概要: 減価償却は、固定資産の価値減少を費用として計上する会計処理です。この記事では、その意味や考え方、いつからいつまで、そして費用の流れや計算方法をわかりやすく解説します。特に80万円の壁など、押さえておきたいポイントもご紹介します。
減価償却とは?その意味と基本的な考え方
資産の価値が目減りするってどういうこと?
事業を行う上で購入する建物、機械、車両、パソコンなどの固定資産は、時間の経過や使用によってその価値が少しずつ減少していきます。
例えば、新車で購入した車が1年後には中古車として価値が下がってしまうように、どの資産も永遠に同じ価値を保つことはできません。
この「価値の減少」を会計上で認識し、適切に費用として計上する仕組みが「減価償却」です。
物理的な老朽化だけでなく、新しい技術の登場による陳腐化(使えなくなること)も価値減少の一因として捉えられます。
減価償却は、こうした資産の目減りを正確に財務諸表に反映させるための重要な会計処理なのです。
なぜ減価償却が必要なの?会計上の役割
もし高額な固定資産(例えば1億円の工場設備)を購入した際に、その費用を全額、購入した事業年度に一括で計上してしまうとどうなるでしょうか?
その年の利益は大幅に減少し、まるで赤字のように見えてしまうかもしれません。
しかし、その工場設備は何年にもわたって収益を生み出し続けるはずです。
減価償却の目的は、こうした固定資産の取得費用を、その資産を使用できる期間(耐用年数)にわたって分割し、各年の費用として計上することにあります。
これにより、資産の取得費用とそれによって生み出される収益を、それぞれの期間に適切に対応させることが可能になります。
企業の正確な期間損益を把握し、適正な利益や税額を計算するために、減価償却は不可欠な役割を担っています。
減価償却の対象となる資産とは?具体例で理解
減価償却の対象となるのは、事業に使用される固定資産のうち、時間の経過とともに価値が減少する「減価償却資産」です。
一般的に、時間の経過で価値が減少しない土地や、使用しても価値が下がらない骨董品などは対象外となります。
具体的な減価償却資産の種類は以下の通りです。
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有形固定資産: 建物、工場、設備、車両、船舶、航空機、構築物、工具器具備品など、形のある資産です。
例えば、会社のオフィスビル、製造機械、営業車などがこれにあたります。 -
無形固定資産: ソフトウェア、特許権、商標権、漁業権など、形はないけれど法律上の権利や経済的な価値を持つ資産です。
自社開発のソフトウェアや、購入した特許などが代表的です。 - 生物: 家畜(乳牛や種馬など)、果樹といった、事業用に飼育・栽培される生物も減価償却の対象となる場合があります。
これらの資産は、その種類や用途によって、後述する「耐用年数」が定められています。
減価償却はいつからいつまで?開始時期と終了時期
減価償却のスタートライン:取得と使用開始のタイミング
減価償却は、固定資産を取得した「購入日」から始まるわけではありません。
その資産を「事業の用に供した日」、つまり実際に事業で使用を開始した日からスタートします。
例えば、3月に最新の製造機械を購入しても、設置や試運転に時間がかかり、実際に生産ラインで稼働し始めたのが6月であれば、減価償却は6月から開始されることになります。
この「事業の用に供した日」が重要であり、年度の途中で資産を使い始めた場合は、その事業年度の末日までの期間に応じて、月割りで減価償却費を計算する必要があります。
これにより、実際の使用期間に見合った費用が計上され、より正確な期間損益が算出されます。
減価償却のゴール:耐用年数と残存簿価
減価償却は、資産が「耐用年数」と呼ばれる期間にわたって行われます。
耐用年数とは、国税庁が定めている「法定耐用年数」のことで、資産の種類や構造、用途によって異なります。
例えば、一般的な事務用パソコンは4年、普通乗用車は6年、鉄骨鉄筋コンクリート造の事務所用建物は50年といった具合です。
この耐用年数が経過すると、原則として減価償却は終了します。
