発注書に印紙は必要?金額で変わる印紙税のルール

「発注書」は日常的な商取引で頻繁に交わされる文書ですが、そこに収入印紙を貼る必要があるのか、疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。実は、印紙税は特定の文書、すなわち「課税文書」にのみ課される国税であり、発注書そのものは原則として課税文書には該当しません。しかし、その内容や形態によっては印紙税の対象となるケースも存在します。

ここでは、印紙税の基本的な考え方から、発注書が関連する場面での印紙税の要否、そして金額によって変わる印紙税のルールについて詳しく解説していきます。

印紙税の基本と発注書の関連性

印紙税とは、経済取引に伴って作成される特定の文書、通称「課税文書」に対して課される国の税金です。納税は、定められた金額の収入印紙を文書に貼り付け、消印をすることで完了します。

印紙税法では、課税対象となる文書の種類が細かく定められており、例えば不動産売買契約書、建設工事請負契約書、金銭消費貸借契約書、そして5万円を超える領収書などがその代表例です。これらの文書は、取引の事実や契約内容を証拠として残す役割を果たすため、課税対象とされています。

では、発注書はどうでしょうか。発注書は、通常、顧客が商品やサービスの購入を「注文する」意思を示すための文書であり、これ単体では「契約の成立を証する文書」とはみなされにくいのが一般的です。そのため、単なる発注書であれば、原則として印紙税は不要とされています。

しかし、注意が必要なのは、その発注書が実質的に請負契約の内容を全て網羅し、相手方がこれを受諾することで契約が成立すると判断されるような場合です。例えば、工事の内容、請負代金、工期などが詳細に記載されており、これに署名・押印することで契約が成立するような形式であれば、それは実質的に「請負に関する契約書(第2号文書)」とみなされ、印紙税の課税対象となる可能性があります。文書の名称が「発注書」であっても、その内容によって判断が分かれるため、安易な判断は避けましょう。

金額による印紙税額の変動と軽減措置

印紙税額は、課税文書の種類と、その文書に記載された取引金額によって細かく定められています。特に、不動産譲渡契約書や建設工事請負契約書などの「請負に関する契約書」は、契約金額が高額になるほど印紙税額も段階的に上昇する仕組みです。

例として、建設工事請負契約書の場合の印紙税額は以下のようになります。

  • 契約金額100万円を超え200万円以下:200円
  • 契約金額200万円を超え300万円以下:500円
  • 契約金額300万円を超え500万円以下:1千円
  • 契約金額500万円を超え1千万円以下:2千円
  • 契約金額1千万円を超え5千万円以下:1万円

これらの金額は原則的な税額ですが、現在、国税庁では特定の文書に対して印紙税額が軽減される措置を実施しています。「不動産譲渡契約書」や「建設工事請負契約書」については、契約金額に応じて印紙税額が軽減される措置が、令和9年3月31日まで延長されています。

この軽減措置は、例えば1千万円を超え5千万円以下の建設工事請負契約書であれば、通常1万円の印紙税が軽減され5千円になるなど、企業にとって大きなメリットとなります。発注書が実質的に請負契約書とみなされるような場合は、この軽減措置の対象となるか否かも確認が必要です。最新の印紙税額や軽減措置の詳細は、国税庁のウェブサイトで常に最新の情報をご確認ください。誤った納税額は過怠税の対象となるため、正確な情報に基づいた対応が求められます。

電子契約の場合の印紙税の取り扱い

近年、デジタルトランスフォーメーションの推進に伴い、契約書の締結方法も大きく変化しています。特に、電子契約の普及は目覚ましく、多くの企業がペーパーレス化を進めています。この電子契約に関して、印紙税の取り扱いはどうなるのでしょうか。

結論から言えば、電子契約には原則として印紙税は課税されません。その理由は、日本の印紙税法が課税対象を「紙の文書」に限定しているためです。電子データとして作成され、クラウド上で管理・保存される契約書は、現行の法律上、「紙の文書」には該当しないため、印紙税の課税対象外とされています。

国税庁もこの見解を示しており、電子契約システムを利用して締結された契約書については、印紙税を貼付する必要がないという認識が広く浸透しています。これは、コスト削減だけでなく、契約締結までの時間短縮や管理の効率化にも繋がるため、企業にとっては非常に大きなメリットです。

ただし、一点注意すべき点があります。電子契約として締結された後に、その内容を紙に出力し、あらためて署名や押印を行う場合は、新たな「紙の契約書」を作成したとみなされ、印紙税が課される可能性があります。これは、電子データと紙の文書が別個の存在として扱われるためです。したがって、電子契約のメリットを最大限に享受するためには、契約の締結から保管、運用までを一貫して電子データで行うことが重要となります。

「発注書」と「請書」、印紙税はどちらに貼るべき?

