減価償却とは?基本をわかりやすく解説

企業活動において、建物や機械装置、車両といった高額な固定資産を取得することは珍しくありません。これらの資産は一度購入すれば終わりではなく、長期間にわたって使用され、企業の収益獲得に貢献します。

しかし、購入にかかった費用をすべて取得した期の費用として計上してしまうと、その期だけ利益が著しく圧迫され、実態を正確に反映しないことになります。そこで登場するのが「減価償却」という会計処理です。

減価償却は、固定資産の取得費用を、その資産が使用できる期間(耐用年数)にわたって、規則的に費用として配分していく仕組みを指します。これにより、毎期の損益計算をより実態に即した形で正確に行うことが可能になります。

減価償却の基本的な考え方と目的

減価償却の最も重要な目的は、期間損益計算の適正化です。例えば、1,000万円の機械を購入し、それが10年間使えるとします。もし購入時に全額費用計上すれば、その年は1,000万円の赤字になったように見えても、残りの9年間は費用が計上されず、実際の収益貢献とのバランスが崩れてしまいます。

減価償却を行うことで、この1,000万円を10年間で均等に(あるいは一定のルールに基づいて)費用配分し、毎年100万円ずつ費用として計上する形になります。これにより、機械が収益を生み出す期間と、それにかかった費用がバランス良く計上され、毎年の経営成績がより正確に把握できるようになるのです。

税法上の減価償却も、企業会計と同様に費用配分を目的としていますが、しばしば「投下資本の回収」という観点から説明されることもあります。これは、企業が投資した資金を税務上の費用として認め、利益から差し引くことで、企業の税負担を軽減し、新たな投資を促進するという政策的な意味合いも含むためです。

このように、減価償却は単なる会計処理にとどまらず、企業の財務状態と経営成績を正しく示す上で不可欠な役割を担っています。適切な減価償却を行うことで、投資家や金融機関に対しても、企業の健全な財政状況と収益性をアピールできる重要な指標となります。

減価償却の対象となる資産とは

減価償却の対象となるのは、一般的に「固定資産」と呼ばれるものです。これは、企業が事業活動のために保有し、長期にわたって使用される資産を指します。具体的には、大きく分けて「有形固定資産」と「無形固定資産」があります。

有形固定資産は、形があり、物理的に存在する資産です。例えば、オフィスビル、工場、土地(土地は減価償却しません)、機械装置、車両運搬具、工具器具備品などがこれに該当します。これらは時間の経過や使用によって価値が減少していくため、減価償却の対象となります。

一方、無形固定資産は、形がないものの、企業に経済的な利益をもたらす資産です。具体的には、ソフトウェア、特許権、商標権、のれんなどが挙げられます。これらの資産も、特定の期間にわたって企業活動に貢献し、その期間が経過すれば価値が減少するため、減価償却(または償却)の対象となります。

ただし、土地や建設中の仮勘定、投資有価証券など、時間の経過や使用によって価値が減少しない、あるいは明確な減価が見込まれない資産は、減価償却の対象とはなりません。また、取得価額が少額な資産(例えば10万円未満など)は、購入時に一括で費用計上できる特例があり、減価償却計算の対象外となる場合もあります。

どのような資産が減価償却の対象となるかを正確に理解することは、企業の資産管理と税務処理において非常に重要です。適切な分類と処理を行うことで、会計上の誤りを防ぎ、適正な財務諸表作成につながります。

耐用年数の重要性と税法上の規定

減価償却を行う上で、最も重要な要素の一つが「耐用年数」です。耐用年数とは、固定資産がその本来の目的で使用できる期間を指し、この期間にわたって取得費用を費用配分することになります。しかし、この耐用年数の考え方は、企業会計と税法とで異なる側面があります。

企業会計では、個々の減価償却資産の状況に応じて、企業がその資産の実際の使用見込み期間や経済的な価値の減少具合を合理的に見積もり、耐用年数を設定します。これは、実態に即した会計処理を行うための重要な判断基準となります。

一方、法人税法においては、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によって、資産の種類別に法定された耐用年数が定められています。法人が独自に見積もった耐用年数を、税務上の償却限度額の計算に使用することはできません。例えば、事務机や椅子は15年、金属製のものや応接セットは8年、パソコンは4年といった具体的な年数が定められています。