ただし、耐用年数が終了したからといって、その資産の価値が完全にゼロになるわけではありません。
会計上、資産が帳簿から完全に消えてしまうことを避けるため、通常は1円の「備忘価額」を残して償却を終えます。
この1円が「残存簿価」となり、資産が物理的に存在する限り、帳簿上に残しておくことになります。
年度途中での取得・売却・廃棄時の処理
減価償却は、事業年度の途中で変動することがあります。
先述の通り、事業年度の途中で固定資産を取得した場合は、使用を開始した月からその事業年度の末日までの期間に応じて、月割りで減価償却費を計算します。
例えば、10月に使用開始した資産であれば、その年度は6ヶ月分(10月~3月)の減価償却費が計上されます。
ただし、生産高比例法など一部の計算方法では月割り計算を行いません。
また、減価償却中の資産を途中で売却したり、事業用途から外して廃棄(除却)したりする場合も特別な処理が必要です。
その時点までの減価償却費を計上し、資産の帳簿価額(取得価額からそれまでの減価償却費を差し引いた額)を確定させます。
売却の場合は、売却価額とこの帳簿価額との差額が、「固定資産売却益」または「固定資産売却損」として会計処理されます。
廃棄の場合は、帳簿価額がそのまま「固定資産除却損」となるのが一般的です。
減価償却費の計上タイミングと費用の流れ
減価償却費はいつ計上される?会計期間との関係
減価償却費は、企業の会計期間(事業年度)の期末に費用として計上されるのが一般的です。
多くの企業では、年間の決算時に一度に計上しますが、月次決算を行っている場合は毎月費用として計上することもあります。
この費用計上によって、その会計期間の利益が圧縮され、結果として法人税などの税額計算に影響を与えます。
減価償却費の大きな特徴は、「非資金費用」である点です。
購入時に現金は支払っていますが、減価償却費として費用計上する際には、新たな現金の支出を伴いません。
このため、利益は減るものの、実際に会社から現金が流出するわけではないのです。
この特性は、企業のキャッシュフローを分析する上で非常に重要なポイントとなります。
定額法と定率法:費用計上の特徴とメリット・デメリット
減価償却費の計算方法には、主に「定額法」と「定率法」の2つがあります。
これらは費用を計上するタイミングや金額の推移が異なり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
| 計算方法 | 費用計上の特徴 | 主なメリット | 主なデメリット |
|---|---|---|---|
| 定額法 | 毎年、同額の減価償却費を計上 |
計算が簡単で、毎年の経費額が一定しているため資金計画が立てやすい。 損益が安定する。 |
初年度の費用化額が定率法より少なくなる。 |
| 定率法 |
初年度の償却額が大きく、その後徐々に減少。 期首未償却残高に一定率を乗じる。 |
早期に多額の費用を計上できるため、設備投資直後の節税効果が高い。 初期の減価償耗が考慮される。 |
計算が複雑で、償却保証額を下回った場合の計算変更などがある。 損益が不安定になりがち。 |
どちらの方法を選択するかは、企業の経営戦略や税務戦略によって異なります。
例えば、早期に税負担を軽減したい場合は定率法が、長期的に安定した損益を望む場合は定額法が選択されることが多いです。
減価償却費が企業の財務に与える影響
減価償却費は、企業の財務状況に多岐にわたる影響を与えます。
まず、損益計算書(P/L)では費用として計上されるため、売上総利益や営業利益、経常利益、そして当期純利益といった各段階の利益を減少させます。
これにより、課税所得が減少し、最終的な法人税額が軽減される効果があります。
次に、貸借対照表(B/S)では、固定資産の項目から「減価償却累計額」という形で差し引かれ、資産の帳簿価額が毎年減少していきます。
これは資産の真の価値(簿価)を反映させるための処理です。
そして、キャッシュフロー計算書(C/F)においては、非資金費用である減価償却費が営業活動によるキャッシュフローの調整項目として、当期純利益に加算されます。