発注書と並んで商取引でよく用いられるのが「請書」です。どちらも取引の意思を確認する重要な書類ですが、印紙税の観点から見ると、その取り扱いは大きく異なります。どちらの書類に印紙税が必要となるのか、そしてなぜそのような違いが生じるのかを理解することは、適切な税務処理を行う上で不可欠です。

ここでは、発注書と請書の法的性質の違いから、印紙税の納税義務が発生するケース、そして印紙税を貼るべきタイミングと納税義務者について詳しく解説します。

発注書と請書の法的性質の違い

まず、発注書と請書が持つ法的性質の違いを明確に理解することが重要です。

発注書(注文書)は、一般的に、発注者が特定の商品やサービスの購入を希望する「意思表示」に過ぎません。発注書単体では、まだ契約が成立したとはみなされず、あくまで取引の申し込み段階にある文書と解釈されます。そのため、原則として印紙税法上の課税文書には該当しません。

一方、請書(注文請書)は、発注者からの注文に対して、受注者がその注文を「承諾する」意思表示を行う文書です。請書を提出することで、発注者と受注者の間で契約が成立したことを証する役割を果たします。したがって、請書の内容が、商品やサービスの提供、工事の実施といった「請負に関する契約」を証明するものであれば、それは「請負に関する契約書(第2号文書)」として印紙税の課税対象となる可能性が高くなります。

重要なのは、文書の「名称」ではなく、その文書がどのような「内容」を記載し、どのような「法的効果」を持つかという「実質」で判断される点です。形式的に発注書と請書という形を取っていても、実質的に両者が合わさって初めて請負契約が成立する場合や、請書に契約の重要な条件が明記されている場合などは、請書が課税文書となるケースが多いとされています。

請負契約書とみなされる場合

発注書と請書の関係において、特に印紙税の対象となる可能性が高いのは「請負契約」が関係する取引です。請負契約とは、当事者の一方がある仕事の完成を約束し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払う契約のことです。建設工事、システムの開発、デザイン制作などがその典型例です。

もし発注書が単なる注文の申し込みであり、その内容に受注者が合意して請書を発行することで正式な契約が成立する場合、この請書が「請負に関する契約書(第2号文書)」として印紙税の課税対象となることがほとんどです。特に、請書に以下の内容が明確に記載されている場合、その性質は一層強くなります。

  • 請け負う仕事の内容、範囲
  • 報酬の金額(契約金額)
  • 納期、履行期限
  • 契約不履行の場合の条項

参考情報でも挙げられているように、「建設工事請負契約書」は印紙税の課税文書の代表例です。発注書と請書が一体となってこのような請負契約を構成する場合、請書に印紙を貼付する必要が生じます。企業間取引では、この「請書」をもって契約成立の証とするケースが多く、その際は印紙税の適用に注意が必要です。

万が一、課税文書であるにもかかわらず収入印紙を貼付しなかった場合、「印紙税を納付しなかった場合」に該当し、本来納付すべき印紙税額とその2倍の過怠税、つまり本来の税額の3倍相当の金額が課されることになります。このリスクを避けるためにも、請負契約の性質を持つ請書には、適切に印紙を貼付することが求められます。

印紙税を貼るべきタイミングと納税義務者

印紙税を貼るべきタイミングと、その納税義務者は、印紙税法において明確に定められています。

まず、納税義務者についてです。印紙税は「課税文書を作成した者」に納税義務があります。請負契約書のような双方が署名・押印する契約書であれば、通常は契約当事者の双方が共同で作成したとみなされ、連帯して納税義務を負います。しかし、実務上は、どちらか一方が印紙税を負担することが多く、発注書と請書のケースでは、請書を発行する側(受注者側)が印紙を貼付することが一般的です。

