ジョブローテーションは、従業員の能力開発や組織活性化を目的として多くの企業で導入されている人事制度です。しかし、その一方で「弊害」や「非効率」といった声も聞かれます。

本記事では、ジョブローテーションのデメリットや「反対」「非効率」と感じられる理由を深掘りし、最新の情報を交えながら解説します。現代の働き方に合わせた制度設計のヒントを探ります。

  1. ジョブローテーションが「反対」される理由
    1. 目的の不明確さとキャリアへの不安
    2. 専門性育成とのギャップ
    3. 従業員の意見が尊重されない運用
  2. 「非効率」を生むジョブローテーションの落とし穴
    1. 高まる教育コストと一時的な生産性低下
    2. 業務の属人化とスキルの一貫性の欠如
    3. 組織全体の効率性への影響
  3. 社員の「不満」や「無能」と感じさせてしまう弊害
    1. モチベーション低下とエンゲージメントの喪失
    2. 新しい環境への適応ストレス
    3. 自分の価値を見失うキャリア不安
  4. 「人手不足」が招くジョブローテーションの難しさ
    1. 業務負荷の増大と現場の疲弊
    2. 新規業務習得への十分な時間とリソース不足
    3. 離職率の上昇リスク
  5. ジョブローテーションの「廃止」を検討すべき企業とは?
    1. 専門性が企業の競争力である企業
    2. 教育リソースが限られている企業
    3. 従業員エンゲージメントが低下している企業
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: ジョブローテーションに反対する主な理由は何ですか?
    2. Q: ジョブローテーションが非効率になるのはなぜですか?
    3. Q: ジョブローテーションによって、社員が不満を感じたり、無能だと感じてしまうのはどのような場合ですか?
    4. Q: 人手不足の状況でジョブローテーションを行うことの難しさは何ですか?
    5. Q: ジョブローテーションを廃止した方が良い企業の特徴はありますか?

ジョブローテーションが「反対」される理由

目的の不明確さとキャリアへの不安

ジョブローテーションが従業員から「反対」される最大の理由の一つは、その目的が不明確であることです。企業側は「幅広い視野の育成」や「ゼネラリストの養成」を掲げるものの、具体的なキャリアパスや異動の意義が従業員に伝わっていないケースが散見されます。

特に、自身の専門性を深めたいと考える社員にとって、関連性の低い部署への異動は、キャリア形成に対する不安を募らせる要因となりがちです。ある部署で習得したスキルが次の部署で活かせないと感じたり、目標としていた職種から遠ざかるような異動が続いたりすると、モチベーションは著しく低下します。

これは単なる不満に留まらず、企業への帰属意識の喪失や、最悪の場合、転職を考えるきっかけにもなりかねません。従業員が自身の将来像とジョブローテーションの関連性を見出せないとき、制度そのものへの不信感が募り、「なぜ自分だけがこんな異動を繰り返すのか」という不満へとつながってしまうのです。

専門性育成とのギャップ

現代のビジネス環境では、特定の分野で深い知識とスキルを持つスペシャリストの需要が高まっています。しかし、ジョブローテーションは「短期間で様々な業務を経験させる」という特性上、特定の分野における専門性を深く追求することには不向きな側面があります。

例えば、AI開発やデータサイエンスといった高度な専門知識が求められる職種において、数年ごとに全く異なる部署へ異動させられることは、専門家としてのキャリア形成を阻害する大きな要因となります。社員がせっかく身につけた専門スキルを次の部署で活かせず、また一から新しい業務を学ぶことになるため、「自分はいつになったら専門家になれるのだろう」という焦燥感や無力感に苛まれることも少なくありません。

近年注目される「ジョブ型雇用」へのシフトの動きも、このような専門性重視のトレンドを後押ししており、ゼネラリスト育成を主眼とするジョブローテーションと、個人の専門性向上を目指すキャリアパスとの間で、大きなギャップが生じているのが現状です。

従業員の意見が尊重されない運用

ジョブローテーションが「反対」される背景には、人事主導すぎる運用が挙げられます。従業員のキャリアプランや希望を十分に考慮せず、企業側の都合や都合のいい人員配置のために異動が行われる場合、社員は納得感を得られず、反発を招くことになります。

