概要: 75歳以上の後期高齢者が利用できる高額療養費制度について、その仕組みや限度額、そして具体的な申請方法を分かりやすく解説します。さらに、出産や精神疾患、不妊治療における制度の適用についても触れます。
後期高齢者の高額療養費制度とは?基本を理解しよう
高額療養費制度の目的と対象者
高齢化社会が進む現代において、医療費の負担は多くの方にとって大きな懸念事項です。
特に75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度では、病気やケガによる医療費が高額になった場合に家計への負担を軽減するための「高額療養費制度」が設けられています。
この制度の主な目的は、医療費の自己負担額が一定の上限を超えた際、その超えた分を払い戻すことで、国民皆保険制度を維持し、国民が安心して医療を受けられるようにすることです。
具体的には、1か月の医療費自己負担額が所得に応じた上限額を超過した場合に適用されます。
制度の対象となるのは、原則として75歳以上の方です。
ただし、65歳以上75歳未満の方でも、一定の障害があると認定された場合は後期高齢者医療制度に加入し、この制度を利用することができます。
公的医療保険に加入している方であれば、誰もが高額療養費制度の恩恵を受けることが可能です。
ご自身が対象となるか不明な場合は、お住まいの市区町村の窓口にご確認ください。
払い戻しの仕組みと支給対象外となる費用
高額療養費制度は、医療機関で支払った医療費が後から戻ってくる「償還払い」が基本です。
多くの場合、診療を受けた月の約3~4か月後に、お住まいの後期高齢者医療広域連合から申請書が送付されてきます。
この申請書に必要事項を記入し、指定された口座情報を添えて返送することで、払い戻しが行われる仕組みです。
一度申請が受理されれば、次回以降は同じ口座に自動的に振り込まれるため、毎回申請書を提出する手間は省けます。
ただし、全ての医療費が払い戻しの対象となるわけではありません。
高額療養費制度では、保険診療の対象となる費用のみが計算の対象です。
具体的には、先進医療にかかる技術料、差額ベッド代、入院時の食事代(標準負担額)、予防接種費用、美容整形費用などは支給の対象外となります。
これらの費用は「保険適用外」の扱いとなるため、自己負担額がいくら高額になっても払い戻しの対象にはなりません。
医療費の自己負担額を計算する際は、どの費用が対象となるかを事前に確認しておくことが重要です。
医療費の自己負担割合について
後期高齢者医療制度に加入されている方の医療費自己負担割合は、所得に応じて異なります。
主に1割、2割、3割の3段階に分かれており、ご自身の所得状況によって適用される割合が変わってきます。
例えば、現役世代並みの所得がある方(「現役並み所得者」)は3割負担となります。
これは、一定以上の収入があるため、現役世代と同等の負担を求められるためです。
一般の所得の方は1割または2割負担となり、住民税非課税世帯の方(「区分Ⅱ」「区分Ⅰ」)は所得に応じた低い割合が適用されます。
この自己負担割合が、高額療養費制度における自己負担限度額の計算の基礎となります。
つまり、同じ医療費がかかったとしても、ご自身の所得区分と自己負担割合によって、実際に支払う金額や払い戻される金額が大きく変わってくるということです。
ご自身の負担割合や所得区分は、後期高齢者医療被保険者証で確認できますので、いざという時に慌てないよう、普段から把握しておくことをおすすめします。
75歳以上が対象!高額療養費制度の限度額について
所得区分ごとの自己負担限度額
高額療養費制度の最も重要な点は、所得区分に応じて定められた自己負担限度額です。
この限度額は、外来診療(個人ごと)と入院を含む世帯合算(世帯ごと)で異なり、さらに所得が高いほど限度額も高くなる傾向にあります。
参考情報に基づいた、70歳以上(後期高齢者医療制度加入者)の自己負担限度額(月額)は以下の通りです。
| 所得区分 | 自己負担割合 | 外来(個人ごと) | 外来+入院(世帯ごと) |
|---|---|---|---|
| 現役並み所得者Ⅲ | 3割 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% 〔140,100円〕(多数回:4回目以降) |
| 現役並み所得者Ⅱ | 3割 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% 〔93,000円〕(多数回:4回目以降) |
| 現役並み所得者Ⅰ | 3割 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% 〔44,400円〕(多数回:4回目以降) |
| 一般Ⅱ | 2割 | 6,000円+(医療費-30,000円)×10% または 18,000円のいずれか低い方*1 | 57,600円 〔44,400円〕(多数回:4回目以降) |
| 一般Ⅰ | 1割 | 18,000円 | 57,600円 〔44,400円〕(多数回:4回目以降) |
| 区分Ⅱ(住民税非課税等) | 1割 | 8,000円 | 24,600円 |
| 区分Ⅰ(住民税非課税等) | 1割 | 8,000円 | 15,000円 |
*1 2025年10月以降は一律18,000円となります。
ご自身の所得区分と負担割合を正確に把握し、いざという時の自己負担額を予測しておくことが大切です。