次に、印紙税を貼るべきタイミングです。これは、課税文書を「作成した時」とされています。具体的には、請書に署名・押印し、相手方に交付した時点、または契約の相手方から交付された請書を受領した時点が該当します。たとえ契約内容が確定していても、文書が未作成であれば印紙税は発生しませんが、文書が作成されれば、その時点で納税義務が生じます。

また、印紙を貼付した際には、その印紙と台紙の文書にまたがるように「消印」をすることが義務付けられています。消印は、印紙の再利用を防ぐためのもので、署名、記名、押印のいずれかの方法で行います。これにより、印紙税の納税が完了したことになります。

実務においては、発注書と請書の両方を交付し合う場合でも、課税文書に該当するのは請書のみであることがほとんどです。ただし、取引の内容や契約書としての実態によっては、発注書にも請書にも印紙が必要となる例外的なケースも存在しないわけではありません。判断に迷う場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談するか、国税庁のガイドラインを参照することが最も確実な方法です。

発注書保管期間の法律と、7年保管の義務について

発注書は、印紙税の要否だけでなく、その保管期間についても法的な義務が課せられています。適切に保管することで、税務調査への対応や、将来的なトラブル発生時の証拠資料として活用することができます。しかし、この「保管期間」には、複数の法律が関係しており、一概に何年と決めるのが難しい側面もあります。

ここでは、発注書の法的保管義務とその目的、一般的な保管期間とされる「7年」の内訳、そして近年重要性が増している電子帳簿保存法とペーパーレス化の動向について解説します。

発注書の法的保管義務とその目的

発注書は、商取引の証拠となる重要な書類です。企業活動において、発注書は商品の購入、サービスの依頼など、日々の経済活動を記録する役割を担っています。このため、印紙税が不要な文書であったとしても、税法や会社法に基づき、一定期間の保管が義務付けられています。

発注書を保管する主な目的は以下の通りです。

  1. 税務調査への対応: 法人税や消費税などの税金を計算する際の根拠となるため、税務署からの調査があった際に、経費の計上や売上の計上内容を証明する資料として必要となります。適切な発注書がなければ、経費として認められないなどの不利益を被る可能性があります。
  2. 会計監査への対応: 上場企業などでは、会計監査人が財務諸表の適正性を確認するために、関連する取引書類の提示を求めます。
  3. 契約内容の確認: 取引先との間で納期、品質、金額などに関してトラブルが発生した場合、発注書は契約内容を証明する重要な証拠となります。
  4. 内部統制の強化: 不適切な支出や不正な取引を防ぐための内部統制の一環として、発注書の適切な管理は不可欠です。

主に法人税法、消費税法、会社法などが、企業に帳簿書類の保管を義務付けています。これらの法律が定める保管義務を怠ると、税務上の不利益や、会社の信頼性低下といったリスクに直面する可能性があります。発注書は、単なる紙切れではなく、企業の財産を守り、事業活動を円滑に進めるための基盤となる文書なのです。

一般的な保管期間「7年」の内訳

発注書の保管期間として「7年」という数字がよく言われますが、これは複数の税法に基づく義務が重なり合った結果です。具体的には、主に以下の法律が関わっています。

  • 法人税法・所得税法: 帳簿(総勘定元帳、仕訳帳など)および取引に関する書類(契約書、領収書、発注書、納品書など)は、事業年度終了の日の翌日から7年間の保存が義務付けられています。青色申告法人においては、一部の書類(現金預金取引等関係書類)については5年間の保管でよいとされる場合もありますが、基本は7年と考えるのが安全です。
  • 消費税法: 消費税の課税仕入れ等に関する帳簿および請求書等(発注書、請求書、領収書など)は、課税期間の末日の翌日から7年間の保存が義務付けられています。
  • 会社法: 会計帳簿および事業に関する重要な資料については、10年間の保存が義務付けられています。発注書がこれに該当するかはケースによりますが、重要な契約書や長期にわたる取引に関する発注書であれば、10年保管を検討することも大切です。

特に、法人税法において「欠損金が生じた事業年度」の場合、その欠損金の繰越控除期間に合わせて、帳簿書類の保管期間が最長10年間(平成30年4月1日以降に開始する事業年度の場合)に延長されることがあります。したがって、一般的な7年という期間はあくまで目安であり、企業の状況によってはそれ以上の期間保管が必要となる場合もあるため注意が必要です。

