1. ジョブローテーションとは?その目的とメリット
    1. ジョブローテーションの基本概念と現状
    2. 企業がジョブローテーションを行う主な目的
    3. 従業員にとってのジョブローテーションのメリット
  2. NTTグループ各社におけるジョブローテーションの特徴
    1. 自律的キャリア形成を促すジョブ型人事制度
    2. 活発な社内公募制度「NTT Group Job Board」
    3. 時代の変化に対応するリスキリング支援
  3. 楽天グループ・金融業界におけるジョブローテーションの活用法
    1. 楽天グループの多様な事業経験とデータ活用
    2. 金融業界におけるDX人材育成とキャリア支援
    3. ジョブ型人事との融合と専門人材の育成(三菱UFJ信託銀行)
  4. ジョブローテーションを成功させるためのポイント
    1. 目的と期間の明確化、適切なサポート体制
    2. 従業員の希望を考慮した柔軟な運用
    3. 導入効果を高めるための職種選定と留意点
  5. キャリアアップと成長のためのジョブローテーション活用術
    1. ジョブローテーションを自身の成長機会と捉える
    2. ポータブルスキルを意識した経験の積み重ね
    3. 自律的なキャリア形成と情報収集の重要性
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: ジョブローテーションの主な目的は何ですか?
    2. Q: NTTグループでは、どのようなジョブローテーションが行われていますか?
    3. Q: 楽天グループのジョブローテーションの特徴は何ですか?
    4. Q: 金融業界(横浜銀行、りそな銀行など)では、ジョブローテーションはどのように活用されていますか?
    5. Q: ジョブローテーションを成功させるために、個人ができることは何ですか?

ジョブローテーションとは?その目的とメリット

ジョブローテーションの基本概念と現状

ジョブローテーションは、従業員に多様な業務経験を積ませることで、キャリアの幅を広げ、組織全体の活性化を図ることを目的とした人事制度です。

これは、日本企業に特徴的な人材育成手法の一つとして、終身雇用制度を前提としたメンバーシップ型雇用において、ジェネラリストの育成や適材適所の人材配置を目的に導入されてきました。

近年のビジネス環境の急速な変化に対応するため、多くの企業がジョブローテーションを戦略的に活用しています。

例えば、従業員数1,000人以上の大企業では70.3%がジョブローテーションを実施しているのに対し、中小企業では53.1%にとどまっており、企業規模が大きくなるほど実施割合が高まる傾向にあります。

また、コロナ禍においてもその実施数に大きな影響はなく、多くの企業が従来通り積極的に活用していることが、この制度の重要性を示しています。

企業がジョブローテーションを行う主な目的

企業がジョブローテーションを導入する目的は多岐にわたりますが、主に以下の5点が挙げられます。

  • ジェネラリストの育成:
    幅広い業務経験を通じて、多角的な視点や俯瞰的な視野を養うことで、将来のリーダー候補を育成します。
  • 適材適所の人材配置:
    従業員の適性や隠れた能力を見極め、それぞれの能力を最大限に発揮できる部署や役割へ配置することで、組織全体の生産性を高めます。
  • 業務の属人化防止:
    人材を流動化させることで、特定の個人に業務が集中したり、ノウハウがブラックボックス化したりするのを防ぎ、組織としての継続性を確保します。
  • 組織力の強化:
    幹部候補の育成や新規事業の推進に貢献し、組織全体の柔軟性と対応力を向上させます。
    これにより、変化の激しい市場環境にも素早く適応できる強い組織を作り上げることが可能になります。
  • 従業員のエンゲージメント向上:
    新たなチャレンジ機会を提供し、マンネリ化を防ぐことで、従業員の働きがいやモチベーションを高めます。
    自身のキャリアパスを広げる機会として、従業員にとっても大きなメリットとなります。

これらの目的を総合的に達成することで、企業は持続的な成長を実現するための強固な基盤を築くことができます。

従業員にとってのジョブローテーションのメリット

ジョブローテーションは企業だけでなく、そこで働く従業員にとっても多くのメリットをもたらします。

最も大きなメリットの一つは、自身のキャリアの幅を大きく広げられる点です。様々な業務や部署を経験することで、単一の専門性にとどまらず、幅広い知識やスキルを習得し、多角的な視点や問題解決能力を養うことができます。

これにより、予期せぬキャリアパスが開けたり、将来的な選択肢が増えたりする可能性が高まります。また、異なる部署の人々との連携を通じて、社内外の多様な人脈を構築できることも大きな財産となります。

