概要: 領収書発行は、特定の取引において義務付けられています。しかし、どのような項目を記載すべきか、誰が書くべきかなど、意外と知らないルールが多く存在します。本記事では、領収書発行の基本から、よくある疑問点までを分かりやすく解説します。
領収書発行の義務と注意点!知っておくべき基本ルール
2023年10月1日からのインボイス制度開始、そして2024年1月1日からの電子帳簿保存法の改正と、領収書の取り巻く環境は大きく変化しました。
これらの法改正を踏まえ、事業を営む上で知っておくべき領収書発行に関する最新のルールと注意点を分かりやすく解説します。ぜひ、日々の経理業務にお役立てください。
領収書発行の義務とは?どんな時に必要?
領収書の発行は、単なる慣習ではなく、法律に基づいた義務が生じる場合があります。特に、インボイス制度の導入により、その重要性は増しています。
原則的な発行義務と民法の規定
民法第486条には、「弁済をした者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる」と定められています。
これは、金銭の支払い(弁済)があった場合、支払い側(買い手)は受取側(売り手)に対し、その証拠となる「受取証書」、つまり領収書の発行を請求する権利があることを意味します。
そして、請求された受取側は、原則として領収書を発行する義務があります。これは「同時履行の原則」に基づくもので、特に現金での支払いがあった場合には、その場で発行を求められれば応じるのが基本です。
一方で、クレジットカード払いや銀行振込の場合、カード会社や金融機関が支払いの証明書を発行するため、販売者側には原則として領収書の発行義務はないとされています。しかし、顧客からの要望があれば、柔軟に対応することが商習慣として一般的です。
インボイス制度下での発行義務と変更点
2023年10月1日から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、領収書発行の義務にも大きな変更が生じています。
課税事業者である「適格請求書発行事業者」は、取引先(買い手)から「適格請求書」の発行を求められた場合、これに応じる義務があります。ここでいう「適格請求書」は、請求書だけでなく、必要な記載事項を満たしていれば領収書やレシートも含まれます。
特に重要な変更点として、インボイス制度導入前は3万円未満の取引では領収書がなくても仕入れ税額控除が受けられましたが、制度導入後は、金額の大小にかかわらず、控除を受けるためには適格請求書(または適格簡易請求書)の要件を満たす領収書・レシートが必要になりました。
これにより、これまで以上に領収書の発行・受領・保管が重要になっています。
発行義務にまつわる誤解と正しい知識
領収書の発行義務について、いくつか誤解されがちな点があります。
まず、一度発行した領収書の「再発行」は、原則として断ることができます。安易な再発行は、二重計上などの不正につながるリスクがあるためです。もし再発行に応じる場合は、「再発行」である旨を明記し、元の領収書と区別できるように細心の注意を払いましょう。
また、2024年1月1日からは、電子帳簿保存法の改正により、電子メールで受け取ったPDF領収書やECサイトからダウンロードした領収書データなど、電子的に授受した取引情報は、原則として電子データのまま保存することが義務化されています。これは、発行側だけでなく、受領側にも関わる重要なルール変更です。
領収書は、金銭の支払いの事実を証明する重要な書類であり、その発行・保管には法的義務と慎重な対応が求められます。</
領収書に記載すべき「具備要件」を徹底解説
領収書は、単に金額と日付が書かれていれば良いというわけではありません。税務上の証拠書類として認められるためには、特定の「具備要件」を満たす必要があります。特にインボイス制度導入後は、その要件が追加されています。
基本的な記載事項(従来からの要件)
税務上、有効な領収書として認められるためには、以下の5つの事項が記載されていることが基本です。
- 宛名:領収書を受け取る人または会社の正式名称。
- 但し書き:購入した商品やサービスの内容を具体的に示すもの。
- 日付:金銭を受け取った年月日(取引年月日)。
- 金額:支払われた合計金額。改ざんを防ぐため「¥」や「也」を併記することが一般的です。
- 発行者名:領収書を発行した事業者(会社名や屋号、氏名)。