例えば、ある調査では「ジョブローテーションの目的として最も多かったのは『幅広く業務を経験することで、広い視野を養ってもらうため』」とされていますが、その「広い視野」が具体的にどのような形で自身のキャリアに貢献するのか、社員自身が実感できないと意味がありません。一方的な異動辞令は、社員に「会社は自分のことを考えてくれていない」という不信感を抱かせ、エンゲージメントの低下に直結します。

特に、ライフステージの変化(結婚、子育て、介護など)に伴い、勤務地や業務内容に特定の制約が生じる社員にとって、希望が全く考慮されない異動は、制度への強い反対意見となり、場合によっては離職の選択肢を検討させる要因にもなり得ます。

「非効率」を生むジョブローテーションの落とし穴

高まる教育コストと一時的な生産性低下

ジョブローテーションの最大の「非効率」の一つは、異動のたびに発生する莫大な教育コストと時間的負担です。新しい部署へ異動した社員は、その都度、業務内容やルール、人間関係などを一から学ぶ必要があります。

企業側は、受け入れ部署に指導計画の作成や教育時間の確保を求め、OJT担当者への負担も増大します。新任者が業務に習熟するまでの期間は、当然ながらその部署全体の生産性は一時的に低下します。ベテラン社員が数年かけて培ったノウハウを、新任者が短期間で完全に引き継ぐことは極めて困難であり、結果として業務の質が一時的に落ちたり、ミスが発生しやすくなったりするリスクも伴います。

このサイクルが頻繁に繰り返されると、各部署が常に新人教育に追われ、本来の業務に集中できない状況を生み出し、組織全体の効率性を大きく損なう原因となります。

業務の属人化とスキルの一貫性の欠如

ジョブローテーションは「業務の属人化防止」を目的の一つとして掲げられることがあります。確かに、複数の人が同じ業務を経験することで、特定の個人にしかできない仕事という状況を回避する効果は期待できます。しかし、その一方で、関連性のない部署を異動させ続けると、社員のスキルに一貫性が生まれにくくなるという弊害も指摘されています。

例えば、営業職から経理、そして開発部門へと異動した場合、それぞれの部署で得られるスキルは多岐にわたりますが、それらが有機的に結びつき、より高度な専門性を形成するとは限りません。むしろ、浅く広く知識を身につけるばかりで、どの分野でも「中途半端」な状態に陥るリスクがあります。

結果として、誰もが業務全体を包括的に理解しているようでいて、特定の業務における深い専門家が育たず、いざという時に特定の課題に対応できる人材が不足するという、別の形の「非効率」を生み出すことにもなりかねません。

組織全体の効率性への影響

ジョブローテーションが引き起こす「非効率」は、個々の社員や部署に留まらず、組織全体のパフォーマンスにも悪影響を及ぼす可能性があります。頻繁な異動は、部署間の連携を難しくし、業務フローの滞りを生む原因となります。

例えば、あるプロジェクトが進行中に主要なメンバーが異動した場合、新しいメンバーがプロジェクトの経緯や背景を理解するまでに時間を要し、進捗が遅れることは珍しくありません。また、社員が「いつか異動するかもしれない」という意識で仕事に取り組むようになると、長期的な視点での改善提案や、特定の分野における深い知識の蓄積がおろそかになりがちです。

これにより、組織全体の知見やノウハウが蓄積されにくくなり、結果としてイノベーションの阻害や、市場の変化への対応力低下を招く可能性も否定できません。組織の柔軟性向上というメリットの裏で、見過ごされがちな長期的な非効率性が潜んでいるのです。

社員の「不満」や「無能」と感じさせてしまう弊害

モチベーション低下とエンゲージメントの喪失

ジョブローテーションが社員に与える最も深刻な影響の一つは、モチベーションの低下とエンゲージメントの喪失です。希望しない部署への異動が続いたり、自身の専門性が活かせないと感じる業務ばかりを経験させられたりすると、社員は仕事への熱意を失いがちになります。

特に、自分のキャリアプランが尊重されない、あるいは異動の理由が不明確であると感じた場合、「会社は自分を駒のように扱っている」という不満が募り、企業への帰属意識は著しく低下します。参考情報にもあるように、「モチベーションの低下リスク」はジョブローテーションの大きなデメリットとして挙げられます。

一度低下したモチベーションを再燃させることは容易ではなく、仕事への集中力やパフォーマンスの低下、ひいてはエンゲージメントの喪失へと繋がります。これは、単に生産性が落ちるだけでなく、組織全体の士気にも悪影響を及ぼし、離職へと繋がるリスクも高めます。