さらに、新しい環境での挑戦は、日々の業務に新鮮さをもたらし、マンネリ化を防ぎます。これは、自身のスキルアップへの意欲を刺激し、働きがいやエンゲージメントの向上に直結します。

自身の適性や興味がどこにあるのかを実体験を通じて発見できるため、将来的なキャリアプランをより具体的に描く上でも非常に有効な機会となるでしょう。

変化の激しい時代において、自律的なキャリア形成を支援するジョブローテーションは、従業員一人ひとりの市場価値を高める上で不可欠な制度と言えます。

NTTグループ各社におけるジョブローテーションの特徴

自律的キャリア形成を促すジョブ型人事制度

NTTグループは、変化の速い事業環境に対応するため、社員の自律的なキャリア形成を支援する取り組みを積極的に強化しています。

その一環として、2021年10月からは全管理職にジョブ型人事制度を導入しました。

この制度は、戦略実現に必要な役割や仕事(ポスト)を明確にし、そこに最適な人材を柔軟に配置することを可能にするものです。

従来のメンバーシップ型雇用が社員の能力やポテンシャルを重視し、様々な部署を経験させることでジェネラリストを育成する側面が強かったのに対し、ジョブ型では特定の職務に求められるスキルや経験を重視し、その職務に最適な人材を登用します。

これにより、NTTグループでは管理職の抜擢率も向上しており、社員が自身の専門性を高め、より貢献できるポストに自律的に挑戦できる環境が整備されています。

これは、社員一人ひとりが自身のキャリアを主体的に考え、行動することを促す重要な施策と言えるでしょう。

活発な社内公募制度「NTT Group Job Board」

NTTグループでは、社員の自律的なキャリア形成をさらに後押しするために、「NTT Group Job Board(社内公募制度)」を導入しています。

この制度は、グループ内の様々な部署が求める人材像を公開し、それに興味を持った社員が自ら応募できる仕組みです。これにより、社員は自身の希望やスキルに合わせて、新たな業務や役割にチャレンジする機会を得られます。

2024年4月から2025年3月にかけて、約1,500件もの応募があり、その結果、約800人の社内公募が成立したという実績は、この制度が活発に利用され、社員のチャレンジ意欲を強く刺激していることを示しています。

「NTT Group Job Board」は、社員のモチベーション向上に貢献するだけでなく、グループ内の人材交流を促進し、組織全体の活性化にも繋がっています。

個人の成長意欲と企業のニーズがマッチングすることで、より効果的な人材配置と、新たな価値創造が期待できるのです。

時代の変化に対応するリスキリング支援

急速に変化するデジタル社会において、NTTグループは社員が常に最新のスキルを習得し、市場価値を高められるようリスキリング支援にも力を入れています。

特に、AIなどの先端技術に関するリスキリング研修は体系的に提供されており、2024年度までに67,000人もの社員が受講済みという驚異的な数字を達成しています。

このリスキリング支援は、ジョブローテーションと密接に連携しています。新しい職務に挑戦する前に必要なスキルを習得したり、ローテーション先で得た経験をさらに深掘りするための専門知識を身につけたりする上で、不可欠なサポートとなります。

社員一人ひとりが、自身のキャリアパスを見据えながら、未来の技術に対応できるスキルを身につけることは、個人の成長だけでなく、NTTグループ全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に大きく貢献します。

リスキリングを通じて得た専門知識は、ジョブローテーションによってさらに実践的に活用され、社員の専門性と組織全体の競争力を高める原動力となっているのです。

楽天グループ・金融業界におけるジョブローテーションの活用法

楽天グループの多様な事業経験とデータ活用

楽天グループは、EC、金融、モバイルなど多岐にわたる事業領域を持つ強みを活かし、社員一人ひとりのキャリア自律を積極的に支援しています。

楽天では、新卒社員が複数の事業を経験する機会が豊富に用意されており、これにより社員は幅広い業界知識とビジネススキルを身につけることができます。例えば、顧客戦略部では企画職へのチャレンジも可能であり、個人の意欲と能力に応じた柔軟なキャリア形成が可能です。

さらに、楽天はピープルアナリティクスを導入し、データに基づいた人材マネジメントを推進しています。採用、育成、定着の各段階でデータを活用することで、より客観的かつ戦略的な意思決定を行っています。

これにより、人員計画の予測精度を高めたり、最適な社内ローテーションを検討したりするなど、データドリブンな人事戦略を展開しています。また、全従業員向けには、階層別研修、ビジネススキル研修、英語力向上プログラムなど、個々の能力を最大限に引き出すための多様な研修プログラムが提供されており、ジョブローテーションと合わせて社員の成長を強力に後押ししています。