これらの記載事項に漏れや不備があると、経費として認められないリスクがあるため、発行時・受領時ともに確認が不可欠です。
また、税抜金額で5万円以上の領収書には、原則として収入印紙の貼付が必要です。収入印紙が貼られていない場合でも領収書自体は有効ですが、印紙税の課税対象となります。
インボイス制度導入後の追加要件(適格簡易請求書として)
2023年10月1日からのインボイス制度導入により、領収書が「適格簡易請求書」として仕入税額控除の対象となるためには、従来の記載事項に加え、以下の項目が必要です。
- 適格請求書発行事業者の登録番号:「T」から始まる13桁の法人番号、または個人事業主の登録番号。
- 軽減税率の対象品目である旨:軽減税率(8%)対象品目である場合は、その旨を記載。
- 税率ごとの合計金額(税抜または税込):10%と8%など、税率ごとに合計額を分けて記載。
- 適用税率:税率(例:10%)を明記。
- 消費税額等:税率ごとに計算された消費税額。
ただし、小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー・バス事業、駐車場業(不特定多数対象)、駅・空港の売店など、不特定多数の顧客を相手にする事業者は、記載事項を簡易化した「適格簡易請求書」を発行できます。
この「適格簡易請求書」では、宛名の記載が不要となる点が大きな特徴です。これらの追加要件が満たされていない領収書では、仕入れ税額控除が受けられなくなるため、注意が必要です。
電子帳簿保存法における記載事項と保存要件
2024年1月1日以降、電子帳簿保存法の改正により、電子取引で受け取った領収書や請求書などのデータは、原則として電子データのまま保存することが義務化されました。
これは、PDFで送られてきた領収書や、ECサイトからダウンロードした領収書などが該当し、紙に印刷して保存することは認められません。
電子データとして保存する際には、「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件を満たす必要があります。
- 真実性の確保:データが改ざんされていないことを証明する措置(タイムスタンプの付与、改ざん防止の事務処理規定の整備など)。
- 可視性の確保:必要な時にデータを速やかに表示・出力でき、特定の検索要件(取引年月日、取引金額、取引先)で検索できること。
紙で受け取った領収書は、これまで通り紙のまま保存することも可能ですが、要件を満たせばスキャナで読み取り、電子データとして保存することもできます。この電子化により、保管スペースの削減や業務効率化が期待されます。
「会社名」「様」「住所なし」領収書の個人情報について
領収書の宛名や記載事項は、税務上の有効性だけでなく、個人情報保護の観点からも配慮が必要です。特に、宛名の書き方一つで経費精算の可否が分かれることもあります。
宛名の記載ルールと省略の可否
領収書の宛名は、原則として、支払いをした個人名または会社名を正式名称で記載する必要があります。
例えば、個人事業主であれば屋号と氏名、法人であれば「株式会社〇〇」と記載するのが基本です。よく見かける「上様」という記載は、税務調査の際に経費として認められない可能性があり、避けるべきです。誰が支払ったのか不明確であると判断されるためです。
ただし、小売業や飲食店業など、不特定多数の顧客を相手にする業種では、レシート形式で宛名が省略されることが多く、税務上も有効と認められるケースがほとんどです。
特に、インボイス制度における「適格簡易請求書」では、宛名の記載は必須ではないため、これらの業種では引き続き宛名なしのレシートが利用できます。しかし、法人取引などでは正式な宛名入り領収書が求められることが多いため、状況に応じた対応が重要です。
「様」や敬称の扱い、住所の記載要否
領収書の宛名には、敬称を適切に付与することもマナーとされています。
個人名に対しては「様」、会社名や団体名に対しては「御中」を使用するのが一般的です。例えば、「株式会社〇〇御中」「〇〇太郎様」といった形になります。
発行者の住所については、必須の記載事項ではありませんが、通常は会社や店舗の所在地が記載されます。これは、発行者の特定を容易にし、領収書の信頼性を高めるためです。受取側の住所は、特別な理由がない限り記載する必要はありません。
ただし、発行者情報は、連絡先としても重要な役割を果たすため、正確に記載されているか確認するようにしましょう。
個人情報保護と領収書発行のバランス