これは、利益は減ったものの、実際には現金が流出していないことを示す重要な指標であり、企業の現金創出能力を判断する上で不可欠な情報となります。
減価償却の計算方法:簡単理解とお金の流れ
基本の「き」!定額法の計算式をマスター
定額法は、減価償却費の計算方法の中で最もシンプルで理解しやすい方法です。
資産の取得価額を、その資産の耐用年数で均等に割り振るイメージです。
毎年同じ額の減価償却費を計上するため、費用予測が立てやすく、安定した会計処理が可能になります。
計算式は非常にシンプルです。
減価償却費 = 取得価額 × 定額償却率
例えば、100万円で購入した機械(耐用年数5年、定額償却率0.200)の場合、毎年の減価償却費は以下のようになります。
100万円 × 0.200 = 20万円
この20万円を5年間にわたって毎年計上していきます。
このように、定額法は計算が直感的で分かりやすいため、多くの企業で採用されています。
初期費用を早く回収したいなら?定率法の仕組み
定率法は、資産の取得当初に多額の減価償却費を計上し、年数が経過するにつれて償却費が減少していく方法です。
この方法は、資産の価値減少が初期に大きいという考え方に基づいています。
特に、設備投資の初期段階で節税効果を期待したい企業や、新しい技術導入で早期に陳腐化しやすい資産に対して有効です。
計算式は以下の通りです。
減価償却費 = 未償却残高 × 定率償却率
「未償却残高」とは、取得価額からこれまでに計上した減価償却費の累計額を差し引いた金額を指します。
例えば、100万円で購入した機械(耐用年数5年、定率償却率0.400)の場合:
- 1年目:100万円 × 0.400 = 40万円(未償却残高:60万円)
- 2年目:60万円 × 0.400 = 24万円(未償却残高:36万円)
- 3年目:36万円 × 0.400 = 14万4千円(未償却残高:21万6千円)
ただし、定率法には「償却保証額」というルールがあり、償却額が一定額を下回った場合は計算方法が改定され、未償却残高から備忘価額(通常1円)を差し引いた金額をその後の年数で均等に償却します。この複雑さがデメリットと言えるでしょう。
特別な計算方法:リースや生産高比例法
定額法と定率法が一般的な減価償却の計算方法ですが、特定の資産や状況に応じて異なる計算方法が適用されることがあります。
一つは、リース資産に用いられる「リース期間定額法」です。
これは、リース会社から借りているリース資産に対して適用され、そのリース契約期間にわたって取得価額を均等に費用計上する方法です。
これにより、リース期間中にリース資産の費用が適切に配分されます。
もう一つは、「生産高比例法」です。
これは、資産の価値減少が使用量(生産量や走行距離など)に大きく左右される場合に用いられます。
例えば、鉱山機械やトラックなど、稼働時間や生産量に比例して価値が減少する資産に適しています。
計算式は「減価償却費 = 取得価額 × (当期の生産高 ÷ 総生産見込み高)」となります。
この方法では、実際の使用量に即した費用計上が可能となり、合理的な損益計算が行えます。
生産高比例法は月割り計算を行わないため、月の途中で使用を開始しても、その月の生産量に応じた費用が計上されます。
減価償却でおさえておきたいポイント(80万円の壁など)
中小企業必見!少額減価償却資産の特例活用術
中小企業の設備投資を後押しするために、「少額減価償却資産の特例」という制度があります。
これは、取得価額が30万円未満の減価償却資産について、一定の要件を満たす中小企業者等が、その取得価額を購入した事業年度に全額費用として計上できる(即時償却できる)という非常にメリットの大きい特例です。
通常であれば、耐用年数にわたって分割して費用計上するところを、すぐに全額費用化できるため、購入した年の課税所得を大きく圧縮し、節税効果を高めることが可能です。
この特例は、1事業年度あたり合計300万円まで適用可能です。
例えば、20万円のパソコンを複数台購入した場合や、15万円のオフィス家具を導入した場合などに適用でき、まとめて費用化することで、設備投資と同時に税負担を軽減する戦略が立てられます。
