています。デジタルツールの活用(動画マニュアルなど)も、指導者の説明負担を減らし、時間を有効活用するための一助となります。

OJTを「企業戦略」と位置づける意識改革

OJTの成功は、単に現場の努力に任せるだけでは実現しません。企業全体で人材育成の重要性を認識し、OJTを経営戦略の一部として位置づける意識改革が不可欠です(参考情報より)。経営層から現場まで一貫した方針のもと、教育時間を確保する意識を持つことが求められます。

日本は人口減少・高齢化が進んでおり、労働生産性の向上と人材育成が喫緊の課題となっています(参考情報より)。こうした背景から、政府も企業による積極的な人材育成を奨励し、そのための支援策を拡充しています。

OJTを単なる「雑務」ではなく、企業の持続的な成長を支える「投資」と捉え、全社的に取り組む姿勢こそが、機能するOJTを実現する最終的なステップとなります。定期的なOJTの成果発表会や、OJT優秀者への表彰制度などを設けることで、組織全体の意識を高めることも有効でしょう。