領収書には、支払いをした人の氏名や会社名が記載されるため、個人情報として取り扱いには注意が必要です。
経費精算の証明として必要最低限の情報を記載するに留め、不必要な個人情報(例えば、個人の電話番号や詳細な住所など)は記載を避けるべきでしょう。
インボイス制度導入後、適格請求書発行事業者の「登録番号」は国税庁のウェブサイトで公開されており、誰でも検索できる情報となっています。これは、発行事業者の透明性を高める一方で、法人情報が以前よりオープンになっていることを意味します。
領収書を発行する側は、顧客の個人情報保護に関する法律(個人情報保護法など)を遵守し、適切に情報を管理する義務があります。受領する側も、領収書に記載された個人情報を漏洩させないよう、厳重な管理を心がけましょう。
領収書は誰が書く?代表者名やゴム印、自分で書く際の注意点
領収書は、金銭の授受があったことを証明する重要な書類であり、その発行者には責任が伴います。誰がどのように記載するべきか、ルールを確認しましょう。
発行者名のルールと担当者名の記載
領収書の発行者名には、金銭を受け取った法人名または個人事業主の屋号と氏名を記載するのが基本です。
法人の場合は「株式会社〇〇 代表取締役 〇〇」のように法人名と代表者名を記載するか、法人名のみを記載し、その下部に社判(角印)を押印するのが一般的です。個人事業主の場合は、屋号と氏名が記載されます。
発行者の特定は、領収書の正当性や信憑性に関わるため非常に重要です。不明瞭な発行者名や、存在しない会社の名前などが記載されている場合、税務調査で経費として認められない可能性があります。
担当者名については、必須ではありませんが、会社の窓口として担当者の氏名が追記されていても問題ありません。これは、問い合わせ時などにスムーズな対応を可能にするためです。
ゴム印の使用と手書きの注意点
領収書の発行者名を記載する際、手書きで一文字ずつ書くことも可能ですが、正確性と効率性の観点から「ゴム印」を使用することが一般的です。
会社名や屋号、所在地などが記載されたゴム印は、正式な発行者情報の証明として認められています。ゴム印を使用する際は、発行者名がはっきりと読み取れるように押印しましょう。
手書きで記載する場合も、発行者名を省略せずに正式名称で記載し、可能であれば印鑑(社判や認印)を押印することが望ましいです。
金額を記載する際には、改ざん防止のため、「¥」マークの後に数字を書き、「,」や「―」で空白を埋め、最後に「也」を付記するといった慣習があります。例:「¥10,000―也」。また、内訳として税抜金額と消費税額を明記することも、インボイス制度下では特に重要です。
自分で領収書を書く行為のリスクと代替案
領収書は金銭の受領者が発行するものであり、原則として支払いをした本人が自分で領収書を作成することは認められていません。これは、架空の経費計上や不正行為につながる可能性があるためです。
もし、自分で領収書を書いて経費精算しようとすると、税務調査で不正とみなされ、経費として否認されるだけでなく、追徴課税の対象となるリスクがあります。
ただし、領収書の発行が物理的に困難なケースも存在します。例えば、バスや電車などの公共交通機関の運賃、慶弔費(結婚式のご祝儀や香典)などです。
このような場合、多くの企業では「出金伝票」を作成して対応します。出金伝票には、日付、勘定科目、金額、支払先、支払いの内容を詳細に記載し、客観的な証拠として認められるよう努めます。レシートやクレジットカードの利用明細があれば、そちらを代替として利用する方が確実かつ安全です。
後日発行や書き損じ、領収書の代わりになるものまで網羅
領収書は、発行から保管まで様々な状況が想定されます。後日発行の依頼や、万が一の書き損じ、また領収書が得られない場合の代替手段についても理解しておくことが重要です。
領収書の後日発行と再発行の可否
領収書は、その場で発行されるのが一般的ですが、取引の状況によっては後日発行を依頼されることもあります。後日発行自体は可能ですが、必ず実際に支払いがあった日付を記載するようにしましょう。
一方、一度発行した領収書の「再発行」については、原則として断ることができます。安易な再発行は、支払い側が二重に経費計上するなどの不正につながるリスクがあるためです。
もし、取引先からの強い要望や、会社として再発行に応じる方針がある場合は、必ず「再発行」である旨を領収書に明記し、控えも「再発行」として保管しましょう。これにより、元の領収書と区別し、トラブルを未然に防ぐことができます。また、再発行の際には、手数料を徴収するケースもあります。