「30万円未満」「10万円以上20万円未満」の特例とメリット
少額減価償却資産の特例と似た制度として、取得価額によって異なる処理が可能な資産があります。
これらの違いを理解し、適切に活用することが重要です。
- 10万円未満の資産: 全額を「消耗品費」などの費用として、購入時に即座に計上できます。減価償却の対象外です。
-
10万円以上20万円未満の資産(一括償却資産): この範囲の資産は、通常の減価償却ではなく、「一括償却資産」として処理することが可能です。
これにより、その資産の取得価額を3年間で均等に費用計上することができます。
通常の耐用年数よりも短期間で費用化できるため、資金繰りを助ける効果があります。
また、一括償却資産は固定資産税の課税対象とならないというメリットもあります。 -
30万円未満の資産(少額減価償却資産の特例): 前述の通り、中小企業者等であれば即時償却が可能です。これは10万円以上20万円未満の資産にも適用できるため、一括償却資産とどちらか有利な方を選択できます。
特に、即時償却は費用化のスピードが最も速いため、節税効果を最大限にしたい場合に選ばれます。
これらの特例を適切に使い分けることで、企業の税負担を最適化し、より柔軟な経営戦略を立てることが可能になります。
今後の税制改正に注目!最新情報と企業戦略
減価償却に関する税制は、国の経済政策や産業振興の状況に応じて見直されることがあります。
特に注目すべきは、2025年度の経済対策において、AI、半導体、造船、量子、エネルギー安全保障といった戦略分野への投資を促進する目的で、「即時償却」の導入が検討されている点です。
これは、特定の分野での設備投資を初年度に一括費用計上できる制度であり、該当する事業を行う企業にとっては大きなメリットとなり得ます。
また、中小企業等向けの少額減価償却資産の特例(30万円未満の資産の即時償却)は、2025年度末(2026年3月31日)までの期限付きで延長されています。
将来的な延長は確約されていませんが、中小企業支援の観点から、今後も制度の見直しや延長が検討される可能性は十分にあります。
企業が設備投資計画や経営戦略を立てる際には、これらの税制改正の動向を常に注視し、最新情報を把握することが不可欠です。
国税庁や経済産業省の発表、信頼できる税務専門家の情報などを定期的に確認し、自社にとって最適な減価償却方法や特例の適用を検討することをおすすめします。
制度を最大限に活用することで、企業の競争力向上に繋げましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 減価償却とは具体的にどのような意味ですか?
A: 減価償却とは、建物や機械などの固定資産が時間の経過や使用によって価値が減少していくのを、その資産の耐用年数に応じて費用として計上していく会計上の処理のことです。
Q: 減価償却はいつから開始し、いつまで続けるのですか?
A: 減価償却は、固定資産が事業の用に供された日(使い始めた日)から開始します。終了時期は、その資産の耐用年数に応じて定められた期間が経過するまでとなります。
Q: 減価償却費はいつ計上すれば良いですか?
A: 減価償却費は、原則として毎期(通常は決算時)に計上します。期中に売却や除却(廃棄)した場合は、その時点までの減価償却費を計上します。
Q: 減価償却費のお金の流れはどのようになりますか?
A: 減価償却費は、実際に現金を支払うわけではありません。帳簿上の費用として計上されることで、利益が減少し、結果として法人税などの税金が軽減される効果があります。いわゆる「非現金支出費用」です。
Q: 80万円の減価償却の壁とは何ですか?
A: 10万円未満の固定資産は全額損金算入できますが、10万円以上20万円未満の固定資産は3年間で均等償却できます。さらに、取得価額が80万円未満の減価償却資産については、中小企業等であれば、個々の資産について、取得価額の合計額が300万円まで、一括で損金算入できる特例があります。これが「80万円の壁」と呼ばれることもあります。
