減価償却のいくらから?10万円、20万円、30万円の境界線を徹底解説

「あの備品、経費にできる?」事業を営む方なら誰もが一度は頭を悩ませる減価償却。特に、取得価額が10万円、20万円、30万円といった金額の境界線で、会計処理の方法が大きく変わるため、正確な知識が不可欠です。本記事では、減価償却の基本から、これらの複雑な境界線における具体的な処理方法、さらには消費税の扱いや青色申告・白色申告の違いまで、最新の情報を交えながら徹底的に解説します。あなたの会計処理をスムーズにし、適切な節税対策を講じるための羅針盤として、ぜひご活用ください。


減価償却とは?基本を理解しよう

事業活動において、パソコンや車両、機械設備など、長期にわたって使用する資産は多く存在します。これらの資産は時間の経過とともに価値が減少していくもの。その価値の減少分を費用として計上する会計処理が「減価償却」です。適切に減価償却を行うことで、企業の正確な利益を把握し、税務上のメリットも享受できます。

減価償却の基本的な考え方

減価償却とは、事業のために使う固定資産の取得費用を、一度にすべて計上するのではなく、その資産が利用できる期間(耐用年数)にわたって少しずつ費用として配分していく会計処理のことです。たとえば、100万円の機械を購入したとしても、その機械は何年にもわたって収益を生み出すため、購入した年に全額を費用とすることはできません。この費用配分を行うことで、期間ごとの正確な損益計算が可能になり、企業の財務状況をより適切に反映させることができます。
この仕組みは、費用と収益の対応の原則に基づいています。資産が生み出す収益と、その資産にかかる費用を同じ期間に対応させることで、正しい経営成績を示すことが目的です。減価償却は、法人税法上の損金算入の対象となるため、節税効果も期待できる重要な会計処理と言えます。

なぜ減価償却が必要なのか

減価償却が必要な最大の理由は、企業の正確な利益を把握し、公正な課税を行うためです。もし高額な資産を全額一括で費用として計上することを許してしまうと、購入した年の利益が著しく少なくなり、税負担が不当に軽くなってしまいます。また、その後の年の利益は過大に計上されることになり、実態とはかけ離れた利益が表示されることにもなりかねません。
減価償却を通じて、資産の価値の減少を合理的に費用化することで、事業の真のコストを反映させることができます。これにより、企業の経済状態を正確に評価し、投資家や金融機関など、外部の利害関係者に対しても信頼性の高い情報を提供することが可能となるのです。さらに、将来の設備更新に備えるための資金計画にも役立つなど、企業の持続的な成長を支える上で欠かせない役割を担っています。

減価償却資産の種類と具体例

減価償却の対象となる資産は、「時の経過等によって価値が目減りする資産」と定義されています。これには、目に見える形を持つ「有形固定資産」と、形を持たない「無形固定資産」の二種類があります。具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 有形固定資産: 建物(事務所、工場など)、機械装置(製造ライン、印刷機など)、車両運搬具(社用車、トラックなど)、工具器具備品(パソコン、デスク、エアコンなど)。
  • 無形固定資産: ソフトウェア(会計ソフト、営業管理システムなど)、特許権、商標権、著作権、営業権など。

ただし、土地のように時の経過によって価値が減少しない資産は、減価償却の対象にはなりません。また、美術品や骨董品なども、原則として減価償却の対象外ですが、時間の経過とともに価値が減少することが明らかな場合は対象となるケースもあります。事業活動で活用する様々な資産が該当するため、購入する際はその資産が減価償却の対象となるかを常に意識することが重要です。


「10万円未満」は一括で経費にできる?