新しい環境への適応ストレス

人は新しい環境に適応する際に、多かれ少なかれストレスを感じるものです。ジョブローテーションでは、数年おきに全く異なる部署や業務、人間関係に適応することを求められます。特に、内向的な性格の社員や、変化への適応に時間がかかる社員にとっては、この連続する適応プロセスが大きな精神的負担となります。

新しい業務の習得に加え、これまで築いてきた人間関係をリセットし、新たな人間関係を構築することに疲弊してしまう社員も少なくありません。このようなストレスが過度になると、心身の健康を損なう原因となり、最悪の場合、休職や退職に追い込まれるケースも発生します。

短期間での異動は、適応期間が十分に確保できないまま次の異動へと進むことになり、常にストレスを抱え続ける悪循環を生み出す可能性も秘めています。

自分の価値を見失うキャリア不安

ジョブローテーションによって、社員が自分の価値を見失い、「無能」だと感じてしまうことも少なくありません。様々な部署を経験する中で、それぞれの部署で「新人」として扱われる期間が長く、特定の分野で深い専門知識やスキルを習得する機会が得られないと、自分自身の強みや市場価値が何なのかを見出すことが困難になります。

「自分は何のプロにもなれていない」という感覚は、自己肯定感を著しく低下させ、キャリア形成に対する深い不安へと繋がります。特に、SNSなどで他社の同世代が特定の分野で活躍している様子を見ると、相対的に自分のキャリアが停滞しているように感じ、劣等感を抱くこともあります。

転職市場では、特定の専門性を持つ人材が有利になる傾向が強いため、ジョブローテーションでゼネラリスト化した社員が、いざ転職を考えた際に自分のアピールポイントが見つからず、より深い不安に陥ってしまうという悪循環も生まれています。

「人手不足」が招くジョブローテーションの難しさ

業務負荷の増大と現場の疲弊

現代の多くの企業が直面している「人手不足」は、ジョブローテーションの運用をさらに困難にしています。人手不足の部署に、まだ業務に不慣れな異動者が配属された場合、その部署の既存メンバーの業務負荷は一時的に増大します。

新任者の教育やフォローに割く時間が増えるだけでなく、新任者が担当できない分の業務を既存メンバーが引き受けざるを得なくなるため、残業時間の増加や精神的な疲弊に繋がります。慢性的な人手不足の状況下では、各部署が常にギリギリの人員で業務を回しているため、新任者を受け入れる余裕がありません。

結果として、教育が不十分なまま実務を任され、ミスが発生しやすくなるという悪循環に陥ることもあります。このような状況は、現場の士気を著しく低下させ、優秀な人材の離職に拍車をかけるリスクも抱えています。

新規業務習得への十分な時間とリソース不足

人手不足の環境下では、異動者が新しい業務を習得するための十分な時間やリソースが確保されにくいという問題も生じます。通常であれば、異動者には一定期間のOJTや研修が用意されますが、人員が足りない部署では、すぐにでも戦力として動いてほしいという現場のニーズが先行しがちです。

これにより、基礎的な知識やスキルを十分に学ぶ前に高度な業務を任されたり、十分なサポート体制がないまま独力で業務を進めることを求められたりすることがあります。結果として、業務の理解が浅いまま進行し、非効率なやり方で仕事を進めてしまったり、重大なミスを引き起こしたりするリスクが高まります。

教育体制が不十分な状態でのジョブローテーションは、本来の目的である「人材育成」とはかけ離れた結果を招きかねません。

離職率の上昇リスク

人手不足の状況下で強行されるジョブローテーションは、離職率の上昇という深刻な問題を引き起こす可能性があります。前述したような、業務負荷の増大や教育リソースの不足は、従業員の不満やストレスを募らせます。

特に、希望しない異動を強いられ、自身のキャリアパスが見えにくい状況で、かつ十分なサポートも得られないとなると、会社への不信感は決定的なものとなり得ます。結果として、自身のキャリアや働き方を見つめ直し、より良い環境を求めて転職を決意する社員が増加します。

これは、既存の社員が疲弊し、さらに人手不足が加速するという負のスパイラルを生み出すことになります。現代では「転職活動中の20~30代の約80%がジョブローテーション制度に対して好意的」という調査結果もありますが、これは「新たなスキル習得やモチベーション維持への期待感」からくるものであり、実態として上記のような弊害が顕在化すれば、その期待感はあっという間に失望へと変わるでしょう。

ジョブローテーションの「廃止」を検討すべき企業とは?