特に、外来と入院で限度額が異なるため、両方のケースを想定しておくと良いでしょう。
多数回該当と年間上限額の特例
病気や治療が長期にわたる場合、高額な医療費が毎月発生することもあります。
このような状況に対応するため、高額療養費制度には「多数回該当」という特例が設けられています。
これは、過去12か月以内にすでに3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目以降の自己負担限度額がさらに軽減されるというものです。
例えば、「一般Ⅰ」の世帯合算の場合、通常は57,600円ですが、多数回該当となると44,400円にまで下がります。
これにより、慢性疾患などで継続的に治療が必要な方々の経済的負担が大きく軽減されます。
多数回該当は、医療費負担の大きな助けとなるため、該当する可能性のある方は制度を積極的に活用しましょう。
また、70歳以上の方には年間(毎年8月1日~翌年7月31日)の外来自己負担上限額が設定されており、144,000円が上限となっています。
これは月ごとの限度額とは別に、年間の負担にも上限を設けることで、より手厚い保護を図るものです。
複数の医療機関を受診している場合でも合算されるため、年間の医療費が一定額を超えた場合は払い戻しの対象となります。
自己負担割合2割の方への負担軽減措置とその見直し
2022年10月からは、後期高齢者医療制度において、所得に応じて自己負担割合が1割から2割に変更された方がいらっしゃいました。
これに伴い、急激な医療費負担の増加を緩和するため、「配慮措置」として2割負担の方への負担軽減策が導入されました。
しかし、この配慮措置は時限的なものであり、2025年9月30日をもって終了します。
2025年10月1日以降は、外来医療の自己負担上限額が一律で月額18,000円となりますので、対象となる方は注意が必要です。
今後、医療費の自己負担限度額はさらに見直される見込みがあります。
参考情報によると、2025年8月以降には高額療養費制度の自己負担限度額が引き上げられる可能性があり、特に所得の高い層では引き上げ幅が大きくなる傾向にあるとされています。
さらに、2026年8月以降には70歳以上の外来特例(自己負担増の軽減措置)も見直される予定です。
これらの見直しは、医療保険料の負担軽減を目的としたものであり、今後の医療費負担に影響を与える可能性があるため、常に最新の情報を確認するようにしましょう。
国保加入者必見!後期高齢者の高額療養費制度の申請方法
払い戻し申請の基本的な流れ
後期高齢者医療制度における高額療養費の申請は、多くの場合、自動的に手続きが進められるため、煩雑な手間はかかりません。
初めて高額療養費の支給対象となった方には、診療を受けた月の約3~4か月後に、お住まいの地域の後期高齢者医療広域連合から「高額療養費支給申請書」が郵送されてきます。
この申請書が届いたら、必要事項(氏名、住所、振込先口座情報など)を記入し、返送するだけで申請は完了です。
一度申請をしておけば、次回以降高額療養費の支給対象となった際には、自動的に指定された口座へ払い戻しが行われるようになります。
そのため、毎回申請書を取り寄せる必要はありません。
ただし、引っ越しなどで口座情報が変わった場合や、申請書が届かない場合は、速やかに市区町村の窓口や広域連合に連絡して確認することが重要です。
申請期間には時効がありますので、申請書が届いたら忘れずに手続きを済ませるようにしましょう。
時効は診療月の翌月1日から2年間です。
窓口での支払いを限度額までに抑える方法
高額療養費制度は、一度医療費を全額支払った後に払い戻しを受ける「償還払い」が基本ですが、事前に手続きを行うことで、医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることが可能です。
これにより、一時的に高額な医療費を立て替える必要がなくなります。
最も手軽な方法は、マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」です。
医療機関の受付でマイナ保険証を提示し、限度額情報の提供に同意することで、窓口での支払いが自己負担限度額までとなります。
これは、医療機関がオンラインで患者さんの限度額情報を確認できるため、事前に手続きをする必要がなく、非常に便利です。
マイナ保険証を利用していない場合や、利用できる医療機関ではない場合は、事前に「限度額適用認定証」または「標準負担額減額認定証」を申請し、医療機関の窓口に提示することで同様の効果が得られます。
これらの認定証は、お住まいの市区町村の窓口で申請できますので、高額な医療費がかかる予定がある方は、早めに取得しておきましょう。
申請に必要な書類と問い合わせ先
高額療養費の申請手続きには、いくつかの書類が必要です。
具体的には、郵送されてくる「後期高齢者医療高額療養費支給申請書」のほか、払い戻し金を振り込む「振込先口座情報が確認できるもの(通帳やキャッシュカードなど)」が必須となります。
また、申請者の本人確認書類として「マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど」と、個人番号確認書類として「マイナンバーカードなど」が必要です。
これらの書類を不備なく準備することで、スムーズに申請手続きを進めることができます。