金融業界におけるDX人材育成とキャリア支援

金融業界は、伝統的なジョブローテーションの文化を大切にしつつも、近年のデジタル化の波に対応するため、ジョブ型人事の導入やDX人材育成に注力する動きを強めています。

例えば、三菱UFJ銀行では、DX推進組織を設立し、デジタル技術の導入・活用とDX人材の育成に集中的に取り組んでいます。

これは、金融サービスが高度化・多様化する中で、テクノロジーを理解し活用できる人材が不可欠になっている現状に対応するためです。同行では、「成長と挑戦」を続ける行員を育成するため、自律的なキャリア形成を後押しする人事制度を整備しています。

新入社員に対しては、導入研修やOJTに加えて、ジョブローテーションと研修を組み合わせた独自のプログラムを提供しており、これにより若手行員が幅広い業務知識と専門スキルをバランスよく習得できるような工夫が凝らされています。

このように、金融業界では、従来の強みであるジェネラリスト育成に加え、デジタル時代の専門性を持つ人材をいかに効率的に育成していくかが、今後の競争力を左右する重要な課題となっています。

ジョブ型人事との融合と専門人材の育成(三菱UFJ信託銀行)

金融業界の中でも、三菱UFJ信託銀行は、従来のメンバーシップ型人事とジョブ型人事の「一国二制度」を採用している点が特徴的です。

これは、幅広い経験を積むことで総合的な能力を養う伝統的なジョブローテーションのメリットを維持しつつ、特定の専門性を持つ人材を育成・評価するためのジョブ型人事の柔軟性を取り入れるという、両者の良いところを組み合わせた戦略と言えます。

特に、高度な専門性が求められる信託業務においては、ジェネラリストとしての幅広い視点に加え、特定の分野における深い知識と経験が不可欠です。そのため、学術的な専門人材の育成にも力を入れており、フェロー制度を導入して調査・研究費を支給するなど、専門性を極める社員を積極的に支援しています。

この「一国二制度」は、社員が自身のキャリア志向に合わせて、ジェネラリストを目指すか、特定の分野のプロフェッショナルを目指すかを選択できる柔軟性を提供しています。

変化の激しい時代において、組織の多様なニーズに対応しつつ、社員一人ひとりの成長を最大化するための、先進的な人事戦略と言えるでしょう。

ジョブローテーションを成功させるためのポイント

目的と期間の明確化、適切なサポート体制

ジョブローテーションを成功させるためには、まずその「目的」と「期間」を明確に定めることが不可欠です。

「なぜこの異動が必要なのか」「いつまでにどのようなスキルを身につけてほしいのか」を本人に伝えることで、異動の納得感を高め、モチベーションを維持できます。目的が曖昧なままでは、従業員は単なる配置換えと感じてしまい、学習意欲が低下する可能性があります。

また、異動対象者への適切なサポート体制の整備も重要です。異動直後は新しい業務や人間関係に適応するためのストレスがかかりやすく、パフォーマンスが一時的に低下する懸念があります。

これを防ぐためには、異動前のオリエンテーション、異動後のOJT(On-the-Job Training)、メンター制度の導入、定期的な面談によるフォローアップなどが効果的です。

NTTグループがリスキリング研修を提供しているように、新しい業務に必要な知識やスキルを習得するための研修を事前に提供することも、スムーズな移行を促し、早期の立ち上がりを支援する上で非常に有効な手段となります。

従業員の希望を考慮した柔軟な運用

ジョブローテーションは、企業の戦略的な人材育成策であると同時に、従業員のキャリア形成に大きな影響を与える制度です。

そのため、可能な範囲で従業員自身の希望やキャリアプランを尊重し、柔軟に運用することが成功の鍵となります。

一方的な異動辞令ではなく、異動の背景や期待される役割について丁寧に説明し、従業員との対話を通じて納得感を得ることが、エンゲージメントの向上につながります。楽天グループがピープルアナリティクスを活用して社内ローテーションを検討しているように、個人の適性や意向をデータに基づいて把握することも有効です。

また、社内公募制度の導入は、従業員が自ら希望する職務にチャレンジできる機会を提供し、自身のキャリアを主体的にデザインする力を育みます。

全ての希望を叶えることは難しいかもしれませんが、従業員の声に耳を傾け、彼らの成長意欲を汲み取った上で、最適な配置を検討する姿勢が、制度への信頼を高め、組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。

