この記事で得られること
住宅購入を検討しており、親や配偶者から資金援助(贈与)を受ける可能性のある方、または住宅ローンと贈与税の関係について理解を深めたいと考えている方。
住宅ローンと贈与税は、一見すると別々の税金制度のように思えるかもしれません。しかし、夢のマイホーム購入や、家族のライフプランを考える上で、この2つの関係性を正しく理解することは非常に重要です。親子や夫婦の間でお金を動かす際、知らず知らずのうちに贈与税が発生してしまうケースも少なくありません。
この記事では、住宅ローンを利用する方が陥りやすい贈与税の落とし穴や、利用できる非課税制度、そして具体的な節税対策までを網羅的に解説します。最新の税制改正情報も踏まえ、あなたの家族が安心して住宅資金をやり取りできるよう、具体的な方法をご紹介します。
住宅ローンと贈与税、なぜ関係があるの?
住宅購入資金の援助が贈与とみなされるケース
住宅ローンの名義人ではない家族が、そのローンの頭金や返済を負担した場合、その金銭は贈与とみなされ、贈与税の課税対象となる可能性があります。例えば、お子様が住宅ローンを組んで家を購入する際に、親御様が頭金として数百万円を援助したケースが典型的です。この援助された金額が、贈与税の基礎控除額である年間110万円を超えると、超えた部分に対して贈与税がかかります。これは、個人の財産形成を援助したとみなされるためです。特に、高額な住宅資金の援助は、基礎控除額をあっという間に超えてしまうため、細心の注意が必要です。
また、夫婦間においても同様の状況が発生し得ます。夫名義の住宅ローン返済を妻の口座から負担した場合や、妻が親から贈与された資金を夫名義のローンの頭金に充てた場合なども、贈与とみなされることがあります。単なる「夫婦のお金だから」という認識で安易に資金を移動させてしまうと、後から税務署から指摘を受け、多額の贈与税を追徴課税されるリスクがあるのです。住宅資金の援助は、たとえ家族間であっても「贈与」であるという認識を持つことが、トラブルを避ける第一歩となります。
不動産の「持分」と「ローンの名義」が不一致の場合
住宅ローンを組む際、その名義人と不動産登記上の持分※が一致しない場合も、贈与とみなされる大きな要因となります。例えば、夫婦で新居を購入する際、夫が住宅ローンの名義人となり、ローンの全額を負担したとします。しかし、不動産登記上は夫の持分が2分の1、妻の持分が2分の1となっている場合、妻が負担していない2分の1の住宅取得資金は夫からの贈与とみなされてしまいます。妻が自身の資金を投入していないにもかかわらず、不動産の所有権の一部を持つことになるからです。
※持分:不動産を複数人で所有する際の、それぞれの所有権の割合を指します。
これは、夫婦それぞれが住宅資金を拠出した割合と、登記上の持分が一致していない場合に特に問題となります。夫がローンを組み、頭金を妻が全額負担したケースを考えてみましょう。この場合、妻が負担した頭金に相当する持分を妻の名前で登記しないと、妻が夫に資金を贈与した、または夫が妻の資金で住宅を取得し、その一部を妻に贈与したとみなされる可能性があります。不動産登記は、誰がどれだけの資金を出し、誰がどれだけの所有権を持つのかを明確にするための重要な証拠となります。贈与税のリスクを避けるためには、資金の拠出割合と登記上の持分を正確に一致させることが極めて重要です。購入時に専門家と相談し、登記内容を慎重に決定することをおすすめします。
住宅ローン控除と贈与税の関係性を理解する
住宅購入に際しては、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)と、住宅取得等資金の贈与税の非課税措置という、2つの税制優遇制度があります。これらの制度はそれぞれ異なる目的を持つため、併用する際には注意が必要です。基本的に、住宅取得等資金の贈与税非課税措置を利用して親などから贈与を受けた資金で住宅を購入し、さらに自身で組んだ住宅ローンに対して住宅ローン控除を適用することは可能です。つまり、両制度の併用は認められています。
しかし、両制度を併用する場合、控除額の計算が複雑になることがあります。特に、贈与された資金を充てた部分には住宅ローン控除が適用されないため、ローン全体の金額ではなく、自己資金(贈与された資金を含む)以外の部分、つまり自身の借入金部分のみが控除の対象となります。例えば、3,000万円の住宅ローンを組み、親から500万円の贈与を受けて住宅購入資金に充てた場合、住宅ローン控除の対象となる借入金は、実質的に自身が負担した2,500万円相当の部分に限られることになります。このように、贈与された資金と住宅ローンの金額を正確に把握し、住宅ローン控除の計算に反映させる必要があります。税制優遇を最大限に活用しつつ、贈与税のリスクを回避するためには、専門家である税理士に相談し、事前にシミュレーションを行うことが賢明です。
住宅購入時の親子間贈与、知っておきたい贈与税の非課税制度
直系尊属からの「住宅取得等資金贈与」非課税措置の活用