専門性が企業の競争力である企業

ジョブローテーションの「廃止」あるいは大幅な見直しを検討すべき企業の一つは、特定の分野における専門性が企業の競争力に直結する企業です。例えば、高度な技術開発を行うIT企業、特定の研究分野を深掘りする製薬会社、あるいはクリエイティブな専門スキルが求められるデザイン会社などがこれに該当します。

これらの企業では、社員が特定の領域で深い知識や経験を積み重ね、独自のノウハウや技術を確立することが、企業の市場価値を高める上で不可欠です。ジョブローテーションによって社員を様々な部署へ異動させると、スペシャリスト育成の機会が失われ、結果として競合他社に遅れを取ってしまうリスクがあります。

社員が専門性を深めたいという意欲を持っているにも関わらず、制度によってそれが阻害されるのであれば、むしろ専門職としての一貫したキャリアパスを提供し、その分野におけるトップランナーを育成する方が、企業全体の成長に貢献するでしょう。

教育リソースが限られている企業

教育リソースが恒常的に不足している企業も、ジョブローテーションの運用には慎重になるべきです。中小企業やスタートアップ企業など、人材育成に割ける時間やコスト、専門の教育担当者が限られている場合、頻繁な異動は各部署に大きな負担をかけます。

異動があるたびに、受け入れ部署はOJT担当者のアサイン、教育資料の準備、業務時間の確保に追われますが、リソースが不足している状況では、これらを十分に提供することが困難になります。結果として、異動者が十分に業務を習得できないまま放置されたり、既存メンバーの業務が滞ったりといった「非効率」が生じます。

このような状況でジョブローテーションを無理に継続しても、社員の成長を促すどころか、ストレスや不満を増大させ、パフォーマンスの低下を招くだけです。限られたリソースを最大限に活用し、確実に社員を成長させるためには、特定の専門性を深めるキャリアパスや、部門内での深い知識継承に注力する方が賢明な選択と言えます。

従業員エンゲージメントが低下している企業

最後に、従業員エンゲージメントが既に低下している企業は、ジョブローテーションの運用を根本から見直す必要があります。エンゲージメントの低い組織で、一方的で目的の不明確なジョブローテーションを続けることは、火に油を注ぐ行為となりかねません。

社員が「会社に大切にされていない」「自分のキャリアは会社にコントロールされている」と感じている状況下で、さらなる異動を命じれば、不満は爆発し、最終的には離職へと繋がりやすくなります。参考情報でも「モチベーションの低下リスク」が指摘されている通り、社員の納得感が得られない運用は、企業への帰属意識を損ないます。

このような企業は、まず社員の声を丁寧に聞き、キャリアプランに対する不安や不満を解消することに注力すべきです。ジョブローテーションを継続する場合でも、社員の希望や適性をこれまで以上に尊重し、丁寧な対話を通じて異動の意義を理解してもらうプロセスが不可欠です。制度の廃止を検討するだけでなく、個人の成長と組織のニーズが合致するような、より柔軟な人事制度への転換を真剣に考える時期に来ていると言えるでしょう。

ジョブローテーションは、その目的が適切に設定され、社員のキャリアプランや希望に配慮した柔軟な運用がなされれば、確かに有益な制度です。しかし、本記事で深掘りしたように、目的の不明確さ、専門性育成とのギャップ、非効率性、そして社員の不満やエンゲージメントの低下といった多くの弊害を抱えているのも事実です。

特に、人手不足が深刻化する現代において、その運用は一層難しさを増しています。企業は、自社の特性や事業戦略、そして何よりも社員一人ひとりの声を真摯に受け止め、ジョブローテーションのあり方を見直す時期に来ていると言えるでしょう。

「幅広く業務を経験することで、広い視野を養う」という目的は重要ですが、それが社員の成長と組織の活性化に本当に貢献しているのか、立ち止まって考えることが求められます。時には「廃止」も選択肢の一つとして検討し、より現代の働き方や個人の多様なキャリア志向に合わせた人事制度を構築することが、持続的な企業成長への鍵となるでしょう。