この税法上の耐用年数を基準に償却限度額が計算され、企業はその範囲内で減価償却費を計上することになります。税法上の耐用年数に準拠することは、税務調査において問題が生じるのを防ぎ、適正な税務処理を行う上で不可欠です。

実務においては、この企業会計と税法上の耐用年数の違いを理解し、適切に管理することが求められます。特に、税法上の耐用年数が短縮されるような特例措置(例:中小企業者等の少額減価償却資産の特例など)が適用される場合もあるため、常に最新の税法情報を確認し、自社に有利な制度を最大限に活用することが賢明です。

減価償却の計算方法:定額法と定率法

減価償却費を計算する方法には、大きく分けて「定額法」と「定率法」の2種類があります。どちらの方法を選択するかによって、毎年の減価償却費の金額が異なり、企業の利益や税負担に影響を与えます。

日本では、原則としてどちらかを選択できますが、一度選択した方法は継続して適用する必要があります。特別な事情がない限り、安易に変更することはできません。

それぞれの計算方法の特性を理解し、自社の経営戦略や税務上のメリットを考慮して適切な方法を選択することが重要です。ここでは、それぞれの計算方法の仕組みと具体的な計算例を見ていきましょう。

定額法の仕組みと計算例

定額法は、固定資産の取得原価から残存価額(通常はゼロ)を差し引いた金額を、耐用年数で均等に割って毎年同じ金額を償却していく方法です。計算がシンプルで分かりやすいため、多くの企業で採用されています。

この方法のメリットは、毎年の減価償却費が一定であるため、長期的な利益計画を立てやすい点にあります。また、減価償却費が年度によって大きく変動しないため、経営成績が安定して見えるという側面もあります。

具体的な計算式は以下の通りです。

減価償却費 = (取得原価 - 残存価額) ÷ 耐用年数

例えば、取得原価100万円、耐用年数5年の機械を、残存価額なしとして定額法で減価償却する場合を考えてみましょう。

  • 1年目の減価償却費: (1,000,000円 – 0円) ÷ 5年 = 200,000円
  • 2年目の減価償却費: 200,000円
  • 3年目の減価償却費: 200,000円
  • 4年目の減価償却費: 200,000円
  • 5年目の減価償却費: 200,000円

このように、毎年20万円ずつ、5年間にわたって費用として計上されます。これにより、企業の利益は毎年均等に調整され、資産の価値も徐々に減少していくことになります。特に、初期投資を回収する期間が比較的長い資産や、安定した経営を志向する企業に適していると言えるでしょう。

定率法の仕組みと計算例

定率法は、未償却残高(期首の帳簿価額)に一定の償却率を乗じて減価償却費を計算する方法です。この方法の特徴は、減価償却を開始した当初の期間に多額の費用が計上され、年数が経つにつれて償却費が減少していく点です。

定率法のメリットは、資産の初期段階での収益貢献度が高いという考え方に基づき、初期費用を早く回収できる点にあります。また、初期に多額の減価償却費を計上できるため、課税所得を減らし、節税効果を高めることが期待できます。

具体的な計算式は以下の通りです。

減価償却費 = (期首帳簿価額) × 定率法の償却率

償却率は、税法で定められた耐用年数に応じて決定されます。例えば、取得原価100万円、耐用年数5年の機械(償却率0.400とする)を定率法で減価償却する場合を考えてみましょう。

年度 期首帳簿価額 償却率 減価償却費 期末帳簿価額
1年目 1,000,000円 0.400 400,000円 600,000円
2年目 600,000円 0.400 240,000円 360,000円
3年目 360,000円 0.400 144,000円 216,000円
(以降、税法上の保証額を下回るまで計算を続け、最終年は備忘価額1円を残して全額償却)

このように、最初の年度で最も多くの減価償却費が計上され、徐々にその金額が減少していくことが分かります。新しい設備投資を頻繁に行う企業や、事業の立ち上げ期で早期の節税効果を期待する企業に適した方法と言えるでしょう。

償却方法の選択と変更について

減価償却の計算方法として定額法と定率法があることは説明しましたが、どちらを選択するかは法人設立時や新たな事業年度開始前に税務署に届け出を行う必要があります。原則として、一度選択した償却方法は、継続して適用する義務があります。

法人税法上、固定資産の償却方法は、例えば建物や建物附属設備、構築物については原則として定額法が適用され、それ以外の機械装置や車両運搬具などについては定額法または定率法を選択できます。もし届け出を怠った場合は、法定償却方法(建物等は定額法、その他は定率法)が自動的に適用されることになります。