これらの保管義務を怠り、税務調査などで必要な書類を提示できなかった場合、経費が否認されたり、青色申告の承認が取り消されたりするなどの厳しいペナルティが課される可能性があります。そのため、発注書を含むすべての取引書類は、適切に管理し、決められた期間保管することが企業の義務となります。

電子帳簿保存法とペーパーレス化

発注書の保管義務を語る上で、近年非常に重要な位置を占めているのが「電子帳簿保存法」です。この法律は、これまで紙での保存が義務付けられていた帳簿や書類を、一定の要件を満たせば電子データとして保存することを認めるものです。これにより、企業はペーパーレス化を推進し、保管コストの削減や業務効率化を図ることが可能となりました。

電子帳簿保存法が規定する保存方法は大きく分けて3つあります。

  1. 電子帳簿等保存: 自社で作成した帳簿や書類を電子データのまま保存する方法。
  2. スキャナ保存: 紙で受領した書類や自社で作成した書類の控えをスキャンして電子データとして保存する方法。
  3. 電子取引データ保存: 電子メールやクラウドサービスなどを通じてやり取りした取引情報を電子データのまま保存する方法。

発注書の場合、PDFなどの電子データでやり取りされたものは「電子取引データ保存」、紙で受け取ったものをスキャンして保存する場合は「スキャナ保存」の対象となります。特に、2022年1月1日以降は、電子取引でやり取りしたデータは紙に出力して保存することが原則として認められなくなり、電子データでの保存が義務化されました。

電子データとして保存するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。例えば、真実性の確保(タイムスタンプの付与や訂正・削除履歴の確保)、可視性の確保(ディスプレイやプリンタによる閲覧性、検索機能の確保)などです。これらの要件をクリアすることで、紙の原本を廃棄し、完全にペーパーレス化を実現することができます。

発注書を含む各種書類の電子化は、保管場所の削減、検索性の向上、災害リスクの分散など、多くのメリットをもたらします。しかし、適切なシステム導入と運用、そして法的な要件の遵守が不可欠です。電子帳簿保存法の詳細な要件については、国税庁のウェブサイトや専門家の助言を参考にし、自社の体制を整えることが重要です。

3条書面(下請法)と発注書、印紙税の関連性

企業間の取引、特に親事業者と下請事業者の関係においては、「下請法」という特別な法律が適用されることがあります。下請法は、下請事業者を保護し、公正な取引を確保することを目的とした法律です。この下請法において、親事業者に交付が義務付けられているのが「3条書面」と呼ばれる文書です。発注書と3条書面は密接に関連しますが、印紙税の観点から見ると、その取り扱いには違いがあります。

ここでは、下請法が適用されるケースと3条書面の内容、下請法と印紙税の直接的な関係、そして契約実態が印紙税の有無を決定する点について詳しく見ていきましょう。

下請法が適用されるケースと3条書面

下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者が下請事業者に仕事を発注する際に、不公正な取引が行われることを防ぐための法律です。この法律が適用されるのは、特定の資本金要件を満たす親事業者と下請事業者の間の取引であり、主に製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託の4つの類型があります。

下請法の適用対象となる場合、親事業者は下請事業者に対し、仕事の内容や代金、納期などの詳細を明記した書面を交付することが義務付けられています。これが「3条書面(発注書面)」です。

3条書面に記載すべき主な事項は以下の通りです。

  • 親事業者及び下請事業者の名称
  • 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託の別
  • 下請事業者の給付の内容
  • 下請代金の額
  • 下請代金の支払期日及び支払方法
  • 給付の受領の期日及び場所
  • 検査をする場合は、その検査を完了する期日
  • 下請事業者の給付の内容、下請代金の額又は支払方法を変更する場合の変更内容及びその理由
  • 原材料等を有償で支給する場合は、その品名、数量、対価及び支払期日

これらの事項を正確に記載した3条書面を交付することで、下請事業者は取引条件を明確に把握し、安心して仕事に取り組むことができます。また、親事業者にとっても、取引条件の明確化はトラブル防止に繋がります。この3条書面は、実質的には発注書と同じ役割を果たすことが多いですが、下請法という特別な法律に基づいて交付が義務付けられている点で通常の一般的な発注書とは異なります。

