企業が持続的に成長していくためには、優れた人材の育成が不可欠です。その人材育成において二つの柱となるのが、OJT(On-the-Job Training)とOff-JT(Off the Job Training)です。

それぞれ異なる特徴を持つこれらの手法を理解し、効果的に組み合わせることで、より質の高い人材育成を実現できます。

本記事では、公的機関の情報に基づき、OJTとOff-JTの定義、具体的な違い、メリット・デメリット、そして効果的な組み合わせ方までを徹底解説します。

OJTとOff-JTとは?それぞれの特徴を理解しよう

OJTの基本概念と特徴

OJT(On-the-Job Training)は、実際の職務現場で、上司や先輩社員が指導担当者(トレーナー)となり、業務を通して必要な知識やスキルを習得させる育成手法です¹ ² ³ ⁸。

従業員は日常業務の中で実践的なノウハウを直接学び、すぐに業務に活かすことができるため、即戦力育成において特に効果が期待されています² ³ ⁸。

具体的な業務フローや現場での対応方法、チーム内のコミュニケーションの取り方など、座学だけでは得られない生きた知識を習得できるのが最大の強みと言えるでしょう。

また、個々の従業員の進捗や理解度に合わせて柔軟に指導内容を調整できるため、パーソナルな育成が可能です¹⁵。これにより、早期の戦力化だけでなく、指導担当者との人間関係構築にも繋がり、職場への定着促進にも寄与します¹⁵。

出典: ¹厚生労働省, ²東京都産業労働局, ³中小企業庁, ⁸厚生労働省「キャリア形成支援基本方針」, ¹⁵独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構

Off-JTの基本概念と特徴

Off-JT(Off the Job Training)は、その名の通り、職場を一時的に離れて行う教育訓練を指します¹ ² ³ ⁴ ¹⁷。

具体的には、外部講師を招いての集合研修、外部スクールやセミナーへの参加、通信教育、さらにはeラーニングなどが含まれます³ ⁴。

OJTとは異なり、体系的かつ専門性の高い知識を深めることができるのがOff-JTの大きな特徴です² ⁴。例えば、ビジネスマナーの基礎、特定の専門分野の理論、リーダーシップ開発、コンプライアンス研修など、職務に直接関係しないが広範な知識やスキルを習得するのに適しています。

これにより、従業員は日々の業務から離れて集中して学習に取り組むことができ、視野を広げ、新たな視点や思考法を身につける機会を得られます⁸。

出典: ¹厚生労働省, ²東京都産業労働局, ³中小企業庁, ⁴厚生労働省「キャリアアップガイドライン」, ⁸厚生労働省「キャリア形成支援基本方針」, ¹⁷独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構

OJTとOff-JTの根本的な違い

OJTとOff-JTの最も根本的な違いは、その「実施場所」と「指導形態」にあります。

OJTは実際の職場内で、業務を行いながら実務を通じてスキルを身につける「経験学習」が中心です。これにより、現場で即座に役立つ実践的な能力が養われます。

一方、Off-JTは職場から離れた場所で、座学や演習を中心に体系的に知識を学ぶ「理論学習」が中心です。これにより、特定の分野における専門知識や、概念的な理解を深めることができます。

例えるなら、OJTは「料理の現場でシェフに付き添って実践的に学ぶ」こと、Off-JTは「料理学校で基礎理論や調理法を体系的に学ぶ」ことに似ています。どちらも料理人としての成長に不可欠ですが、アプローチが全く異なるのです。

このように、それぞれが異なる役割と目的を持つため、単独ではなく相互補完的な関係として捉えることが、効果的な人材育成の第一歩となります。

OJTとOff-JTの具体的な違いと使い分け

実施場所と指導方法の違い

OJTとOff-JTは、学習が行われる環境と指導のアプローチにおいて明確な違いがあります。

OJTは「職場内(実際の業務中)」が実施場所であり、上司や先輩社員が指導担当者となって、実務を通じた指導や経験学習を促します。これは、従業員が実際に業務を遂行する中で直面する課題に対し、リアルタイムでフィードバックを受けながら解決策を学ぶため、非常に実践的です。

対照的に、Off-JTは「職場外(研修施設、セミナー会場、オンラインなど)」で行われることが一般的です。指導方法は座学、集合研修、eラーニング、通信教育などが中心で、体系的に設計されたカリキュラムに沿って進行します。

例えば、新入社員が電話応対のスキルを学ぶ際、OJTでは実際に顧客からの電話に対応しながら先輩が横でアドバイスを送りますが、Off-JTではロールプレイング形式で基本的な言葉遣いやマナーを習得するといった違いがあります。このように、目的や内容に応じて最適な方法を選択することが重要です。