償却方法の変更は、正当な理由がある場合に限り認められます。例えば、企業の事業内容が大きく変更されたり、経営状況が著しく悪化したりした場合などです。変更を行う際には、事前に税務署に「減価償却資産の償却方法変更承認申請書」を提出し、承認を得る必要があります。安易な変更は認められず、税務調査の際に指摘を受ける可能性もあるため注意が必要です。

中小企業の場合、特に機械装置など償却方法が選択できる資産については、節税効果を考慮して定率法を選ぶケースが多く見られます。初期投資が大きい場合や、事業の成長フェーズで早期に費用を計上したい場合に有効です。

しかし、定率法は帳簿価額の管理が複雑になる傾向もあるため、自社の経理体制や将来の事業計画を総合的に考慮し、税理士などの専門家と相談しながら最適な方法を選択することが非常に重要です。正確な知識と適切な手続きが、企業の健全な財務運営を支えます。

freeeとエクセルで減価償却を効率化!

減価償却の計算と管理は、資産の種類や数が増えるほど複雑になり、手作業ではミスや漏れが発生しやすくなります。しかし、現代ではクラウド会計ソフトや表計算ソフトを有効活用することで、この作業を大幅に効率化することが可能です。

特に「freee会計」のようなクラウド会計ソフトは、固定資産管理機能が充実しており、専門知識がなくても容易に減価償却処理を行えるように設計されています。また、Excelも関数やグラフ機能を活用することで、より詳細な分析やシミュレーションに役立てることができます。

これらのツールを適切に使いこなすことで、経理業務の負担を軽減し、より正確で迅速な会計処理を実現できるでしょう。

クラウド会計freeeによる自動化のメリット

freee会計をはじめとするクラウド会計ソフトは、減価償却資産の管理と計算において、非常に大きなメリットをもたらします。最大の魅力は、その自動化機能にあります。

まず、固定資産の登録が簡単です。取得日、取得原価、耐用年数、償却方法などの基本情報を入力するだけで、freeeが自動的に減価償却費を計算してくれます。これにより、複雑な計算式を覚える必要がなく、ヒューマンエラーのリスクを大幅に削減できます。

さらに、freeeは登録された情報に基づいて、毎月の減価償却費の仕訳を自動で生成してくれます。これにより、手作業での仕訳入力の手間が省け、経理業務の負担が大きく軽減されます。特に、決算期には多くの仕訳が必要となるため、この自動生成機能は時間と労力の節約に直結します。

また、固定資産台帳の管理もシステム上で一元的に行えるため、いつでも最新の資産状況を把握できます。売却や除却が発生した場合も、システム上で簡単に処理でき、それに応じた減価償却費の調整も自動で行われます。

このように、freeeを活用することで、減価償却に関する一連の作業が効率化され、経理担当者はより戦略的な業務に集中できるようになります。初めて減価償却を行う方や、経理業務の効率化を目指す中小企業にとって、非常に有効なツールと言えるでしょう。

エクセルでの計算術と活用TIPS

Excelは、減価償却計算に広く利用されている汎用性の高いツールです。複雑な計算も、適切な関数を組み合わせることで効率的に行うことができます。特に、複数の資産の償却費を一覧で管理したり、償却方法による費用の違いをシミュレーションしたりする際に威力を発揮します。

Excelには、減価償却計算に特化した関数がいくつか用意されています。

  • SYD関数(Sum-of-years’ digits method): 級数法による減価償却費を計算します。初年度に多く、次第に減少する償却費を算出できます。
  • DB関数(Declining Balance method): 定率法による減価償却費を計算します。特定の期間における減価償却費を求める際に便利です。
  • VDB関数(Variable Declining Balance method): 指定した期間の定率法または定額法での減価償却費(減額していく期間)を計算します。より柔軟な償却期間の設定が可能です。

これらの関数を活用することで、手計算では時間がかかる定率法の計算も、正確かつ迅速に行うことができます。

さらに、Excelのグラフ化機能を活用すれば、資産ごとの償却額の推移や、減価償却累計額の増減などを視覚的に把握することができます。例えば、棒グラフで年ごとの減価償却費を示したり、折れ線グラフで期末帳簿価額の推移を示したりすることで、財務状況の変化を直感的に理解しやすくなります。