下請法と印紙税の直接的な関係

下請法に基づいて親事業者が下請事業者に交付する「3条書面」は、印紙税法との関係において、特段の注意が必要です。

結論から言えば、3条書面自体は、原則として印紙税の課税対象とはなりません。その理由は、印紙税法が課税対象とするのは「契約の成立を証する文書」であるのに対し、3条書面は、下請法に基づいて親事業者が取引条件を明確にするために「交付を義務付けられている通知書」としての性格が強いためです。

つまり、3条書面は、親事業者が一方的に作成し、下請事業者に交付することで、下請法が定める情報を通知する役割を果たすものであり、それ単体で契約の成立を証明する「契約書」とはみなされないのが一般的です。そのため、3条書面には収入印紙を貼る必要がないと解釈されています。

ただし、ここには例外や注意点が存在します。もし、3条書面として交付された文書が、その内容や表現から判断して、実質的に「請負に関する契約書」としての性格を強く持つ場合、つまり、その書面によって契約が成立し、かつその内容が印紙税法の課税文書に該当すると判断される場合は、印紙税が課される可能性もゼロではありません。例えば、下請事業者の署名・押印欄があり、両者で契約内容を合意したことを証するような形式であれば、通常の請負契約書と同様の扱いを受ける可能性も考慮する必要があります。

しかし、一般的な下請法の運用においては、3条書面はあくまで「通知書面」であり、別途正式な契約書を取り交わすケースが多いため、3条書面単体で印紙税が必要となることは稀です。重要なのは、文書の形式や名称だけでなく、その文書が持つ「実質的な意味」で判断されるということです。

契約実態が印紙税の有無を決定する

印紙税の要否を判断する上で最も重要な原則の一つは、「書面の名称や形式にとらわれず、その契約の実態によって判断される」という点です。これは、下請法に基づく3条書面や、一般的な発注書についても同様に当てはまります。

例えば、ある文書が「3条書面」や「発注書」と銘打たれていたとしても、その内容に以下のような要素が詳細に記載されており、かつ、その文書の交付によって当事者間の合意が成立したとみなされる場合、それは印紙税法上の課税文書、特に「請負に関する契約書(第2号文書)」に該当する可能性があります。

  • 仕事の完成義務とそれに対する報酬支払義務が明確に記載されている
  • 完成物の種類、品質、数量、納期が具体的に定められている
  • 契約金額が明記されている
  • 両当事者の署名・押印欄があり、実際にそれが履行されている

逆に、これらの要素が欠けており、単に取引の申し込みや条件の通知に過ぎないと判断される場合は、課税文書には該当しません。印紙税は、経済的な利益を伴う契約が書面化された際に課される税金であり、その契約の「法的効力」が重視されるためです。

したがって、下請法が適用される取引であっても、単なる3条書面として交付されたものか、それとも実質的に契約書として機能しているのかを慎重に判断する必要があります。疑義が生じた場合は、自己判断せず、必ず専門家(税理士や弁護士)に相談するか、国税庁の窓口に問い合わせて確認するようにしましょう。誤った判断は過怠税という追加的な負担に繋がる可能性があるため、常に最新の情報と専門家の意見を参考にすることが賢明です。

発注書に関する疑問をQ&Aで解消!

ここまで、発注書と印紙税、さらには保管義務や下請法との関連性について詳しく解説してきました。しかし、まだ具体的なケースや疑問点が残っている方もいらっしゃるかもしれません。

そこで、ここでは発注書に関するよくある疑問をQ&A形式でまとめ、分かりやすく解説します。皆さんの日々の業務にお役立てください。

Q1. 発注書に収入印紙が不要な場合とは?

発注書に収入印紙が不要なケースは、大きく分けていくつかのパターンがあります。

まず、原則として発注書自体は、印紙税法上の「課税文書」に該当しないため、収入印紙は不要です。発注書はあくまで、発注者が商品やサービスの購入を「注文する」意思表示の文書であり、それ単体で契約の成立を証するものではないとみなされるからです。例えば、単に商品のリストと数量、金額が記載され、相手方に送付されるだけの発注書であれば、印紙は必要ありません。

次に、電子契約の場合です。参考情報にもある通り、印紙税法は課税対象を「紙の文書」に限定しています。そのため、PDFなどの電子データとして作成され、電子署名サービスなどを利用して締結された発注書(あるいはそれに準じる契約書)には、原則として印紙税は課税されません。これは、ペーパーレス化を進める企業にとって大きなメリットとなります。