親や祖父母などの直系尊属から住宅取得のための資金贈与を受ける場合、「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」という大変有利な制度があります。この制度を利用すれば、一定額までの贈与が非課税となり、大きな節税効果が期待できます。現在の制度では、省エネ等住宅※の場合、最大1,000万円までが非課税となり、それ以外の住宅の場合は500万円まで非課税となります。この特例は時限的なもので、2026年12月31日までの贈与に適用期限が延長されていますので、活用を検討されている方は早めの計画が重要です。
※省エネ等住宅:断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上である住宅、もしくは耐震等級2以上または免震建築物である住宅、高齢者等配慮対策等級3以上の住宅などを指します。
適用を受けるための主な要件は、受贈者(贈与を受ける側)が贈与を受けた年の1月1日において18歳以上であること、贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること(床面積が40㎡以上50㎡未満の住宅の場合は1,000万円以下)、そして贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅の新築・取得または増改築等を行い、その住宅に居住することなどです。この制度を利用することで、親世代が子世代のマイホーム取得を強力にサポートでき、贈与税の負担を大幅に軽減することが可能です。ただし、非課税枠を利用した場合でも、贈与税の申告は必ず必要ですので、申告手続きを忘れないように注意しましょう。
暦年贈与の基礎控除(年間110万円)を最大限に活用する
贈与税には、年間110万円までの贈与であれば税金がかからず、申告も不要となる基礎控除額※が設けられています。これを「暦年贈与」と呼び、住宅購入資金の援助にも賢く活用できる制度です。例えば、お子様が将来家を購入する資金を援助したい場合、毎年110万円ずつ贈与することで、贈与税を一切負担することなく、数年間にわたってまとまった資金を贈与することが可能です。この方法は、特に高額な贈与を一度に行うと税金が高くなる場合に有効な手段となります。
※基礎控除額:贈与税の計算において、課税対象となる贈与額から差し引かれる一定の金額です。
例えば、親から子へ500万円の住宅資金を援助したい場合、一度に贈与すると基礎控除の110万円を超えた390万円に贈与税がかかります。しかし、これを5年間かけて毎年100万円ずつ贈与すれば、各年とも110万円の基礎控除内であるため、贈与税はかかりません。ただし、注意点があります。数年にわたって継続的に贈与を行う際、その計画が最初から立てられており、単一の贈与とみなされる「連年贈与※」と判断されるリスクがあります。これを避けるためには、毎年贈与契約書を作成し、贈与の時期や金額を毎年変えるなど、個別の贈与であることを明確にする工夫が必要です。計画的な贈与を検討する際は、税理士などの専門家に相談し、適切な方法で実行することをおすすめします。
※連年贈与:毎年同じ時期に同じ金額を贈与し続けることで、最初からまとまった金額を贈与する意図があったとみなされ、一括で贈与税が課税されるリスクがある贈与のことです。
相続時精算課税制度を住宅購入資金贈与に利用する際の注意点
相続時精算課税制度※は、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与において、2,500万円までの特別控除が受けられる制度です。この制度を利用すると、生前にまとまった資金を非課税で贈与でき、住宅購入資金の援助に活用できる大きなメリットがあります。2,500万円の特別控除枠内であれば、何度贈与を受けても贈与税はかかりません。例えば、親から子へ1,000万円を贈与して住宅購入資金に充て、その後さらに1,500万円を贈与しても、合計2,500万円までは贈与税がかからないというわけです。
※相続時精算課税制度:生前贈与された財産を、贈与時には2,500万円まで非課税とし、相続発生時に相続財産に加算して相続税を計算する制度です。
しかし、この制度には重要な注意点があります。それは、贈与を受けた財産は、贈与者の相続発生時に相続財産に合算され、相続税の課税対象となる点です。つまり、贈与税がゼロになったとしても、将来的に相続税として課税される可能性があります。また、一度この制度を選択すると、暦年贈与の年間110万円の基礎控除は利用できなくなります。さらに、この制度を利用して贈与された財産は、相続時に評価額が変動しないため、値上がりが見込まれる財産を贈与する場合には不利になる可能性もあります。住宅購入資金の贈与を検討する際は、単に贈与税の非課税枠だけでなく、贈与者の将来の相続税額や他の相続人との関係も考慮に入れ、長期的な視点で慎重に判断することが求められます。相続税対策と合わせて、専門家との綿密な相談をおすすめします。
夫婦間での住宅購入資金の贈与、贈与税はかかる?かからない?