Excelはカスタマイズの自由度が高いため、自社の管理要件に合わせてテンプレートを作成し、資産台帳としても活用することが可能です。ただし、計算式の誤りやデータの入力ミスがないよう、定期的なチェックが不可欠です。

両ツールの連携と使い分けのポイント

freee会計とExcelは、それぞれ異なる強みを持つため、これらを連携させたり、適切に使い分けたりすることで、減価償却の管理をより高度化できます。

freee会計を「主要な管理ツール」として活用することが基本です。freeeは日常の仕訳入力と連動し、減価償却費の自動計上、固定資産台帳の自動更新といった強みがあります。これにより、経理担当者の日々の業務負担を大幅に削減し、会計処理の正確性を担保できます。毎月のルーティン業務や決算処理においては、freeeの自動化機能を最大限に利用するのが効率的です。

一方、Excelは「分析・シミュレーションツール」として活用するのが効果的です。例えば、新規投資を検討する際に、複数の償却方法(定額法と定率法)で減価償却費の推移を比較したり、耐用年数の異なる資産を組み合わせた場合の損益への影響をシミュレーションしたりする際に役立ちます。freeeからエクスポートした固定資産データをExcelに取り込み、独自の分析を加えることも可能です。

また、複雑な資産の売却・除却時の損益計算や、特定の会計期間における減価償却費の変動要因を深く掘り下げて分析したい場合も、Excelの柔軟な計算機能が役立ちます。グラフ機能を使えば、経営陣への報告資料として視覚的に分かりやすいデータを提供することもできるでしょう。

このように、freeeで基本的な管理と自動化を行い、Excelで詳細な分析や将来予測を行うという使い分けによって、減価償却に関する業務を効率的かつ戦略的に進めることができます。両ツールの特性を理解し、業務内容に応じて最適なツールを選択することが、スマートな経理業務を実現する鍵となります。

減価償却がP/LとB/Sに与える影響

減価償却は、企業の財務諸表である損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)の両方に影響を与える重要な会計処理です。減価償却費が計上されることで、企業の利益水準や資産の評価額が変動し、最終的には企業の財政状態と経営成績に大きな影響を与えます。

これらの影響を正確に理解することは、企業の経営者だけでなく、投資家や金融機関にとっても、企業の健全性や収益性を判断する上で不可欠です。ここでは、P/LとB/Sそれぞれへの具体的な影響について詳しく見ていきましょう。

損益計算書(P/L)における減価償却費

損益計算書(P/L)は、一定期間における企業の経営成績を示す書類です。減価償却費は、このP/Lにおいて「費用」として計上されます。具体的には、その資産が何に使われているかによって、計上される勘定科目が異なります。

例えば、オフィスで使用するパソコンや事務機器の減価償却費は「販売費及び一般管理費(販管費)」として計上されます。一方、工場で稼働する機械装置の減価償却費は「製造原価」として計上され、最終的には製品の原価に含まれる形になります。

減価償却費が費用として計上されることで、企業の売上総利益や営業利益、経常利益、そして最終的な当期純利益が減少します。利益が減少するということは、課税所得も減少するため、支払うべき法人税額も少なくなるという効果があります。

これは、企業が設備投資を行った際に、その投資額を税務上の費用として認め、利益から差し引くことで、企業の税負担を軽減するという税務上のメカニズムの一環です。例えば、決算短信の事例では、ある企業の第3四半期連結累計期間における減価償却費が78,835千円、のれんの償却額が37,657千円と開示されており、これらの費用がその期の利益に直接影響を与えていることがわかります。

このように、減価償却費は企業の利益に直接的な影響を与えるため、その計上額は経営判断や投資戦略においても重要な考慮事項となります。

貸借対照表(B/S)における固定資産の表示

貸借対照表(B/S)は、企業の一定時点における財政状態を示す書類です。減価償却は、このB/Sにおいて「固定資産」の表示方法に影響を与えます。

固定資産は、取得した時点では「取得原価」で計上されます。しかし、毎期減価償却費が計上されるごとに、その資産の価値減少分が「減価償却累計額」として積み上がっていきます。B/Sでは、固定資産の項目において、この「取得原価」から「減価償却累計額」を差し引いた金額が「期末残高」または「帳簿価額」として表示されます。