減価償却のルールの中でも、特に多くの事業者が恩恵を受けるのが「少額減価償却資産」の特例です。取得価額が一定額未満の資産については、通常の減価償却を行わずに、購入した事業年度で一括して費用(損金)として計上することが認められています。この制度を理解することで、日々の備品購入の処理が格段に楽になり、早期の節税効果も期待できます。

少額減価償却資産の定義とメリット

取得価額が10万円未満の減価償却資産は、「少額減価償却資産」として、購入した事業年度にその全額を費用(損金)として計上することができます。これは、通常の減価償却のように数年間にわたって費用を配分する手間を省き、会計処理を簡素化するための特例です。この特例を適用することで、中小企業者だけでなく、すべての事業者が利用可能です。
この最大のメリットは、購入した年にすぐに全額を費用にできるため、その年の課税所得を減らし、法人税や所得税の負担を軽減できる点にあります。例えば、9万円のプリンターを購入した場合、購入したその年の経費として全額計上できるため、会計処理が非常にシンプルになります。また、減価償却計算の手間がなくなるため、事務作業の効率化にも貢献します。

具体例で見る10万円未満の資産

取得価額が10万円未満となる少額減価償却資産は、私たちの身の回りにも数多く存在します。事業でよく使われる具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 事務用品: 事務用チェア、キャビネット、シュレッダー、複合機の一部(安価なモデル)、デスクスタンドなど。
  • IT機器: モニター、キーボード、マウス、外付けハードディスク、ウェブカメラ、プリンター、Wi-Fiルーターなど。
  • その他備品: 工具、小型家電(電子レンジ、コーヒーメーカー)、カメラ、計測器の一部など。

これらの資産は、購入時にまとめて経費計上できるため、日々の消耗品に近い感覚で会計処理を進めることができます。ただし、これらの資産も事業で使用するために購入したものとして、領収書や請求書を適切に保存し、会計帳簿に記録することが重要です。税務調査の際にも、購入の事実と事業使用の証明が求められるため、書類の管理は徹底しましょう。

消費税の扱いはどう影響する?

減価償却資産の取得価額を判断する上で、消費税の扱いは重要なポイントとなります。消費税の経理処理方式には、「税込経理方式」「税抜経理方式」の二種類があり、どちらを採用しているかによって、取得価額の判断基準が変わるからです。

  • 税込経理方式の場合: 取得価額は消費税込みの金額で判断します。例えば、本体価格が9万5千円、消費税が9千5百円(10%)の場合、合計10万4千5百円となり、10万円以上の資産として扱われることになります。
  • 税抜経理方式の場合: 取得価額は消費税を除いた本体価格で判断します。上記の例であれば、本体価格の9万5千円が取得価額となり、10万円未満の少額減価償却資産として全額を費用計上できます。

ほとんどの課税事業者は税抜経理方式を採用しているため、本体価格が10万円未満であれば「少額減価償却資産」として処理できるケースが多いでしょう。しかし、免税事業者や、あえて税込経理方式を選択している事業者は注意が必要です。ご自身の経理処理方式を確認し、正確な判断を行うようにしましょう。


「20万円以下」の特例とは?

10万円未満の資産は一括で経費にできる少額減価償却資産の特例がありますが、では10万円以上20万円未満の資産はどうなるのでしょうか?この範囲の資産には、「一括償却資産」という別の特例が適用されます。これは、取得価額を3年間で均等に償却できる制度で、中小企業者以外の事業者でも利用できるため、幅広い企業にメリットがあります。

一括償却資産の概要と条件

取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産は、「一括償却資産」として処理することができます。この制度では、取得価額の合計額を、その資産を取得した事業年度から3年間にわたって、毎年均等に費用として償却します。例えば、15万円の資産を購入した場合、1年につき5万円ずつ、3年間で費用計上することになります。
この特例の大きな特徴は、中小企業者だけでなく、資本金が1億円を超える大企業を含むすべての事業者が適用できる点です。通常の減価償却は、個々の資産ごとに耐用年数や償却方法を計算する必要があるのに対し、一括償却資産はまとめて処理できるため、事務処理の簡素化に繋がります。また、耐用年数に関わらず3年均等償却であるため、長期の耐用年数を持つ資産を早期に償却できるメリットもあります。

均等償却の計算方法とメリット

一括償却資産の償却額は非常にシンプルに計算できます。対象となる資産の取得価額を3で割るだけで、毎年の償却費が算出されます。

例えば、以下のようなケースで考えてみましょう。

購入資産 取得価額 1年あたりの償却額
高性能オフィスチェア 120,000円 40,000円 (120,000円 ÷ 3年)
業務用水サーバー 180,000円 60,000円 (180,000円 ÷ 3年)