習得内容と期待できる効果の違い

OJTとOff-JTでは、習得できる内容とそれに伴う期待効果も異なります。

OJTを通じて主に習得されるのは、特定の業務を遂行するための「実践的スキル」「業務遂行能力」です。これは、現場で即座に活かせる具体的なノウハウや、イレギュラーな事態への対応力などを含みます¹⁵。結果として、従業員の即戦力化や生産性向上に直結しやすいという効果が期待できます² ³ ⁸。

一方、Off-JTでは「体系的な知識」「専門知識」、さらにはビジネスマナー、リーダーシップ、ロジカルシンキングといった普遍的なビジネススキルが主な習得内容となります² ⁴。

これにより、従業員は業務外での学びを通じて視野を広げ、新たな視点や思考力を身につけることができ、将来的なキャリアアップや、より高度な職務への対応能力向上に貢献します⁸。Off-JTは、個人の長期的な成長と企業の全体的な底上げを目指す上で欠かせない要素と言えるでしょう。

出典: ²東京都産業労働局, ³中小企業庁, ⁴厚生労働省「キャリアアップガイドライン」, ⁸厚生労働省「キャリア形成支援基本方針」, ¹⁵独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構

効率性と適用対象の違い

OJTとOff-JTは、効率性や適用対象においても異なる特性を持っています。

OJTは、個々の従業員に合わせて指導するため、一見すると効率が低いように感じられるかもしれません。しかし、その分個別の理解度に合わせた丁寧な指導が可能であり、習得したスキルの定着度や即戦力化の効果は非常に高いと言えます¹。

特定の業務スキルを身につけさせたい新入社員や、専門性の高い職務に就く従業員への育成に特に適しています。また、研修会場の手配などが不要なため、比較的低コストで実施できる点もメリットです²。

Off-JTは、対象者を一同に会して実施できるため、一度に多くの従業員に同じ内容を伝えることができ、効率性が高いという特徴があります¹。

全社的なスキルアップや、共通の知識・意識の醸成、あるいは特定の専門知識を持つ少数の従業員への高度な研修などに適しています。ただし、研修費用や交通費、研修中の人件費など、コストと時間がかかる場合がある点には留意が必要です¹⁰。

出典: ¹厚生労働省, ²東京都産業労働局, ¹⁰独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「人材開発支援助成金」

OJTとOff-JTのメリット・デメリットを比較

OJTのメリットと注意点

OJTには数多くのメリットがある一方で、実施する上で注意すべき点も存在します。

主なメリットとしては、「実践的なスキル習得」が挙げられます。実際の業務を通して学ぶため、即戦力となるスキルを効率的に習得できます¹⁵。

また、個々の従業員の状況に合わせた「個別対応」が可能であり、学習効果を高められます¹⁵。研修会場の手配などが不要なため、比較的「コスト効率」が良いのも魅力です²。

さらに、指導担当者とのコミュニケーションを通じて、「人間関係の構築」にも貢献し、職場への早期適応を促します¹⁵。

一方で注意点としては、「指導品質のばらつき」が挙げられます。指導担当者の力量や経験によって育成の質が左右される可能性があるため、指導者の育成も重要です² ⁵ ¹⁵。

また、体系だった知識を教えるのが難しく、「論理的・体系的な知識習得の難しさ」もデメリットとなり得ます²。指導担当者の業務負担が増加する可能性も考慮し、適切なサポート体制を構築することが求められます。

出典: ²東京都産業労働局, ⁵東京都産業労働局「OJT効果的実施ガイドブック」, ¹⁵独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構

Off-JTのメリットと課題

Off-JTもまた、企業の人材育成において重要な役割を担いますが、その特性ゆえの課題も存在します。

最大のメリットは、座学などを中心に「体系的かつ専門性の高い知識」を効率的にインプットできる点です² ⁴。

業務から離れて集中できる環境で学ぶことで、「広範な視野の獲得」や新たなスキル・知識の習得が可能になります⁸。多くの対象者を一同に会して実施できるため、「効率性」が高いという利点もあります¹。

しかし、Off-JTにはいくつかの課題も存在します。一つは、研修で学んだ知識が実際の業務に結びつかない「実践との乖離」が生じる可能性がある点です⁵。

また、研修費用や交通費、研修中の人件費など、「コストと時間」がかかる場合があります¹⁰。集合研修の場合、参加者全員の理解度を均一に高めるのが難しいという側面もあります¹。