例えば、100万円で取得した機械に対し、1年目に20万円の減価償却費が計上されたとします。B/S上では、「機械装置:100万円(取得原価)-20万円(減価償却累計額)=80万円(帳簿価額)」のように表示されます。

この帳簿価額は、毎期減価償却費が計上されるたびに徐々に減少していきます。最終的には、耐用年数が経過すれば帳簿価額はほとんどゼロ(備忘価額として1円残す場合が多い)になります。

貸借対照表における減価償却累計額の表示は、企業の資産の老朽化度合いや、これまでにどれだけの費用を計上してきたかを示す重要な情報です。投資家や債権者は、この情報を見ることで、企業の資産がどの程度の価値を持っているのか、今後の設備更新が必要になるのかなどを判断する材料とします。

したがって、減価償却はP/Lで利益を減らす一方で、B/Sでは資産の帳簿価額を減らすという、両方の財務諸表に影響を与える二面性を持っていることを理解しておく必要があります。

減価償却が企業の財務指標に与える影響

減価償却費の計上は、企業の財務諸表に直接影響を与えるだけでなく、様々な財務指標を通じて企業の評価にも間接的な影響を与えます。これらの指標は、投資家が企業の健全性や収益性、成長性を判断する上で重要な判断材料となります。

まず、P/L上で利益が減少することにより、収益性に関する指標に影響が出ます。例えば、売上高利益率やROA(総資産利益率)、ROE(自己資本利益率)といった指標は、分子に利益を用いるため、減価償却費の計上額が大きいほどこれらの指標は低く評価される傾向にあります。

一方、減価償却費は「費用」ではありますが、実際にお金が出ていく「支出」ではないため、キャッシュフローに与える影響も考慮すべき点です。P/L上の利益は減少するものの、キャッシュフロー計算書上では、間接法の場合に減価償却費が「非資金費用」として営業活動によるキャッシュフローに加算修正されます。これにより、企業の真の資金創出力(EBITDAなど)を評価する際には、減価償却費の影響を調整して見る必要があります。

B/S上の資産評価という点では、帳簿価額の減少が資産効率に関する指標に影響を与えます。例えば、ROA(総資産利益率)は「当期純利益÷総資産」で計算されるため、減価償却が進んで総資産(特に固定資産)の帳簿価額が減少すると、利益が変わらなくてもROAが改善するように見える場合があります。これは、資産が効率的に利用されているように見えますが、実態との乖離に注意が必要です。

減価償却費の計上額は、企業の投資戦略によっても変動します。財務省の法人企業統計調査では、各業種や資本金階層別に減価償却費のデータが掲載されており、産業全体の動向や傾向を把握するのに役立ちます。また、個別企業の決算短信には、例えば「維持更新投資は予定通り進めつつ、生産拠点、M&A・出資、DX推進などの戦略投資を行っている」といった記述が見られ、これらの投資が将来の減価償却費に影響を与える可能性が示唆されています。

このように、減価償却は様々な財務指標に影響を与え、企業の評価を左右するため、その特性を多角的に理解することが、経営戦略を立てる上で非常に重要となります。

減価償却のポイントと実務上の注意点

減価償却は企業の会計処理において不可欠な要素ですが、その適用には多くのルールや注意点が存在します。特に、税務上の規定は複雑であり、適切な理解なしに進めると、税務調査での指摘や余分な税負担につながる可能性があります。

また、最新の税法改正や経済動向にも常にアンテナを張り、自社にとって最適な減価償却戦略を立てることが重要です。ここでは、減価償却に関する税務上の注意点、最新の動向と具体例、そして実務で失敗しないためのチェックリストをご紹介します。

減価償却に関する税務上の注意点

減価償却は企業会計上の処理であると同時に、税務上の費用として認められるかどうかが、課税所得に大きく影響します。そのため、税務上の規定を遵守することが非常に重要です。

最も重要な点の一つは、耐用年数の法人税法上の規定遵守です。前述の通り、企業が独自に見積もった耐用年数を税務上の償却計算に使用することはできません。必ず「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に定められた法定耐用年数を適用する必要があります。これに違反すると、償却超過として損金算入が認められない可能性があります。

また、償却限度額の概念も重要です。税法上、各資産ごとに償却できる費用には上限(償却限度額)が設けられています。企業が会計上計上した減価償却費がこの償却限度額を超えていた場合、その超過分は当期の損金として認められず、翌期以降に繰り越して償却することになります(償却超過額)。