このように、各資産の取得価額を3で割った金額を3年間費用計上します。この方法のメリットは、個々の資産の耐用年数を調べる手間が省けること、そして、通常の減価償却よりも早く費用化できる場合があることです。例えば、耐用年数が5年以上の資産であれば、3年で償却することで早期の損金算入が可能となり、節税効果を早めることができます。

固定資産税との関連性

一括償却資産の制度を利用する上で、注意すべき点が「固定資産税(償却資産税)」との関連性です。実は、法人税法上の「一括償却資産」として処理された資産は、固定資産税の課税対象から除外されるという大きなメリットがあります。
通常の減価償却資産は、土地や家屋と同様に、事業で用いる償却資産として毎年固定資産税が課税されます。しかし、一括償却資産は、その簡便な処理の趣旨から、国税(法人税・所得税)の計算上は3年均等償却としつつも、地方税である償却資産税の課税対象からは外れることになっています。
これは、事業者が一括償却資産の特例を選択する大きな動機付けの一つとなるでしょう。取得価額が10万円以上20万円未満の資産を購入する際は、この固定資産税のメリットも考慮に入れて、一括償却資産としての処理を検討することをおすすめします。ただし、地方自治体によっては取り扱いが異なる場合もあるため、念のため管轄の自治体に確認するとより確実です。


「30万円未満」「30万円以下」の境界線と消費税

減価償却の境界線で最も注目されるのが、中小企業者等に限定された「少額減価償却資産の特例」です。この特例は、取得価額が30万円未満の資産を、年間合計300万円を上限に即時償却できるという非常に強力な制度です。しかし、適用には条件があり、消費税の扱いも影響するため、詳細を正確に理解しておく必要があります。

中小企業者等向け特例の条件

取得価額が30万円未満の減価償却資産について、一括で費用計上(即時償却)できる「少額減価償却資産の特例」は、主に中小企業者等を対象とした制度です。この「中小企業者等」とは、具体的に以下のいずれかの要件を満たす法人を指します。

  • 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
  • 常時使用する従業員の数が500人以下の法人

また、農業協同組合や医療法人なども対象となります。この特例は、1事業年度あたりの合計取得価額が300万円までという上限が設定されています。例えば、25万円のパソコンを10台購入した場合、合計250万円となるため、全額を即時償却できます。しかし、13台購入した場合は合計325万円となり、300万円を超える部分(25万円)は通常の減価償却の対象となります。
この特例は、現在のところ2025年度末(2026年3月31日)まで適用が延長されており、中小企業の設備投資を後押しする重要な税制優遇策となっています。

特例適用のメリットと注意点

少額減価償却資産の特例の最大のメリットは、多額の設備投資を行った年に、その費用を全額即時償却できるため、その年の課税所得を大幅に減らし、大きな節税効果を得られる点です。これにより、企業のキャッシュフローが改善され、再投資や事業拡大のための資金を確保しやすくなります。

しかし、この特例を適用する際にはいくつかの重要な注意点があります。

  • 手続きの必要性: 確定申告書に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」を添付するか、青色申告決算書の摘要欄に所定の記載が必要です。
  • 他の税制措置との重複: 中小企業経営強化税制のE類型など、他の税制措置と重複して適用できない場合があります。
  • 貸付け資産の除外: 2022年度の税制改正により、リース事業者などが主な事業のために所有する場合を除き、貸付けのために供した資産は、この特例の対象から除外されることになりました。賃貸事業などで利用する資産は対象外となるため、注意が必要です。

これらの条件や注意点をしっかり理解し、自社の状況に合わせて適切に適用を検討することが、特例を最大限に活用するための鍵となります。

消費税の取り扱いによる影響

少額減価償却資産の特例においても、消費税の経理処理方式が取得価額の判断に影響を与えます。ここでも、税込経理方式税抜経理方式のどちらを採用しているかが重要になります。