書き損じや訂正の方法
領収書を書き損じてしまった場合は、原則として新しい領収書を再発行するのが最も確実な方法です。
書き損じた領収書を訂正する際には、二重線で誤った箇所を消し、訂正印を押して正しい内容を追記するという方法もあります。しかし、金額や宛名、日付といった重要な項目を訂正すると、その領収書の信憑性が疑われる可能性があります。
特に、金額の訂正は改ざんとみなされるリスクが高いため、絶対に避けるべきです。万が一、重要項目を書き損じてしまった場合は、手間がかかっても新しい領収書を作成し直すことを強く推奨します。
誤って発行してしまった領収書は、たとえ無効であっても回収し、社内で保管(控えと突き合わせ)しておくことで、後のトラブル防止につながります。
領収書の代わりになる書類と有効性
領収書が手元にない場合でも、以下のような書類が税務上の経費の証明として認められることがあります。
- レシート:日付、金額、購入店舗、品目などが記載されており、税務上は領収書と同等の証明力を持つ場合が多いです。特にインボイス制度下の適格簡易請求書の要件を満たしていれば、仕入れ税額控除の対象となります。ただし、感熱紙のレシートは印字が消えやすいため、早めのデータ化やコピー保存が推奨されます。
- クレジットカードの利用明細・銀行振込控え:これらは支払いがあった事実を証明する有力な書類です。インボイス制度に対応している事業者からの取引であれば、仕入れ税額控除の対象にもなりえます。
- 出金伝票:公共交通機関の運賃や香典など、領収書の発行が困難な場合に、会社内で作成する書類です。日付、用途、金額、支払先などを詳細に記載し、可能な限り客観的な証拠(例えば、電車路線のメモなど)を添付します。
- Webサイトの購入履歴画面・納品書・請求書:ECサイトでの購入など、電子取引で領収書が発行されない場合でも、これらの書類で取引内容と支払い事実が確認できれば有効です。2024年1月1日からは、これら電子取引データも電子保存が義務付けられています。
会社の経費精算ルールが税法上のルールと異なる場合があるため、まずは社内規定を確認することが重要です。不明な点があれば、必ず経理担当者や税理士に相談するようにしましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 領収書を発行する義務があるのはどのような場合ですか?
A: 原則として、事業者(個人事業主や法人)が商品やサービスを提供し、対価を受け取った場合に、購入者からの請求があれば領収書を発行する義務があります。ただし、日常的な少額取引など、一部例外もあります。
Q: 領収書に必ず記載すべき「具備要件」とは何ですか?
A: 一般的に、①発行者(販売者)の氏名または名称、②取引年月日、③取引内容(品名など)、④取引金額、⑤購入者の氏名または名称(※ただし、これは必須ではない場合もあります)などが挙げられます。法律で定められた具体的な要件は、税法などで確認が必要です。
Q: 領収書に「会社名」や「様」は必須ですか?住所がない領収書は有効ですか?
A: 「会社名」は発行者(販売者)の名称として重要です。「様」は購入者名として記載されるのが一般的ですが、必須ではありません。領収書に住所の記載がない場合でも、発行者(販売者)の名称と所在地が明確であれば有効な場合があります。ただし、税務上の取り扱いについては、個別の状況によって確認が必要です。
Q: 領収書は誰が書くべきですか?代表者名やゴム印、自分で書くことは可能ですか?
A: 原則として、取引の当事者(商品やサービスを提供した側)が発行します。代表者名やゴム印の押印は、発行者の証明として有効です。購入者側が自分で領収書を作成することは、原則として認められません。もし自分で作成する場合、それは「領収書」ではなく、後述する「代わりになるもの」として扱われる可能性が高いです。
Q: 領収書を後日発行する場合、日付はどうすればよいですか?また、領収書の代わりになるものはありますか?
A: 後日発行する場合、発行日ではなく、実際の取引日を記載するのが原則です。ただし、実務上は発行日を記載することもあります。領収書の代わりになるものとしては、レシート、クレジットカードの利用明細書、預金通帳の取引履歴、請求書などが該当する場合があります。これらが領収書と同様の機能を果たすかどうかは、経費精算の規定や税務上の判断によります。