さらに、発注書が請負契約書としての実質を持つ場合でも、契約金額が極めて少額である場合は印紙税が不要となることがあります。ただし、これは請負契約書の場合に限られ、例えば5万円未満の領収書が非課税となるのと同様の考え方です。しかし、請負契約書の印紙税額は最低でも200円(100万円超200万円以下)から始まるため、一般的な請負契約においては金額による非課税はあまり期待できません。

最後に、当事者間で「覚書」や「合意書」などの名称の文書を別途作成し、そちらで印紙税を納付している場合も、発注書には不要となることがあります。重要なのは、契約の成立を証する文書がどれであるか、そしてその実質的な内容です。

これらのケースを理解し、不要な印紙の貼付を避けることで、コスト削減と業務効率化に繋がります。

Q2. 印紙税を貼り忘れた場合の罰則は?

印紙税の貼り忘れは、単なる手違いでは済まされず、法律で定められた罰則が適用される可能性があります。これは、印紙税法に違反する行為として「過怠税」が課されるためです。

参考情報にも明記されている通り、課税文書に収入印紙を貼付しなかった場合、本来納付すべき印紙税額とその2倍に相当する過怠税が課されることがあります。

これを具体的に説明すると、以下のようになります。

  • 本来の印紙税額が1万円であった場合:
    1万円(本来の印紙税額) + 2万円(過怠税) = 合計3万円 の支払い義務が発生します。

つまり、本来の印紙税額の3倍に相当する金額を支払うことになるため、企業にとっては大きな負担となります。この過怠税は、たとえ意図的でなく、うっかり貼り忘れてしまった場合であっても原則として適用されるため、細心の注意が必要です。

また、印紙を貼付したものの、消印を忘れてしまった場合にも罰則があります。この場合は、貼付した印紙と同額の過怠税が課されます。つまり、本来の印紙税額の2倍を支払うことになります。消印は、印紙の再利用を防ぐための重要な手続きですので、貼り忘れと同様に注意が必要です。

税務調査の際などに印紙の不貼付や消印漏れが指摘されると、遡って過怠税が課されることになります。このような事態を避けるためにも、課税文書に該当する契約書などを作成する際には、必ず印紙税の要否と金額を確認し、適切に収入印紙を貼付し、消印を行う習慣を徹底しましょう。

Q3. クレジットカード決済時の領収書に印紙は必要?

クレジットカード決済は、現代の商取引において非常に一般的な支払い方法となっています。この場合、顧客に発行する領収書に収入印紙が必要かどうかは、多くの事業者が抱く疑問の一つです。

結論として、クレジットカード決済の場合、原則として領収書に収入印紙は不要となるケースが多いです。

その理由は、印紙税法上の「領収書」が課税文書となるのは、その文書が「金銭または有価証券の受領事実」を証明する場合に限られるためです。クレジットカード決済の場合、事業者は顧客から直接金銭を受け取るわけではありません。顧客はクレジットカード会社に対し支払い義務を負い、事業者は後日、クレジットカード会社から売上代金を受け取ることになります。

つまり、顧客への領収書は、金銭の直接的な授受を伴うものではなく、「クレジットカードによる支払いが行われたこと」を証明する文書に過ぎないと解釈されます。このため、印紙税法上の課税文書には該当しない、というのが国税庁の見解です。

ただし、領収書に「クレジットカード利用」など、決済方法がクレジットカードであることが明記されていることが重要です。単に「領収書」として発行され、現金払いなのかカード払いなのかが不明瞭な場合、税務調査などで指摘を受けるリスクがないとは言い切れません。そのため、クレジットカード決済の場合は、以下の情報を領収書に記載することをおすすめします。

  • 「クレジットカード利用」または「C」などの表示
  • クレジットカード会社名

これにより、金銭の受領事実がないことが明確になり、印紙税の課税対象外であることを示すことができます。参考情報でも「クレジットカードを利用した領収書は、収入印紙が不要となる場合があります」とありますが、この「場合があります」は、上記のような明確な記載がある場合に適用されると理解しておくと良いでしょう。

ただし、これはあくまでクレジットカード決済の場合の一般的な取り扱いです。決済方法や取引の実態によっては例外も考えられるため、不明な点があれば専門家や国税庁にご確認ください。