導入効果を高めるための職種選定と留意点

ジョブローテーションは万能な制度ではなく、その効果は職種によって大きく異なります。導入効果を高めるためには、ジョブローテーションに適した職種を選定することが重要です。

一般的に、業務のマニュアル化や標準化が進んでおり、短期間でのスキル習得が可能な職種は、ジョブローテーションの導入効果が高いとされています。これにより、異動直後のパフォーマンス低下を最小限に抑え、スムーズな業務移行が期待できます。

一方で、高度な専門性が求められる職種や、スキル習得に長期間を要する職種(例えば、特定の研究開発職や専門性の高い金融商品の開発職など)では、頻繁なジョブローテーションは不向きである場合があります。異動のたびに専門性が途切れ、かえって育成コストが増大したり、業務効率が低下したりするリスクも考慮しなければなりません。

また、異動直後のパフォーマンス低下や、OJT担当者の負担増、育成コストといったデメリットも事前に評価し、対策を講じる必要があります。

ジョブローテーションは、戦略的な目的を持って、対象職種を慎重に選び、適切なサポート体制のもとで運用することが、その効果を最大限に引き出すための鍵となるでしょう。

キャリアアップと成長のためのジョブローテーション活用術

ジョブローテーションを自身の成長機会と捉える

ジョブローテーションは、企業から与えられる単なる配置換えではなく、自身のキャリアアップと成長のための貴重な機会と捉えることが重要です。

新しい環境での挑戦は、これまで培ってきたスキルや知識を異なる業務で応用する力を養い、さらには新たなスキルを習得する絶好のチャンスとなります。例えば、これまで経験したことのない分野のプロジェクトに参画することで、自身の専門領域を広げ、多角的な視点や問題解決能力を飛躍的に向上させることができます。

また、異なる部署やチームでの経験は、多様な価値観を持つ人々と協働する機会を提供し、コミュニケーション能力やリーダーシップ能力の向上にもつながります。NTTグループの事例のように、自律的なキャリア形成を支援する制度を最大限に活用し、変化を恐れずに積極的に学び、経験を吸収する姿勢が、自身の市場価値を高める上で不可欠です。

自らがジェネラリストとしての強みを持つことで、将来的なキャリアパスの選択肢を広げ、長期的なキャリアの安定と成長を実現できるでしょう。

ポータブルスキルを意識した経験の積み重ね

ジョブローテーションを経験する際には、特定の業務知識だけでなく、業界や職種を問わず通用する「ポータブルスキル」を意識して経験を積むことが極めて重要です。

ポータブルスキルとは、例えばコミュニケーション能力、論理的思考力、問題解決能力、プロジェクトマネジメント能力、プレゼンテーション能力などを指します。これらのスキルは、どの部署や業務においても基盤となり、新しい環境への適応力や、様々な課題への対応力を高めます。

ローテーション先での業務を通じて、ただ指示されたタスクをこなすだけでなく、「この経験からどのようなポータブルスキルが身についたか」「どのように応用できるか」を常に考え、言語化する習慣を持つことが大切です。楽天グループが全従業員向けに多様な研修プログラムを提供しているように、会社が提供する学びの機会も積極的に活用しましょう。

異なる環境で得た経験やスキルを自身の強みとして体系的に蓄積していくことで、将来的な転職やキャリアチェンジの際にも、自身の市場価値を明確にアピールできるようになります。これは、キャリアの選択肢を広げ、より戦略的なキャリア設計を可能にするでしょう。

自律的なキャリア形成と情報収集の重要性

ジョブローテーション制度を最大限に活かすためには、企業任せにするのではなく、自身のキャリアプランを明確に持ち、自律的に行動することが不可欠です。

まずは、将来どのようなキャリアを描きたいのか、どのようなスキルを身につけたいのかを具体的に考え、そこから逆算して、今のジョブローテーションで何を学ぶべきかを明確にしましょう。三菱UFJ信託銀行の「一国二制度」のように、専門性を深める道と幅広い経験を積む道の両方がある中で、自分に合った道を見極めることが大切です。

社内公募制度やリスキリング支援など、会社が提供する様々な制度や研修を積極的に活用し、自身のキャリアプランに沿った経験やスキルを能動的に獲得していく姿勢が求められます。

また、業界内外の情報を常に収集し、自身の市場価値や求められるスキルセットの変化にアンテナを張っておくことも重要です。ジョブローテーションを単なる異動ではなく、自身のキャリアをデザインするための戦略的な手段として捉えることで、変化の激しい時代でも柔軟に対応し、持続的な成長を実現することができるでしょう。