制度について不明な点がある場合や、申請書が届かないなどのトラブルがあった場合は、お住まいの市区町村の窓口、または東京都後期高齢者医療広域連合(ご自身の居住地の広域連合)に直接問い合わせましょう。
各広域連合のウェブサイトでも詳細な情報が提供されていますので、まずはそちらで確認することも有効です。
適切な窓口に相談することで、疑問を解消し、安心して制度を利用できます。
知っておきたい!高額療養費制度と特定疾病・その他の費用
特定疾病と精神疾患への適用
高額療養費制度には、特定の重い病気(特定疾病)に対する特別な配慮があります。
「特定疾病療養受給証(マル長)」という認定証を事前に取得し、医療機関の窓口に提示することで、その疾病にかかる自己負担限度額が月額1万円までに軽減されます。
この制度の対象となるのは、人工透析が必要な慢性腎不全、血友病、血液凝固因子製剤の投与に起因するHIV感染症の3つです。
精神疾患については、その病状や治療内容によって特定疾病の対象となる場合と、そうでない場合があります。
例えば、精神疾患に伴う身体合併症で上記の特定疾病に該当する場合は、その治療費にマル長が適用される可能性があります。
しかし、一般的な精神科の通院や投薬治療が直接的に「特定疾病」として扱われることは稀です。
ただし、精神疾患の治療費も、保険診療の範囲内であれば一般の高額療養費制度の対象となり、所得に応じた限度額を超えた分は払い戻されます。
精神疾患の治療が長期にわたる場合でも、この制度が経済的負担を軽減する大きな支えとなりますので、主治医や医療機関の窓口に相談して、適用される制度を確認することが重要です。
出産・不妊治療と後期高齢者の制度
「出産」や「不妊治療」は、一般的に後期高齢者医療制度の対象年齢である75歳以上の方には直接関係の薄いテーマです。
しかし、高額療養費制度という広い視点で見れば、これらの治療にかかる費用も制度の適用範囲となり得ます。
後期高齢者の方が出産や不妊治療を受けることは極めて稀ですが、もし何らかの形で関係する場合、基本的な考え方は他の保険診療と同様です。
高額療養費制度は、保険診療の対象となる医療行為であれば、自己負担額が限度額を超えた場合に払い戻されます。
出産費用においては、通常の分娩費用は保険適用外ですが、帝王切開など医療行為とみなされる部分や、妊娠・出産に伴う合併症の治療は保険適用となり、高額療養費の対象となる可能性があります。
不妊治療についても、保険適用となる治療(体外受精や顕微授精の一部など)であれば、高額療養費制度の対象です。
ただし、先進医療としての不妊治療の技術料や、保険適用外の検査・治療は、高額療養費の対象外となります。
これらの情報も、ご家族や身近な方が医療費のことで悩んでいる場合に、アドバイスできるよう知っておくと良いでしょう。
入院時の食事代・介護合算と今後の見通し
高額療養費制度では、入院時の食事代は原則として支給対象外ですが、所得区分に応じて自己負担額が減額される仕組みがあります。
限度額区分が記載された資格確認書などを医療機関に提示することで、低所得者の方の食事代負担が軽減されます。
これは、長期入院の際の生活負担を考慮した配慮措置と言えるでしょう。
さらに、後期高齢者の方にとって重要な制度として「高額介護合算療養費制度」があります。
これは、1年間(毎年8月1日~翌年7月31日)で、医療保険と介護保険の両方で自己負担額が発生した場合、それらを合算した金額が基準額を超えた分について支給される制度です。
高齢になると、医療と介護の両方のサービスを利用するケースが増えるため、この制度は家計の大きな助けとなります。
今後の見通しとして、前述の通り、2025年8月以降の自己負担限度額の引き上げや、2026年8月以降の70歳以上の外来特例の見直しが予定されています。
これらの制度改正は、医療保険財政の安定化を目指すものであり、国民一人ひとりの医療費負担に影響を与える可能性があります。
国や自治体の発表する最新情報に常に注意を払い、ご自身の医療費負担について理解を深めておくことが、安心して老後を過ごす上で非常に大切です。
まとめ
よくある質問
Q: 後期高齢者の高額療養費制度とは何ですか?
A: 医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。これにより、高額な医療費がかかった場合の家計への負担を軽減します。
Q: 75歳以上であれば、誰でも高額療養費制度の対象になりますか?
A: はい、75歳以上の方は原則として後期高齢者医療制度に加入しており、高額療養費制度の対象となります。ただし、所得によって限度額は異なります。
Q: 高額療養費制度の申請方法は?
A: 原則として、医療費の支払いを受けた医療機関等に「限度額適用認定証」を提示し、上限額のみを支払うのが一般的です。後で払い戻しを受ける場合は、加入している保険組合や市区町村の窓口に申請が必要です。
Q: 国民健康保険(国保)に加入している75歳以上の申請方法は同じですか?
A: 75歳以上で国保に加入されている場合、後期高齢者医療制度とは異なる場合があります。ご自身の加入している国保の保険者(市区町村)にご確認ください。多くの場合、申請方法は概ね共通していますが、窓口が異なります。
Q: 出産や精神疾患、体外受精・人工授精でも高額療養費制度は利用できますか?
A: はい、条件を満たせば利用できます。出産育児一時金や、精神疾患、体外受精・人工授精などの不妊治療も、高額療養費制度の対象となる場合があります。詳細については、加入している保険組合や市区町村にご確認ください。