夫婦間の贈与で活用できる「配偶者控除(おしどり贈与)」とは
夫婦間で住宅購入資金や居住用不動産を贈与する場合、「配偶者控除」、通称「おしどり贈与※」という特例を活用できる可能性があります。この制度は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産またはその購入資金を贈与する場合に、基礎控除110万円とは別に、最大2,000万円まで贈与税が非課税になるという非常に有利な制度です。つまり、合計で2,110万円まで非課税で贈与できることになります。この制度は、長年連れ添った夫婦が、より安定した住まいを確保できるよう配慮されたものです。
※おしどり贈与:夫婦間の居住用不動産の贈与または居住用不動産取得資金の贈与の特例のこと。正式名称は「贈与税の配偶者控除」。
適用を受けるためにはいくつかの要件があります。まず、婚姻期間が20年以上であること。贈与された財産が居住用不動産またはその購入資金であること。そして、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その居住用不動産に実際に居住し、その後も引き続き居住する見込みであること、などです。また、この特例を利用するためには、贈与税の申告が必要です。例えば、夫が所有する居住用不動産(評価額2,000万円)を妻に贈与し、妻がその不動産に居住する場合、婚姻期間が20年以上であれば贈与税はかかりません。しかし、この制度は一生に一度しか利用できません。夫婦間で住宅資金の贈与を検討する際は、これらの要件をしっかり確認し、最も効果的なタイミングで利用することが重要です。
夫婦間で住宅資金を出し合う場合の「持分登記」の重要性
夫婦で共同で住宅を購入する場合、それぞれが資金を出し合ったにもかかわらず、登記上の持分※を片方の名義にしたり、資金拠出割合と異なる持分で登記したりすると、贈与税の問題が発生する可能性があります。贈与税のリスクを回避するためには、夫婦それぞれの資金拠出割合に応じて不動産の持分登記を行うことが極めて重要です。例えば、夫が2,000万円、妻が1,000万円を出し合って3,000万円の住宅を購入した場合、夫の持分を3分の2、妻の持分を3分の1として登記するのが適切です。
※持分:不動産を複数人で所有する際の、それぞれの所有権の割合を指します。
もし、妻が1,000万円を拠出したにもかかわらず、不動産全体が夫名義で登記された場合、妻が夫に1,000万円を贈与したとみなされ、贈与税が課税されることになります。これは、妻の資金で夫の財産が形成されたと解釈されるためです。また、住宅ローンの借り入れも同様です。夫婦連帯債務でローンを組んだ場合や、ペアローンを組んだ場合も、それぞれが負担するローンの割合に応じた持分で登記する必要があります。購入時に資金の出どころを明確にし、その割合に合わせて登記を行うことで、後から「贈与」だと指摘されるリスクを未然に防ぐことができます。不動産登記は専門的な知識が必要ですので、司法書士や税理士と連携し、適切な登記手続きを進めることが、夫婦間の贈与税トラブルを避けるための最善策と言えるでしょう。
夫婦間での金銭貸借、贈与とみなされないための対策
夫婦間でお金の貸し借りをするケースはよくありますが、これが「贈与」とみなされないためには、きちんとした手続きを踏むことが不可欠です。単に口約束でお金を貸し借りするだけでは、税務署から贈与であると判断され、贈与税が課せられる可能性があります。贈与とみなされないための最も重要な対策は、「金銭消費貸借契約書」を作成し、返済の事実を明確にすることです。
金銭消費貸借契約書、いわゆる「借用書」には、貸付金額、返済期間、利息(無利息でも可だが、一定の利息を付ける方が貸付としての信憑性が高い)、返済方法(毎月の返済日や金額)などを具体的に記載します。さらに、実際に契約書の内容通りに返済が行われているという証拠も重要です。例えば、毎月決められた日に貸し手側の口座に返済金を振り込み、その履歴を残しておくことなどが挙げられます。手渡しではなく、銀行口座を通じたやり取りにすることで、客観的な証拠となります。また、借り入れた金額が高額な場合や、将来のトラブルを避けるためには、公正証書として契約書を作成することも有効です。形式的な貸借ではなく、実際に金銭の貸し借りが行われ、その返済が滞りなく実行されている事実を示すことで、税務署からの疑義を払拭し、贈与税の課税を回避することができます。