  • 税込経理方式の場合: 消費税を含んだ金額が取得価額となります。例えば、本体価格28万円、消費税2万8千円(10%)の場合、合計30万8千円となり、30万円以上の資産として特例の対象外となります。
  • 税抜経理方式の場合: 消費税を除いた本体価格が取得価額となります。上記の例では、本体価格28万円が取得価額となるため、30万円未満の資産として特例の対象となります。

ほとんどの課税事業者(消費税を納税している事業者)は税抜経理方式を採用しているため、本体価格が30万円未満であれば特例の対象となることが多いでしょう。しかし、免税事業者や税込経理方式を採用している事業者は、消費税を含めた金額で判断するため、思わぬ形で特例が適用できなくなるケースがあります。
事前に自身の経理処理方式を確認し、購入しようとしている資産が特例の対象となるかを慎重に判断することが大切です。


青色申告と白色申告で減価償却の扱いは違う?

個人事業主の確定申告には、「青色申告」と「白色申告」の二種類があります。どちらの申告方法でも減価償却の基本的な考え方は共通していますが、特に「少額減価償却資産の特例」の適用において、大きな違いがあります。この違いを理解することは、適切な申告方法を選択し、最大限の節税効果を得るために非常に重要です。

基本的な減価償却の考え方の共通点

青色申告と白色申告のどちらを選択していても、事業のために使用する固定資産の価値が時間の経過とともに減少するという事実と、その価値減少分を費用として計上する「減価償却」の基本的な考え方に違いはありません。たとえば、取得価額が20万円以上の高額な機械装置や車両などを購入した場合、青色申告者であろうと白色申告者であろうと、その資産の法定耐用年数に基づいて減価償却費を計算し、毎年費用として計上していくことになります。
これは、企業会計原則や税法で定められた費用配分の原則に基づくものであり、事業の真の利益を正確に把握するという目的は、申告方法にかかわらず共通しているためです。どちらの申告者も、購入した固定資産の種類や耐用年数に応じた償却率を用いて減価償却費を算出し、確定申告書に記載することになります。

少額減価償却資産の特例の利用可否

減価償却の処理において、青色申告と白色申告で最も大きな違いが生じるのが「少額減価償却資産の特例」の利用可否です。この特例は、先述の通り、取得価額が30万円未満の減価償却資産を、年間合計300万円を上限として即時償却できる制度です。

  • 青色申告者: この「少額減価償却資産の特例」を利用することができます。これにより、多額の設備投資を行った年に一括で費用計上し、大きな節税効果を得ることが可能です。
  • 白色申告者: 残念ながら、この「少額減価償却資産の特例」を利用することはできません。白色申告者は、取得価額が10万円以上の減価償却資産については、原則として法定耐用年数に基づいて減価償却を行う必要があります。10万円未満の資産であれば、青色申告者と同様に一括で経費にできますが、30万円未満の特例は適用されません。

この違いは、特に事業を拡大していく上で高額な設備投資を考えている個人事業主にとって、青色申告を選択する大きな動機の一つとなります。

その他の経理処理と申告方法の違い

減価償却の特例以外にも、青色申告と白色申告では、経理処理や税制優遇に様々な違いがあります。

  • 青色申告:
    • 複式簿記での記帳が必須: 帳簿付けの手間はかかりますが、より詳細な経営状況を把握できます。
    • 青色申告特別控除: 最大65万円(または10万円)の所得控除が受けられます。
    • 純損失の繰り越しと繰り戻し: 赤字を翌年以降3年間繰り越したり、前年に繰り戻して還付を受けたりできます。
    • 専従者給与: 事業を手伝う家族への給与を全額経費にできます。
  • 白色申告:
    • 簡易な記帳(単式簿記)が可能: 帳簿付けの手間は少ないです。
    • 税制優遇が少ない: 青色申告特別控除や損失の繰り越しなどのメリットはありません。
    • 専従者控除: 家族への給与は「事業専従者控除」として一定額しか認められません。

減価償却の特例の有無も含め、青色申告は節税メリットが大きく、事業の成長段階においては有利な選択肢と言えます。多少の手間はかかりますが、長期的に見れば青色申告への切り替えを検討する価値は十分にあるでしょう。