さらに、中小企業には、取得価額が30万円未満の減価償却資産を、年間合計300万円を上限として一括で損金算入できる「少額減価償却資産の特例」があります。この特例を適用することで、通常よりも早期に費用を計上し、節税効果を高めることができますが、適用には一定の要件があります。

その他、リース資産の減価償却、資本的支出と修繕費の区分、期中に取得・除却した資産の減価償却計算(月割計算など)など、細かな規定が多岐にわたります。これらの複雑な税務上のルールを正確に理解し、適用することは、税務リスクを回避し、適正な納税を行う上で不可欠です。

最新動向と具体的な企業の事例

減価償却に関する最新の数値や傾向を把握することは、自社の財務戦略を検討する上で役立ちます。国の統計データや個別企業の決算情報から、いくつかの興味深い動向が見られます。

財務省が公表する法人企業統計調査は、各業種や資本金階層別に、資産、負債及び純資産、損益、人件費などの詳細なデータを提供しています。これには減価償却費も含まれており、過去のデータと比較することで、産業全体の減価償却費の動向や、特定の業種における設備投資の傾向などを把握するのに役立ちます。例えば、製造業とサービス業とでは、減価償却費が総費用に占める割合が大きく異なることが予想され、これは各業種の資産構成の違いを反映しています。

個別企業の決算短信からも、具体的な減価償却費の金額が開示されています。参考情報にもあったように、ある企業では、第3四半期連結累計期間における減価償却費が78,835千円、のれんの償却額が37,657千円であったという事例があります。これは、その企業がその期間にこれだけの費用を計上し、利益に影響を与えたことを示しています。特に「のれんの償却額」はM&Aの有無や規模を示すため、企業の成長戦略を読み解く上でも重要な情報です。

また、別の企業では「維持更新投資は予定通り進めつつ、生産拠点、M&A・出資、DX推進などの戦略投資を行っている」と示されています。このような戦略投資は、将来的に新たな固定資産の取得につながり、それに伴う減価償却費が増加する可能性があります。これは、企業の成長フェーズや投資スタンスによって、減価償却費の規模や傾向が大きく変わることを意味します。

これらの最新情報や具体的な事例を参考にすることで、自社の減価償却費が業界平均と比較して妥当か、また、今後の投資計画が財務にどのような影響を与えるかを考察するための貴重な洞察を得ることができます。

実務で失敗しないためのチェックリスト

減価償却は、日々の経理業務だけでなく、決算や税務申告に直結する重要な処理です。実務でミスなく、かつ効率的に進めるために、以下のチェックリストを参考にしてください。

  • 固定資産台帳の整備と更新:

    取得した固定資産はすべて固定資産台帳に登録されていますか?
    取得日、取得原価、償却方法、耐用年数などの情報が正確に記載され、常に最新の状態に保たれていますか?
    freeeなどのクラウド会計ソフトを活用し、自動更新される仕組みを導入していますか?

  • 償却方法の選択と届出:

    各資産に適した償却方法(定額法、定率法など)を選択し、税務署に適切に届け出ていますか?
    届け出がない場合や、変更が必要な場合の承認申請は済んでいますか?

  • 耐用年数の確認:

    法人税法上の法定耐用年数を正確に適用していますか?
    特例が適用される資産(例:中古資産の短縮耐用年数など)はありませんか?

  • 少額減価償却資産の特例の活用:

    中小企業者等の少額減価償却資産の特例の適用要件を満たし、適切に利用していますか?
    年間300万円の上限を超えていないか確認していますか?

  • 期中取得・除却資産の処理:

    期中に取得または除却した資産の減価償却費は、月割計算など適切な方法で処理されていますか?
    除却・売却時の固定資産除却損益・売却損益の計上は適切ですか?

  • 定期的な棚卸しと実地確認:

    固定資産台帳に記載された資産が、実際に存在するか定期的に棚卸し、実地確認を行っていますか?
    所在不明な資産や、すでに使用していない資産が計上されたままになっていませんか?

  • 顧問税理士との連携:

    減価償却に関する判断に迷う場合や、税法改正があった際には、顧問税理士と密に連携し、アドバイスを受けていますか?
    決算前の最終チェックを税理士に依頼していますか?

これらのチェックポイントを定期的に確認することで、減価償却に関するミスを防ぎ、正確な会計処理と適正な税務申告を実現することができます。