住宅ローン利用時の贈与、贈与税を節税する具体的な方法
贈与契約書(借用書)の作成で「貸付」を明確にする
住宅購入に際し、親や夫婦間で資金の援助を受ける場合、その資金が「贈与」ではなく「貸付」であることを明確にすることで、贈与税の課税を回避できる場合があります。この際、最も重要なのが「金銭消費貸借契約書」、いわゆる「借用書」を正式に作成することです。単なる口約束やメモ書きでは、税務署から贈与とみなされるリスクが高まります。
金銭消費貸借契約書には、以下の項目を具体的に記載しましょう。
契約書に記載すべき主な項目
- 貸付金額:いくら貸したのか
- 返済期間:いつまでに全額を返済するのか
- 利息:利息を付ける場合はその利率(無利息でも法的には問題ないが、実態に即した設定が望ましい)
- 返済方法:毎月の返済額、返済日、振込先口座など
- 貸主と借主の氏名、住所、押印
- 契約年月日
契約書を作成するだけでなく、実際に契約書に記載された内容通りに、毎月あるいは定期的に返済を実行し、その履歴(銀行振込明細など)を確実に残しておくことが重要です。返済が滞ったり、現金手渡しで記録が残らなかったりすると、貸付の実態がないと判断される可能性があります。高額な貸付の場合や、より確実性を求めるのであれば、公証役場で公正証書として作成することも検討しましょう。公正証書は証拠能力が高く、将来的な紛争予防にも役立ちます。
不動産の共同名義・持分割合登記で贈与リスクを回避
親や配偶者から住宅購入資金の援助を受けた場合、その資金援助が贈与とみなされるのを防ぐ効果的な方法の一つが、不動産の共同名義登記と、資金拠出割合に応じた持分登記を行うことです。この方法は、特に夫婦で共同して住宅を購入する際に非常に有効です。例えば、3,000万円の住宅を購入する際、夫が2,000万円、妻が1,000万円を負担した場合、不動産登記上の持分も夫が3分の2、妻が3分の1となるように登記します。
これにより、夫婦それぞれが自身の資金を投入して不動産を取得したという事実が明確になり、片方からもう片方への贈与があったとはみなされません。もし、妻が1,000万円を負担したにもかかわらず、夫単独名義で登記してしまうと、妻から夫へ1,000万円を贈与したと判断され、贈与税の課税対象となってしまいます。また、親からの資金援助を受けて共同で住宅を取得する場合も同様です。援助された資金の額に応じて、親と子の共同名義とするか、あるいは子の一人の名義にするにしても、その資金が贈与ではなく「貸付」であることを明確にする必要があります。資金の出どころと不動産登記上の持分を正確に一致させることは、贈与税の課税リスクを回避し、将来のトラブルを防ぐための最も根本的でかつ強力な対策と言えます。不動産登記は専門的な手続きのため、司法書士や税理士と連携して進めることが賢明です。
住宅ローンの借り換え時に「負担付贈与」を活用する
「負担付贈与※」は、贈与と同時に、受贈者(贈与を受ける側)が贈与者に対して一定の義務を負うことで、贈与税を軽減できる可能性がある特殊な贈与形態です。住宅ローンの借り換え時など、特定の状況下で活用を検討できます。例えば、親が住宅ローンを組んで購入した家を子に贈与する際、まだ住宅ローンの残債が残っている場合にこの制度を利用することが考えられます。
※負担付贈与:財産を贈与する際に、受贈者が一定の債務や義務を負担することを条件とする贈与のことです。
この場合、親(贈与者)が子(受贈者)に住宅を贈与する際に、「残っている住宅ローンを子が引き継いで返済する」という負担を条件とします。通常、贈与税は贈与された財産の時価が課税対象となりますが、負担付贈与の場合、贈与された財産の価額から受贈者が引き継ぐ債務の額を差し引いた金額が、贈与税の課税対象となります。これにより、贈与税の評価額が引き下げられ、節税効果が期待できるのです。ただし、この際の不動産の評価方法は、通常の贈与とは異なり、贈与時の「通常の取引価格(時価)」で評価されるため、路線価※や固定資産税評価額よりも高い金額で評価される可能性があります。また、住宅ローンの借り換えと同時に名義変更を伴う場合や、相続対策として検討する際など、活用できるシーンは限定的です。複雑な計算や税務上の判断が伴うため、この方法を検討する際は、必ず税理士などの専門家に相談し、ご自身の状況に合わせた最適なプランを立てるようにしてください。