これらの課題を克服するためには、研修内容を業務と関連付けたり、研修後のフォローアップを徹底したりするなどの工夫が求められます。

出典: ¹厚生労働省, ²東京都産業労働局, ⁴厚生労働省「キャリアアップガイドライン」, ⁵東京都産業労働局「OJT効果的実施ガイドブック」, ⁸厚生労働省「キャリア形成支援基本方針」, ¹⁰独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「人材開発支援助成金」

両者の強み・弱みを生かす視点

OJTとOff-JTは、それぞれ異なる強みと弱みを持っています。そのため、どちらか一方に偏ることなく、それぞれの特性を理解し、相互に補完し合う関係として捉えることが極めて重要です² ⁸。

以下の比較表は、両者の主要な特徴をまとめたものです。

特徴 OJT(On-the-Job Training) Off-JT(Off the Job Training)
実施場所 職場内(実際の業務中) 職場外(研修施設、セミナー会場、オンラインなど)
指導方法 実務を通じた指導、経験学習 座学、集合研修、eラーニングなど
習得内容 実践的スキル、業務遂行能力 体系的知識、専門知識、ビジネスマナー、リーダーシップなど
効果 即戦力育成、個別対応 全社的なスキルアップ、視野拡大、専門性向上
実施者 上司、先輩社員 外部講師、研修専任スタッフ、社内講師
コスト 比較的低コスト 研修費用、交通費など高コストになる場合がある
効率性 個別対応のため効率は低い場合があるが、教育効果は高い場合がある¹ 対象者を一同に会せるため効率は高いが、理解度の均一化は難しい場合がある¹

OJTの「実践的」で「個別対応」という強みと、Off-JTの「体系的」で「広範な視野」という強みを組み合わせることで、従業員はより多角的かつ深い学びを得ることができます。それぞれのデメリットをもう一方のメリットで補う視点を持つことで、効果的な人材育成戦略を構築できるでしょう。

出典: ¹厚生労働省, ²東京都産業労働局, ⁸厚生労働省「キャリア形成支援基本方針」

OJTとOff-JTの効果的な組み合わせと割合

組み合わせの重要性と基本的な考え方

OJTとOff-JTは、それぞれが持つ強みを最大限に活かし、弱みを補い合う関係にあります。そのため、どちらか一方に偏るのではなく、両者を効果的に組み合わせることが、質の高い人材育成を実現するための鍵となります² ⁸。

この「ハイブリッド型」のアプローチは、従業員が実践的なスキルと体系的な知識の両方をバランス良く習得することを可能にします。基本的な考え方は、Off-JTで基盤となる知識や理論を学び、その後OJTでその知識を実際の業務で応用し、実践力を高めるというサイクルです。

企業の状況や育成したい人材像、従業員のキャリア段階に合わせて、OJTとOff-JTの最適な割合やタイミングを検討することが重要です。この組み合わせは一度決めたら終わりではなく、定期的に効果測定を行いながら、PDCAサイクルを回して最適なバランスを見つける努力が求められます。

出典: ²東京都産業労働局, ⁸厚生労働省「キャリア形成支援基本方針」

具体的な組み合わせ例と活用シナリオ

OJTとOff-JTを組み合わせることで、多様な人材育成シナリオに対応できます。以下に具体的な活用例を挙げます。

  1. 新入社員研修:

    入社初期はOff-JTでビジネスマナー、企業理念、業界の基礎知識、PCスキルといった共通の基礎知識を習得させます。

    その後、配属部署でOJTを開始し、先輩社員の指導のもとで実際の業務の流れ、会社独自のルール、現場での応用スキルなどを習得させ、即戦力化を促進します。

  2. 専門スキル習得:

    特定の専門スキル(例:プログラミング、マーケティング理論、経理知識)を習得させる場合、Off-JTで理論や基礎を体系的に学びます。

    その後、OJTでその知識を活かしたプロジェクトや業務に携わり、実践を通じて知識の定着と応用力を高めます。

  3. キャリアアップ/リーダーシップ研修:

    将来の管理職候補者などに対しては、Off-JTでリーダーシップ論、マネジメントスキル、コーチング、戦略的思考などを学びます。

    そして、OJTとして実際のチームリーダーやプロジェクトマネージャーとして経験を積み、学んだ知識を実践の場で活かし、フィードバックを受けながら成長を促します。

これらの組み合わせは、従業員の成長段階や育成目標に応じて柔軟に設計することが可能です。効果的な組み合わせにより、それぞれの学習効果を最大化し、人材のポテンシャルを最大限に引き出すことができるでしょう。

助成金・補助金制度の活用

人材育成に取り組む企業、特に中小企業にとって、OJTやOff-JTの実施にかかる費用は決して軽視できません。そこで活用したいのが、政府が提供する「人材開発支援助成金」などの助成金・補助金制度です⁶ ⁸ ¹⁰ ¹⁶。

この制度は、OJTやOff-JTの実施にかかる費用の一部を助成することで、企業の積極的な人材育成を支援することを目的としています。

主なコースとしては、以下のようなものがあります⁶:

  • 特定訓練コース: 若年者訓練や熟練技能者の育成訓練など、特定の目的を持つOJTとOff-JTを組み合わせた訓練などが助成対象となります。
  • 一般訓練コース: 職務に関連するOff-JTのみが助成対象となります。
  • 特別育成訓練コース: アルバイトやパートなどの非正規雇用労働者を正規雇用に転換・処遇改善する目的の訓練などが対象となります。

これらの助成金制度を有効活用することで、企業は育成コストを抑えながら、質の高い人材育成を実現することが可能です⁶ ⁸ ¹⁰ ¹⁶。

ただし、申請には訓練計画の提出など一定の手続きが必要となります。詳細な情報や最新の要件については、厚生労働省のウェブサイトや管轄の労働局にご確認ください⁶ ¹⁰ ¹¹。

出典: ⁶厚生労働省「人材開発支援助成金」, ⁸厚生労働省「キャリア形成支援基本方針」, ¹⁰独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「人材開発支援助成金」, ¹¹厚生労働省「人材開発支援助成金リーフレット」, ¹⁶独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「人材開発支援助成金ガイドブック」

OJT・Off-JTと自己啓発・SDSの関係性

自己啓発・SDSとは?主体的な学びの重要性

OJTやOff-JTは企業が提供する教育訓練ですが、人材育成には従業員自身の「自己啓発」も不可欠です。

自己啓発とは、従業員が自らの意思と費用負担で、業務に必要な知識やスキル、あるいは将来のキャリアに役立つ能力を自発的に学習することです。これには、読書、通信教育、資格取得、外部セミナーへの参加などが含まれます。

また、企業が従業員の自己啓発を支援する制度を「SDS(Self-Development System:自己啓発援助制度)」と呼びます。書籍購入費補助、資格取得費補助、eラーニング受講費用補助などがこれに当たります。

変化の激しい現代社会においては、企業が提供する教育だけでなく、個人が主体的に学び続ける姿勢(リスキリングやアンラーニングを含む)が、自身の市場価値を高め、キャリアを自律的に築いていく上で極めて重要になっています。企業は、この主体的な学びを促進し、支援する役割も担うべきでしょう。

OJT/Off-JTと自己啓発の連携シナリオ

OJT、Off-JT、そして自己啓発は、それぞれが独立したものではなく、互いに連携し合うことで相乗効果を生み出します。効果的な連携シナリオは多岐にわたります。

例えば、Off-JTで体系的な基礎知識を学んだ後、OJTでその知識を実践的に応用し、さらに自己啓発で関連分野の専門書を読み込んだり、資格取得を目指したりすることで、学びをより深く定着させることができます。

OJTで直面した具体的な業務課題や、自身のスキル不足を痛感した際に、自己啓発として関連するオンライン講座を受講したり、セミナーに参加したりすることで、迅速に知識を補い、課題解決に繋げることも可能です。

企業がSDSを導入することで、従業員はOJTやOff-JTで得た学びをさらに深めたり、自身の興味関心に基づいて新たな分野に挑戦したりしやすくなります。

このような連携は、従業員の学習意欲を高め、個人の成長スピードを加速させるだけでなく、企業全体の知識やスキルレベルの向上にも大きく貢献します。

企業と従業員の双方にとってのメリット

OJT、Off-JT、そして自己啓発が一体となった人材育成システムは、企業と従業員の双方に大きなメリットをもたらします。

【従業員にとってのメリット】

  • 自身のキャリアを自律的に形成する能力が高まる。
  • 市場価値が向上し、キャリアの選択肢が広がる。
  • 学習意欲やモチベーションが向上し、仕事へのエンゲージメントが高まる。
  • 多角的な視点や幅広い知識・スキルを習得できる。

【企業にとってのメリット】

  • 従業員のスキルアップにより、組織全体の競争力と生産性が向上する。
  • 自律的に学ぶ文化が醸成され、イノベーションが生まれやすくなる。
  • 従業員の満足度が高まり、優秀な人材の定着率向上に繋がる。
  • 変化の激しいビジネス環境にも柔軟に対応できる組織を構築できる。

OJTやOff-JTといった企業主導の育成と、自己啓発という従業員主導の学びを組み合わせることで、より強固で持続可能な人材育成基盤を築くことができます。これは、現代社会における企業成長と従業員個人のキャリア形成の両輪を回す上で、不可欠なアプローチと言えるでしょう。