※路線価:国税庁が公表する、主要道路に面した土地の1平方メートルあたりの評価額です。相続税や贈与税の計算に使われます。
贈与税申告のタイミングと注意点:住宅ローン利用者は必見!
非課税制度を利用しても「贈与税申告」は必須であることを理解する
住宅取得等資金の贈与税の非課税措置や、夫婦間の配偶者控除(おしどり贈与)など、贈与税が非課税になる制度を利用した場合でも、贈与税の申告は必ず必要です。「非課税だから申告しなくても良いだろう」と誤解されている方も少なくありませんが、これは大きな間違いであり、申告を怠ると制度を利用できなくなるだけでなく、ペナルティの対象となる可能性があります。税務署は、贈与が行われた事実や、あなたが非課税制度の要件を満たしているかどうかを、申告書を通じて確認するからです。
具体的には、住宅取得等資金の贈与を受けた場合、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に、所轄の税務署に贈与税申告書を提出する必要があります。配偶者控除を利用する場合も同様です。申告をすることで、初めて非課税制度の適用が認められ、贈与税がゼロになるという流れです。もし申告を怠った場合、非課税制度の適用を受けられなくなり、本来支払う必要のなかった贈与税が課されてしまうだけでなく、無申告加算税や延滞税といった追加の税金を支払うことになる恐れがあります。非課税制度を利用する方は、適用要件の確認と合わせて、必ず贈与税の申告期限と手続きを正確に把握し、忘れずに申告するようにしましょう。
贈与税の申告に必要な書類と手続きの流れ
贈与税の申告は、決められた期間内に所轄の税務署に対して行います。必要な書類は贈与の内容によって異なりますが、主に以下のものが挙げられます。
贈与税申告に必要な主な書類
- 贈与税申告書(第一表・第二表)
- 本人確認書類(マイナンバーカードなど)
- 戸籍謄本または住民票(贈与者と受贈者の関係を確認するため)
- 所得を証明する書類(源泉徴収票や確定申告書の控えなど)
- 贈与契約書(金銭消費貸借契約書)の写し
- 贈与を受けた資金の入金が確認できる銀行口座の通帳の写しまたは残高証明書
- 不動産の登記事項証明書、売買契約書の写し、請負契約書の写しなど(住宅取得等資金の贈与の場合)
- 贈与税の配偶者控除を利用する場合は、適用要件を満たすことを証明する書類(婚姻期間20年以上を示す戸籍謄本など)
手続きの流れとしては、まずこれらの必要書類を収集し、贈与税申告書を作成します。国税庁のウェブサイトや税務署で申告書を入手し、記入方法を確認しましょう。記入後は、添付書類とともに所轄の税務署に持参または郵送で提出します。e-Tax(電子申告)を利用することも可能です。申告書作成にあたっては、国税庁の確定申告書等作成コーナーの利用が便利です。複雑なケースや不安な点がある場合は、税務署の無料相談を利用したり、税理士に依頼したりすることも検討しましょう。期限ギリギリではなく、余裕を持って準備を進めることが重要です。
贈与税申告を怠った場合のペナルティとリスク
贈与税の申告義務があるにもかかわらず、申告を怠ったり、申告内容に誤りがあったりした場合には、厳しいペナルティが課せられることになります。これは、税法上の義務を履行しなかったことに対する措置であり、決して軽視できるものではありません。主なペナルティは以下の通りです。
贈与税申告を怠った場合のペナルティ
- 無申告加算税:期限までに申告しなかった場合に課せられる税金です。納付すべき税額に対して、原則として50万円までは15%、50万円を超える部分には20%が加算されます。税務調査による指摘で発覚した場合は、さらに加算割合が高くなることもあります。
- 過少申告加算税:申告した税額が本来納めるべき税額よりも少なかった場合に課せられる税金です。不足額に対して原則として10%が加算されます。
- 重加算税:贈与税を意図的に隠ぺいしたり、仮装したりした場合に課せられる最も重いペナルティです。無申告加算税や過少申告加算税に代えて、納付すべき税額の35%~40%という高額な税金が加算されます。
- 延滞税:納付期限までに税金を納めなかった場合に、その未納期間に応じて課せられる利息のような税金です。期間が長くなるほど負担が大きくなります。
これらの加算税や延滞税は、本来納めるべき贈与税に加えて発生するため、結果として多額の追徴課税となる可能性があります。さらに、税務署からの税務調査を受けることになり、精神的な負担も大きくなります。住宅購入や資金援助において贈与税の対象となる可能性がある場合は、必ず期限内に正確な申告を行うことが、将来的なリスクを避ける上で最も重要です。不明な点は自己判断せず、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
まとめ
住宅ローンを利用して住宅を購入する際、親や配偶者から資金援助(贈与)を受けるケースは少なくありません。しかし、贈与には贈与税がかかる場合があるため、注意が必要です。本記事では、住宅ローンと贈与税の関係、特に親子間や夫婦間での贈与における贈与税の基礎知識、そして贈与税を賢く節税するための非課税制度の活用方法について解説しました。年間110万円の基礎控除や、住宅取得資金の贈与に関する特例(相続時精算課税制度、暦年課税制度における非課税枠、夫婦間の居住用不動産贈与の特例など)を理解し、適切に活用することで、税負担を軽減することができます。申告のタイミングや方法についても触れていますので、住宅購入を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
よくある質問
Q: 住宅ローンを組む際に親から現金をもらっても、贈与税はかかりませんか?
A: 基本的には、年間110万円を超える贈与には贈与税がかかります。ただし、住宅取得資金の贈与については、一定の要件を満たせば、相続時精算課税制度や暦年課税制度における非課税枠が適用され、贈与税が非課税となる場合があります。非課税枠は年度によって変更されるため、最新の情報を確認することが重要です。
Q: 夫婦で住宅を購入する際、夫が妻名義の口座に頭金を贈与しても贈与税はかかりますか?
A: 夫婦間での贈与についても、年間110万円を超える場合は原則として贈与税の対象となります。ただし、夫婦間には「夫婦間の居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与」に関する特例があり、婚姻期間が20年以上の夫婦が自宅の購入やリフォームのために配偶者から贈与を受けた場合、最高2,000万円まで贈与税が非課税となる制度があります。これも要件を確認しましょう。
Q: 住宅ローンの「連帯債務」と「連帯保証」は贈与税とどう関係しますか?
A: 連帯債務は、夫婦などが共同で住宅ローンを借り入れ、返済義務を負う形態です。この場合、それぞれの返済額に応じて所有権が登記されることが多いため、通常は贈与税は発生しにくいとされています。一方、連帯保証は、保証人が返済義務を負うだけで、ローンの名義人ではありません。もし保証人が返済を肩代わりした場合、それは贈与とみなされる可能性があります。
Q: 住宅取得資金の贈与の非課税枠は、毎年変わるのですか?
A: はい、住宅取得資金の贈与に関する非課税枠は、毎年の税制改正によって変更される可能性があります。特に、消費税率の引き上げなどに対応して、非課税枠が拡充されることもあります。住宅購入を検討されている場合は、必ず最新の税制を確認するようにしてください。
Q: 贈与税の申告は、いつ、どのように行えばよいですか?
A: 贈与税の申告は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に行う必要があります。申告書は、所轄の税務署に提出します。贈与税がかかる場合だけでなく、非課税枠を活用するために申告が必要なケースもありますので、専門家(税理士など)に相談することをおすすめします。